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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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祟神

 翌朝、宿を出たサクヤ達は目的地となる里の手前まで来ていた。


 祟神が居座っていると聞いていたが、里の者は誰も避難していないという。



「サクヤ様、お待ちしておりました。」

「猿丸、里の者が避難していないと聞いたが?」

「それがですね、祟神はなんとも俗っぽいというか、たちが悪いというか、里の女子達を人質にとって、毎晩酒宴を催していまして。言う事を聞かないと祟られるので、皆大人しく従っておるようです。」

「なんだそれは…。祟神っていうはもう少しオドロオドロしいものかと思っていたが…。」

「ある意味開き直っていますね。」

「兎に角行ってみよう。」



 里に入ると、皆日常の生活を送っているように見えた。


「祟神は何処に?」

「あそこに見える周りを掘で囲われた屋敷が里長の屋敷なのですが、そこに居座っています。昼間は寝ているようですが、人質はきっちり確保しているようです。」

「本当にたちが悪いな。」

「祟神の弱点って何なのだ?」

「それが…。基本的には物理攻撃で肉体を滅ぼし、御霊を結界で封印するくらいしか。浄化は効果がないようです。」

「物理攻撃か…。人質がいるとなると難しいな。せめて屋外に出てきてくれればいいのだが。屋敷内に居座られては手が出しづらいな。」

「そうですね。しかも、屋敷に出入りできるのは若い女子だけのようです。」

「本当に元神様なのか?」

「そのはずなんですがねぇ。」



 釈然としない心持ちのまま、サクヤは里長の屋敷に向かう。


「祟神は里の者の事を把握できているのか?」

「そこはどうでしょうね?もしかして里の者になりすまして入り込もうとか思ってます?」

「他に入り込む方法がないだろう。せめて様子ぐらいは探りたい。」

「サクヤ様が祟りを貰うようなことになったら一大事ですので、できれば辞めて頂きたいのですが…。なにか、挑発して外に出す方法とかないですかねぇ。」

「挑発かぁ…。」


 サクヤは考え込む。

 ふと蒼衣と目が合った。


「蒼衣殿は巫女舞が舞えますか?」

「はい。巫女舞は巫女の嗜みですから。」

「そ、そうですよね…。」


 サクヤは少し目を逸らした。


「蒼士郎は笛か太鼓はできるか?」

「笛は吹けるが…どうする気だ?」


「ははぁ、外で巫女舞を催して、祟神を誘い出そうということですか?」

「察しがいいな、猿丸。私と蒼衣殿で舞えば奴も観に出てくるかと思ってな。」

「面白いですね。早速手配しましょう。夕方には間に合わせます。」

「頼んだ。」



 猿丸は里長の屋敷の前に仮設の舞台を急造する。

 サクヤと蒼衣は舞の稽古を始めた。


 蒼士郎の笛の音に合わせて稽古をしていると、里長屋敷の中から娘が1人出てきて尋ねた。


「これは何の騒ぎでしょうか?」

「こちらにおわす神様をお慰めしようと、巫女舞の稽古をしておるところです。夕方から始めますので、宜しくお伝え下さい。」

「そうですか…。では伝えてまいります。」


 娘は一旦屋敷に戻ると、暫くして出て来た。


「楽しみにしておる故励めと仰せです。」

「ありがどうございます。特別なお席も用意しておりますので、準備ができたらお呼びいたします。」

「畏まりました。お伝えします。」


 娘は不審げな顔で戻って行った。



 準備が整い、夕方になった。

 里の者に連絡を頼み、外に設置された舞台で祟神を迎えた。


 祟神はでっぷり太った猪の姿で、人の大人と同じくらいの大きさだ。両脇に触れない程度の距離で年頃の娘とまだ7〜8歳くらいの幼い娘を従えている。


(年頃の娘は接待用、幼い娘は人質用か…。本当にクズだな。何とか浄化できないものかと考えたが、あれなら遠慮はいらないな。)


「やっかいな体勢ですね。」

「巫女の持ち物を弓に変える。矢を持っていなければそれ程警戒しないだろう。」

「大丈夫なのか?」

「頃合いを見て射抜く。蒼士郎と猿丸は人質の確保を頼む。風磨は私に続いて破魔の矢を射込めるだけ射込め。」

「判った。」

「心得ました。」

「了解でっす!」


 果たして人質救出と祟神討伐を並行した巫女舞大作戦は開演した。


「ほう、中々の美姫ではないか。」


 祟神が下卑た笑いで2人を観ている。


(あれが元神様か…あれほどの醜態を晒すとは。気持ちよく封印されてもらおう。)



「なんとも…虫唾が走りますね…。」


 蒼衣の囁きにサクヤは全力で同意した。


 年頃の娘が酌をする。その時を狙いすましてサクヤは大きく足踏みして音を立てた。

 娘はビクッと反応し、酒を溢れさせてしまう。


「も、申し訳ありません!」


 祟神は一瞬顰めながらも、下卑た笑顔で応じた。


「よいよい。少し濡れただけよ。」


 祟神が濡れた袴を気にして下を向いた一瞬の隙をサクヤは見逃さない。

 直ぐ様弓を構え結界の矢を番えて放った。


 矢は祟神の額を貫通、勢いでひっくり返った。

 すかさず風磨も破魔の矢を放ち、祟神の胸を貫いた。


「おのれ!謀りおったか!」


「まだ喋れるか。」


 サクヤは続け様に矢を放ち、祟神を蜂の巣にする。


「逃げろ!」


 蒼士郎の声に2人の娘は慌てて席を立つ。


「逃がすか!」


 祟神は直ぐ様立ち上がると、迷わず足の遅い幼い娘を追う。


「させるか!」


 蒼士郎は祟神に水の太刀を浴びせる。刃は祟神の背を斜めに切裂いたが、それでも祟神は止まらない。


「威力が強すぎるか!」


 サクヤの放つ矢は貫通力が高すぎて、祟神を足止めできない。


「風磨!足だ!」

「はい!」 


 風磨の矢は祟神と地面を縫い付けるように刺さったが、力尽くで走り続ける祟神を止めるには至らない。


「捕まる!」


 誰もが観念したその時、祟神の動きが止まった。


 サクヤの結界が祟神を囲ったのだ。


「もっと早く矢に見切りをつけるべきだったな。つい感情的になってしまった。」


 サクヤは反省の弁を述べながら祟神に問いかけた。


「何故元神である貴方様が、このような醜態を晒されるか?」

「人の子の分際で、神たる我に説教か?」

「いえ、最後の言い分を聞いておこうと思っただけです。」

「ふんっ!我神域は呪物に侵され我は祟神となった。それまでにはそれなりに長い期間があったが、打ち捨てられたに等しい我祠は、誰一人参拝にも手入れにも訪れず、誰にも気づかれぬまま我は祟神となったのだ。山の麓の者達は、神域の恩恵を受けておきながらこの仕打ちだ。なればこのくらいの接待を受けてもバチは当たるまい?」


 サクヤは自らを落ち着ける様に少し深呼吸をして、祟神と向き合った。


「神様に罰を与えるものがいるのかという疑問はおいておくが、確かに同情の余地がなくはない。とは言え、最後の醜態は神に仕えるものとして、そして我ヌシ様の代弁者として赦せるものではない。八百万の神の総意を持って貴方様を封印する。」


 祟神は少したじろぐが不敵な笑いで返す。


「人の子であり、まだ若年と思われる其方に、我を封印するほどの力があるのかな?」

「やったことがないので、出来るとは言いかねるが…。まずはその実体を奪う。」

「やれるものならやってみよ…。どうせ力量が保ちはしまい。」

「往生際が悪い!消えよ…圧縮!」


 猪を捕らえた箱罠のような結界が、一気に圧縮され消えた。


「構築!」


 肉体を圧壊させた後、御霊を逃さない為に、直ちに新たな結界を構築する。


 流石に力量に不安があったので、力量回復の薬を飲んだ。


 祟神は実体を失い、御霊だけの存在になる。


「ふははははは。よもやこのような小娘に封印されることになろうとは…。

 まぁ、よかろう。どうこうなるものでもないのだろう。大人しく封印されるしかないわ。


 だが娘!覚えておけ!其方の定めは重い。己が役目に潰されるなかれ。我に悔いはない。気に病むなかれ。其方に行先に幸あらん!」


 祟神はその場に残された食べ残しの器に封印された。

 サクヤは器に封印された祟神に一礼して里長に言い聞かせた。


「この器をこの神のおわした社に丁重に祀られよ。可能な限り私が様子を見にくるつもりだが、私が来れなくなったら大社の宮司に頼れ。放っておけばこの里だけでなく、都にも災いをもたらすことになる。皆にもそう伝えなさい。」

「か、畏まりました!」



「流石に疲れた。ここから1番近い宿場町は何処になるか?」

「街道に出て、国境の手前の宿場になります。しかし、もう日も落ちておりますれば、この里でお休みください。」

「そうか…、では世話になる。この屋敷の浄めもせねばならぬしな…。」


 その後、翌朝までサクヤは一言も発することはなかった。



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