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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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若者の正体

おはようございます

 サクヤ達第1班は、本来は櫛の国に向かうつもりだったが、猿丸から祟神発見の連絡が届き急遽行先を変更することになった。


 御神域の補修のつもりだった第1班だったが、崇神討伐となると少し戦力不足である。特に接近して戦えないというアカイヌヌシの助言もあり、後衛がサクヤしかいないのは流石に厳しいとのことで、急遽弓寮から兵を借りることになった。 

 本当なら戦力的にも弥九郎が理想的ではあったが、弓寮頭ゆえ多忙である。頼みにくいと判断したサクヤが白羽の矢を立てたのは、予てから目を付けていた風磨である。


 風磨はサクヤより2つ下の14歳。軽いノリのお調子者風だが弓の腕は確かで、『追尾の御力』を持つ。『追尾の御力』とは、 補足した的が動いても矢が追いかけるという御力で、弓兵にとっては垂涎の御力だ。


 ただし、使える距離が長くなく、精々30間(約54m)程度だったが、サクヤの指導で御力を増やして補足物を追う意識を強くしたところ、倍以上の追尾能力を身に付けることができた。


 これに強く感謝した風磨は、サクヤを慕うようになり、最近では鬼防寮への移動を希望しているほどであった。



「宜しくお願いします! サクヤ頭とご一緒できるなんて夢のようです!」


「宜しく頼む。ただ、頭はやめてくれ。」


「わっかりましたー!」


 ニコニコと楽しそうな風磨にサクヤは苦笑いしていたが、小平太は嫉妬の炎を漲らせていた。


 出立は早朝からで、途中『四辻の宿』で1泊してから向かう。『四辻の宿』は瑞の国から都へ向かう街道と、丹の国から西へ向かう街道が交差する交通の要衝であり、都からの距離も近く川湊もある大きな宿場町だ。そこから徒歩で丹の国方面に半日歩いて南側の山間に入った場所にある里が今回の目的地だった。


 風磨は馬に乗れないので、サクヤの馬に同乗させてもらっていた。サクヤの愛馬である龍馬が最も強く大きな馬で、二人乗りでも全く問題ないからというだけの理由なのだが、これが余計に小平太の嫉妬を買う原因になっていた。



 赤犬の里を早朝に出発した一行だったが、馬での移動でも四辻の宿に着いたときにはすっかり日が暮れていた。



 宿に入り風呂を済ませて夕餉をとってひと段落していたところに、中居が声をかけてきた。


「乾様に目通り願いたいという方が訪ねてこられているのですが?」


「誰だろうか?こちらの予定を知っている者など限られるのだが。ただ、少し嫌な予感がする。」


「俺が見てこよう。」


 蒼士郎が中居と共に下に降りた。


「失礼するよ。」


 蒼士郎と共に部屋に入ってきたのは右近である。その横で蒼士郎と少将が苦い顔で立っている。


「右近様!いかがされました、このようなところまで。」

「いや、サクヤ殿が崇神を退治に来ると風の噂に聞いてね。激励に駆け付けたのさ。」

「いや、風の噂って。」

「あの里は私の領地と山一つ挟んで隣でね、他人事ではないんだよ。調査に行かせたら赤犬の里の者が討伐に出向いて来ると聞いて、こりゃサクヤ殿だろうと思ってね。関の兵に知らせを届けて貰ったって寸法さ。」

「なるほど、そういうことでしたか。」

「一人見ない顔があるね?」

「今回加勢してもらう弓寮の兵で風磨と言います。風磨、こちらは将軍様だ。あまり大きな声では言えないから、右近様と呼

ぶように。」

「ふ、風磨です!お目にかかり光栄です!」

「元気がいいねぇ。サクヤ殿のところには腕のいい若いのが多くて羨ましい。」


 右近はそう言って笑いながら部屋に入って腰を据えた。


「うちの兵達も鬼退治に向けて鍛え直しているところなんだけどねぇ、これが中々。あの時の竜神社と赤犬社の兵の連携を見た後だとどうしても見劣りがする。御力の籠められた武具を揃えるのも一苦労さ。」

「連携は一朝一夕では難しいですからね。たまには社の兵と演習をしてみるのもいいかもしれません。

 あと、武具への御力籠めであれば、当社では有料で承っておりますよ。」


 サクヤは営業スマイルで応じる。


「ははは、商売上手だね。だが、あの皇太子頼りじゃ遅々として進まんから、それも手かもしれんな。検討してみよう。」


 来客に茶の一杯も出さないのは失礼と思ってか、蒼衣が気をきかせて酒を用意した。


「こりゃ済まないねぇ。突然押しかけたのに酒までごちそうになってしまうとは。」


 へらへら笑いながら蒼衣の酌を受ける右近に将軍としての威厳は微塵も感じない。サクヤとしてはそこが食えないところだと思っているのだが、隣の少将も苦虫を潰したような顔をしているので少し同情した。


「そういえば。皇太子様の話、聞かせてもらったよ。笑いを押し殺すのに苦労したよ、サクヤ殿。」

「あぁ、そんなこともありましたね。皇太子様は元気でお過ごしですか?」

「あれから女人自体が怖くなったようで、側近達が困っていたね。」


 蒼衣が思わず噴き出したが、少将に睨まれて笑いを堪えている。蒼士郎もプルプルしていた。


「そういえば一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「なんだい? 答えられることなら答えるよ。」


「叢左大臣という御方、どのような御仁でしょうか?」

「左大臣殿?どうしてまた?」

「あまり大きな声で言えることでもありませんので、右近様の胸の内にしまっておいていただきたのですが、よろしいでしょうか?」

「う~ん、中々面倒臭そうだが、サクヤ殿にはいっぱい借りがあるからねぇ。聞かせてもらおうか?」

「実は左大臣の手の者が私を探っておるようで。千代を私と勘違いし拐そうとしたようですが、返り討ちにしました。一旦捕らえて解放した者の後を追ったところ、左大臣の屋敷に入って行ったとのことです。ただ、左大臣の狙いが判りません。」


「なるほど。叢かぁ…。」


 右近は腕を組んで首を傾け唸る。


「将軍!」


 少将が余計なことは言うなと言わんばかりに顔を向ける。


「よい。サクヤ殿なら問題ないだろう。だが、私の知っていることなど誰でも知っているような内容しかないが、それでもいいかね?」

「はい。こちらは基本的なことすら存じませんので。」

「五太政家は知っているかな?」

「はい。知識としては。」

「叢はその一つなのだが、そんなに有力な家ではなく、これまでも太政大臣に就任したことなどなかったんだけどね。それが港の交易で権益を握ると、みるみる左大臣にまで登り、太政大臣に手がかかるところまで来たってわけだ。叢家ってのは昔からの帝の臣下の家柄ってわけじゃなくてね。とはいえかなり古い話ではあるんだが、元々は西国の社の宮司の家柄で、その分家が国守になって、さらに分家が朝廷の一員になるべくてやってきたってのが叢家だ。」

「その西国というのはどこの国ですか?」

「たしか雲の国だ。大八蜘蛛座大社ってとこの宮司が宗家にあたる。」

「雲の国の大八蜘蛛座大社ですか。」

「何か気になることでも?」

「西国に結界術を得意とする社があると聞きまして、もしやその社かと思い。」

「結界術か。あまり詳しくはないが、やはり御力の一種かね?」

「はい。かなり便利な御力ですね。」

「結界術を便利扱いしているのはサクヤ様くらいですよ。」


 蒼衣が千代張りに突っ込む。


「そういえば、鬼の腕を封印していたな。結界術など大社の宮司一族くらいしか使い手が…そう言われてみると大八蜘蛛座大社も大社って謳っているねぇ。関係があるのかねぇ?」

「そのあたりはなんとも。」

「しかし、サクヤ殿は謎が多い。どうしてまた結界術なんて身に付けたんだね?」

「ふふふ、それは秘密です、右近様。」

「おお、怖い怖い。野暮なことを聞くもんじゃないね。」

「野暮ついでに、左大臣殿はどのようなお人柄で?」


 サクヤの質問に右近の顔つきが少し曇ったような気がしたが、すぐにいつもの調子に戻る。


「一言で言えば公家らしい男、正直に言えばいけ好かない野郎ってとこだな。」

「随分辛辣ですね。」

「鬼の腕をとったときに報告会があったんだが、口論になってね。因縁浅からぬ仲ってやつさ。」

「左大臣殿が私を狙う理由に心当たりは?」

「正直、奴がサクヤ殿の存在を認識していることに驚いたくらいだ。報告会でもサクヤ殿の名前は出していないしね。これでも

気を使わせていただいてるんだよ。」

「ありがとう存じます。因みに、朝廷の内で私のことを知っている方はどのくらいいるのでしょうか?」

「はっきりしたことは分からんが、私とその側近、直属の兵、後は皇太子様とその側近。あぁ、あと皇弟殿とその御子息とそれぞれの側近くらいじゃないかな。」

「皇弟様ですか!?」

「実は私と皇弟殿とその御子息、皇太子様とで宿場町までサクヤ殿の神楽を見物に行ったこともあるんだよ。」

「そうなのですか!?

 あぁ、だからあのボンクラ。」

「わははははは!ボンクラときたか!」

「失礼しました。失言でしたね。」

「私がここにいること自体がお忍びなのだ、そのくらいどうってことないさ。実際皇弟殿も苦労されているようだ。」

「しかし、なぜあのようなところに?」

「あれ?サクヤ殿と皇弟殿の御子息は面識があるのだろう? 明日彦様というのだが、明日彦様の話を聞いて皇弟殿が興味を持たれてな。そのとき偶々行動を共にされていた皇太子様も一緒に見物したという次第だ。」

「皇弟様の御子息…?

 もしや、あの侵入者の男か!?

 高貴な者ではないかと言っていたのですが、まさか皇弟様の御子息とは。」

「もしかして、私たちが見物した時の神楽でしょうか? まさかそのようなご身分の方がおられたなんて。」


 蒼衣と蒼士郎が目を丸くする。


「話が逸脱してしまったな。叢がどのようにしてサクヤ殿の事を知ったかは分からぬが、今後は奴の動向に注意しよう。何かあったら知らせる。そちらも奴から接触があったら知らせて欲しい。」

「ありがとうございます。こちらも了承しました。」

「あと、無事討伐が終わったら詳細を教えて欲しい。帰りもこの宿場に泊まるのかい?」

「それは討伐にどのくらいの時間を要するかにもよりますし、何とも…。」

「そうだよねぇ。サクヤ殿のことだからあっさり終わらせると思い込んでいたようだ。こちらからも人を派遣しよう。また連絡させてくれ。」

「承りました。」

「ではこのあたりで失礼しよう。馳走になったね。」

「いえ、ありがとうございまいした。」


 右近が部屋を出ていくと、部屋の緊張感が緩む。


「さ、サクヤさんは将軍様と気安い仲なのですねぇ。」


 風磨は尊敬のまなざしでサクヤを見る。


「以前誰かにも同じようなことを言われたが、言うほど気安い仲ではない。ああいう方なのでつい砕けた形になってしまうが、 あれで中々腹の読めない方で気を許せないんだ。今日も帰る間際に何か質問してくるかと思ったのだが、今日はなかったな。 あの一事をとってもやり手とわかる。」


「どういうことですか?」


「緊張する相手が帰るとき、緊張していた方の気が緩むだろ?その隙をついて質問したら、思わぬ本音や真実をぽろりと溢してしまう。それを分かってやっているんだ。」

「うわっ、えげつな!」

「なぜサクヤ様はそのようなことをご存じなので?」

「隠密寮にいたとき学びました。」

「そうなのですね。」

「そういうことだから、皆もあの御方と話すときは気を付けた方がいい。」

「ボンクラは大丈夫なのですか?」

「あれは完全に失言だったな…。まぁ、大した問題じゃない。事実だからな。」


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