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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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陰の国

おはようございます

 サクヤ達とは別行動となる第2班の面々は、丹の国の東にある陰の国との国境付近にある祠を目指していた。丹の国と隣国である陰の国は現在も小競り合いが続いている。


 丹の国は陰の国に対し丹川という川の上流にあたり、この丹川が東の陰の国の国府の北で南から流れている陰川と合流し、都のある陽の国を通り北上して海へと流れ出る。水運の重要な経路でもあるのだが、国境付近にある銀山の領有権で争っており、小競り合いが絶えない。


 当然国境の警備も厳しく、丹の国は問題なく通行できた千代達も、陰の国への入国で足止めされた。目的の祠は、残念ながら陰の国側であった。


 第2班は千代を小隊長として、伊都、左馬介、騎重郎の四人である。旅慣れている騎重郎が警備の兵に事情を説明するのだが、丹の国側からの入国は容易ではなさそうだ。


「随分時間がかかってますね。」


 伊都は旅慣れていないこともあり、国境でこれほど厳しい確認があるとは思っていなかったようだ。以前サクヤ達が訪れた際の丹の国での出来事を聞いていた千代と左馬介はある程度予想できていた。


「この両国は争いが絶えないようだから、これは予想の範囲内だ。一旦宿場町に戻ることも覚悟しておいた方がいいかもな。」


 そんな話をしていた3人だったが、騎重郎から思わぬ報告を受けた。


「通行の許可は降りたんだがなぁ、国府に立ち寄れとのお達しだ。」


「国府って、立ち寄るなんて位置関係ではないですよ。我々が用があるのはすぐそこなのですから。」

「そう言われても、入国の条件が国府に行くことになっちまってるんだよ。行かないことには入国も認められないし、活動もできないぞ。」

「仕方ないです。行かざるをえないしょう。」


 四人は仕方なく国府を目指すことになった。馬での移動とは言え、もう昼を過ぎているからどこかで一泊しなければならない。しかも条件付き入国であるため、監視の兵も騎馬で1人ついてきている。因みに騎重郎も予備の馬を借りているので徒ではない。


 結局日輪宮の門前町で宿をとることになった。



 監視の兵は交代したが、夜通し宿に張り付くようである。


「ご苦労なことだな。」


騎重郎は飯を頬張りながら文句を言う。


「しかし、何の目的なのでしょう?」

「サクヤさんがすっかり有名人になっていますから、その影響かもしれませんね。」

「ありえそうですね。」

「まぁ、行けばわかるでしょう。」


  千代の楽観的な言葉でその話は終わった。


(叢の手が回ってなければいいのですが。)



 翌朝、宿を出た一行を4人の兵が取り囲むように同行する。


「なんでこんなに物々しいんだ?あんたら何かやったか?」

「何もしているわけがないでしょう。」

「サクヤさんならどこで何をやらかしているか分からないけどね。」


 四人は馬だが、交代して増員された監視の兵は徒だ。当然ペースは徒に合わせる為、到着は夕方になってしまった。


「明日国守様との謁見となる。辰の刻に国府館に出頭せよ。」


 国府の町に宿をとり、夕餉を済ませる。相変わらず警備は厳重だ。


「まったく、無駄な宿泊費がかかるばかりだ。せめて国府館の客間にでも泊めてくれればいいのに。」

「こんなだから鬼防寮は金食い虫だって言われるのでしょうね。」

「まあいい。とりあえず明日に備えて早めに寝ようぜ。街で遊ぶわけにもいかないんだろうしな。」

「そうですね。大人しく寝ることにしましょう。」




 国府館は川湊から一直線に続く大通りを進んだ先にある。大通りの両脇には、湊に近い方は商家が、国府館に近いところは役人の屋敷が並んでいる。


 普通、国府から近い鬼門の方向に日輪宮が建てられているのだが、陰の国は方向も違うし距離もある。


「陰の国の国守は元々この辺りの国数国を治める大豪族だったらしいが、大昔に帝に明け渡してこの国の国守に納まったらしい。だから朝廷にも思うところがあって、日輪宮も国府から遠ざけたって話だ。」


 騎重郎が物知り顔で説明する。実際鬼斬りとして各地を巡っていたので、周辺の国について詳しかった。


「ということは、この国の国守の一族は朝廷の貴族から派遣されているわけではないのですね?」

「そうだ。だから氏も独特の一字四文字じゃない。たしか、『五十鈴(いすず)』って言ったはずだ。」

「へぇ、なんだか面倒臭い感じがプンプンしてきましたね。」

「確かに。嫌な予感しかしないわ。」

「相手がどうあれ毅然と対応するだけです。では行きましょう。」


 

 国府館を訪れると、応接間に通された。 かろうじて客人として扱ってもらえるようである。


 少しすると先触れの後に国守と思しき中年の男が入ってきた。


 四人は軽く礼をするにとどめ、下手には出ない。男はそれを気にする風でもなく、4人の前に座る。


「国守の五十鈴陰ノ守だ。態々来てもらって済まないな。」


 済まないという割に態度は大きいが、不思議と威厳を感じ、偉そうにしている姿が自然に見えた。


「其方が赤犬社のサクヤか?」

「そうだとしたらどうなのでしょうか?」


 五十鈴の問いに千代は問いで返す。


「中々肝が据わっておるな。」


 五十鈴は不敵に笑って千代を見る。


「いかなる用向きで我等を呼ばれたのでしょうか?我等は国境にある祠の御神域の補修に参っただけで、他意はないのです。 早く勤めを果たしたいのですが。」

「我とて其方等に用などない。あるお方に頼まれて来て貰っただけだ。」


(嫌な予感がする。叢が手を回しているのか?)


「ただ、この館で引き合わせるわけにもいかぬのでな。案内させるのでついて行ってもらおう。」

「そのように言われても素直についていくわけにはいきません。相手はどなたでしょいうか?」

「我とてさほど縁があるわけではない。詳しくは知らぬ。とはいえ殿上人の依頼を無碍にはできぬのでな。」

「叢殿の手の者ではないのですか?」

「だとしたら?」

「ついていくわけには参りません。多少因縁があります故。」

「そう言われてもな、はいそうでうかというわけにもいかぬ。とはいえ、我国府で好き勝手されても困る。

 わかった、我もついていこう。無体な真似はせぬよう言い添えるくらいはでよう。」

「そこまでおっしゃるなら…。」


 五十鈴は護衛一人を連れて、館裏の森へと向かう。4人も粛々とついていくが、千代は騎重郎のそばに行くと低く囁いた。


「もし戦闘になった場合は、私と左馬介に任せて、騎重郎さんは伊都さんの護衛に専念してください。2人が入れる防御結界を張れば十分です。」

「わかった…。」


 森を進むと小さな池があり、その畔に東屋がある。中には男が一人いるのが見えた。



「言われた通りお連れした。」

「ご苦労をかける。」


 男は見るからにデキる雰囲気を纏い、一部の隙もない。

 姿勢が良く礼儀正しく見えるが、常に殺気を孕んでいた。


「其方が乾のサクヤだな?」

「だとしたら?」

「私と一緒に来てもらおう。」

「理由を聞かせて貰っても?」

「我等の協力者になってもらいたい。」

「何に協力しろと?」

「それは状況によって変わる。」

「貴方達の目的は?」

「今は話せない。協力してもらえるなら話そう。」


(サクヤ様じゃないけど、面倒臭いな…。) 


「何が目的かも判らないのに協力などできるはずもない。」

「大人しくついてくればいいだけだ。其方が断ったところで連れて行くことに変わりはないのだから。」

「連れていけると思って?」


 男は一瞬で間合いを詰め、短刀を抜く。

 千代は直立のまま最小限の動きで短刀を小太刀で受けた。


 男は「ほぅ。」と漏らしてすぐに間合いを取り直した。


「貴様の手下といい、まともな会話も出来ぬようだな。人に物を頼むときの礼儀も知らないのか?」

「頼んでなどいない。これは命令だ。」

「叢のか?」

「話が早いな…。」


 男は短刀を逆手に持ち直して間合いを一気に詰める。

 千代は小太刀を持ったまま後ろに飛び間合いを取り直す。


「騎重郎さん!頼みます。」

「引き受けた!」


 騎重郎は祝詞を上げ結界を張り、伊都と自分を囲う。


「ほう…結界師がいるのか…。」


 左馬介も弓を番えて機会を伺う。


「中々よい連携だな。だが、要は其方だろう?其方が耐え切れない場合はどうする気だ?」

「人語を介さぬ者に答えるつもりはない。」

「ほざけ!」


 男が連続で打ち込んで来るが千代は的確に受け流す。

 暫く斬り結んだがどちらも決定力に欠けていた。


(ソロソロ奥の手を出してくるころか…。)


「伊都さん!頼みます!」

「わかった!」


 伊都は結界術の祝詞を上げる。


「ほう…そちらも結界術を使えるのか?ならば…。」


 男も祝詞を上げ始める。


(祝詞を上げる結界術で動き続ける人間を捕らえるのは困難だ。奴も祝詞を上げるということは…)


 伊都の奉上が終わるタイミングで千代が立方体の結界を祝詞を上げずに構築するが、男は難なく躱す。


「ふんっ。結界で動く物を捕らえるなどできるものか!」


 いつの間にか男の祝詞は終わっていたが、特に何も起きていない。


(やはりそうか…)


 男は短刀と苦無で千代をある場所へ追い詰めていく。


(このあたりか…)


 千代がある場所に踏み入れた瞬間、千代は結界に包囲された。


「かかったな。結界の使い方も知らぬ小娘が儂を倒そうなど百年早いわ!」

「そうかしら?」

「ふん、減らず口を…」

「拘束。」

 

 千代が拘束と唱えた瞬間、男は結界の縄で絞め上げられた。


「なんだと!?」

「さて、貴方は私を結界で閉じ込めたつもりかもしれないけど、これ以上何ができて?

 私はこのまま貴方を死ぬまで絞め上げることができる。

 それに、貴方は左馬介の射線に捉えられているわ。」


「…殺せ。」


「馬鹿ねぇ。そんな簡単に殺すわけにはいかないわ。貴方からは聞きたいことがいっぱいあるもの。」

「話す訳がなかろう。」

「その道の者に頼むから心配しないで。ゆっくり楽しむがいいわね。でも取り敢えず…」


 千代は男が張った結界を破る。


「貴方より私の方が力量が多いみたいね。」

「馬鹿な…。」


 千代は男の方に歩きよると小太刀を2振りした。

 男の両手首から先が無情に転がる。


「死んでもらっては困るから、止血はしておいてあげます。」


 千代はサクヤ特製の傷薬を男の両手首に塗り込む。


「馬鹿な…」


 先程と同じ言葉だったが、衝撃は違った。


 男は驚愕の顔で千代を見たが、千代は男を蔑さんだ顔で見下ろしていた。


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