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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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それぞれの使命

おはようございます

〜千尋の談〜


 サクヤ殿、いや、サクヤ様が里を去ってから数日、この社も平穏を取り戻してまいりました。まだ孫四郎殿は滞在を続け護符について学んでいます。新右衛門も研究に余念がないようです。


 先日、年始の挨拶が母上と弟から届きました。何とか弟への質問状が間に合ったようで、返事を書く分、年始の挨拶が届くのも遅れたのでしょう。


 弟には粘液を出す虫について質問しました。正直、新しい紙のために、そのような虫を大量に飼育しなければならないかと思うと、それこそ虫唾が走るのですが。


 虫好きの弟は喜び勇んで数種類の虫について記してくれていました。先ほどその内容をしたためてサクヤ様に送ったところです。


 今は叢様への報告の作成に取り掛かるところですが、私は少し悩んでいます。


 私の立場は、梟社の宮司の息子の嫁ですが、元蜘蛛社の隠密だったこともあり、嫁入りに際して密命を受けました。


「梟社及び丹の国で得た情報を叢家へ送れ」と。


 そしてそれとは別に、蜘蛛社のヌシ様からも梟社のヌシ様の下で引き続き連絡役を務めるよう言われているのです。 私がヌシ様の連絡役を務めているのは誰にも言っていないことです。ヌシ様がお会いするためにお連れするように言われたサクヤ様を除いては。(後日、千代殿にも知られましたが。)


 つまり、私は二重に間者をしているようなものなのです。


 もちろんこの社にも愛着はありますし、今では夫も愛しておりますので、この社を裏切ることは考えていません。叢様にお伝えする内容は、社の不利益にならないよう配慮しているつもりです。


 ただ、先日送ったサクヤ様に関する内容は、我ながら不用意だったと反省しています。つい、興奮が抑えきれず、感情の赴くまま書き送ってしまいました。


 今やサクヤ様は神の御子といえる御方です。サクヤ様に不利益になる行動はヌシ様の意向に反することと言っていいでしょう。


 ですので、今書いている書状でどう取り繕うか、非常に悩ましく思っているのです。




 私は気分転換と採集のため、一人で山に入ることにしました。時々妖魔が出ることもありますが、私も多少の心得はあるので、一人なら逃げるくらいはできるつもりです。


 しかし、今回は相手が悪かったようです。


「久しぶりだな、千尋。」

「八郎左衛門様。」

「いつにない興奮した書状を送ってきたので、直接聞き取りに参ったのだ。」

「失礼しました。少し冷静さを欠いていたようです。」

「いや大変興味深かった。で、どのような娘なのだ?そのサクヤという娘は。」

「申し訳ありません。サクヤ様に関することはお伝え出来なくなりました。」

「どういうことだ?」

「サクヤ様は神の御子であられるため、私のような者が他人にその御業を話すなど、畏れ多くてできません。」


「何を言っておるのだ?

 サクヤとは山の民の娘で、人の子ではないか。それに、其方も先日書いてよこしたではないか。」

「はい。あれは出過ぎた真似でございました。その時はまだサクヤ様について良く存じなかった故の過ちだったと反省しております。そのお立場を知った今、同じ過ちを繰り返せば、私は神罰が下ることになるでしょう。」


「もうよい。つべこべ言わず、知っていることを話せ!」

「いえ、できません。それは神の御心に反することです。ヌシ様に使える身の私には出来かねることです。」


 八郎左衛門は刀に手をやり鯉口を切った。でも・・・


「言わねば殺す。」

「貴方様に殺されるより、神罰を受けることの方が恐ろしゅうございます。言えませぬ。」

「狂ったか?国には母親と弟もおるのだろう?」

「貴方はあの二人に手を出すことはできません。貴方は分家の分家の家人。弟は宗家直臣の息子。立場を弁えておられますか?」

「ふん、口だけは達者だが、頭は狂ったようだな。もうよい、死ね!」


 思わず私は目をつむり、死を覚悟しましたが、目を開けたらそこは御山の磐座の中でした。


「ヌシ様!お助け下さりかたじけのうございます。」

「お主にはまだまだ働いてもらわねばならぬからのう。」

「この千尋、命続く限りヌシ様の手足となってお役目を全うさせていただきます。」





〜千代の談〜


 私はどこで問違ったのでしょうか。


 サクヤ様は神になったわけではなかったようです。



 なったのは鬼でした…。




「サクヤ様、もう無理です。力量がありません。」

「安心しろ。薬ならいくらでもある。できるまで続けろ。そう仕向けたのは自分なのだからな。」



 あの日、サクヤ様が頼んで私に結界術の御力が授けられてからというもの、来る日も来る日も結界術の鍛錬が続いています。 力量が尽きても薬で強制回復させられ、ご自身と同程度の事ができるまで繰り返し結界を張り続けるのです。どうやら私は鬼神の誕生に加担していたようです。



 連日の修練で、各防御結界、無実体結界・実体結界の展開、小規模ながら模擬神域の展開、結界矢の作成まではなんとかできるようになりました。


 それでもサクヤ様が求める基準には届いていないようですが。


 そして、なにより難しいのが包囲結界です。構築まではできるのですが、時間がかかり過ぎているため、高速で移動する敵を捕らえるなどできる気もしません。


 これだけのことをあの短期に、いえ思いつきだけでやってのけたサクヤ様は、やはり鬼神なのだと思います。




 今日はサクヤ様が休暇ということで、私は久々の安息日…、になるわけもなく単独での鍛練です。

 明日までにサクヤ様を結界で捉えられるようになれとの無理難題…、いえ、課題をいただきました。薬もたっぷり用意していただいています。サクヤ様の優しさに涙が溢れ落ちそうです。…本当はもう泣いています。


 山での鍛錬は孤独ですが、鬼…もとい監督者がいない分休憩をとりながらできます。 そんな私のくつろぎの時間を邪魔するように声をかけてき愚か者がいました。


「お前がサクヤだな。おとなしく同行してもらおう。」

「私がサクヤだとして、何故お前達に同行せねばならん?」


 サクヤ様と勘違いされたせいでしょうか? 口調までサクヤ様になってしまいました。


「我が主がお待ちだ。大人しくついてくれば痛い目に合わずに済むぞ。」

「たったの3人で私を捕らえに来たのか?霊徳童子でももう少し数を用意するぞ?」

「れいと…くっ!もうよい捕らえろ!」


 私は一斉に飛び込んできた男2人を目に捉える。獲物は太刀。


(遅い)


息を合わせて一斉に飛び込んでくる2人の一方へ、こちらから接近してやり1人目の鳩尾を強く叩く。続いて距離が取れたもう1人の上段斬りを直前で躱して首の後を叩いた。一人は悶絶し、一人は気を失っている。


「こいつ!」


 指示を出した男が祝詞を上げ始めた。


(囲う気か。)


 戦闘中の祝詞が如何に無防備か。祝詞なしに拘るサクヤ様の意図が良く分かります。


「阿呆め。」


 私は背から弓を取ると、結界の矢で祝詞を上げている男の頭を射抜いた。


 残された2人を結界で囲う。そのまま浮かせて連行した。うん、便利だ。サクヤ様、変な使い方を教えていただきありがとうございます。


 連行先はサクヤ様のもとではない。休暇中のサクヤ様のお手を煩わせるなどできない。…決して会いたくないわけではない。


 連行先は猿丸のところだ。この手の連中に自白を強要するのは隠密寮の独戦場だから。


「ほうほう、サクヤ様と勘違いしてねぇ。それは意地でも口を割ってもらわないと。」


 その日から猿丸により拷問が三日三晩(実際には5日間)続いた。


 その間、私はサクヤ様からの拷問、もとい指導を受けていた。



 五日後、とうとう一人が口を割った。勿論その証言を信用なんてしていない。それでもその男は解放された。もう一人は死んだようです。詳しくは知りませんが。


 当然、猿丸の手の者が解放された男を尾行します。そしてまんまと主を特定したのでした。その男がその後どうなったか、推して知るべしでしょう。私が主でも処分します。せっかく拾った命を無駄にするとは、何と愚かな男でしょうか。


 因みにその男の主は叢左大臣。左大臣がサクヤ様に何の用があったのでしょうか。あの愚かな男は知らされてもいないでしょう。


 ただ、あの男からサクヤ様がどのような者だったか、その情報は伝わったはずです。完全に勘違いをして…。


 その主である左大臣の手の者が私の前に現れるのはまた少し先の話になります。


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