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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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おはようございます

 時は少し遡る。


 鐵右近による報告の後、都に白銀童子の左腕がやって来た。


 右近は叢左大臣の屋敷に運び込めと言い放ったが、流石にそのようなことにはならず、堂兵部の命令で日輪大社に運び込まれることになった。




「検分せずとも宜しいので?」

「馬鹿を言え。あのような呪物の封印を都の中で解くなどできぬわ。」


 家人である八郎左衛門の言葉に苛ついてそう返したが、検分の必要性を言ったのは他でもない自分である。


 あの時は右近の立場を少しでも不利にし、自身に主導権を持って来るためにいちゃもんをつけたのだが、叢は本当に封印を解くほど馬鹿ではない。



 叢家は遥か昔に朝廷による西国討伐の際、朝廷に協力した見返りに、朝廷内の重要な立場に着いた家だ。


 叢家の当主である氏晴は、先代の父と2代かけて朝廷内でトップの地位を手繰り寄せた。

 公家の中でも太政大臣に就任できる家柄の五太政家(他は、はなぶさおおとりゆずりはさざなみ)の一角ではあったものの、中々権力の中枢には立てなかった。

 これまで外戚になるなどし、都を自領の中に誘致した英家が有力だったが、当主の相次ぐ早死に等で、一時の勢いを失った。


 その後は五家が均衡していたが、湊の交易権を力の源泉にした叢家が、経済力を糧に発言力を強め現在に至る。


 そんな叢家の当主である氏晴の次の狙いは明確だ。

 次代の帝、皇太子である貴彦に自身の娘を嫁がせること、そして娘の産んだ子、つまり自身の孫を帝にすることである。


 それに異論を唱える者がいる。


 皇弟である豊秋彦だ。


 豊秋彦は帝一族の御力の系譜を守るため、通例に習い日輪大社の宮司の妹を皇太子に嫁がせるべきと考えている。


 実を言うと氏晴の立場は微妙なものである。叢の一族は宗家が宮司家の糸雲家、その分家が雲の国の国守となる叢雲家、そしてその分家である朝廷の叢家。宗家から見たら陪臣に過ぎない。


 それもあって、叢家は定期的に本家及び宗家に報告することを課せられているほどだ。


 それでも朝廷内では五太政家の一角であり、今では最高の権勢を誇り、左大臣ではあるが帝に次ぐ権力者の地位にある。現在、太政大臣は先任の英家の者が死去してからは空位となっていおり、左大臣が最高位となっている。


 そして叢家には定期的な報告以外に、ある使命が課されていた。


「日輪大神を廃し、大八蜘蛛主を最高神に据える」


 これこそが朝廷の軍門に下って以来、糸雲一族の悲願だった。そして、叢家はその工作を行うために朝廷に送り込まれたのである。


 しかし、氏晴はそんな大それた計画には懐疑的であった。外戚となり、帝を傀儡とすることで、実質的な最高権力者になる。そこまでの道筋も見えている。


 だが、朝廷の基本方針は、「日輪大神を唯一神とし、その他の神は神とは認めない」である。これを覆すのは容易なことではない。これを覆すことすら困難なのに、最高神を挿げ替えることなどできるはずがない。経済力でのし上がった、生粋の現実主義である氏晴にとって、一族の悲願など馬鹿馬鹿しい夢物語だった。



 とはいえ、分家の分家であるため、宗家の方針に真っ向から反抗できるはずもない。宗家への報告は「計画は着実に進行している」と書く。実際、確実に権力の座に上り詰めているのだ。しかし、本当に最高権力者になったとき、宗家への報告はなんとすればいいのだろうか?


 よもや、権力を笠に着て宗家を敵に回すか? 御力を失ったに等しい今の朝廷に、結界術師を多く抱える宗家の軍を抑えることは不可能だろう。朝廷軍など霊徳童子一匹に振り回される程度の戦力しかないのだ。


 氏晴はジレンマに陥っていた。




「やはり皇弟殿が邪魔ですか?」


 八郎左衛門は氏晴の身の回りの世話をしながら聞いた。


「そうなのだがな、あれには帝も信頼を寄せておられる。最近は皇太子との距離も近い。一筋縄にはいかんだろう。」

「兵部殿は如何がなされますか?」


「よい。あれも一門だ。いざというときの為に味方につけておかねばならぬし、板挟みになった者の気持ちはわかるつもりだ。近いうちに慰労してやらねばな。

 そういえば、千尋から何か報告はないか?」


「いえ、例の熊の妖魔の騒動以降、変わりはないようです。国守の娘の教育も順調だとか。」

「それにしても、何を思って国守の娘でありながら社で学ぼうなどと思ったのか…。」

「やはり、最近噂されている、赤犬の社の娘が関わっているのでしょうか?」

「かもしれぬな。少し探ってくれるか?」

「畏まりました。」


八郎左衛門は指示を受けると一礼して退いた。






「千尋から定例の報告が届きました。」

「内容は?」

「大変興味深いものです。しかし、こちらの調査と合わせると少々厄介ですな。」

「八郎左がそのように言うとは珍しいな。見せてくれ。」


 氏晴は書状を手に取るとゆっくりと読み進める。」


「定例のご報告奉ります。


 先日より赤犬社の宮司の養女で鬼防寮の頭を務めるサクヤ殿が護符と結界術について学ぶため当社に滞在しております。


 この御方は結界術を身に付けて一年未満であるにも関わらず、蜘蛛社でも見られぬような術をお使いになります。そのうえ非常に力量が多く、幾度結界術を使っても尽きることを知りません。正直、結界術に関しては私が教えられることは概念のみで、技術的なことは教わることの方が多ございます。


 また、結界術の他、武具や薬への御力の付与まで行い、その御力を私や鶴様にまでお授けになりました。調薬に関する造詣も深く、武芸も秀でていらっしゃります。


 護符に関しても習得が早く、当社の護符寮頭も感心しきりです。


 世の中にはとんでもない御方がいるのだと、思い知らされた次第です。


 取り急ぎ報告をさせて戴きました。


                  千尋 」


「…なんだこれは?」

「千尋がここまで興奮した手紙を送ってきたのは初めてですな。」

「これは事実なのか?結婚して呆けたのではあるまいなぁ。」

「その可能性もなくはないのですが、武芸に長け、豊富な力量で弓の御力を持つ山兵の娘。また、女ながら神楽の名手と噂される娘と同一人物かと思われます。」

「なんだそれは?とても一人の話とは思えんぞ。しかも娘ということはまだ若いのだろう?」

「はい、噂では14~15くらいだと。しかも振り返らぬものはおらぬほどの器量良しだとか。」

「それが真なら天は二物を与えずとういのは嘘だな。どうにも信じがたい話だが。」

「しかも、先日霊徳童子と渡り合ったのは、どうもこの娘のようです。」

「なんだと!では右近はその娘と面識があるのか。なぜ奴は黙っていたのだ?」

「隠しておきたいだけの理由があるのではないでしょうか? 実際この娘、知れべてみても謎が多いのです。社の方もあまり表に出さないようにしているわりに、本人にその自覚がないような矛盾した動きでして。方々に逸話を残しています。」

「どうにも話がとっ散らかっておるな。もう少し調べが進んでから纏めてくれ。あと、千尋にも直接聞き取りをした方が良いだろう。」

「畏まりました。」

「八郎左。珍しく笑っておるぞ。」

「久しぶりに面白いものを見つけましたからな。」

「間違っても壊すなよ。それほどの娘ならば、できれば手中に収めたい。」

「心得ました。」



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