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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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巻き添え

おはようございます

 赤犬社の山兵部では雪化粧された演習場で鍛錬の声が響く。

 

 木剣の打ち合う音、弦が弾かれ矢が的を射る音、集団戦術での号令。


 規律ある音の中に蒼士郎も混じっていた。


 正月の里帰りから戻ると、すぐに鍛錬に励んだ。


 負けたくない相手がいた。


(小平太…。龍神社に戻ってからも鍛錬を休んだ日はなかった。毎日鍛錬を繰り返しても勝てる絵が見えてこない。何が足りない?何が違うのか?サクヤに聞けば何かわかるだろうか?)


 そんなサクヤは殆ど赤犬の社にいない。昨日帰って来たと聞いたが、また出ていくという。

 少しでも助言をもらえないだろうか?そんな懇願に似た感情が蒼士郎を支配していた。


「精が出るな蒼士郎殿。」

「サクヤ…殿。」

「ふん、サクヤでいいさ。私も蒼士郎と呼ぼう。」

「サクヤ…。」

「寮の者を敬称付けで呼ぶのは効率的ではないからな。」

「そうか、そうだな。」


(何を期待しているのだ、俺は…。)


「もう出るのか?」

「いや、明日発つ。今日は久しぶりに鍛錬だ。最近は座学ばかりだったから身体が鈍ってな。」

「て、手合せの相手を頼めないか!どうも自分でも壁にぶつかっているような気がしてな。」

「いいぞ。槍か?私は得意ではないが。」

「いや、サクヤの得意の獲物でいい。」

「じゃあ、試してみたいことがあるんだ。やってみていいか?」

「勿論だ。」


 蒼士郎は木槍を持って来たが、サクヤは手ぶらで立っている。


「獲物はどうした?」

「これだ。」


 サクヤは何もない空間に盾と小太刀のような物を作り出した。


「そ、それは?」

「面白いだろう?結界で作った盾と小太刀だ。相手が鬼なら効率的だと思ってな。」

「双剣ではないのか?」

「これも実験だ。」

「分かった。はじめよう。」

 


 蒼士郎は槍を構えると正面から突っ込んだ。

 正面からの突きを連発させ、サクヤの反撃を許さない。

 サクヤは最小限の動きで突きを躱すと、相手の踏み込みに合わせて突きを盾で受けてから押し返す。

 蒼士郎は想定外の対応にバランスを崩して後に一歩引いた。

 その隙を見逃すサクヤではない。

 そのまま盾を滑らせながら蒼士郎の懐に入り込むと小太刀を一閃した。


「ぐっ!」


「1本だな。」



「…何が悪いと思う。」


 サクヤは跪く蒼士郎を見下ろしながら端的に答えた。


「そもそも戦術が間違っている。自分から飛び込んで間合いを詰めてどうする?槍の利点をまるで活かせてない。」

「…他は?」

「突きで勝負が決すると思ったのか?何故相手の反撃を想定していないんだ?」

「対応できると思っていたのだが…。」

「私が盾を持っている理由を考えたか?間合いが詰まったらどうする気だった?全てにおいて先が見越せてない。

 私の師が教えてくれたことは、『先読み』が殆どだった。相手の手の内を読み、動きを想定し、反撃の手段を何段階にも用意しておく。蒼士郎は反応に頼り過ぎだ。今まではそれでよくても、これから先の相手はそうはいかない。考える癖をつけることだな。」

「読みの戦いか。小平太もそれを?」

「勿論だ。あいつの師も私の師と同じだからな。ここにいる間に小平太から1本でもとってみるがいい。先読みができなければ1本とることも能わないぞ。」


 サクヤは結界をけすと蒼士郎に背を向けて千代に声をかけた。


「蒼士郎、私と千代の手合せを見ておけ。」


 そう言うとサクヤは木槍を手にとる。千代は木剣だ。


「得意ではないから参考にならんかもしれんがな。」


 サクヤと千代が向き合うが、サクヤは殆ど動かない。

 千代は隙を伺うように周囲をジリジリと周る。サクヤはそれに呼応して正面に千代を捉え続ける。


 千代がフェイントを入れながらサクヤに接近して一気に距離を詰める。

 サクヤは距離を詰めさせないように槍で牽制しながら小さく突きを放つ。

 千代は変則的な動きでサクヤの懐に入り込む隙を探すが、サクヤはそれを許さない。一定の間隔を保ちながら小さな突きで千代を少しずつ削る。

 サクヤの小さな突きを繰り出す一瞬の間合いを測って、千代はサクヤの槍を弾いて槍の下から潜り込んで間合いを詰めた。

 サクヤは槍の持ち位置を変えながら旋回し、槍の尻側で千代を強かに打つ。体勢を崩した千代の横腹に、今度は槍の先側がめり込んだ。


「参りました…、ゲホッ!」

「薬を付けておけ。」

「はい…。」


 千代は腹を擦りながら兵舎に下がっていく。


「どう見た?」

「間合いを保ちながらも相手の出方を測っていたように見えた。懐に入り込まれてからの旋回は想定してのことか?」

「当然だな。だが、千代は早い。かなりギリギリの対応ではあるが、槍尻で決めるのではなく、あれはあくまで布石としての崩しだ。崩しには読みが不可欠なんだ。」

「崩しか…。」

「蒼士郎はいざとなれば御力を使えばという頭が何処かにあるだろう?でもそれが通用しなかったときの想定ができていない。通用しなかった時どうするのた?諦めて死ぬのか?私はそんな死に方はしたくない。最悪逃げ切る方法まで用意する。」

「逃げ方を?其方ほどの者がか?」

「当たり前だ。まだ霊徳童子には勝てない。それでも遭遇はするだろう。その時勝てるまでは逃げ続けなければならないからな。私は武士ではないから、逃げる事を恥とは思わない。最終的に勝てばいいのだ。」

「槍だからこそ逃げ道を作っておかなければならないということか?」

「そういうことだ。それが分かったなら戦術が広がるぞ。」


 サクヤは蒼士郎の答えに微笑むと兵舎に向けて歩き出した。


(参ったな。あれは魅せられる。)




 翌日、サクヤと千代と猿丸は白い狸のいた祠へ向かった。

 猿丸は祠へ登る時の馬の番である。



 山道を登り祠の前に立つ。

 

 サクヤは御神域の結界を確認すると、欠損を見つけた。


(これか。前回より少し大きな結界だな。)


 念のためにサクヤは祝詞を上げて御力を籠めた。


(おお、やっぱり随分楽になるな。)


 少し御力を籠めただけで御神域の修復を終えた。



「この短い期間でよく修復ができるようになるまでになりましたね。流石は神に最も近い人だ。」

「えぇっと、何でしょうか?その神に最も近い人というのは?」

「すっかり噂になってるよ。神を生み出し、神域を展開し、神力を授け、結界術を自在に操る神の御子って。」

「誤解が深まっているようで憂慮しております。私はただの人の娘で、忠実なる神の使いとして励んでいるだけです。」

「謙遜もここまでくると嫌味になるよ。少なくとも我よりできることが多いんだ。我の上位の神だと言われても納得できる功績じゃないか。」

「神々は私をどうされたいのですか?」

「いや、別にどうこうしたいわけではないさ。我は助けて貰ってばかりで申し訳ないくらいさ。」

「一つお聞きしたいのですが?」

「なんだろう?我に答えれることかな?」

「ご存知の範囲で構いませんが、他にもここのように御神域に綻びがある社や祠をご存知ないでしょうか?」

「もう駄目になってしまったものを含めると幾つか知っている。ここに記しているが、頼んでもいいのかい?」

「それがお役目ですので。因みにもう駄目になったということは祟神になられたということでしょうか?」

「残念ながらね。未だ彷徨っているようだ。あれを封印できればいいんだが。」

「それは私に能うと思われますか?」

「さてな。君の実力の全てを知るわけではないからね。ただ、封印の為には実体を倒した上で結界術による封印が必要になると考えると、君は適任であると言えるかもね。」

「わかりました。そのお役目、時間はかかるかもしれませんが、引き受けさせて頂きます。その代わりと言ってはなんですが、一つお願いがございます。」

「なんだろう?我にできることなら協力しよう。」

「ありがとうございます。ここに居る千代に結界術の御力を授けて頂きたいのです。」

「ほう。理由を聞かせて貰ってもいいかな?」

「私が万一倒れた場合、私の代わりができるのは千代しかいないと考えております。相手は霊徳童子です。最悪の事態を想定すれば、その備えをしておきたいのです。」

「サクヤ様…。」


 千代が悲痛とも困惑とも取れる顔でサクヤを見ていた。


「なるほど…その理由は尤もだ。わかった。千代とやら、こちらへ。」


 千代はおずおずと進み出ると、狸の前で跪く。


「我が与えられるのはきっかけだけだ。そこのサクヤは勝手にできるようになっただけで、この加護ですぐにサクヤと同様のことができるとは思わないでくれ。」

「はい、承知しております。」

「そうか…。では参る。」


 御力を授かった千代は、少し放心状態だった。


「ありがとうございました。必ずや祟神を封印致しましょう。」

「いや、礼には及ばない。助けて貰ったのはこちらだからね。では健闘を祈るよ。」


 白い狸はそう言って姿を消した。



「千代、大丈夫か?」

「…はい。しかし、私に使い熟せるでしょうか?」

「やってもらわねば困る。これで千代も私とほぼ同様の事ができるようになったのだ。千代も神に近づいたな。頼んだぞ。」


 サクヤは千代を見ながらニヤリと笑った。


(やられた…。サクヤ様の狙いは御自身の境遇に、私を巻き添えにすることだったんだ…。)



「サクヤ様…謀りましたね、サクヤ様!」


「どの口が言うか。お互い様だ。覚悟しておけ、千代。まだこれからが本番だぞ。」



 サクヤの氷のように冷え切った笑顔が、千代の心胆を寒からしめた。


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