サクヤ、神になる
おはようございます
結局宿場町で一泊して、翌朝出発後に転移してもらったサクヤ達。
「宿泊費が完全に無駄でしたね。」
「社から出させますのでご安心を。」
「いやぁ、すまぬすまぬ。最近どうにも忘れっぽくてな。
で、無事修復できなかな?」
「はい。ですが、懸念もありまする。」
サクヤは昨日の呪物の話を伝える。
「これで同様の事案が三件目ですので、もし同じ様なことがあれば知らせて頂きたく。」
「ふむ、それは剣呑だのう。分かった、そうしよう。
それで、礼なのじゃが…」
「結構でございます。これ以上誤解を深めるつもりはありません。」
「そうか…まぁ、其方なら放っておいても好奇心にまかせて色々できるようになりそうじゃしの。」
「その代わりと言ってはなんですが…」
サクヤはチノハズクヌシに近づいて何やら囁いた。
「わかった。あれには伝えておこう。」
「宜しくお願いします。」
「これから其方はどうするのじゃ?」
「もう少し勉強させていただいてから、湖の国の境の祠に結界の修復をしに行こうと思います。」
「そうか。それまでには伝えておく。ゆるりとしていくがいい。」
「ありがとうございます。」
御山を下りた3人は護符寮へと向う。
「明けましておめでとうございます。」
鶴と新右衛門とに新年の挨拶を交わす。
「昨年からの課題であった力量が多い者向けの広域展開護符については大きな進展はありません。まだまだ研究が必要です。」
「そんなにすぐにできるとは思っていません。余り無理をなさらないで下さいね。」
「サクヤ殿今後は?」
「はい、もう少し護符について勉強します。孫四郎殿はどうしていますか?」
「はい。資料室に籠っておられますよ。勉強熱心な方ですな。」
「そうですか。明日からは一緒に講義を受けましょう。」
翌日からは護符の講義が再開した。
「千尋、帰りました。」
「ご苦労だったな。どうだった?」
「自分の常識が根底からひっくり返る思いでした。何もかもが規格外です。」
「ヌシ様は?」
「楽しんでおられました。ヌシ様をもってしても人として過ぎた力だと…。」
「桜の話は聞いたか?」
「はい…。俄に信じ難い話でした。まさか人が神を生むとは…。しかも御神域まで作り出す。人の御業ではありません。」
「そうだな。赤犬社の宮司はよくあのような者を扱えるものだ。私では胃が持たんな。」
宮司は苦笑いして胃の辺りを擦った。
「私からサクヤ殿に教えられることは何もありません。寧ろ私が教わりたい…、いえ、無理ですね。あんなこと真似しろと言われても出来ることではないでしょう。」
「あの桜の里、祠を建立して里の名を改めたそうだ。」
「里の名を?何と?」
「『咲良矢の里』だそうだ。」
数日間講義を受けたサクヤ達は予定を切り上げ帰ることにした。孫四郎は引き続き講義を受けるという。
「研究の方は継続してまいります。」
「宜しくお願いします。こちらでも可能な限りやってみます。」
「サクヤお姉様〜、寂しいです〜。」
「そうですね。でもここと赤犬の里はそう遠くはありません。是非遊びに来てください。」
「はい!必ず伺います。」
「サクヤ殿、色々とお世話になりました。」
「いえ、お世話になったのはこちらです。」
「粘液の虫については弟から返事があり次第お知らせします。」
「ありがとうごさいます。楽しみにしています。」
生憎の雪模様だが、旅に支障するほどではない。馬に跨った2人は梟の里を後にした。
途中、名を改めた『咲良矢の里』では盛大な出迎えを受けた。
サクヤは千代を睨むが、千代は目を合わせることなく里人に笑顔を向けていた。
新しく建立された祠に祝詞を上げ、御力を籠めておくことにしたサクヤは、桜の下に立つ。
雪の中に咲く満開の桜は幻想的な光景であった。
その中で祝詞をあげ凛と佇むサクヤの姿に、里人は『桜の化身』を見た。
後日談だが、この里ではいつのまにかサクヤ自身が桜の化身=この岡のヌシ様と認識されるようになり、千代によるサクヤ神格化計画を思わぬ形で加速させるものとなった。
その日の内に里に帰ったサクヤ達は、宮司と藤馬、藤十郎のもとに出向き、報告を行う。
しかし、何故か今回に限ってサクヤではなく千代からの客観的な報告が聞きたいと藤馬が言い出す。
(まずい!千代に任せると酷く誇張された話になってしまう!)
「予め言っておきますが、千代の報告は誇張があります。話半分くらいで聞いてください。」
「そんなことはありません。私は事実のみお伝えしますから。」
サクヤは千代を睨むが知らぬ顔の千代は報告を始めた。
「まず、梟社と清水の宿の間にある里で、立ち枯れた桜とその下で佇む老婆を認めたサクヤ様は、その老婆を桜の化身と見抜き、そのまま朽ちるのを惜しまれた結果、桜のある岡を御神域として結界を張り、桜の化身を神になさいました。
後日その里は名を『咲良矢の里』と改め、祠を建立しサクヤ様を神の御子として崇めております。」
「「はぁ?」」
「その後梟社に着いた翌朝、そこのヌシ様様に召し出されました。御神域を作り出し、神ならぬものを神とし、人に御力を授けることができるサクヤ様は最早神同然と認定なされました。」
「そんなことは仰っていなかっただろう…。」
「御神域を展開できたサクヤ様なら、もう御神域の修復が出来るだろうと判断されたヌシ様は、我々を美川の宿に飛ばし、そこにある鎮守の御神域を修復されました。
ついでと言ってはなんですが、修復前にそこで屯していた野党の一団を結界で包囲し、様々な結界の実験と検証をなさった挙句、全員を浄化されました。
さらについでですが、その一団を捕縛に来たのが櫛の輔殿で、久々に再開しております。また礼をさせてくれと仰ってました。
結果、方々で借りを作ってきましたので、輔殿の他、その地の神様からもそのうちお礼があると思います。」
3人は呆気にとられた後、頭を抱えた。
「その後数日は大人しく講義を受けておいででした。
帰りは咲良矢の里で歓迎を受け、新たに建立された祠で祝詞を上げ御力を籠められていました。
雪模様の中での満開の桜、その下で祝詞を上げ凛と佇むサクヤ様の姿に、里人も神の姿を見た思いでしょう。言葉を表情も失っておりました。帰りには皆がサクヤ様に祈りを捧げておりました。」
千代の報告を聞き終えた3人はサクヤをジト目で睨んでいる。
「もう一度言いますが、誇張されておりますので、真に受けないでください。」
「寧ろこれでも簡略化して、事実を要点だけ押さえて話したつもりですが。」
「サクヤと周りの人間の認識に齟齬があるのは何時ものことだ。
頭と気持を整理したいから、今日はこれでよい。疲れているところすまなかったな。下がっていいよ。」
「…では失礼します。」
サクヤと千代が部屋を出ると、3人は疲れ切った顔で姿勢を崩した。
「なんなんでしょうね…あれは。」
「神を生んだってなんなのだ?人が神を生み出せるのか?」
「御神域って人が作れる物なのか?」
「サクヤさんは何故あんなに平然としていられるのでしょうか?自分が何をやったか理解していないのでしょうか?」
「だが、サクヤの言動はヌシ様に意向を受けたものとヌシ様が仰ったのだ…。神の御子、神の代弁者であればできることなのかもしれない。」
「サクヤさんを人の子と思うことをやめればそこまで不思議はないのかもしれません。」
「そうだな。そう考えることにしよう。神の思し召しならば、人の子である我等が難しく考えることはないな。」
結果、3人は考えることを放棄した。
「ただいま…」
「あら、おかえり。随分疲れているじゃない。」
「旅の疲れはないんだけどね。全部千代のせい…。」
「千代ちゃん?なんでまた。」
サクヤは経緯を説明した。
「そ、それは貴方…。端から見たら千代ちゃんの報告になるわ…。」
「母様まで!」
「そうか、私の娘はとうとう神様になったのか…。」
「母様!」
「冗談よ…半分本気だけど。」
「うう…。」
「大丈夫、例え貴方が神様になろうと、私の娘に変わりはないわ。そうか、そうなると私はさしずめ聖母様かしら。」
「そんな南蛮の神様の話、どこで知ったの?」
「ふふふ、本物の神様がいるこの国では、南蛮の神様なんて流行るわけがないけどね。話くらいは知っているわよ。」
「もう一度言うけど、私は人間の都合で手伝いをしただけで、神様を生み出したわけじゃないからね!」
「判ってるけど、その桜がちゃんと神様になったら、結果としてその神様を生み出したのは貴方になるわよねぇ。
もう貴方の出自なんて、どうでもよくなった気がするわ。」
「ううっ、そうかも知れない。でも、私は決めたの。千代は絶対に巻き込んでやるって!」
「どうするつもりなの?」
「ふふふ、それは今後のお楽しみよ。」




