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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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御神域の修復

おはようございます

 翌朝、憂鬱な気分で目を覚ましたサクヤだが、行かないわけにもいかないので、渋々起き上がった。


「おはようございます、サクヤ様。」


(こいつはなんでこんなに気力が満ち溢れているんだろう?)


「おはよう。随分早いな…。」

「はい!興奮して眠れませんでした!」


(千代ってこんなに阿呆だったか?最近何かが壊れ始めた気がする。)


「ちゃんと寝ないと山でもたないぞ。」

「大丈夫です。サクヤ様の回復薬がありますから。」

「準備がいいことで…。」


 朝餉を済ませると千尋がやってきた。


「おはようございます。準備はよろしいでしょうか?」

「はい。いつでも!」


 千代が元気よく返事をした。


(お出かけ前の子供だな…。)



 朝早く出発したので、昼前には奥宮に到着した。そのまま磐座の中に入ると、そこにはチノハズクヌシが待っていた。


「呼び出してすまぬな。よく来てくれたの。」

「いえ、チノハ様のお召しですので。」

「よく言う。其方、中々面白いことをしてきたようじゃの?」

「桜の一件でしょうか?」

「そうそう。まさか人が神を生むとは思はなんだので驚いたぞ。」

「お言葉ですがチノハ様。あの桜はまだ神にはなっておりません。私はあくまでそうなるための手助けをしただけです。」

「普通は手助けすらできぬわい。桜に御力を与えて神域を展開するなど、人のやることではあるまい?」


(はぁ?どういうこと?サクヤ殿が神を生んだ?神域を展開って、結界どころじゃないわよね?)


 千尋は2人の会話がまるで掴めない。


「私は結界を張っただけで、神域を展開したわけではありませんよ?」

「いや、使いに確認させたが、あれは神域じゃ。其方は結界を張ったつもりかもしれぬが、何を参考にした?」

「他のヌシ様達の御神力を参考に、穢れや邪気が入り込めないようにしだけで、そこから生ずるものに御神力を含ませるような結界術は存じませんが…。」

「そこは新しい主次第じゃが、結果として神域になっておるようだぞ。神力も十分満たされておる。」

「(土地に御力を籠めただけで)そんなつもりはなかったのですが…。」


(神域の展開…?結界術にそんな術式があるなんて知らないわよ。なんでそんなことができるのよ!神域を参考にしたって、なんでそんなことが判るわけ?)


「それに其方、そこの千尋や鶴にも付与の御力を使えるようにしたらしいではないか。」

「あれは元々持っている物を認識させただけで、間違っても授けたわけではありません。それになんでもかんでも使えるようにできるわけではありませんし、元々破魔の矢に付与できる者なら、だれでも出来るはずです。」

「しかし、鶴は御力自体使えなかったのだがのう。」

「鶴様は国守の娘で公家です。元は山の民の末裔ですから、力量さえ満たされれば、御力を使えても不思議ではないはずです。」

「ほほ、なるほどの。だがその理屈が判っていても、そのようなことができるものなど、他におるまいて。」

「うっ…。」

「それに、其方は余りにも多くのことが出来る。今までそのような人間など見たことがないのじゃ。限りなく神に近いと言っても過言ではなかろうのう。じゃから…。」


 チノハズクヌシは一呼吸とってからサクヤに告げる。


「多分じゃが、其方、もう神域の修復ができるのではないか?なんせ、自分で作ってしまったのじゃから。」


「あっ…。」


「規模の大きさもあろうが、修復ならさほど力量もいるまいて。1から展開するわけではないのじゃから。試しにやってみんか?」

「そういうことでしたら、やるだけやってみますが…。」

「ふむ。では早速頼もうかの。場所はここから南西にある、櫛の国との国境の手前にある宿場町で、美川の宿の鎮守じゃ。終わったら戻してやるでな。

 では、行っていこい。」



 気が付いたら見慣れない宿場町にいた。


「ここは…?」

「ヌシ様が言われた美川の宿でしょう。」


 千尋が落ち着いて答えた。チノハズクヌシに転移させられたのは初めてではないのだろう。


「そうですか。では鎮守というのは?」

「あの小高い山がそうでしょう。鳥居も見えますし。」

「なるほど。そのようですね。早速行ってみますか。」

「…サクヤ様。一体どうなっているのですか?」

「あぁ、千代は初めてだったな。今のはチノハ様の御神力だ。以前話しただろう。」

「そうでしたか…。今のが…。」



 3人はそのまま鎮守へ向う。


 見慣れない人間への警戒心の薄い宿場町ではあるが、旅装もしていない若い女の3人組は流石に目立った。特にサクヤは男の目を惹く。


「よう姉ちゃん達、何処に行くんだい?」

「お前のような弟を持った憶えはない。何処に行こうと我等の勝手だ。」

「おうおう、こちとらこの宿場町じゃあ名の知れた美男組の者だ。そういう態度は良いことにはならねぇぜ。」

「何が美男組だ。言ってて恥ずかしくないのか?完全に名前負けしているぞ。」

「なんだとこのアマ!調子に乗ってると痛い目に合うぞ!」

「相手の力量も判らぬ阿呆の相手も面倒だ。放っておいて行こう。」

「サクヤ様よいので?」

「なんだ?暴れたいのか?」

「いえ、暴れるも何も、汗一つかけないかと。」

「なら放っておけ。」

「おいっ!何処に行こうってんだ!」


 男がサクヤの肩を掴もうとした瞬間、千代は男の鳩尾に肘を入れた。

 さらに、ほぼ同時に千尋の蹴りが男の股間を後ろから捉えていた。

 

「あら?千尋殿もやりますね。」


 千代がニヤリと笑う。


「女1人で行商をしていましたから。この手のことは慣れております。」


 千尋も千代を見てニヤリと笑った。

 サクヤはやれやれという顔をしながら、悶絶する男に一瞥もくれることなく鎮守に向かった。


 鎮守は宿場町の西側の小高い山の上にあるが、不思議なほど草木の少ない山だった。特別岩盤の露出が多いというわけでもない。


「なんとも不思議な禿山ですね。」

「結界の欠損が原因なのかもしれないな。まあ、取り敢えず登ってみよう。」


 続く石段を登ると簡素な鳥居があった。手水場で禊を済ませ、最後の石段を登り切ると、それなりに立派だが、幾分くたびれた社が建っていた。


 だが、問題はその社の周りにいる男達だった。如何にもガラの悪い、先程の男の連れと思われる男達だった。


「ひゅ〜、こんな所に若い女が群れて来るとは、俺達の人気も捨てたもんじゃないな。順番に相手してやろう。」


 下卑た笑いを浮かべる男達に、サクヤはゲンナリする。

 そこに先程の男が股間を抑えながら階段を登ってきた。


「てめぇら、こんなとこにいやがったか!兄貴!こいつら俺をコケにしやがったんだ。痛い目に合わせてやってくれ!」

「文治!てめえ等、俺の大事な弟分を!可愛がってやるだじゃ済まねぇぞ…。」


 千代は仕方なさそうに小太刀に手をやる。千尋も身構えた。


「はぁ~、結界が欠けるとこのような輩が集まるようになるのか。いっそ邪心のある者は入れないよう結界に張り替えた方がよいかもしれないな。」

「そんなことができるのですか?」

「多分できると思う。害虫も特定して侵入させないようにする結界も作れましたからね。」

「ええっ!?そんなことが…。弟が聞いたら喜ぶと思います。」

「弟君は虫が嫌いなので?」

「いえ、寧ろ大好きなのです。その結界を逆に作用させれば、特定の虫だけ捕まえれるようになるかもしれませんから。」

「なるほど…。面白そうですね。」


「お前等!何をごちゃごちゃと呑気にお喋りしてやがる!」

「五月蝿いなぁ、大事な話をしている最中だ。黙ってろ。」


 サクヤは男達を纏めて結界で囲う。

 そのまま結界を縮小してぎゅうぎゅう詰めにした。


「うん、邪心がある者だけ閉じ込める結界もきちんと機能するな。どうする?このまま圧縮するか?」

「…凄いですね。このような結界術は初めて見ました。」

「このまま圧縮すれば良いかと。この宿場町も平和になるでしょう。」

「折角だから、結界の実験と検証を色々してみたいんだがなぁ。

 例えばぁ…、」


 サクヤは結界を再拡大すると石段の前に立つ男を取り込んだ。


「えっ!?どうなっているのですか?」

「この結界は一方にのみ作用するのです。入れるけど出れないのです。」

「なるほど。神域の中で邪心を抱いた者が出れないのでは困るからですね。」

「そのとおりです。そして…、」


 サクヤは結界の中に1人分の結界を構築して取り囲んだ。


「これは浄化結界です。この中にいる者は浄化されます。で、浄化された者は…、」


 1人分の浄化結界を解除すると、指示された男はおずおずと結界から出てくる。


「このように、浄化された者は結界から出てこれます。」

「す、凄い…。結界の中に結界って…。こんなことが…。」

「御神域の中の御山もそうですしね。出来ないことはないでしょう。」

「そう言われるとそうなんだけど…。」



 サクヤと千尋は結界の修復そっちのけで実験と検証を繰り返す。

 男達はもう目が虚ろになっている。


「サクヤ様、そろそろ結界の修復を…。」

「ああ、そういえばそうだな。折角の実験台だったんだが。」


 男達は全員が浄化され上で解放された。


「解放して宜しいので?」

「そんな連中に関わり合いになるのも面倒だからな。放っておけ。」


 解放された男達はすごすごと石段を降りていった。


 サクヤは拝殿の前に立つと、供えられた器を結界で囲んで降ろした。


「やはりあったか。」

「それは?」

「呪物の器です。いや、これは呪物になった器というより、器に呪詛を籠めたと言った方がいいかもしれませんね。器自体はその辺で売っているものでしょう。」

「では、これは意図的に…?」

「そういうことになりますね。実はこれで三件目なのです。意図的にやったと考える方が自然です。持ち込んだのは人でしょうが、呪詛を籠めたのは人ではないと考えています。人が籠めるには強すぎる呪詛なのです。」

「サクヤ殿はこのような案件をなぜ探っておられるので?」

「将軍からの依頼もあるのですが、これが鬼防寮のお役目だからです。」

「このようなことが鬼と関わりがあるのですか?」

「はい。そう考えています。このような事案で最も得をするのは誰かと考えると…、」

「鬼…ですね。」

「はい。」

「なるほど…、理解できた気がします。」



 サクヤは社の浄めを行った後、神域の結界に御力を籠めた。


(なるほど…ここが欠けているのか…。)


 欠損している箇所に集中的に御力を籠めると、欠損は修復された。


「これでいいだろう。」

「祝詞も上げずに…。本当に凄い力量ですね。さっきからあれだけ結界術を使ったのに、欠損まで修復するとは…。」

「流石にソロソロ尽きそうです。念のために薬を飲んでおきます。」

「薬?力量を回復する薬があるのですか?」

「はい。あれ?言ってませんでしたったけ?」


 サクヤが力量回復の薬について説明していると、社の拝殿の奥から「こほんっ」と咳払いが聞こえた。


「話中済まんが、ひと言礼を言わせてくれるかな?」


 拝殿から出てきたのは青い鶏だった。しかも三本足である。


 サクヤ達は咄嗟に膝をつき頭を垂れた。


「失礼しました。降臨頂き感謝に堪えません。」

「いやいや、感謝するのはこちらです。危うく祟神になるところでした。貴方がチノハズクヌシ様が話されていたサクヤ殿ですね。噂は聞いてました。半分神になりかけていると。」

「お待ち下さい!そのような話はありません。誤解でございます。」

「またまた謙遜を。私より余程神力があるでしょう。できることも私より多そうだ。」

「それは各地の神様の加護を受けた結果であって、わたくしの力ではございません。」

「慎み深くて結構だ。なるほど、こうやって神々のために動いて力を授かるうちにその辺の神を超える程の力を身に着けたのでしょうね。私とて神を生んだことなどありませんから。

 私からも何か授けようと思ったのですが、私から授けれそうですなものが思いつきません。」

「いえ、これ以上妙な力をつけては、誤解を深めてしまいます。こうして降臨頂き、お話をできただけで十分でございます。」

「そうか…。力不足ですまないね。私も鎮守の主として精進することにしよう。機会があれば改めて礼をさせてもらうよ。」

「もったいなきお言葉です。」


 青い鶏は一鳴きすると姿を消した。



「なるほど…。サクヤ殿の強さの秘密を垣間見た思いです。」

「さて帰りますか。」


 サクヤが参道の方に振り返る。


「ここからだと国境の関が見えるのですね。あれは…?随分と賑やかですが?」

「櫛の国側から兵が入ってきますね。戦というわけでもなさそうですし。」


 サクヤ達が鎮守の石段を降りると、先程の男達が櫛の国から来た兵に捕縛されている。

 その兵を指揮する者に見覚えがあった。


 櫛ノ輔を務める、櫛橋右近だった。


(櫛橋の右近殿か。右近ばかりでややこしいな…。)


 櫛橋右近は将軍である右近衛大将とは当然違い、右近衛将監という官職である。略すとどちらも右近なので、呼ぶ時はややこしい。地方の役人は官職を自称する者も少なくなかったが、櫛橋右近はれっきとした右近衛将監である。


「右近殿、ご無沙汰しております。」

「おお!これはサクヤ殿。そちらは千代殿だったか。このような所で何を…。

 いや、得心がいった。そういうことか。」

「どういうことですか?」

「この美男組と名乗る連中は、国境を越えて櫛の国内で乱暴狼藉を働いていてな。ただ、国境を越えたここを根城にしておったので、中々手を出せずにおった。

 やっと丹の国守の許可が降りたので捕縛に来たのだが、どいつもこいつも素直に捕縛されるので狐につままれる思いだったのだ。

 そしたら社からサクヤ殿達が降りて来たというわけだ。」

「私は得心がいきませんが?」

「いやいや、其方等の手にかかれば、このよう連中など容易く倒せるだろう。

 ん?そう言えば、小奴等まったく手負いがないな?サクヤ殿、どうなっているのだ?」

「それは、サクヤ様が結界術で捕縛し、浄化されたからです。」

「結界術とな!これはまた一段と凄味を増しておられるな。無傷で服従させるとは恐れ入った。

 また改めて礼をせねばならぬな。」

「いや、いい。こちらもよい実験と検証ができたのでな。」

「…?よくわからんが。

 私は奴等を連行するのでこれで失礼する。櫛の国もいくらか平穏になってきたので、たまには遊びにきてくれ。」

「そうか、それは良かったが、ああいう連中で実験と検証をするのも面白いのだがな。機会があれば顔を出そう。」

「ああ、その時は大いに歓待しよう。ではな。」


 櫛橋右近は騎乗して颯爽と去って行った。



「今の方は?」

「櫛の国の輔殿で、櫛橋右近殿だ。以前世話になりまして。」

「サクヤ殿は神様だけでなく、そのようなところまで顔が広いのですね。」

「お役目上仕方なくです。」

「違います。サクヤ様が方々で喧嘩を売った結果です。」

「ち〜よ〜…。」

「私は嘘は言っておりません。」

「もうよい。私と千尋殿はヌシ様に転移させてもらうので、千代は歩いて帰りなさい。」

「え〜!狡いです!」

「ところで、どうやってヌシ様に終了を伝えるので?」

「私の経験上、ヌシ様は忘れっぽく中々戻してもらえないので、結局歩いて帰ることになるのです。」

「え〜!きょ、今日中に帰れますか?」

「多分無理かと…。」


【設定裏話】

 サクヤが桜の岡で作った結界は、結論としては正しく御神域とは言えません。ただ、土地に御力が籠めてあるので、機能的には御神域とほぼ同じ物になっていたので、チノハの使いも勘違いしたのだと思われます。

そもそも土地に御力を籠めること自体がかなり特殊な御力なので、使いが勘違いしたのも仕方がないことではあります。

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