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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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桜の精霊

おはようございます


 無事?貴彦達を追っ払ったサクヤは、翌日の出立に備えて、3日は休暇をもらった。


 3日も社と門前町は参拝客で賑わっていたが、サクヤはコノハと2人でゆっくり過ごした。


「しかし大丈夫なの?皇太子様をあんな目に合わせて。」

「あんな阿呆は一度痛い目にあった方がいいんだ。あんなボンクラのまま帝になんかなられたら、民がたまったものではない。」

「サクヤ、口調!」

「あっ…ごめん…。」

「まぁ、確かに面白かったけどね。」

「母様も観に来てたんだ。」

「そりゃあね。てっきり神をやるのだと思っていたけど、まさか鬼女とはね。よく竜三さんが許したわね。」

「宮司命令で押し切ったからね。」

「あの宮司がそんな命令を?」

「あぁ、正確には藤馬さんか。宮司は放心状態だったから。」

「…貴方、皇太子様に何を言ったの?」

「う〜ん、ハッキリと嫌味を言ってやったつもりなんだけど…。あまり効果はなかったみたい。あれは本当にボンクラだわ。」


「そんなに…。本物のボンクラかもしれないわね…。」

「都の男に惹かれた母様の気がしれないわ。私の知る限り碌なのがいないもん。」

「彦二郎様はそれなりにかっこよかったわよ。もう1人のはどうなのよ?」

「ん?もうひとり?あぁ、そんなのもいたね。あれとボンクラは面識があるのかなぁ?」

「それは知らないけど、都の男が全部駄目じゃないでしょ。あの将軍はあんな感じだけど、ボンクラではないでしょ?」

「流石に守備範囲外よ。でも、確かにボンクラではないか。信用ならないけどね。」

「ははは、確かに胡散臭いわよね。」




 1日のんびり過ごしたサクヤは、翌朝梟社に向け出発した。


 今回は途中の宿泊はなしで、夜までには梟社に着く予定である。


 滞在も短くなりそうだったが、護符については学ぶことが多いということで、急遽護符寮の頭である孫四郎も参加することになった。

 ただし、孫四郎は馬に乗れないので前日に出発している。



 今年の冬は雪が少なく比較的暖かい日が続いているが、朝の冷え込みは厳しい。

 手袋をしても手綱を握る手は悴む。


(そういえば温度調整の結界が使えるかも。)


 サクヤは両手に結界を張る。


(おお!これは快適だ。)


 ニヤつくサクヤを千代は不審な目で見る。


「サクヤ様、何をニヤついておられるので?」

「ふふふ、千代にもやってやろう。」


 サクヤは千代の両手にも結界を張る。


「こ、これは…。狡いです。」

「便利だろ?」

「便利ですが…手綱から手が離れません。いざという時危険ですので、私は遠慮します。」

「あ、なるほど。術者じゃないとその辺りが問題になるのか。」


 渋々結界を解いた。


「…一度快適さを覚えると、余計に辛くなりますね…。」

「ごめん…。」




 街道を進むと、冬の寒空の下、1本の立ち枯れた枝垂れ桜の木の下で佇む老婆が目にとまった。

 岡の上に根を張った1本の枝垂れ桜は、大きく枝を張って在りし日の幽玄な景観を偲ばせた。


 妙に気になったサクヤは、馬を繋ぐと岡に登った。


(やはりそうか…。)


「如何なされました?」

「おや?これは珍しい御方にお声掛けいただいたようですね。」

「立派な桜ですね。」

「はい。でももう寿命でしてね。この春は1輪の花もつけれないでしょう。」

「この土地の御力が尽きてますね。」

「はい。ですから私ももうすぐです。」


 サクヤは千代に目をやった。


「千代、折角の機会だ。この土地に御力を籠めてみろ。」

「土地にですか?」

「いっただろ?破魔の矢も武具も土地もやることは同じだと。」

「…わかりました。やってみます。」


 千代は桜の根元で手を付いて御力を籠める。


「おおお、凄い。このような御力を持つ方にお会いできるとは…。もうひと春は花をつけれましょう。」

「千代、ソロソロいいよ。力量がもたんだろう。これを飲んでおけ。」


 サクヤは千代に力量回復の薬を渡す。


「後は私がやろう。」


 サクヤは千代と同じように土地御力を籠めた。


「なんと!」

「しまった、やり過ぎた。」

「サクヤ様…。」


 土地の御力は満たされ、立ち枯れていたはずの桜が真冬だというのに満開に咲き誇った。


「ちょっとやり過ぎましたが、こうしておけばまだ暫くは大丈夫でしょう。」


 サクヤは岡全体に結界を張って模擬御神域を作り出した。


「里の者に言って祠でも建立させましょう。社の者にも言って年に一回は御力を籠めを兼ねて祀るよう頼んでおきますね。」

「サクヤ様、この方は?」

「この桜の精霊とでもいうのかな?ヌシ様のようなものだ。」

「ふふふ、サクヤ様といいましたか?ありがとう。長く生きるとこんないいことがあるのですね。」

「はい。ババ様はもう少しでヌシ様になれそうですから。この岡を守り続けていただかなくてはなりませんからね。」

「この岡を?サクヤ様、どういう意味ですか?」

「この岡の位置が大事なんだ。この岡を迂回するように川が流れているだろう。もしこの岡が削れてなくなったらどうなる?」

「増水したときに激流がまっすぐ川下の里を襲います…。」

「そういうことだ。だから、この岡を守り続けてもらわないといけないんだよ。」



 サクヤ達は岡を下りると里の者を捕まえて祠を建立するように話した。

 その間、千代は他の者里人に何か説明していたが、同じ説明をしているものとサクヤは思っていた。


「さて、ソロソロ出立しよう。日が暮れてしまう。」

「しかし、サクヤ様はとうとう神様まで生み出してしまったのですね。」

「はぁ?なぜそうなる。私は神様になりかけていた桜に少し力添えをしただけだ。

 確かに、本来の理からは外れているのかもしれない。自然に淘汰されるのが本来の姿なのだろう。だが、この岡に祠があり、ヌシ様が坐すことにより里が守られるなら、多少人の都合に合わせて祀り上げるのも悪くないことだと思うんだ。神様だって結構利己的だぞ。」

「ただ、それを人であるサクヤ様がやってしまうのが凄いことなのです。放っておけば朽ちていくだけの桜を、御神域を作って神様にしてしまったのですから。」

「そこだけ聞けばそうなるが…。

 待て、千代。さっき里の者に何を説明していたんだ?」

「はい。神の御子であるサクヤ様が、枯れかけた桜に神力を賜られ、あの岡を御神域とし、桜をそのヌシ様になさった。畏れ多いことだから、祠を建立して丁重に祀り上げるように言って聞かせました。」

「ぅおいっ!何だその説明は!?」

「事実しか伝えておりませんよ。」

「いやいや、誇張が過ぎるだろ!私がやったのは手助けであって、神様を創り上げたような大袈裟なものではない!」

「神話や伝説に誇張はつきものです。普通に伝えても尾鰭がつきますから、最初から付いてても大した問題はないでしょう。」

「問題しかないだろ…。」


 サクヤはそれ以上言葉が出てこなかった。ただ、とんでもない方向に流されていることだけは理解できた。



 馬に跨って里を出ようとしたところ、里人達はサクヤを拝んで見送っている。


「千代…やり過ぎだ…。」

「こんなものまだまだ序の口ですよ。」

「もう勘弁してくれ…。」




 梟の里に着いたときにはもう日が暮れていた。闇を照らす護符がここでも役に立った。


「随分遅かったですね。」


 伊三郎が出迎えてくれたので事情を千代が説明する。


「あの里の名は知りませんが、川岸の岡に古い枝垂れ桜がありまして、枯れかけているのを不憫に思ったサクヤ様が、桜に御神力を賜られて、その岡のヌシ様になさったのです。」

「千代!まだ言うか!」

「事実を伝えているだけです。ですので、梟社としてもその祠での祭祀を行い、年に一度御力を籠めて欲しいのです。」

「ぬ、ヌシ様にした?サクヤ殿が?」

「はい。サクヤ様はアカイヌヌシ様より正式に神の御子として認めていただきましたので、そのくらいは朝飯前です。」

「申し訳ありません!伊三郎殿。千代はまた旅の疲れが出ているようです。世迷言に付き合う必要はありません。」

 

 サクヤは引きずるように千代を連れて客室に向かった。



「千代!いい加減にしなさい。私は神様でもなければ神の御子でもありません!」

「しかしヌシ様がお認めになりました。」

「いや!そんなことは言っていない。代弁者であると言っておられただけだ。それは巫女の本来の姿から外れたものではないはずだろう?」

「う、そ、それはそうですが…。」

「龍神社の宮司だってあくまで代弁者だ。私の役割はその程度のものだ。」

「しかし、サクヤ様の言葉はヌシ様の言葉というのは、サクヤ様の意見にヌシ様が同意されているだけで、代弁者とは言い難いかと思います。」

「それは…い、意思の疎通ができているからであって、私がヌシ様に忖度した結果の発言だからだ。」

「そんなことサクヤ様がしているとは思えませんが。2人でコソコソ話している姿は明らかに立場が逆でしたよ。」

「ぐっ…。」


「失礼します。少し宜しいでしょうか?」


 部屋を訪れたのは千尋だった。


「はい、なんでしょうか?いや、明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願いします。」

「あら、失礼しました。おめでとうございます。新年の挨拶を失念するとはお恥ずかしい限りです。」

「いえ、こちらこそ。まずは皆さんにご挨拶をして周るべきでした。」


(全部千代のせいだ!)


「お気を使うことはありません。どうせ宮司は宴会で酔っぱらっているところでしょうし、鶴様も帰省されておられますから。」

「そうでしたか。ところで何か用があったのでは?」

「はい、ヌシ様がサクヤ殿をお呼びです。千代殿も一緒で構いませんので、明朝御山に登って頂きたいのです。」

「わかりました。用件までは…、」

「はい、存じません。ただ、深刻なものではないようです。明日はわたくしも同行させて頂きます。」

「わかりました。準備をしておきます。」


 千尋は用件を伝えると部屋を出ていった。



「きっとサクヤ様を神の御子としてお認めくださるのでしょう…。」

「お前なぁ…。寧ろ人の分際で出過ぎたことをするなと叱られる気がするがな。」

「ふふふ、明日になればハッキリするのです。楽しみですね!」

「私は憂鬱だ…。」



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