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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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皇太子

おはようございます

 御山から降りた一行は、はたから見たら葬儀の列に見えたかもしない。


 沈鬱な顔で歩く宮司親子に、新年の挨拶をした者達は異様な空気に挨拶が途切れた。


 そんな葬儀の列…もとい、初詣を終えた一行の雰囲気に構うことなく、門前町と社は参拝客でごった返していた。


 最近はサクヤの活躍もあってか、無病息災と武運長久を祈願する所謂パワースポットのような扱いになっていたのと、神楽鑑賞が誘引剤にもなり、例年にない人出であった。


 葬儀の列のような陰鬱な雰囲気から1番に復活したのは藤五郎だ。


 これだけの参拝客である。やや苦しかった社の経営が好転するかもしれない、絶好の商機である。

 藤五郎は俄然やる気を出した。元々サクヤ騒動からは一歩引いた立場にあったので、そこまで深刻に考えていなかったのもあった。


「くそう。奴は自分が無関係だと思っているのではないか?」

「とはいえ、貴重な収入になります。叔父上には励んで頂きましょう。」

「…そうだな。」

「そんなに社は金の工面に苦労しているのですか?」

「其方…。あの厩と馬場、飼い葉とてタダではないのだぞ…。」

「なるほど…。それは失礼しました。お詫びと言ってはなんですが、よい稼ぎ口がありますよ。」

「なんだと?!」

「鬼防寮が金食い虫と言われるのも癪ですからね。」


 サクヤは龍神社で馬代を稼いだ方法を伝えた。


「どうせ夜寝る前に御力を空にするのですから、丁度いいでしょう。」

「なるほど…。それはいいかもしれん。因みに他の者でもできるようになるのか?」

「可能かと思いますが…。私の言う事を信じ切れるかどうかですね。」

「それなら、サクヤ様がヌシ様の御子であると広めれば容易くできるのでは?」

「千代!」

「ヌシ様がお認めになったのです。最早時間の問題ですよ、サ・ク・ヤ・さ・ま。」


(くそぅ、その時は千代も巻き込んでやるからな!)



「当面は鬼防寮の者と破魔寮の者で始めてみるか…。」

「折角これだけの人出です。宣伝するよう叔父上に伝えましょう。喜び勇んでやってくれますよ。」



 社に戻ると弥九郎が走ってきて一行を迎える。


「宮司!皇太子様が応接室でお待ちです!」

「何!もうお着きになったのか?神楽は明日だぞ?」

「…なぁ、皇太子様は都で新年の挨拶とか忙しいんじゃないのか?」


 小平太の疑問は尤もだった。それだけに誰もまともな答えが返せない。


「兎に角行こう。サクヤは…、呼ばれるまで控えておけ。極力会わずに済むように努める…。」

「お願いします。」


 皇太子から隠れる以上、余りチョロチョロするわけにもいかないので、サクヤは馬場へ向かった。



「おお、これはサクヤ様。明けましておめでとうございます。」

「おめでとう。今年も宜しくお願いしますね。」


 厩で馬達の世話をする馬子と新年の挨拶を交わして、龍馬のところへ向かった。


「明けましておめでとう、龍馬。」


 龍馬にも挨拶をすると、早速乗ろうと思ったら、千代から「正月くらい休ませては?」と言われ、餌だけあげて帰った。




「皇太子様、神楽は明日なのですが、今日は何用でしょうか?」


 応接室で対面した宮司と藤馬は、皇太子と新年の挨拶を儀礼的に交わしたあと、率直に質問した。

 

 皇太子には側近がついて来ていたが、護衛は部屋の外で待機している。


「サクヤ殿のお会いしたい。」


 どストレートだった。


「さ、サクヤですか。サクヤは今…」

「先程其方等と一緒に山から降りて来たのだろう?」

「そ、そうなのですが、あ、明日の稽古など準備がありまして…」

「何、時間はとらせん。少しで良いのだ。」

「本人に聞いてみませんことには…」

「なれば聞いて来てくれ。」


((無理だ…逃げ切れん…))


 宮司と藤馬は早々に白旗を上げた。



 馬場からの戻り道で走ってくる左馬介にサクヤは嫌な予感を覚えた。


「サクヤさん…」

「あの二人は逃げ切れなかったか。」

「…です。」


 サクヤは呆れたように息を吐く。


「分かった。先に戻って今から行くと伝えておけ。」

「ありがとうごさいます。」


 左馬介は何故か礼を言って戻っていく。


「何の礼だ?」

「さぁ?」




「サクヤです。失礼します。」

「入ってくれ。」


 応接室に入ると焦燥しきった宮司と藤馬がいた。

 その正面には微笑みを湛えた皇太子と思われる若者と、付き添いの男がいた。


「お初にお目にかかる。余は皇太子である、貴彦である。」

「乾のサクヤでございます。皇太子様に拝謁賜ります迷惑至ご…もとい、恐悦至極にございます。」

「め、迷惑?」

「申し訳ありません。皇太子様に会うなど身に余る事態に緊張が高まり、つい本音、もとい、つい言い間違えました。」


(本音がダダ漏れだろ!)


 藤馬は頭を抱えた。

 一方の藤三郎は、顔面蒼白である。皇太子に対する無礼にではない。

 サクヤの機嫌が明らかに悪いからだ。


 アカイヌヌシに会ってから、藤三郎の畏怖の対象が明らかに変わった。朝廷の権威など、神の前ではどうということはない。

 アカイヌヌシに「サクヤの言葉は我の言葉」と言われたことが、藤三郎にとっては絶対なのだ。


「で、本日は正月だというのにどのような用件でしょうか?神楽を観に来られるという話は伺っておりましたが、神楽は明日です。大事な御用を捨て置いてまで、このような山中にどれほどの用件がおありですか?側近の方はなぜお止めしなかったのでしょう?」


 サクヤは笑みを維持しているが、目が全く笑っていない。睨まれた側近は血の気が引いていた。


 それでも空気を読まない者はいる。


「なに、流行り病になったと言い残してあるので問題ない。以前宿場町の神楽で其方の舞を観てな、是非話をしてみたいと思ったのだ。」 


(頼む、これ以上サクヤを怒らせないでくれ!)


 藤三郎は心の中で祈った。だが、その祈りは届かない。


「すっかり魅了されてな。其方、このような山中でなく、都に出る気はないか?其方程の器量と舞の才があれば、都でも一流の舞手になれよう。」

「皇太子様は、面白いことを仰るのですね。わたくしは鬼防寮の頭を勤めております。神楽はほんの嗜みでして、霊徳童子を退治すべく、日夜鍛錬に励む日々。如何様にして都で舞手になれましょうや。」

「鬼退治など、鬼斬りや武士の仕事ではないか。其方ような娘が鬼退治など、神楽の中だけで十分であろう?」

「では、わたくしより強い弓使いを連れて来てください。すぐにでも都で舞手になりましょう。」

「其方こそ面白いことを言う。なぁ掃部助。」

「皇太子様。サクヤ殿より腕の立つ弓の使い手は、都中探してもおりません。」

「なに?武士どもはいったい何をやっているのだ?余が日夜武具への御力籠めに励んでおるというのに、武士どもは鍛錬を怠けておるのか?」

「皇太子様は日に如何程の武具に御力を籠めておいでですか?」

「2から3だな。あれが中々大変でな。だが叔父上が容赦ないのだ。」

「2〜3…ですか。我寮の者なら寝る前に10は籠めております。」

「何!?どういうことだ?武具への御力籠めは帝の一族のみが出来ると聞いたぞ!」

「破魔の矢への御力籠めなら社の者は誰でもできますし、武具への御力籠めも、それが出来る者なら少し教えるだけで誰でも出来ることです。朝廷や神宮の者は本気で霊徳童子を討伐するおつもりがあるのですか?」

「掃部助!どういうことだ?余は叔父上に騙されておったのか?」

「いえ!某も初めて聞いた話です。」

「そうか…、では叔父上も知らぬのか…。なれば、余が直々にやらずともよいではないか。サクヤ!良い話を教えてもらい感謝するぞ!明日の神楽も楽しみにしておる。行くぞ、掃部助!」


 貴彦はご機嫌で部屋を出て行った。




「なんだったんだ?あれは?」

「兎に角、何とかきり抜けました。サクヤさん、感謝します。」

「感謝…ですか。私、今から神楽寮へ参ります。」

「神楽寮?もう稽古は済んでいるのでしょう?」

「明日の役を変えていただきます。いえ、演目も変えて貰います。」

「どういうことだ?」

「あのボンクラの心胆を寒からしめるだけです。」

「そうか…、では任せます。」

「あれ?止めないのですか?」

「いや、あれは少し痛い目にあった方がいい。サクヤさんのことだ、何かよい策があるのだろう?」

「お任せ下さい。」



 氷の微笑を見せるサクヤと如何にも悪どい笑顔の藤馬。2人を横目に藤三郎は腰が抜けていた。


(藤馬…其方ならサクヤの手綱が握れよう。私には無理だ。もうサクヤが恐い。もう隠居させてくれ!)


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