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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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初詣

おはようございます

 大晦日を迎え、里は一旦落ち着き、静かに新年を迎えようとしていた。


 社の方も初詣の準備を終え、一旦休憩に入る。

 日が変わった直後から訪れる参拝客を迎える為の束の間の休憩だ。


 夜中でも参道を登って来る参拝客の安全を確保しなければならないため、山兵は総出で参道の警備にあたる。妖魔や妖には正月など関係がないからだ。


 サクヤ達鬼防寮はこの警備を免除されていたが、元旦は宮司一族が御山山頂の奥宮に参拝し、初日の出を拝む。

 サクヤも一応一族扱いだが、他の鬼防寮の者はその警護として同行することになった。


「みんなも少し休もう。夜中から登山だからな。」


 サクヤの言葉に少しげんなりしていたが、宮司一族と一緒に初日の出を拝むこと自体は乗り気だった。

 因みに蒼衣と蒼士郎は里帰りしているが、鬼斬り達は居残りで参道の警備に駆り出されていた。あと、伊都は宮司の姪なので一族扱いにされている。なにしろ、伊都の禊祓の能力は、一族とされる人の中でもサクヤに次いで2番目に高い。

 将来は婿を迎えて一族の強化を図りたいと宮司は息巻く。

 力量の多さでいっても、里の中でサクヤに次ぐ2番手なので、当然と言えば当然であった。(因みに3番手は千代)


 では、サクヤをどうするつもりかといえば…、

 「極力関わりたくない。」というのが宮司と藤馬の本音であった。

 なので、婿をとるとか言うとサクヤの機嫌を損ねかねないので、一切その手の話はしていない。


 「触らぬ神に祟りなし」、である。



「里に残ろうが、里を出ようが、面倒事を持ち込んで来ることに変わりはないだろう。」


 というのが2人の統一見解だった。




 一旦家に帰って仮眠をとったサクヤは、コノハに年末の挨拶をしてから家を出た。因みに、年末に蕎麦を食べるという風習はない。代わりに何かしらの酢締めを食べる。年の「締め括り」という語呂合わせだ。サクヤは夕餉にしめ鯖を食べたが、酒が飲みたいとボヤいていた。



「では出発しよう。」


 宮司の合図で一行が出発する。

 宮司と藤馬、藤五郎と藤十郎が其々妻子を連れており、これに鬼防寮の者(サクヤと伊都を含む)が加わるので、結構な大所帯だ。宮司の妻や藤馬の子供の足に合わせる必要があるので、かなり早目の出発だ。


 暗い山道を歩くので、サクヤは一計を案じていた。


 『闇を照らす護符』だ。


 梟社での講習で教えてもらった護符で、早速何枚か作成して、今日が試運転である。1枚で二刻(約1時間)は持つとのことだったので、5枚もあれば十分だろう。


「これは便利だな。」


 一行の周囲がほんのり明るくなるので、足元はよく見える。

 休憩を挟みながら登り、なんとか夜明け前には奥宮に到着できた。


 お疲れの年配者と子供(と言ってもこの春御力量りの儀を迎える)には回復薬を飲んで貰った。



 日の出まで時間があったので、少し早めの朝餉をとる。

 むすびと漬物というシンプルなものだったが、登山の後の食事であるうえ、一族が揃って食べるのも初めてということもあってか、サクヤはいつもより美味しいと思えた。

 しかし、サクヤが楽しく過ごせたのはここまでだった。



 空が白み始めると、宮司は祠の前後の扉を開けた。

 中には何もないように見えたが、鏡が入っているという。

 宮司と藤馬が鏡を取り出して磨く。3枚の鏡を磨き終えると元の位置に戻した。


 やがて日が昇ると、山の稜線から差し込んだ陽光は、鏡で反射して祠の正面へ向け輝いた。

 この祠は毎年元旦にだけこの陽光が入る向きで作られたものだった。



「では祝詞を上げる。」


 宮司と藤馬は並んで前に立ち、2回礼をした後柏手を打つ。

 もう一度礼をしてから、祝詞を上げた。


 神に対し、新年を寿ぐ言葉と今年の五穀豊穣と安寧を祈る言葉を奉上し、最後に皆で礼をした。


「よく参った。その願い聞き届けよう。」


 それは唐突なひと言だった。

 アカイヌヌシが祠の屋根の上にお座りしてこちらを睥睨している。


(なっ!?ぬ、ヌシ様ぁ?)


「多くの者は初めてであろうが、我がこの神域の主、アカイヌヌシである。」

「あっ、アカイヌヌシ様!」


 宮司を始めとして皆が一斉に膝をついて

頭を下げる。


「アカイヌヌシ様の御降臨、恐悦至極に御座います!」

「よい。先程、其方等の願い聞き届けると申したが、1つ条件がある。」

「じょ、条件ですか?」

「うむ。そこにいるサクヤのことだ。サクヤの幼き頃から我の子同様に扱い、特に目をかけた者だ。つまり、サクヤの言葉は我の言葉でもある。」


(何を言い出すのですかヌシ様!そんなことを言ったらいよいよ私は神の御子になってしまうではないですか!)


 当惑するサクヤの後ろで、千代はグッと拳を握りしめてニヤリと笑っている。



「ヌシ様、じょ、条件とは?」

「我の代弁者でもあるサクヤの処遇についてだ。サクヤの意に反するような処遇を我は認めん。ことサクヤの処遇、将来については慎重に行うことだ。今日か明日にでも皇太子が来るのであろう?もしあのボンクラがサクヤを娶りたいとでも言い出したら、其方等は如何にするつもりだ?」

「そのようなことが!…なくはないですね…。元々サクヤの舞に魅入られたから来ることになったのだし…。」

「そのようなことになったら…。考えもしなかったが…。」


(考えたくなかったの間違いだろう…。)


「相手は皇太子ですので、サクヤを正室として迎えることはないと思われますが…、万が一そうなれば、ゆくゆくはサクヤが中宮に…、」


((恐ぇ〜!))


 小平太と左馬介は心の中で絶叫する。


「私はそのような立場を望んでいません!」

「そうであろう。故にだ。其方等はあらゆる事態を想定せねばならぬ。よいな?」

「仰せのように!」

「どうにもならぬ時は我の名を使うことも許そう。サクヤは定期的に報告に上がる故、意思の疎通はできておる。」


(いやいや、今この状況が理解できていませんけど…)


「いざとなれば我自ら日輪大神のとこに乗り込んで、文句の1つも言ってやろう。」


(遊びに行きたいだけじゃないの?)


「畏れ多いことで。そのようなことにならぬよう、誠心誠意努めまする!」

「うむ。では藤馬、其方に1つ神力を授ける。『領域感知の力』だ。自身の領域を作り、そこに入り込んだ者を察知する力だ。領域の範囲は其方の力量次第だが、今の其方でもこの神域くらいは感知できるであろう。」

「はは、あ、有り難く頂戴いたします!」


 アカイヌヌシは藤馬に神力を授けた後サクヤを側に呼んで囁く。


「これでよいか?」


 サクヤは囁くように苦情を言った。


「どういうつもりですか!」

「この方が話が早いではないか。」

「だって、有難味がどうたらって言ってたばかりですよ!」

「だが、奴等が面倒事を退けてくれるだろう?」

「それはそうですが…。私はヌシ様に使える巫女ではありますが、あの言い方ではかなり特別な存在になってしまいます。千代に至っては神格化しようとしているのです。それに拍車がかかるではないですか!」

「神格化?面白い言葉だな。だが、似たようなものだ。其方は我でも使えぬ力を使うのだ。もう片足を突っ込んでおるぞ。」

「んなっ!何ということを…。」



 サクヤは囁いていたので皆に聞こえて居ないつもりでいたが、聞こえずとも両者の表情で関係性が窺えた。どう見てもサクヤがヌシ様を叱っている飼い主にしか見えない。もっともアカイヌヌシはまるで悪びれていないが。

 千代以外は皆顔面蒼白でそのやり取りを眺めていた。


「じゃ、頼んだぞ。」


(軽過ぎます、ヌシ様…。)


「「畏まりました!」」



 アカイヌヌシの姿が消えた後、皆無言のまま下山を開始する。

 サクヤも疲れ切っていた。


 唯一元気そうなのは千代だけだ。

 と、思われたが、実はもう1人楽しそうにニコニコしている人物がいた。


 藤十郎の妻千鶴である。


 千鶴はサクヤを陰ながら娘のように思っていたので、ヌシ様に特別な配慮を頂いたサクヤを誇らしく思っていた。


「やはりサクヤさんは凄いですね、貴方。」

「お前、そんな呑気な…。凄いとかいう次元を超えておるぞ。

 もっとも、サクヤから聞いていた話と、先日降臨された神様の件も合わせれば何の不思議もない。実はあの山犬がそうではないかと疑っていたのだ。まさか、本当にヌシ様であったとは…。」

「あら?そんなことがあったのですね。」

「色々事情があり他言できなかったのだがな…、もう今更だろう。」

「ふふふ、ますます楽しみになってきましたね。」

「…俺は胃の臓に穴が空いたと思う。」


【お知らせ】

 この小説のスピンオフとなる短編をシリーズとして投稿しました。

 そちらの方も是非お楽しみ下さい。

 一応、この小説の第3部あたりで絡んでくる予定です。


 そちらの短編も合わせ、モチベーション維持のための評価、感想、リアクションをお待ちしています。

 毎日更新しておりますので、是非登録のうえブックマークしてお楽しみ下さい!

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