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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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常識の相違

おはようございます

「ちょっと待ってくれ!折角来たのに何もしないまま留守にするのか?」


 馳遊馬と騎重郎、源吾がやって来たのは昨日のことだったらしいが、サクヤは御山に行っていたので知らなかった。


「しょうがないだろ。今回も神様案件だ。断りようがない。私が不在でも鍛錬も調練も付与もできる。騎重郎も弓で貢献したいなら左馬にしっかり学ぶといい。集団戦術を覚えなければならないのだ。私が不在でも身に付けるべき事は多くあるはずだ。小平太、馳遊馬を鍛えてやってくれ。あと馳遊馬。鬼斬りに戦力になりそうな者がいるなら紹介して欲しい。」

「わかった、あたってみよう。因みにどのくらい不在にするんだ?」

「私が護符と広域の結界術を習得できるまでだな。冬の間は不在になるかもしれない。」

「そうか…。その間に鬼が出没した場合は?」

「緊急の対応は小平太に任せる。将軍案件ならこちらに戻ることになるだろう。連絡と帰還で2日あれば帰れる距離だしな。」

「引き受けた。任せておけ。」


 小平太が胸を叩いた。




 一旦帰還した時は1日で帰ったが、行きは途中で一泊することになった。馬に負担をかけたくなかったのと、北尾の宿で歓待を受ける約束をさせられたからである。



 蕎麦とおにぎりをご馳走になったとき、偶々居合わせた男はクーマの襲撃を受けた清水の里の者で、以前サクヤが猪1頭をあげた男だった。


「あの時はお世話になりました。お陰様で

何とか食いつなぐことができたうえ、クーマも退治してもらい、里の者一堂感謝しておるのです。是非感謝の宴を催させていただけないでしょうか?」


 サクヤは何度も断わったが諦めてもらえず、仕方なく歓待を受けることになった。飯屋の主人も是非場所を提供させてくれと言い出し、北尾の宿で歓待を受け一泊することになったのである。



 歓待には里の主だった者が集まる予定だったが、多くの者が感謝だけでも伝えたいと集まった為、飯屋の外にも席を設け、食事や酒も里の者が持ち寄った。



 宴はとっかえひっかえで酌をしに来る里人への挨拶に追われ、その度に酒を飲むので、流石のサクヤも酔いが回る。

 幸いここで提供された酒は御神力入りではなかったので、力量の発散の心配はなかったが、酔いだけはどうにもならない。


「千代、どうすれば遠慮できるんだ?」

「そうですね、何か出し物でもあれば酌もなくなるのでは?」

「出し物かぁ…。」


 思案したサクヤは力量が溢れそうになったときのことを思い出した。


(そうか、私が舞えば飲まずともよいのか。)



 サクヤは徐ろに立ち上がり、


「里の皆に幸多からん事を祈念し、舞を奉る!」


 すかさず千代が笛を吹いた。

 サクヤは寿ぎ舞を舞う。


 最初呆気にとられた里の者達も、サクヤの舞に次第に魅せられていく。


 舞を終え最後の微笑みまでがワンセットなのは神楽と変わらない。

 里の者を蕩けさせて、飲み過ぎを理由に退席した。


「相変わらず凄まじい威力ですね。」

「凄まじいって…武具みたいに言わないでくれる?」

「いや、下手な武具より凄いと思いますが。なにしろ、その場にいる者全員を無力化できるのですから。」

「…。」


 

 釈然としない気持ちのまま、サクヤは眠りについた。



 翌朝多くの見送りを受けながら梟の里へ出発した。

 中には今生の別れかと思う程号泣している者もいた。



 朝早い出発だったこともあり、道には霜柱が立ち、ザグザグと音を立てて馬が進む。手綱を持つ手は手袋をしていても凍てついた。



 昼前に梟社に到着すると、伊三郎が出迎えてくれた。


「早かったですね。馬はそちらの者にお任せください。滞在いただく客間にご案内します。」

「宜しくお願いします。こちらは同じ寮の千代です。」

「千代です。宜しくお願いします。」

「若い女性2人で旅ができるということは、こちらの方も手練れなのでしょうね。こちらこそ宜しくお願いします。」



 客間で荷物を降ろし旅装を解く。用意された昼餉をいただき、午後からは早速千尋の講義を受けることになった。


「千尋殿、宜しくお願いします。こちらの千代は結界術ができるわけではないのですが、護符も含め一緒に勉強させてください。」

「心得ました。宜しくお願いします。」

「千代です。宜しくお願いします。」


「講義を始める前に、サクヤ殿がどの程度結界術が使えるのか教えていただきたいのですが。」

「そうですね…。私が出来るのは直径10間(約18m)程度の結界で、穢れや邪気を入れないものなら、恐らくそのままで10年はくらい、人をも寄せ付けないものなら2〜3年は御力を籠めずに持つと思います。」

「…中々のものですね。」

「今の二つを私は勝手に『実体型結界』と『無実体型結界』と呼んでいますが実際はどうなのですか?」

「人や地域によるのでしょうか、私のいたところでは『対呪結界』や『対人結界』など、目的別に細かく分けていました。」

「なるほど…。私からすると呪詛も穢れも大差ないので、一纏めにしてました。」

「な、なるほど…。力量のある方は、そのくらいおおざ…いえ、大まかに分けても問題ないのでしょうね。」

「サクヤ様は結界を矢に変えるたりするのですが、それは一般的な使い方なのでしょうか?」

「はい?結界を矢にするのですか?言っておられる意味がわからないのですが…。」

「はぁ~、やはりそうなのですね。」

「千代!余計なことを…。」


 サクヤは千代をジト目で睨むが、逆に睨み返された。


「あのう、サクヤ殿。どういうことでしょうか?」

「えっと…直径を矢の長さにした円形の結界を展開して、クルクル丸めて矢と同じくらいの細さにしてから、弓で放つのです。」

「結界をクルクル丸める????」


 千尋はまったく理解が追いつかない。


「では、実際にやってみましょう。」


 サクヤはわかりやすいようにゆっくりと実演した。



「…、こんなの初めて見ました。実際に放てるのですか?」

「実際はもっと早く生成できるので、矢を番えるより早く放てて便利なのです。」

「結界が便利ですか…。」

「それと、サクヤ様は結界で人を閉じ込めたりしておられるのですが、それは一般的なのでしょうか?」

「千代…。」

「それはかなり高度な術です。一部の術者が使える程度なのですが…。それより気になったのは、先程からサクヤ殿は祝詞をあげられないのですが…。」

「えっ?!祝詞がいるのですか?あっ!そうか、大規模な結界を作るときは祝詞を上げれば神様から神力をお借りできるのか!」

「いや、そういう意味ではないのですが。普通はそんなに早く展開できないのです。ですから、人を囲うなど余程動きを読むか、相手を動けないようにしておくかしないとできません。あとは不意をつくか…。」

「サクヤ様は、戦闘中に相手を封じ込めましたね。」

「千代…、さっきから貴方は何が言いたいの?」

「サクヤ様が如何に規格外であるかを自覚して頂こうと思いまして。」

「余計なこと言わなくて宜しい!」


 サクヤは叱ったつもりだったが、千代はまったく気に留めることなく質問を続けた。


「先程から気になっていたのですが、祝詞を上げる場合、結界の種類によって祝詞が違ったりするのでしょうか?サクヤ様は祝詞をあげないので、そのあたりの常識を教えていただきたいのです。」

「勿論違いますが…、サクヤ殿は祝詞を上げずに、どうやって使い分けておられるのですか?」

「…感覚というか、頭で想像して、それを具現化しているだけです…。」

「因みに結界の矢はなんの結界なのでしょうか?」

「実体型結界…、というか、防御結界をそのまま転用したというか…。」

「防御結界ですか?それは何でしょうか?」

「状況によりますが、相手が御力で攻撃してきた場合は無実体型、物理攻撃の場合は実体型を前面に展開しているのですが。」

「それも感覚でしょうか?」

「…はひ。」


 千尋とサクヤはかけ離れた常識の相違に、共に項垂れた。



「余りにも互いの認識が違い過ぎます。というか、サクヤ様が常識を外れ過ぎているので、ここは常識を教えていただけないでしょうか?」

「千代…、酷い…。」

「えっと…、何から話すべきか…。まず、結界術とは結界を作って何かしらの侵入を防ぐことと、何かを封印することが目的であり、基本的に空間や土地に展開します。形は其々です。先程も触れましたが、何から守るか、何を封印するかによって祝詞を変えています。大規模な術式を展開するときは、一柱ではなく複数の神様に願い奉ることもあります。」

「なるほど…、一柱でなくとてもいいんですね。」

「サクヤ殿はいつもアカイヌヌシ様に願い奉っているのですか?」

「いえ、基本的にはその土地のヌシ様にお願いしています。」

「なるほど…地鎮祭のような感じですかね?」

「そうですね。なんとなく、一番近いヌシ様にお願いするほうがよいような気がするというか、他所の御神域で違う神様に祈るのは縄張りを荒らすようで…。」

「ふふ、それは面白い考え方ですね。」


(うぅ、これは完全にアカイヌヌシ様のせいだな…。)


「あとは護符を使用することで広域にすることもできますが、これはまた後日ですね。」

「先程一部の術者が結界で囲うことができると仰っていましたが…。」

「あれはかなり高度な術式でして、一般的とは言い難いです。ですが、矢にしたり、防御結界を前面に展開するような素早く展開することが求められる術式は聞いたことがありません。発動するのに早い者でも脈拍5回は必要でしょう。ただ、サクヤ殿が祝詞を上げずにできてしまう理由も実はわかるのです。」

「どういうことですか?」

「結界術は力量の消費が激しいからです。」

「あ…、なるほど…。規格外の力量を持つサクヤ様は神様に与えていただかなくても、自分の力量で出来てしまうわけですね。」

「そういうことです。」

「ちょっと、人のことをなんだと思ってるんだ。確かに元々の力量が多い方ではあるが、れっきとした努力の賜物だぞ!」

「それは判っているのですが、サクヤ様は発想が我々の斜め上を行くので、時々常識とのすり合わせをしておかないと、明後日の方向に行ってしまわれますから。大体、交戦中で動き回る相手を瞬時に結界で包囲して動けなくしようと思うこと自体が非常識だということを、今千尋殿が説明して下さっているのですから、その辺りは承知していただけますか?」

「千代は私に何か恨みでもあるのか?」

「いえ、ただ私だけでもサクヤ様の行動原理を把握しておかないと、鬼防寮の者達は誰もついていけなくなります。サクヤ様はそのままで構いません。寧ろサクヤ様は自由な発想で、理の外で既成概念に囚われない方が良いのだと気付きました。なにせ、サクヤ様は神の子なのですから。このまま神格化計画を進めていきましょう!」

「千代…何を言っているの?お酒でも飲んだ?」

「私は至って正常です。」

「千尋殿ごめんなさい。この子ちょっと可怪しいみたいです。普段はいい子なんですけどね。」

「いえ、何となく千代殿の仰る意味が判る気がします。」

「いや、判らないでください!」

「そうです千尋殿、これこそが人の革新なのです!」

「もういいから…。きっと旅の疲れが出たのよ。千代に必要なのは休養ね。ということで、千尋殿。今日はお開きでお願いします。」

「わ、わかりました。お疲れ様でした。」

「千代!部屋に戻りましょう。」

「ジーク○オン!」

「何を世迷言を!では失礼します!」


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