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浄弓の巫女サクヤ 〜里の因習なんて無理なので御神力を使って鬼を倒しに行きます〜  作者: 一角獣
第2部 進化〜進撃の巫女姫〜

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馳遊馬来たりて…

 サクヤは唐突に結界を前面に張る。直径が矢の長さと同じくらいだ。

 そのままクルクルと丸めて細い棒状にすると、手で掴んで弓に番えた。

 弦を引き絞り、矢を放つ。矢を番えてからの一連の動作を流れるように、迷う事なく行う様は、一種の様式美さえ感じさせた。


 放たれた結界の矢は20間(約36m)離れた木に刺さって消えた。


「よし、感じは掴めた。次は余計な手間を省く。」


 サクヤは弓だけを持って弦を引き絞ると、先程と同じ結界の矢を発現させた。同じ様に放って同じ木の同じ穴を射抜いた。


「もっと早く…。」


 同じ手順で、連続して放つ。矢を取り出さない分、通常の連続速射よりも早い。


「こんなものか…。威力は破魔の矢の方がありそうだが、結界の矢に目一杯御力を籠めたらもう少し威力が上がるか?」


 サクヤがブツブツ言いながら矢を放つのを見ていた千代は、呆れるやら感動するやら感情が忙しい。


(やはりサクヤ様は凄い。あっという間に身に着けたかと思ったら、完全に使いこなしておられる。私も禊祓を極めないといけない!)


「よし、要領は掴んだ。不審がられないうちに合流しよう。」

「…不審がられないというのは無理なので諦めてください。どうせすぐバレるのですから。」

「ぐっ…。だって、大ぴらに言えることでもないではないか…。」

「皆さん、もうサクヤ様が何をやっても驚かないと思います。気にしているのはサクヤ様だけだと思いますよ。」

「なにっ!?そうなのか…。」


 サクヤは少し凹んで馬場まで向かった。



 馬場では皆が先に鍛錬している。サクヤも早速龍馬に跨って疾走させる。

 サクヤはやってみたかったことを初めて実践してみることにした。


 所謂『流鏑馬』である。


 馬場の外の的に対し、最初なので早足で弓を構えてみた。

 手綱から両手を離すので、足でバランスを取りつつ、揺れを膝で吸収する。体幹のいいサクヤは手綱を離しても上体がブレない。

 慣れてきたら馬足を上げて弓を引く姿勢を繰り返した。


(できそうな気がする…。)


 あくまで慣らしだったので、弓は持っているが矢を用意していなかった。

 

(結界矢でいいか。)


 基本面倒臭がりなサクヤの悪い癖が発動する。


 的の前を疾走すると、弦を引いて結界矢を現出させると、そのまま的を射抜いた。


「「えっ!?」」


 周囲のリアクションは当然の結果だったが、千代だけは溜息を吐いて諦め顔だった。

 

「サクヤ…、お前、今何を放った?」

「いや、何も放ってなどいない。」

 

 真顔で大嘘をつくサクヤを皆がジト目で睨む。


「うっ…。け、結界です…。」

「はぁ?結界を放つ?」

「ほら、こんなふうにな、結界を展開して丸めると…。」


 サクヤは結界を丸めて矢のような棒状にして見せた。


「これを弓に番えれば、結界矢の完成だ。便利だろ?」

「ははは!流石サクヤ殿だ。少し見ぬ間にとんでもないことになっているな。」

「馳遊馬!いつのまに?!」


 そこにいたのは馳遊馬と騎重郎だった。


「何回か赤犬の社に足を運んだが、いつも不在でね。言伝を聞いてこちらに来たわけだ。」

「あぁ、そう言えば呼んだ気がする。」

「うぉい!そりゃ酷ぇじゃねぇか!」

「いや、お前はそもそも呼んでいなぞ、騎重郎。」

「くそう、舐めやがって!俺だってあれから強くなっているんだ!いつまでもやられっぱなしじゃいられねぇからな。」

「じゃあ、あれを射抜いてみろ。」

「はぁ?あれってなんだよ。」

「見えないか?あそこに流鏑馬用の的があるだろう?」


 サクヤは馬場の外を指差す。


「流鏑馬用の的って…おま!100間は離れてるじゃねぇか!」

「なんだ、強くなったんじゃないのか?」

「くそっ!やってやるよ!」


 騎重郎は弓を最大限まで引き絞り矢を放った。

 が、やは的の手前に落ちて地面に刺さる。


「なんだ、あの山なりの矢は。こうやるんだ。」


 サクヤは通常の矢を素早く番えて放つ。

 矢は寸分の狂いなく且つほぼ真っすぐに高速で飛んで的を貫いた。


「このくらいできるようになってから強くなったと言って欲しいものだな。」


((できるわけねぇだろ!こいつ、鬼より容赦がないな。))


 その場にいた者の共通認識だった。だが、誰も口には出さない。


「連れて行っても死ぬだけだ。鬼の糧や質にされてもこちらが困るから、お前は居残りだ。判ったな。」

「くそっ…。」


 項垂れた騎重郎に関心も持たないように蒼士郎が前に出てきた。


「そっちの鬼狩りの腕前も見ておかなくていいのか?」

「君は?」

「龍神社の者だ。」

「山兵かぁ。なるほど腕は立ちそうだが…。どうやって判断する気だい?」

「そんなことは手合わせすればわかるだろう。」

「いいだろう。獲物は?」

「木刀で十分だろう。ただし、死んでも知らぬがな。」


「ちょっと!兄上!」

「やらしとけばいいだろう?」

「でも…何時になく兄上がムキになっている気がするのです。」

「ここの者は大体喧嘩っ早いが…。」

「いや、まぁ、そうなのですが…。」


(これはもしかして、サクヤ様と親しそうに話しているのを見て嫉妬した?

 えっ、そうなの!?どうしよう、まさか兄上が!だめよ!私のサクヤ様なのに!)


 一人でワタワタしている蒼衣を不審そうな目で見たサクヤだったが、手合わせが始まったのでそちらに注目した。



 二人共構えたまま動かない。間合いを測りながら相手の動きを読む。

 お互いに間合いを変えようとジリジリと横移動を行うため、摺り足の跡が円を描く。


 先に動いたのは馳遊馬だった。ただ、これも本気で打ち込むというより、相手の出方を伺う牽制的な意味合いが強い。

 蒼士郎も軽く往しながら自身もカウンターを返す。


 馳遊馬は大きく後に飛び、間合いを取り直す。しかし、着地の瞬間の一瞬の隙をついて、蒼士郎は強烈な突きを放つ。

 木刀は馳遊馬の胸を貫いた…、かに見えたが、そこに馳遊馬がいない。


「なんだと…。」


 あっけに取られた蒼士郎を横薙ぎの木刀が襲う。

 馳遊馬は残像を残して蒼士郎の死角に潜り込んでいた。

 蒼士郎は咄嗟に木刀で受け止めるが勢いに飛ばされた。体勢は崩しかけたが、すぐに構え直す。


「やるではないか…。ならば…。」


 蒼士郎は深く構え沈み込むと、距離があるにも関わらず木刀を振り上げた。


「あの馬鹿…。」


 サクヤが呟いた直後、水の刃が馳遊馬を襲う。

 馳遊馬はギリギリで躱したが、着物の袖が切れた。


「御力だと?ならばこちらだって容赦しないぞ。」


 馳遊馬は懐から取り出した卓球玉大の物を蒼士郎に投げつけた。


 蒼士郎は咄嗟に木刀で打ち払うと当たった瞬間に爆発した。


「貴様!卑怯だぞ!」

「お前が言うな!」


 双方が斬撃と合わせて御力と飛び道具での攻撃が始まり、収拾がつかなくなった。



「蒼衣殿、この馬鹿2人を止めなくていいので?」

「私に止められるはずがないではないですか!」

「ったく、しょうがない…。小平太、頼めるか?」

「わかった…。」


 小平太は木槍を持つと2人の間に飛び込む。 


 それは一瞬の出来事だった。


 まず、蒼士郎の小手を打って木刀を落とすと、槍の反対側で馳遊馬の鳩尾を突く。さらにその場で回転して、槍を横薙ぎに払い、2人の足を取った。

 

 あっけに取られた2人は寝転んだまま小平太を見た。


「お前…。」



「こ、小平太殿?あんなに強いのですか?」

「私と互角に渡り合える数少ない者の一人です。あのぐらい出来ないと、鬼防寮では務まりませんから。」


「あれで良かったか?」

「上出来だ。」


 サクヤはニヤリと笑う。

 小平太は照れたようにはにかんだ。


「で、納得はいったか?」

「「いくか!」」



 立ち上がった蒼士郎はサクヤに詰め寄る。


「小平太殿とやらせてくれ。」

「いや、勝てないだろう、普通に。」

「今のは不意をつかれたからだ。そうでなければ…。」


「俺もだ、サクヤ殿。このままでは納得がいかん。」

「私に言われてもな…。どうする?小平太。」

「俺は構わないけど…。」

「「では俺からだ!」」


 声が揃った2人が睨み合う。


「ちょうどいい。千代、お前が加わって2対2でやればいい。マヴ戦術だな。」

「マヴ戦術とは何でしょうか?」

「?そんなこと言ったか?気のせいだ。」

「…いや、確かに言いましたけど…。」

「そんなことは言っていない。

 と、神様が言っている…。」

「蒼衣様、気になさらず。時々出るサクヤ様の世迷言です。本人にも何のことか判っていません。きっと神様がサクヤ様に降りているのでしょう。」

「そ、そうなのですか…。

よくわからないけど、何かわかった気がします。」


 蒼衣はサクヤをそっと見遣るが、サクヤは真顔で前を向いているだけだった。




 マヴ戦…もとい、二人一組での模擬戦は、あっという間に決着がついた。



「くっ、瑞の国府で戦ったときはこれほどではなかったはずだが…。」

「あの時は見たこともない御力に不意を突かれただけだ。手の内が判ればいくらでもやりようがある。それに、あれから俺達が成長していないとでも思ったか?」

「小平太…、お前には後れを取りたくなかったんだがな…。」


 馳遊馬が唇を噛んだ。馳遊馬を見ていた蒼士郎も悔しさを滲ませた。


「なるほど…。そう言う意味合いもある戦いだったのですね。良い物を見ました。」

「なんだ?猿丸。どういうことだ?」

「いやいや、サクヤ様にはお判りにならないでしょう。男の意地というやつです。」

「ふんっ、くだらんな。」

「男というものは、女から見たらくだらないものにムキになるものなのですよ。ただ、千代が参戦しようとしているのは腑に落ちませんが…。」



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