蛇に願いを
おはようございます
記念すべき第100話です
お楽しみ下さい
馬場から社への帰り道。サクヤは以前コトハに会った湖畔の大樹の下に来ると、静に祈った。
(コトハ様、報告が遅れましたが、頼まれておりました件は解決致しました。私は暫く此方の社に居りますので、お呼び頂ければ幸いです。)
「何をしていたんだ?」
「龍神様にお祈りをな。」
「なんでまた急にそんなことを?」
「そういえば、此方の神にきちんとしたご挨拶をしていないと思ってな。」
「なら、社でやればいいじゃないか?なんでここなんだ。」
「…色々あるんだ。細かいことを気にするな。」
「なんだよ、色々って。」
サクヤはそれ以上の追求は無視して社に戻った。
「終わった…。もう何も出ねぇ…。」
小平太は気を失う寸前まで御力籠めをさせられたので、倒れそうになっている。
左馬介も帰って来てから同じようにやらされていたが、受注分の御力籠めがこの日で終了した。
「流石に疲れますね。しかし、本当にできるもんなんですねぇ。」
「ですよね。私は破魔の矢で慣れていましたが、武具への御力籠めも同じようにできるなんて、考えもしなかったわ。」
「私に言わせれば別物と考える方がよくわからないがな。身体の中の御力を動かす感覚はどの御力でも大差はない。禊祓だって基本的には変わらないんだ。御力を触れて放出するか、撒くように放出するかの違いしかない。浄めだろうが、御力籠めだろうが、御力を出すことに変わりはないだろう。」
「変わりはないかもしれないが、浄めはまた違うだろう?」
「そうかぁ?だって、破魔の矢は御力を籠めるから鬼に効果がある。浄化薬や回復薬も御力が籠められているから鬼に効く。要は鬼は御力に弱い。何の違いがあるんだ?」
「でも、例えば蒼士郎さんの水の刃は御力だけど、それほど鬼に効果があったか?」
「あれは…確か鬼に届かなかっただろう。薙刀を旋回させ飛び散らせていたはずだ。」
「そうだったか…。じゃあ、効果があるのか?」
「それは…、やってみないとわからないな。ちょうどいい機会があるから試してみよう。」
「ちょうどいい機会って…。大体、試すっていっても、お前そんな御力使えないじゃないか。」
「そうだったなぁ。…できないかなぁ?」
「サクヤ様ならできるような気がします。」
「それなんだよな…。本当にやっちゃいそうだよな…。」
(御力に実体を持たせるかぁ…。やっている人がいるんだから、多分できるよなぁ。ただ、いきなりできちゃうと、また何言われるかわからないしなぁ。
コトハ様に授かったことにしちゃうか。そうだ!そうしよう。ただ、まずは試してみないとな。)
サクヤがニマニマ笑っているのを見た千代は、またジト目でサクヤを睨んでいた。
夕餉の席で蒼衣が話しかけてきた。
「サクヤ様は白銀童子討伐までこちらに滞在されるということで宜しかったですか?」
「そうですね。ただ討伐までに馳遊馬という男に連絡をとって合流してもらおうと考えています。ただ、今何処にいるのかわかりませんが。」
「そういえば、そんなことを仰っていましたね。」
「長居してしまい申し分ありません。」
「いえいえ!コチラとしては学びが多くて。寧ろ歓迎しています。」
「そう言ってもらえると有難いです。」
客室に戻り湯浴みを終えると早々に床に就く。
(さて、お声がけがあるかないか。)
全員が眠りについた頃、サクヤは呼びかけを受け目を覚ました。
《サクヤ、願い通りにしよう。湖畔まで来るがよい。》
《はい。これより参ります。》
《…本当に返事を返しおった…。》
《あら?試してみるものですね。》
《まったく…。まぁ、よい。待っておる。》
サクヤは周りを起こさぬよう気をつけながら起き出した。
気配を消して湖畔の大樹のもとに向う。
「来たか。だが、そちらは呼んでないのだがな。」
「えっ?!」
サクヤは周囲の気配を探る。物陰によく知る気配を察知した。
「千代!」
「…申し訳ありません。どうしても気になりましたもので。」
「私の油断だ。コトハ様、申し訳ありません。」
「別に構わん。どうせ会わせる気であったのだろう?」
「そのような事までお判りになるのですか?」
「其方が願ったときに伝わってきた。」
「そうでしたか…。」
「で、それでよいのか?」
「はい。私はそれ程困っておりませんし、お返事ができることも判りましたから。」
「まったく、規格外の娘だな。まぁよかろう。千代とやら、此方に参れ。」
「はい。お初にお目にかかります。お会いでき恐悦至極にございます。」
「苦しゅうない、面をあげよ。」
「…コトハ様?そのようなやりとりをどこで憶えてくるのですか?」
「はは、戯れだ。気にするな。」
コトハは千代の額に顔先を付けた。
「では受け取るがよい。」
コトハの顔先と千代の額の間に仄かな光りが灯る。
「終わりだ。しっかり刻まれたはずだ。」
「有難き幸せです。」
千代は一礼するとサクヤの後に控えた。
「さて、其方は本当に良いのか?」
「はい。願いを聞き届けていただき有難うございます。」
「いや、我等と違い自由に動ける其方には、これからも色々頼む機会が増えるだろう。其方には一層励んで貰わねばならん。先行投資として授けておこう。」
「そういうことでしたら。」
サクヤがコトハの前にでると、コトハは千代に聞かれないよう囁いた。
「我が授けずとも其方はできるだろうから、授けたふりだけしておく。因みにだが、御力の具現化は結界術と大差ない。其方ならそれで十分理解できよう。」
コトハはサクヤの額に触れながら伝えると、顔先をほんのり光らせた。
《囁かずとも、こちらでよいのでは?》
《ぐっ…、其方は御力を便利使いし過ぎだ。すっかり使いこなしおって…。有難味がないではないか。》
《失礼いたしました。》
サクヤはコトハに微笑みを返した。
「有難き幸せでございます。」
「ふんっ、よく言う。では、今後も頼んだぞ。」
「「はい!」」
「まったく、お伺いを立ててから呼ぼうと思っていたのに。」
サクヤは社への帰り道で千代に愚痴る。
「申し訳ありません。サクヤ様は目を離すと何をしでかすがわかりませんし、以前も抜け出しておいででしたから、何かあると思いまして。」
「ふん、勘が鋭いな。まぁ、手っ取り早く済んで楽にはなったな。」
「しかし…、サクヤ様はどのようにヌシ様と連絡をとられたので?」
「以心伝心の御力というらしい。私の頭の中に直接呼びかけがあったのだ。宮司が御告げを受け取るのと同じ方法だ。」
「なるほど。では、先程のでサクヤ様も使えるようになったわけですか?」
「いや、私が授かった(ことにした)のは御力の具現化、蒼右衛門の矢のようなものだ。」
「あぁ、鍛錬の後に話していたあれですか。」
「千代の授かった御力も含め、明日試してみよう。」
「はい。」
「どちらへ行かれてたので?」
「伊都!」
「千代さんまで連れて、夜の散歩にしては、時間が遅すぎません?」
サクヤと千代は顔を合わせて、苦笑いする。
「隠してもしょうがないしな。お呼びがかかったので、龍神様に会いに行っていたんだ。こないだの呪物の一件の報告にということだ。」
「はぁ~、また神様案件ですか…。なんだか慣れっこになっている自分が恐いです。で、千代さんに御力を授けてもらったと…。」
「凄いですね、千代さん。なんでわかるんですか?」
「だって、鍛錬の後話していたから。サクヤさんなら気軽にお願いしそうですし。」
「流石に気軽にはお願いできないが…。まぁ、お願いはしたんだけど…。」
「この先もサクヤさんといるとこのような事が日常的に発生するのですね。」
「あまり日常的に発生はしてほしくないが、否定できないのが…。」
「仕方ありません。サクヤ様は神様に愛されてますから。伊都さんも諦めてください。」
「もう諦めてます。で、また何か新たな御用を仰せつかったので?」
「いや、今回は特に。」
「そうですか…。ならいいです。おやすみなさい。」
「…おやすみ…。」
(なんだか伊都が母様のようになってきたな。結局何が言いたかったんだろう?)
翌朝、朝餉を終えた一行は馬の稽古のため馬場に向う。
サクヤと千代は理由を付けて後で合流すると言って人気のない山に入る。
「この辺りでいいだろう。千代、この石から穢れを感じれるか?」
「なんとなく…、力量とは違う禍々しい気を感じます。」
「そうか、ではこちらはどうだ?」
「そちらからは何も…。」
「うん、感じ取れているようだな。では禊祓をしてみよう。こちらの石からこちらの石に穢れを移してみるんだ。」
「そんなこと突然言われましても、どうすれば良いのかわかりません。」
「別に難しくはない。付与のときは自分の力量を籠めるだろ。その逆だ。一旦自分に取り込んで、空の石に流し込む。間違って御力を籠めないようにな。」
「簡単にいいますが…。」
「取り込んでみたらわかる。全然違うものだ。異質なものを取り込んで出す。それだけだ。まずは取り込んでみろ。」
「では…。」
千代は穢れた石に触れると目を瞑った。暫くすると千代が顔を顰めた。
「これ…、です…ね。とても不快です。」
「不快と思えるなら千代は正常だ。取り込んだその不快感を空の石に籠めるんだ。」
千代は石から手を離すと、空の石に触る。目を瞑って穢れの流れに集中する。
「出しきりました。」
「うん、上手くできたな。次は穢れを祓う。祝詞は憶えているか?」
「サクヤ様をいつも見ておりますから、憶えています。」
「…変な言い回しだが、まぁいい。祝詞を上げながら穢れた石に御力を放出し、穢れを御力で打ち消すんだ。祝詞を上げれば神様が御神力で助けてくれる。」
「やってみます。」
千代は石の前に立ち、一礼して柏手を打った。
「龍神の湖に坐す畏きアマツミコトハヌシの神よ。穢れたるこの石を浄める力を与え給え。」
自身から放出された御力が石を覆うのを千代は感じた。御力籠めとはまた違う力のように思ったが、使われる力量は同じだった。
「…できました。」
「うん、きちんと祓えている。上出来だ。繰り返してやっているうちに、神様に御力を貸していただかなくてもできるようになる。」
「それは、祝詞を上げないということですか?」
「正解だ。神様はちゃんと祝詞を聞いていらっしゃる。そのたびに力を分けて頂いているんだ。」
「そうなのですね。」
「さて、次は私の番だな。」
とうとう100話まできました。
正直第2部の終わりが中々見えてこないのですが、なんとか第2部の間は毎日更新を目標にがんばります。
モチベーション維持のための激励をいただければと思います。是非、感想、リアクション、評価を!
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