第83章:(幕間)エンド崩壊:神々の残業代は出ない
三ヶ月に及ぶ地獄のスプリント開発――第一軍の強制強化タスクは、これ以上ない形でフィニッシュを迎えた。
バルツァー辺境伯の執務室。俺は「納期遵守」というシステム要件を完璧に満たした証として、指導レポートを机に置いた。辺境伯と近衛騎士長ラインハルトは、軍の変貌を目の当たりにして、もはや言葉を失っている。
「……信じがたい。あの軍が、わずか三ヶ月でこれほどの精度になるとは。貴殿は一体、何者なのだ」
「単なるデバッガーだ。……さて、決済を頼む。ここにサインしてくれ」
辺境伯のサインと共に、ギルドを通じて俺のギルドカードに報酬が直接書き込まれる。
【リワード獲得】:
大金貨10枚、金貨50枚(1億5,000万円相当)
さらに、ボーナスとして領地内での特権利用権および、半年後の黒曜龍討伐における「兵站確保の優先権」が付与された。個人報酬だけで1億5,000万円相当。以前獲得した4,500万円と合わせ、総資産は2億円に達した。銀貨数枚で死にかけていたあの頃が、遥か遠いバグに思える。
「フッ……妥当なスループットだ。これにて本件、クローズとする」
俺は辺境伯を冷徹に見据えつつ、内心ではガッツポーズをキメていた。
ギルドへ戻ると、俺は酒場のカウンターへ大金貨を「ドンッ」と叩きつけた。
「おい、店主! 全員に酒を振る舞え! バルツァー領での特級タスク完了記念だ!」
酒場が爆発的な歓声に包まれる。俺はニヤニヤが止まらない。これぞ成功した冒険者の代名詞。漆黒羽織を翻し、カウンターでグラスを傾ける俺の背中には、英雄としてのオーラが宿っているはずだ。
「さあ飲め飲め! 今日という日は俺のアセットが最高に光っている日だ!」
冒険者たちが狂喜乱舞し、ジョッキを受け取っていく。しかし、店主が全員に行き渡らせようとした瞬間、俺はすかさず手を挙げてブレーキをかけた。
「――ストップだ。……いいか、1人1杯までだ。それ以上は各々の自己資本で賄え」
一瞬、酒場がシンと静まり返る。
「……あ、アレンさん、2億近く稼いでこれですか?」
「聖金貨の男の奢りなのに、つまみも無しですか?」
俺はふっと鼻で笑い、追加の指示を出す。
「……ん~~そうだな。つまみも必要だな。……全員に、めざしを一匹ずつつけよう!」
「めざし!?」
ざわめく冒険者たちをよそに、俺は満足げにうなずく。
「無駄なリソースを投下するのはシステム負荷の増大に繋がるだけだ。必要なのは『祝杯』というフラグの回収であって、お前たちの二日酔いのログを残すことではない」
そう言い放ち、俺は一番安い水で割ったエールを満足げに啜った。
周囲の冒険者たちは、この「圧倒的な実力」と「底なしのセコさ」を併せ持つ漆黒の英雄を前に、尊敬と困惑が入り混じった複雑な視線を送るしかない。
ふふふ、この微妙なケチり方こそ、資産運用における最も重要なセキュリティ・プロトコル。贅沢に溺れれば、すぐにまた死のデッドライン(銀貨数枚)へとロールバックすることになるのだから。
【クエスト進捗】:
バルツァー辺境伯軍強化タスク:報酬全回収
【現在の総資産】:
大金貨10枚、金貨83枚+銀貨数枚約(1億8,300万円)
【中二病充足率】:
165%
(金持ちの英雄を演じつつ、しっかり節約する黒の管理者)




