第82章:地獄のスプリント完了と、神界を揺るがすロールアウト
バルツァー領での三ヶ月におよぶ強制アップデートが、ついに最終日を迎えた。
演習場に整列した第一軍の面々は、開始当初の脆弱なローエンド・マシンとは見違えるほどの、高スループットな戦闘集団へと変貌を遂げていた。全体的な戦闘平均レートは、従来の実に二・四倍。彼らの眼光には、もはや当初の慢心や疑念は存在しない。あるのは、アレンという「規格外のデバッガー」によって強制的に書き換えられた、殺気と規律のみだ。
「ふむ、どうやらお前たちのシステムにも、最低限の最適化パッチは正常に適用されたようだな」
俺は(フンス)と漆黒羽織の襟を正し、冷徹な最高管理者の視線で彼らを見下ろした。三ヶ月の成果へのささやかな報酬として、俺は「創世の羽ペン」の残影を駆使して構築したカスタムオブジェクトの数々を取り出し、各隊長へと支給していく。
「ガバドン、腕輪だ。能力は持ち主だけが何となくわかるシステムだから使え。俺からの餞別だ」
『システムメッセージ:ガバドン支給品(腕輪)』
アルミナコーティング仕様。自身の重力を五倍まで引き上げることが可能な印が刻まれている。
※デメリット:使用時はエルエルに多大な負荷がかかる。
「デメリットって何ですか? エルエルってだれ?」
ガバドンが太い首を傾げるが、俺はミュート(無視)して次へ進む。
「ルゲイ、盾を支給する」
『システムメッセージ:ルゲイ支給品(盾)』
衝撃を受けると自動でシールドバッシュが発動する。敵は恐怖し、近づけない。
※デメリット:天界のRPGゲームにそのシステムが導入される。情報発信担当で某監視科にて昇進予定だった天使の障害となる。
「……俺だけ渡すの雑なんだよな~」
ルゲイがぼそりと愚痴るが、もちろん仕様だ。
「フェリス、光の屈曲で偽装するマントだ」
『システムメッセージ:フェリス支給品(偽装のマント)』
金属の装備に劣らない強度を誇る。偽装する光の屈曲を使用。
※デメリット:天使たちが騒ぐ。
「マジっか! へへへ、これを使えばあんなことも……っ!」
不純な使い道を考えていそうな偵察兵長を睨みつけ、隣の男へ。
「ハンス、カーボン製の非破壊コンパウンドボウだ。左手を添えて使え」
『システムメッセージ:ハンス支給品』
異世界の技術の結晶たるカーボン製。魔法の印が刻まれ、非破壊特性を持つ。
※デメリット:天使たちから「NPCのアイテムか!」と突っ込まれる。
「変わった弓だな~、コンパウンドってなんだよ。……だが、左手は添えるだけ、か」
ハンスがぶつぶつと深く頷く。ここからは前衛の要たちだ。
「ディルク、お前には折れぬ加速の刀だ」
『システムメッセージ:ディルク支給品(刀)』
決して折れない、欠けない、錆びない。加速の印が刻まれた逸品のチートオブジェクト。
※デメリット:異世界の摂理を無視した結果、エルエルの後輩にかかる負荷が著しい。
「……美しい。だが、俺が振るうたびに誰かの後輩が犠牲になるような禍々しい気配を感じるのは気のせいか……?」
天才剣士の直感を無視し、俺は隣の陰湿工兵に声をかける。
「バルトロ、俺の性格を反映した卑怯の真髄トラップシリーズだ。有効に使え」
『システムメッセージ:バルトロ支給品(便利トラップシリーズ)』
卑怯の真髄すべてが込められた逸品。その性能はアレンの性格そのもの。
※デメリット:天使も動揺のあまりErrorの罠に落ちる。苦労をかけるな。
「ククク……教官、これ最高ですね。敵をハメ殺す未来しか見えませんよ」
嫌な笑みを浮かべるバルトロから離れ、輜重兵長の前へ。
「クラウス、馬車一台分の簡易時空収納だ」
『システムメッセージ:クラウス支給品(簡易時空収納)』
馬車一台分の物資を内包可能なストレージ。
※デメリット:給料から使用分の請求が届く恐怖。
「なんと画期的な! これで行軍の効率が……って、え!? 使うと俺の給料から引き落とされるんですか!?」
悲鳴を上げるクラウスを置き去りにし、魔法・救護班へ。
「マティアス、外観は貧乏くさいが詠唱時間を二分の一にする杖だ。」
『システムメッセージ:マティアス支給品(杖)』
ただの杖。そう見えるデメリットがまずあるが、実は詠唱半分になる優れもの。
※デメリット:外観が貧乏くさく、国軍エリートは絶対に持たない安物に見える、アレンのセンスの塊。
「教官のセンス、最悪ですね……エリートの僕がこんな枝切れみたいなの……えっ、でも詠唱速度が倍!?」
「そしてメディナ、お前には睡眠時に精神力を全回復する枕をやる。」
『システムメッセージ:メディナ支給品(枕)』
睡眠時、使用者の精神力を完全に回復する。
※デメリット:なし。
「……枕、ですか。あのクソ教官、初めてまともな配慮をしましたね。一発殴るの保留にして秒で寝ます」
隊長たちが驚愕と歓喜で涙を流してひざまずく中、俺は最後に、遊撃兵長オルガの前に立った。彼女には、強化バフを増強する特製のネックレスを差し出す。
「オルガ、お前にはこれだ。ただし――」
「あ、アレン様……! これって、その、あたしへの『愛の告白』と受け止めていいのよね!?」
「却下だ。それはお前の突撃性能を引き上げるためのアドオンパーツに過ぎん。……というか、頼むから、一旦俺から離れてくれ(ガチ引き)
『システムメッセージ:オルガ支給品』
強化バフ増強。
※デメリット:アレンに追いつきやすくなる……逃げたい(アレンの本音)。
俺が各アイテムを手渡すたびに、神界の管理領域では警告音が鳴り響いていることだろう。摂理を無視したチート装備のロールアウト――それは同時に、管理システムにとっての「大規模なデバッグ漏れ」を意味する。
だが、そんなことは俺には関係ない。半年後の黒曜龍戦というメインプロセスを完遂するため、俺は今、最強のデバッグ環境を整え終わったのだ。
「以上だ。お前たちのパフォーマンスは期待値通りに補正された。……存分に、世界の摂理をぶち壊してこい」
漆黒羽織を翻し、俺は満足げに演習場を後にする。半年前は銀貨数枚で喘いでいた男が、今や国防の要を動かす司令官として、世界のバグを根底から修正しようとしている。
俺の脳内で、中二病の充足率が限界値である150%を突破し、赤い警告表示が点滅しているのを感じた。
【クエスト進捗】:
第一軍への全装備デプロイ完了。
戦闘力平均2.4倍に到達。
【現在の中二病充足率】:
150%
【次のフェーズ】:
王都貴族からの直々指名タスク(特権アクセス)へ移行。




