表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説の先にある世界  作者: 藤咲玲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
90/198

第81章:キックオフの不整合と、感覚派インストラクターの最適化パッチ

 バルツァー辺境伯領、広大な第一演習場。

 そこに整列した総勢数百名の精鋭――領地守備軍『第一軍』の面々は、一様に目の前の光景に戸惑い、あるいは不満のログを顔に浮かべていた。


 彼らファイアウォール(国防の要)を率いるヴォルフガング・フォン・バルツァー辺境伯と、その影たる近衛騎士長ラインハルトが冷徹に見守る中、全9隊の代表たちが俺の前に並ぶ。


「……おいおい、ギルドが寄こした臨時の『特別教官』ってのは、あの細っこい黒服のガキか?」


「大刀なんて背負っちゃいるが、まともに振れるのかよ」


 荒くれ者たちのノイズ(雑音)が耳に届くが、俺の脳内コンパイラはそれらをすべて「未定義のエラー」として一括ミュートした。


 俺は(フンス)と特注の漆黒羽織を翻し、一歩前へ出る。懐のステータス(HP 32,767、STR 9,999)からすれば、ここにいる全員が同時に突撃してきても1ミリも動じない。


挨拶(初期化)は省く。今日から3ヶ月、お前たちの戦闘力を最低2倍に引き上げるためのインストラクションタスク(教育任務)を開始する。早速だが、各隊の改善パッチ(指導要領)を言い渡す」


 俺は冷徹な視線で、まずは第1隊長、筋肉至上主義の巨漢ガバドンと、第4隊長、盾兵のルゲイを見据えた。

「第1隊、第4隊。お前たちは同じだ。基礎体力を増やし、体幹を徹底的に鍛えろ。動きのバランスが重要になる。これは次の攻防に移す際のロスをカットする上で不可欠だ。……理解できないなら、試しに俺のタックルに耐えてみろ」


「は? ガキのタックルだと……っ?」

 鼻で笑ったガバドンの正面へ、俺は一瞬で座標を移動――【時間減速】と【身体強化】をパッシブで噛ませた「シュッとした」体当たりを叩き込む。


 ドガァァン!と重々しい衝撃音が響き、2メートル近い巨漢が数メートル消し飛んでひっくり返った。演習場が凍りつく。


「次、第2隊長フェリス。お前は俊敏さが売りなら視線に注視すべきだ。相手が何を狙っているか、まずは視線から判断しろ。逆に視線でフェイントを行い、敵の認識を騙すことも覚えよ」


「あ、圧倒的な速度差……! い、イエス、サー……!」


 フェリスが冷や汗を流しながら直立不動になる。俺はその横に立つ、弓兵の第3隊長ハンスへ視線を移した。


「第3隊、風を読め。弓を支える手に無駄な力が入るとブレる。……いいか、左手は添えるだけだ(確か前世のバイブルにそう書いてあった気がする)」


「……左手は、添えるだけ……。深いな」


 職人気質のハンスが、謎の文脈に深い感銘を受けてブツブツと呟き始める。


「第5隊長ディルク。敵の重心移動を見逃すな。上級になれば筋肉の動きにも注視すべきだ。……まぁ、俺の動きを参考にしろ(速すぎて見えないだろうがな)。円を意識した剣足捌きを心得よ。剣筋のブレは切れ味に大きく影響を及ぼす」


「くっ……(本当に見えなかった……!)」


 天才剣士のプライドが音を立ててへし折られていく。


「第6隊長バルトロ。卑怯な手は……前衛には罠をわざと見せろ。敵が足を止めたら弓だ。第7隊長クラウス、物資の装備は効率重視で揃えよ。防具に金を惜しむな。ローエンド(貧弱)機体(肉体)ほどハードウェア()の防護が必要だ」


 ベテラン工兵と物資管理のプロが、俺の冷徹な効率論に深く頷く。


「そして第8隊長マティアス。お前には火と風を教えてやる。俺の魔素の動きをトレース(複製)しろ。……ただし、最低限のIT言語をマスターしてから質問すること」


「あ、アイティー……? 言語……? 何ですかそれは、古代魔法の呪文ですか!?」


 学園出身のエリート魔導士が、存在しない学問の壁にぶち当たってパニックを起こし始めた。


「第9隊長オルガ、お前は……」


「あ、アンタ……近くで見ると、めちゃくちゃ良い顔してるじゃない。あたしの好みにドンピシャなんだけどぉ?」


 荒くれ女戦士のオルガが、俺の容姿に惹かれてバグ(不純な動機)で顔を近づけてくる。俺は即座に半歩バックステップを刻んだ。


「……お前は、一旦俺から離れてくれ。視界のデバッグ(索敵)の邪魔だ」


「ひどぅいっ!?」


 最後に、演習場の片隅でクマの酷い顔をして待機していた衛生兵長メディナの前に立つ。


「衛生兵長、メディナ。対象が獣か人かで治療方法の傾向が変わるのは理解しているな? 治療効率を最適化しろ。それから――」


 俺は彼女の、今にもシステムダウンし(倒れ伏し)そうな限界のシステムログ(眼精疲労)を見つめ、静かに告げた。


「まずは寝ろ。睡眠不足のヒーラーなど、バグの温床でしかない」


「……あ、あのクソ黒服教官、一発殴ってから寝ていいですか……?」


 メディナが血走った目で呪詛を吐くが、俺は気にせず特注の漆黒羽織をフンスと正した。


「以上だ。仕様書メニュー通り、今から地獄の並行処理(スプリント開発)を開始する。ついてこい」


 教えるアレンと、教えられる側(第一軍)。


 マシンスペックと認知言語が致命的に噛み合わないまま、国防軍の強制アップデート(デスマーチ)がキックオフされた。


【クエスト進捗】:

 第一軍指導タスク:キックオフ完了

 各隊長への初期パッチ配布:完了

【兵士たちの混乱度】:

 ERROR: COUNT_OVER(測定不能)

【中二病充足率】:

 120%

(感覚派の天才として、ローエンドな凡人を導く絶対強者ロールプレイ)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ