第80章:初の指導タスクと、想定外のシステム要件
カビ臭い「格安スイートルーム」のベッドで、俺はギルドから転送されてきた指名依頼の仕様書(羊皮紙)を広げていた。
この国の地理的トポロジーは、なかなかにスリリングだ。
南西の国境を越えた先には『魔法帝国アルカディア』が君臨し、東には広大な外洋。そして南には、今回のバグが目覚めたような、高脅威度の魔物が跋扈する未開の森が広がっている。
今回のクライアントである大貴族は、まさにその南の魔物の森と、西の帝国国境の双方に挟まれた最前線を統括する領主だった。常に軍備に全リソースを割かざるを得ない、ファイアウォールである。
バルツァー家、ヴォルフガング・フォン・バルツァー辺境伯か。
「……で、その大貴族様直々のリクエスト内容が、これか」
記述されたオーダーに、俺は思わず眉間を揉んだ。
【依頼内容】:領地守備軍・第一軍の戦闘力強化
【目標値】:現行の練度を『最低2倍』に引き上げること
【期間】:3ヶ月
「……チッ。最悪の仕様変更だな。まさか初のインストラクションタスクをアサインされるとは」
実は、これこそがアレン――いや、前世の俺にとっても最も苦手な領域だった。
なぜなら、俺の基本アセット(能力ステータス)は完全にバグっている。
体力「32,767」、
力「9,999」という物理カンスト級の耐久・攻撃スループット。
敏捷性は測定不(LIMIT_OVER)で、魔力にいたっては「1.1258990 \times 10^{15}」という天文学的な固定値を内部に隠蔽している。
さらに【空間操作】や【時間減速】といったチートモジュールまで常時パッシブで噛んでいるのだ。
教えることは....こうやって…シュッと、ほらできるだろう?と当たり前の様に擬音で表現する感覚派である。
理解できる人間の方が天才である。
しかも言ってる言葉は略、現代人にしか理解できないとくる。
自分が「すべてを最適化で一瞬で終わらせる」のは簡単だ。
だが、体力や魔力がローエンドマシン並みの兵士たちを、どうやって「2倍のパフォーマンス」に引き上げればいい?
「自分のソースコードをそのままコピペしても、一般人のスペックでは一瞬でオーバーヒートしてシステムダウンするだけだぞ……」
教える側と教えられる側のマシンスペックが違いすぎる。
これまでのワンマンによる超高速デバッグとは180度異なる、最大級の難解タスク。
だが、これをクリアしなければSランクへのプロモーションは凍結され、半年後の黒曜龍戦の動作環境の質も上がらない。
「いいだろう。一般兵のスペックに合わせた低負荷な『最適化パッチ』をゼロから組んでやる」
俺は不敵に微笑み、カスタム大刀を背負い直してカビ臭いセーフハウスを後にした。漆黒羽織を翻し、国防の最前線へと向けて座標を移動(出陣)する。
【クエスト進捗】:
大貴族指名「軍強化タスク」:
受託
【アレンの警戒度】:
MAX
(苦手な教育タスクへの対応開始)
【中二病充足率】:
90%(減衰)
(自分の強すぎるスペックに苦悩する最強の指導者ロールプレイ)




