第79章:富裕レイヤーへの限定的マイグレーションと、特権権限の昇格審査
ギルドを後にしようとした俺の足が、ふと止まる。
懐のインベントリには、昨夜の処理で得た大金貨3枚と金貨15枚――およそ4500万円相当の莫大なキャッシュがプールされている。これまで銀貨数枚というデッドラインを彷徨っていた俺が、一気に富裕レイヤーへレイヤーアップしたのだ。
ここらで一つ、この街の経済システムにリソースを還元し、俺という存在の信用ログを確固たるものにしておくべきだろう。
俺は回れ右をして、未だに硬直している酒場併設のギルドホールを見渡した。そして、おもむろに金貨1枚(100万円相当)をカウンターへパチリと弾く。
「おい。そこにいる者たち全員に、酒を1杯ずつ奢ってやれ。……ただし、1人1杯までだ」
一瞬の静寂の後、ホールに「お、おおお……?」という、なんとも言えない微妙な空気が流れた。
国家予算級の要求を叩きつけた漆黒の英雄による、大盤振る舞い――の割には、「1人1杯限定」という妙に世知辛いアクセス制限。だが、タダ酒であることには変わりない。
「あ、アレンさんが奢りだってよ!」「聖金貨の男、意外と細かいな……いや、ごちそうさまです!」
ベテラン冒険者たちが苦笑混じりにグラスを掲げ、ギルドは微妙な活気を取り戻していく。ふっ、全リソースを無条件に解放するほど、俺のセキュリティは甘くない。この『絶妙な貧乏性』こそが、本番環境での最適な予算管理なのだ。
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その後、俺は数日前に登録したばかりのいつもの宿屋へと座標を移動させた。
懐の潤いを反映し、俺はフロントの主人を冷徹に見据えて要求を突きつける。
「最上位のクラス――最高級のスイートルームを要求する。|長期のサブスクリプション《連泊》契約だ」
「は、はい!? ス、スイートルームですか!?」
主人は目を剥いたが、ここはいわゆる下町の安宿だ。主人が慌てて案内したのは、単に『普段誰も使わない、少し広めでカビ臭い2階の角部屋』に過ぎなかった。
だが、俺の脳内コンパイラにかかれば問題ない。
「ふむ、徹底的に無駄を削ぎ落としたソリッドな空間設計だな。このヴィンテージ感、悪くない。ここを俺の臨時のセーフハウスとする」
贅沢に慣れていない前世の貧乏マインドが「これで十分、むしろ広い」と安堵しているのを感じつつ、俺は格安スイートルームのベッドに深く腰掛け、次なる半年間のロードマップに思いを馳せた。
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翌日。冒険者ギルドのバックヤードでは、ギルドマスターをはじめとする上層部が、1枚の羊皮紙を前に頭を抱えていた。
「……どうなっているんだ、これは。アレンくんの登録データが完全に矛盾しているぞ」
書類に記載された彼の実績記録は、昨日一晩で片付けたDランクからAランクまでの9件の一括処理。ギルドの規約では、順序よくランクアップさせるのが絶対の安全系ルートだ。
だが、彼の戦闘能力は明らかに規格外。Dランクのままにしておくのはシステム上のリスクであり、かといって一足飛びにAランクにするのも前例がない。
「マスター、いっそのこと、このまま特例で彼を『Sランク』へ一階級特進させる算段で動くべきでは? 黒曜龍の件もありますし……」
「うむ……だが、そのためには実績の裏付けが必要だ。ちょうどいい、王都の大貴族から、アレンくんを直々に指名した超高難度の依頼が届いている。
この特権処理結果をもって、彼のランクを完全固定するとしよう」
黒曜龍との決戦まで、あと半年。
世界のシステムがアレンという巨大なイレギュラーを中心に、激しく再構築されようとしていた。
【クエスト進捗】:
富裕層レイヤーへの移行:
完了(※ただし安宿の角部屋)
ギルド内プロモーション:
D兼AランクからSランクへの昇格プロセス始動
【次なるフェーズ】:
貴族からの直々指名タスク
(特権アクセス)の受託




