第76章:環境汚染ログの無音デリートと、Aランクマルチタスクのクローズ
国境の荒野からさらに座標を移動させ、俺は深い霧に包まれた山林へと潜入していた。
Aランクマルチタスクのラストを飾る3件目のタスク――「毒霧のワイバーン」の隠密暗殺。一晩で村の家畜を全滅させたという極めて有害な、いわば広域に有害データを撒き散らす環境汚染バグの駆除だ。
「大気中に高密度のノイズが検出されているな……。だが、俺の『インナー革鎧』と、空間を遮断するパッシブスキルを前にすれば、ただの低解像度なエフェクトに過ぎない」
霧の濃度が最も高い山頂付近。そこに、赤黒い毒霧を呼吸のたびに吐き出しながら、岩場で眠りについているアセット――ワイバーンがいた。
不用意に接近すれば、その瞬間に広域の毒トラップが発動し、こちらの耐久値をジワジワと削りにくる厄介な仕様だ。
だが、今回の依頼書のオーダーは「サイレントデリート」。
新調した『漆黒羽織』のステルス性能を本番環境で検証するには、これ以上ないシチュエーションと言える。
「よし……。今回は『世界から存在の記述を消された、影の執行人』のフレームを起動する。……ふっ、闇を往く者には、名も、光すらも不要ということだ」
俺は周囲の光のステルス値を【空間操作】で極限まで減衰させ、自身の輪郭を完全に夜の闇へとシンクロさせた。
足音のノイズログも空間ごと消去。文字通り、世界から俺のデータが一時的に完全ステルスだ。
※ 当然、ここも真夜中の山林なので、観客は寝静まった家畜の幽霊くらいしかいない。完全なワンマンステージだ。
無音のまま、眠るワイバーンの頭上へと肉薄する。
背中から引き抜いたのは、カスタム小刀。波紋の美しい刃に、月明かりすらも反射させない徹底的な隠密パッチを当て、その脳天へと静かに、かつ最速のレイテンシーで突き立てた。
「――『深度消去』」
サクッ……。
ワイバーンは、自分が「死んだ」というシステムログを脳に書き込まれる猶予すら与えられないまま、ピクリとも動かずに一瞬で息絶えた。毒霧の排出プロセスも、その瞬間に完全停止する。
「ふむ、ステルス・ビルドの動作検証は100%成功だな。ラグも一切ない」
俺は小刀を静かに腰の鞘へと戻し、ワイバーンの希少なリワード対象素材をアイテムボックスのインベントリへ全スタックした。
これで、Dランク1件、Cランク3件、Bランク2件、Aランク3件――合計9件のマルチタスクが、何一つのエラーを起こすことなく、完全かつ美しくクローズした。
「すべてのタスクのデバッグは完了した。……残るは、ギルドへの成果物ログの送信と、待望のキャッシュインだな」
俺は漆黒羽織の裾を夜風に躍らせ、銀貨数枚というデッドラインを完全に脱出するべく、夜明け前の道をギルドのある街へと、悠然と歩き始めた。
【クエスト進捗】:
Aランク③:毒霧の飛竜
(隠密暗殺完了)
⇒ 9件のマルチタスク、
すべてクローズ!
【中二病充足率】:
130%
(完全ステルスによる自己満足)
【次なるフェーズ】:
ギルドでのリワード
および
『1レイヤー分』からの
経済的階層アップ




