第74章:空間のアイロニングと、漆黒羽織の初デプロイ
Bランクの蜘蛛どもを効率的にデリートし終えた俺は、そのまま間髪入れずに本日の最大負荷プロセス――Aランク依頼3件のマルチタスクへと移行した。
まず選んだチェックポイントは、街の近郊にある迷宮の特定階層。
タスク内容は「空間の歪み」の調査。ギルドの仕様書によれば、国家規模の特異災害に発展しかねない大層なバグらしいが、俺の認識は異なる。
「空間の歪み、だと……?
【空間操作】を弄ぶ俺にとって、こんなものは原稿用紙のシワを伸ばす程度のアイロニングに過ぎない」
薄暗い迷宮の最奥。大気が文字通りベリベリと引き裂かれ、システムエラーが周囲の物理アセットを飲み込もうと狂い狂っていた。
だが、俺の視線はその致命的なエラーログには向いていない。
俺はおもむろに、新調したばかりの特注防具――引き締まった黒地に血の如き赤ライン、そして背中に禍々しい独自の紋様をあしらった『漆黒羽織』の襟を正した。
「物理的にはデコピン一発でパッチを当てられる。……問題は、この最高のステージにおいて、中二病的に『どの役柄になりきって台詞を吐くか』というロールプレイの最適化だ。非常に難しい……」
俺は短剣を後方上空に投げて、物質が放出する光の波長を0.8倍に増幅位相を揃えて強度を調整しつつ、月明かりを再現する。やがて月明かりの元へ登場するヒーローの如くポーズをキメる!
俺は混ざり合う妄想の結果、今回は「システムを陰から修正する、孤独な上位調停者」のフレームを採用することに決定した。
俺はゆっくりと、引き裂かれた空間の渦の前へと歩み出る。
大刀の柄に軽く手をかけ、あえてドスの利いたパッチボイスを空間に響かせた。
「――喧しいな。世界のノイズが、俺のメモリを侵食しようなどと……エラーログの無駄」
※ 観客席は空席だ
スッ、と右手の親指と中指を交差させ、空間の『歪みの中心点』に向けて、ただ優雅に爪弾いた。
「デコピン」
パチン、と乾いた音が響いた瞬間、俺の【空間操作】が空間のシワを完全に圧着した。
あれほど狂暴に吹き荒れていた魔力の渦が、まるで最初から存在しなかったかのように一瞬で完全消滅する。
「フッ……世界がまた一つ、俺のコードに従ったか」
誰もいない迷宮で完璧なポージングをキメ、内なる中二病パラメータが120%まで跳ね上がるのを感じる。非常に満足度の高いデバッグだ。
「よし、ファーストステージの動作テストはパーフェクト。このままアルカディア国境の『古代の呪術アーマー』と、家畜を荒らす『毒霧のワイバーン』も、この漆黒の英雄のプロキシにしてくれる」
俺は羽織の裾を翻し、次のターゲットが待つ座標(アルカディア国境)に向けて、影のように鋭く跳躍した。
【クエスト進捗】:
Aランク①:空間の歪み
(修正完了)
【中二病充足率】:
120%
(限界突破・ロールプレイ継続中)
【次なるターゲット】:
Aランク②:
古代の呪術アーマー(物理破壊)




