第73章:脂質の最適化と、特上肉オブジェクトの高速コンパイル
街のゲートを抜け、俺はBランクタスクの指定座標である近郊の森へとエントリーした。
目的のオブジェクトは「ジャイアント・ボア(変異種)」。一般の冒険者が複数人でパーティを組んでようやく互角とされる、高い物理アセットを持った猛獣だ。
だが、俺の脳内記述におけるこのタスクの本質は、デバッグそのものにはない。
「変異種ということは、通常の個体よりも基礎代謝が高く、蓄えられた脂質の融点(とろける美味さ)が極限まで最適化されている可能性が極めて高い……」
そう、これは純然たる『ストックのアップデート』ミッションである。
森の奥へとマッピングを進めること数分、前方の茂みが激しく揺れた。
現れたのは、通常の倍はあろうかという巨体。全身を鋼のような剛毛で覆い、赤く狂ったデバイスをぎらつかせた、推定質量2トンのジャイアント・ボア(変異種)だ。
「ブルゥゥゥッ!!」
大地を爆破するような勢いで、こちらへ一高負荷ストレートしてくる。
「ターゲット捕捉。……さて、新調したナックルクナイの耐久テストと、肉の鮮度を落とさない『即死パッチ』の同時実行といこうか」
俺は背中の大刀には触れず、袖口からアルミナコーティング済みのナックルクナイを一対、滑らかにドロー(マテリアライズ)した。
突進の軌道を【空間操作】のパッシブスキルでミリ単位で先読みし、物理的な衝突ベクトルを優雅にスルー。
すれ違いざま、ボアの延髄――もっとも中枢のカーネルが走る座標へ向けて、コーティングされた刃を無駄のない軌道で突き立てる。
「システムエラーを起こす暇すら与えない――『キルコマンド』」
ドサッ……!!
悲鳴を上げるログすら残さず、巨獣は慣性のまま滑り込み、完全にシャットダウンした。
傷口はナックルクナイの最小限の刺突のみ。内臓を傷つけていないため、肉のクオリティは最高品質のまま保たれている。
すかさず、俺はまだ温かいボアの巨体を、アイテムボックスのインベントリへと丸ごと一瞬で全スタックした。時間の概念が凍結されたストレージ内なら、この極上の脂は一切劣化(酸化)しない。
「よし、肉の回収は完了だ。このまま隣の鉱山跡地へマルチタスクを繋ぐ」
息一つ乱さず、俺はナックルクナイの血をスマートに振り払うと、もう一枚のBランク依頼書――「アイアン・スパイダーの群れの間引き」の処理へと、淀みない足取りで座標を移動させた。
【クエスト進捗】:
Bランク①完了
(肉ストック+1)
【現在の装備耐久値】:
ナックルクナイ:100%
(エラーなし)
【次なるターゲット】:
Bランク②:アイアン・スパイダー(群れの間引き)




