第72章:魔素の強制吸引と、ファースト・キャッシュイン
夜の帳が下りた街。俺がまず着手したのは、マルチタスクの中で最も物理的な負荷が低いと判断したDランクタスク――排水路のスライム除去だ。
特注の漆黒羽織の裾を夜風に揺らしながら、俺はターゲットである地下排水路の鉄格子を見下ろす。
狭い暗渠の奥からは、インフラを物理的に閉塞させているドロドロの塊――「スライム・ゼリー」が、不気味な粘着音を立てて増殖しているのが見えた。
「ふむ、予定通りのオブジェクトだな。肺を持たない生命体のソースコードなど、デバッグするまでもない」
俺は周囲に人影がないことを確認し、右手を排水路に向けて静かにかざす。
発動するのは、このエリア一帯の環境マナを強制遮断・回収する局所的なドレイン・シーケンス。
「エリア魔素、一括ダウンロード――『ハッキング』」
刹那、排水路の空間が歪むような錯覚と共に、大気中に漂う膨大な魔素が、俺の極小魔素領域へと一濁流となって流れ込んできた。
あまりの質量に脳内メモリーが一時的に悲鳴を上げるが、そこは力技でシャントする。
生命維持のリソースである魔素を根こそぎ奪われたスライムどもは、次の瞬間、水分を失ったジェルのように急速に干からび、ただの動かない可溶性のごみクズへと脆化していった。
「クリーンアップ。カロリーの無駄遣いすら発生しない、美しいデバッグだ」
翌朝。俺はギルドの受付カウンターに、干からびて完全に無害化したスライムのドロップアイテムを無造作に転がした。
「えっ……!? 排水路のスライム、一晩で全部消滅してる……!? アレンさん、一体どんな魔法を……」
驚愕でフリーズする受付嬢の処理をスルーし、俺はリワードの手続きを促す。(手のひらをヒラヒラ)
「仕様通りの成果物だ。迅速なキャッシュインを頼む」
カウンターに差し出されたのは、ジャラリと音を立てる銅貨の束。
【リワード獲得】:
大銅貨5枚(銅貨50枚相当)
現代日本の感覚で言えば、およそ5,000円といったところか。下水掃除の日雇い労働としては妥当、いや、作業時間コンマ数秒というコストパフォーマンスを考慮すれば、チートである。
これで銀貨数枚という破産寸前のデッドラインから、わずかに1レイヤー分(首の皮が一枚つながった)の安全マージンが確保された。
「よし、ファースト・キャッシュは上々だ。次は……美味なオブジェクトの回収フェーズへ移行する」
俺は懐に銅貨を滑り込ませ、ニヤリと中二病特有の笑みを浮かべると、次なるタスク――Bランク『ジャイアント・ボア(変異種)』が待つ近郊の森へと、足早にギルドを後にした。
【現在の総資産】:
銀貨数枚 + 大銅貨5枚(微増)
【タスク残数】:8 / 9件
【次なるターゲット】:
Bランク:ジャイアント・ボア
(変異種)




