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小説の先にある世界  作者: 藤咲玲


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89話:入学当日のサプライズ【入場拒否とまさかの同伴】

 ついに白亜宮廷魔術学園への入学当日を迎えた。


 アレンは侯爵家の馬車の扉を開け、艶やかなドレスを身にまとったローゼお嬢様を優雅にエスコートして学園の門前までお送りした。重厚な鉄門の向こうには、色とりどりの衣装で着飾った貴族の生徒たちが集い、華やかな熱気に包まれている。


「アレン、ご苦労さま。貴方はここまでね。学園内には生徒と関係者しか入れない決まりだから、夕刻にまた迎えにいらして頂戴」


 ローゼお嬢様は満足そうに微笑み、すっと優雅に背筋を伸ばして歩き出そうとした。貴族の供回りが敷地内に入ることは厳しく制限されているため、ここでアレンとはお別れ――のはずだった。


 しかし、アレンは何の躊躇もなく、平然とした顔でローゼお嬢様のすぐ隣へと並び、そのまま門を潜り抜けて敷地内へと足を踏み入れた。


「……? ちょっとアレン、何をしているの? ここから先は入れないと言ったでしょう?」


 驚いて足を止めたお嬢様に対し、アレンは至って穏やかな笑みを浮かべ、少し先を指さした。


「お嬢様、式典の時間が押しております。早くまいりましょう」

「はい……? 参りましょうって……どうして貴方が当然のように一緒に歩いているのよ!?」


 周囲の警備兵や生徒たちがアレンの高貴な服装に目を留めつつも、誰一人として彼を止めようとしない様子に、ローゼお嬢様は目を丸くした。アレンを伴って敷地の美しい石畳を歩きながら、お嬢様は耐えかねたように尋ねた。


「……ねえ、アレン。何故貴方が普通に学園内に入れて、私と一緒に歩けているの?」


「ああ、申し上げ忘れておりました」


 アレンは事もなげに、どこか他人事のような口調で答えた。


「実は昨日、こちらの学園で転入手続きを済ませてまいりまして。本日より、私個人もこちらの学生として通うことになりましたので」


「は……? 転入手続き……? 学生……!?」


 ローゼお嬢様は絶句し、思わず足を止めてアレンを凝視した。


 この「白亜宮廷魔術学園」は、クレイズ神聖王国において屈指の名門校である。どれだけ金や権力があろうと、厳格な編入試験や極めて厳しい審査をパスしなければ、そう簡単に途中から入れるような場所ではないはずだった。


「どうして……どうして平民の貴方が、そんな簡単に名門学園の学生になれているのよ!?」

「いやぁ、世の中意外となんとかなるものですね」


 昨日の校長室での極度の恐縮ぶりや、あの破格の紹介状のことなどおくびにも出さず、アレンは適当にはぐらかした。


「さあお嬢様、こちらです。もうすぐ入学式の会場でございますよ」


 呆然と立ち尽くすローゼお嬢様を促し、アレンは何食わぬ顔で煌びやかな大講堂――入学式会場の扉を開けるのだった。


【華やかな取り巻きと不審なお供】

 入学式会場となる大講堂の豪華な扉をくぐると、色とりどりのドレスや煌びやかな制服に身を包んだ生徒たちがひしめき合っていた。

 その中心で、一際目立つ華やかな一集団がローゼお嬢様の姿を認めるやいなや、一斉に駆け寄ってきた。


「ローゼ様! お待ちしておりましたわ!」


 真っ先に声をかけてきたのは、縦ロールの髪を揺らした子爵家の令嬢・コレットだ。その隣には扇子で口元を隠した男爵家の令嬢・ミシェルが優雅に寄り添い、背後からは自慢の剣を腰に下げた伯爵家の嫡男・ブラッドが自信満々の笑みを浮かべて歩み寄ってくる。さらに少し離れたところから、眼鏡の奥の知的な瞳を光らせた子爵家の長女・セシリアが静かに続いていた。


「ローゼ様、本日も息を呑むほどお美しい……! このブラッドがお側でお護りいたしますぞ」

「あらブラッド様、ローゼ様のお隣は私ですわ!」


 いつもの賑やかな挨拶が交わされる中、ふと、鋭い観察力を持つセシリアの視線が、ローゼお嬢様のすぐ後ろに佇む青年に留まった。


「……? ローゼ様、その方は……? 確か、今日から編入してくるという噂の転校生でしょうか?」


 セシリアの言葉に、周囲の者たちも一斉にアレンへと視線を向けた。

 洗練された立ち振る舞い、そして最高級の生地で隙なく仕立てられたどこか異国の気品を漂わせる完璧な制服姿。一目見て只者ではないと分かるそのオーラに、ブラッドは眉をひそめ、コレットとミシェルは「まあ……」と頬を染めて見惚れてしまう。


(な、なんだアイツは……? どこかの国の王子か!?)と内心で焦るブラッドを余所に、ローゼお嬢様はフッと脱力したような、どこか投げやりなため息を吐いて言い放った。


「いいえ。これは転校生ではなく、我が家で雇った……ただの『お供』よ」


「「「「は……?? お供……!???」」」」


 その場にいた全員の声が見事にハモった。


「お、お供ですと!? この圧倒的な気品を纏ったお方が、お供……!?」

「冗談ですわよね、ローゼ様! どう見ても高貴な貴族のご嫡男にしか見えませんわ!」

「あら……でもその制服の仕立て、他国の名門校のものですわね……お供にしては妙ですわ……」


 目を見開いて大混乱に陥る取り巻きたち。

 そんな彼らの大騒ぎを余所に、当のアレンは「はじめまして、アレンと申します。どうぞお見知りおきを」と、完璧すぎる美しい執事の礼を深々と披露し、さらに彼らをパニックに陥れさせるのだった。

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