第64章:平行世界のトランクケース余剰次元への投資
俺は時空制御を取得した。
この能力で異世界ラノベ御用達のアイテムボックスが取得出来ないか、考察している。
取り敢えず学園図書館に行ってみるか。講義では確か荷物を「異次元の穴」に放り込む発想は間違いだと言っていた。真実は三次元世界の指定した座標軸、この世界とは異なる時空に切り離れた所に収納しているように見える。つまり、別の次元にあるだけという。
関連書籍は3冊しかない。
古代魔法の真理、次元の推察、神隠の重量だ。結局、手がかりはなしで銀貨1枚を置いてきた。
宿への帰り途、エールに釣られ飲食店へ向かう途中。とある雑貨屋の店先にある古ぼけた書物が目に入った。
どうやら誰かの日記の様だ。中身は伝説のアイテムボックスの可能性についてとあった。俺はコイツを銀貨5枚で購入。ただの日記に銀貨5枚はぼられた可能性が大きいが、今はそんな事はどうでも良い。
日記の記載事項
(定説ではこの世界とは別の次元という場所に物を出し入れする。要はそう言うことだ。別の次元とは何だ?
俺は一つの仮説を打ち立てた。別の次元。これは今この時、この先いくつもに可能性がある時間の事だ。例えば俺が病気で死ぬ場合、その年齢、病気、怪我など無数に可能性があるように、次元も同時に存在するという事か。
ただ、あったかもしれない時間軸を見つけ繋げる方法などない。思うんだが、俺の魔素はその異次元でも繋がって存在して居るのではないか。
馬鹿な、そんな繋げるほどの魔素があればだがな。
(つまり、コイツは今の時間軸と平行して無数の可能性と同じ次元が存在している。そして自身の魔素は其々繋がるべきであるが、人々の魔素容量では魔素が足りず繋がっていないだけ、と言ってるな)
雑貨屋でぼったくられた古ぼけた日記を片手に、俺は何時もの定食屋のカウンターでエールを転がしていた。
皿の上には、もうすっかり見慣れた「少し焦げた川魚」が鎮座している。
店主は焼き魚が苦手とみるが、ひょっとして、俺の身なりが見窄らしいせいで同情でもして居るのか?後で服を買おう!
本の話に戻すが。
「並行時空、か。多世界解釈(エヴェレットの多世界解釈)を魔術的にアプローチしようとした先人がいたわけだな」
銀貨5枚の価値は十分にあった。この日記の著者が残した仮説は、現代物理学における量子力学のブレークスルーそのものだ。
シュレーディンガーの猫。サイコロを振るたびに、世界は可能性の数だけ分岐する。
「俺が病気で死ぬ未来」「死なない未来」――それらはSFの妄想ではなく、この世界の裏側に実在する、折り畳まれた「余剰次元」の座標軸なのだ。
定説では「異次元に放り込む」とされているアイテムボックスだが、講義でもあった通り、空間には元の平坦な状態へ戻ろうとする強烈なテンソルの「復元力」がある。
もし現世の物理ロジックのまま三次元座標を無理やり切り取り、システムの外側に「自前の空間」を維持しようとすれば、世界の復元力と俺の演算能力が正面衝突し、また神界のアニメ録画サーバーを消し飛ばすレベルの超巨大な排熱バグ(フリーズ)を起こしていただろう。
だが、この日記の仮説を「正規の仕様」にパッチ当てしたらどうなる?
(……新しく空間を創り出す必要なんてない。最初からシステム側に用意されている『あり得たかも知れない別の時間軸(並行世界)』の余剰座標を、そのまま荷物置き場として間借りすればいいんだ)
なぜ他の魔法使いにそれが出来なかったか。理由は単純だ。
並行世界にアクセスし、自らの魔素の固有振動数を同期させて「ゲート」を維持するためには、文字通り桁違いの魔素容量が必要になる。人間に許された数千、数万程度の魔力プールでは、並行世界のゲートを開いた瞬間に一瞬で干渉波が減衰し、空間の復元力に押し潰されておしまいだ。
しかし、今の俺のステータスには、何者かの泣き落とし(隠蔽中)によって固定された異次元の数値が刻まれている。
【魔力】1.1258990e15固定
(隠蔽中)。
10^{15}(一千兆)固定
「足りないなら、累乗数で殴ればいい。システムが許容する無限の容量が、ここにあるんだからな」
俺はエールのジョッキを置き、ふっと息を吐く。
パラダイムシフト。もう、小難しいアインシュタインの方程式を世界に叩きつけるような無茶はしない。世界が最初から持っている「魔法のフレームワーク(Lv.1)」の仕様に、俺の膨大な魔力を綺麗に丸投げするんだ。
時空制御の最適化(モジュール化)を開始する。
対象は、俺の目の前にある「少し焦げた川魚」。
脳内でスネルの法則やテンソル解析の関数を組むのではない。ただ、この世界の魔法システムが認識できる【時空制御:Lv.1】の正規ルートへ、一千兆の魔力から「並行世界の同期コスト」として、ごく微量のエネルギーをスマートに決済する。
「アクセスコード・プライム。俺が『川魚を食べなかった世界』の座標へ、この物質の記述を一時的にスワップ(同期)する」
カチリ、と体内で何かが優雅に噛み合う感覚。
排熱リスクはない。空間の歪みによるラグもない。世界が最初から用意している安全な正規ルートを通って、現象が処理されていく。
次の瞬間、テーブルの上の川魚が、まるで最初からそこに置かれていなかったかのように、輪郭のブレすらなく「スッ」と消失した。
「……大成功だ。空間を切り取るんじゃない。物質の存在確率を、別の時間軸の座標へ優雅にシフトさせただけだ。これなら世界の復元力とも衝突しない」
取り出す時はその逆。俺が「川魚を食べる世界」の確率をこの座標に引き戻せばいい。
念じた瞬間、虚空から寸分の狂いもなく、元の位置へ川魚が「スッ」と戻ってきた。まだ湯気が立っている。時間軸をズラして保管しているため、内部の時間経過(熱運動)すら完全に停止している。
完璧だ。これぞ、異世界ラノベ御用達の『アイテムボックス』。
いや、システムを優雅にハッキングした【時空トランクケース】の完成だ。
視界の端で、システムログが静かに、そしてバグを吐くことなく綺麗に更新されていく。
【時空制御】:Lv.1(認可・最適化)
【個別展開:アイテムボックス】:Lv.1(新規取得)
「ふふ、これであのかさ張るボアの肉も、何万キロだろうとノーコストで持ち運べるな」
俺は見えないトランクケースに、満足げに川魚(焦げ気味)を放り込み、冷えたエールを喉に流し込んだ。
物理ハックから正規運用へ。アレン・ノアの理詰め異世界ライフは、世界のシステムすら味方につけて、よりスマートに加速していく。




