第48章:理詰めの鍛造
アレンは悩んでいた。腰に差しているのは、今にも刃こぼれしそうな廃棄寸前の短剣だ。そろそろ資金にも余裕がある。新調すべきだろう。
要望を整理する。
中二病全開だが、ここは妥協しない。まずは見た目の格好良さは譲れない。次に、メンテナンスの簡略化。手入れなどしている暇があれば、酒でも飲むし。。
前世の記憶を掘り起こす。アルミナ(酸化アルミニウム)を使えば、完全なメンテナンスフリーとはいかなくとも、実戦レベルで相当なアドバンテージを築けるはずだ。
俺はそこら辺の土壌に手をつき魔法で刻印し、ケイ素とアルミニウムを高純度なアルミナ粉末を精製した。
※ 街で一番評判の良い鍛冶屋にて
「短剣が欲しい。既製品じゃなく、オーダーメイドだ。いくらで請け負う?」
「物次第だが、短剣なら銀貨5枚といったところだな」
「銀貨10枚でどうだ。ただし、鍛造の工程はこちらが指定する。構わないか?」
「指定だと? ……ふん、変な客だ。言ってみろ」
「この粉を、鍛錬の過程で鋼の間に絶えずまぶして叩き上げろ。折り返しのたびにだ。そうすれば、鋼の組織にこの粒子が強制的に圧着される」
鍛冶屋の親父は、差し出された真っ白な粉を指先で取り、眉をひそめた。
「なんだこの粉は……石灰か? 砂か? そんなものを鋼に混ぜれば強度が落ちるに決まっているだろう。不純物を徹底的に叩き出すのが、鍛冶の基本なんだよ」
アレンは表情一つ変えず、懐から一枚の図面を取り出した。短剣の詳細が記された図だ。
「不純物じゃない。これは『安定剤』だ。鋼の結晶格子を強固に固定し、加熱時の脱炭を物理的に遮断するための触媒だよ。親父さん、あんたがこれまで研磨で削り落としてきた鋼の寿命を、俺はこれで数倍に引き延ばす」
「なんだ? 小難しいことぬかすじゃねえか。研磨を減らすだと? ……それに、この粘土状のペーストで仕上げろと?」
「大した手間じゃない筈だ。いいだろう?」
親父はアレンが手渡したアルミナ・ペーストを突き回した。魔力的な気配は一切ない。だが、その塊からは、言葉にできない異様な密度が感じられた。
「……お前のやり方は、俺の知っている鍛冶とまるで違う。だが、妙だ。この剣が完成した時の姿が、最初から幻視のように見えてくる」
「この手法で焼入れを行えば、刃こぼれは発生し得ない。手入れもほとんど必要としない、錆びない。俺が欲しいのは、何年酷使しても切れ味が鈍らない相棒なんだよ」
親父は深く溜息をつき、火床に空気を送り込んだ。
「変な奴だ。お前の言っている事は夢物語の道具だぞ! だが職人として血が騒ぐな。わかった。お前のその『理屈』が本当に正しいのか、この鋼で証明してやる。……ただし、もし途中で折れたら、その時はお前が叩き出されると思え」
「ああ。折れるはずがない。手順通りに行う限りな」




