表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説の先にある世界  作者: 藤咲玲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/176

第35章:剣術修行編 卒業試験、その向こう側

 七日間の基礎訓練、そしてその後の怒涛の技術講義。


 演習場の空気は、いつになく張り詰めていた。ガルド教官は木剣を捨て、本物の鉄剣を鞘から抜いた。


「これが卒業試験だ。アレン、貴様がこの期間で何を得たか、その身体で証明してみせろ」


 教官の放つ殺気が、演習場の温度を下げた。これは稽古ではない。真剣勝負のシミュレーションだ。


「ルールは一つ。俺を満足させ、この演習場の出口までたどり着け」


 教官が地面を蹴る。


 視線が俺の右肩に向けられる――いや、これはフェイントだ。重心は左足にあり、上腕の予兆はすでに次の動作を完結させている。


 俺は円を描く足捌きで間合いを殺し、教官の死角へ潜り込んだ。教官が剣を払う瞬間、俺はその重い装備の利点を活かし、あえて一歩も退かずに受け流す。


 カキン、と火花が散る。


 人間相手の読み合い。そして獣を相手にする時のような、構造の死角を突く動き。


 学んだ全てを、一つのシステムとして統合する。


「……成長したな」


 教官の顔に、獲物を狩るような獰猛な笑みが浮かぶ。


 教官が踏み込みの予兆を見せた瞬間、俺は迷わず懐へ踏み込んだ。視線で惑わされず、上腕の動きに固執せず、重心移動の法則のみを追う。


 教官の剣が俺の頬をかすめる。だが、俺の木剣はすでに教官の鳩尾みぞおちを捉えていた。


 勝負は決した。


 教官はふう、と息を吐き、剣を収めた。


「俺の講義はここまでだ。貴様はもう、ただの魔力持ちの素人じゃない。戦場の理を身体に刻んだ、一人の戦士だ」


 教官は俺の肩を叩いた。


 重い。だが、心地よい重みだった。


「知識は道具に過ぎん。それを扱う肉体という『器』が整わねば、宝の持ち腐れだ。だが、貴様はその器を自ら削り出した。……卒業だ、アレン」


 演習場に、風が吹き抜ける。


 魔法の計算や理論武装に逃げていたあの日々が、遠い過去のように思えた。


 俺はゆっくりと深く頭を下げた。


 教官の教えが、細胞一つひとつに息づいている。


 この学びは、俺の剣術における「始点」に過ぎない。ここから先、俺はこの肉体と共に、どれほどの景色を見ることができるだろうか。


 俺は演習場の出口へと歩き出した。


 その足取りは、七日前の、あの足がもつれていた自分とは比べものにならないほど、力強く、そして淀みがなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ