第35章:剣術修行編 卒業試験、その向こう側
七日間の基礎訓練、そしてその後の怒涛の技術講義。
演習場の空気は、いつになく張り詰めていた。ガルド教官は木剣を捨て、本物の鉄剣を鞘から抜いた。
「これが卒業試験だ。アレン、貴様がこの期間で何を得たか、その身体で証明してみせろ」
教官の放つ殺気が、演習場の温度を下げた。これは稽古ではない。真剣勝負のシミュレーションだ。
「ルールは一つ。俺を満足させ、この演習場の出口までたどり着け」
教官が地面を蹴る。
視線が俺の右肩に向けられる――いや、これはフェイントだ。重心は左足にあり、上腕の予兆はすでに次の動作を完結させている。
俺は円を描く足捌きで間合いを殺し、教官の死角へ潜り込んだ。教官が剣を払う瞬間、俺はその重い装備の利点を活かし、あえて一歩も退かずに受け流す。
カキン、と火花が散る。
人間相手の読み合い。そして獣を相手にする時のような、構造の死角を突く動き。
学んだ全てを、一つのシステムとして統合する。
「……成長したな」
教官の顔に、獲物を狩るような獰猛な笑みが浮かぶ。
教官が踏み込みの予兆を見せた瞬間、俺は迷わず懐へ踏み込んだ。視線で惑わされず、上腕の動きに固執せず、重心移動の法則のみを追う。
教官の剣が俺の頬をかすめる。だが、俺の木剣はすでに教官の鳩尾を捉えていた。
勝負は決した。
教官はふう、と息を吐き、剣を収めた。
「俺の講義はここまでだ。貴様はもう、ただの魔力持ちの素人じゃない。戦場の理を身体に刻んだ、一人の戦士だ」
教官は俺の肩を叩いた。
重い。だが、心地よい重みだった。
「知識は道具に過ぎん。それを扱う肉体という『器』が整わねば、宝の持ち腐れだ。だが、貴様はその器を自ら削り出した。……卒業だ、アレン」
演習場に、風が吹き抜ける。
魔法の計算や理論武装に逃げていたあの日々が、遠い過去のように思えた。
俺はゆっくりと深く頭を下げた。
教官の教えが、細胞一つひとつに息づいている。
この学びは、俺の剣術における「始点」に過ぎない。ここから先、俺はこの肉体と共に、どれほどの景色を見ることができるだろうか。
俺は演習場の出口へと歩き出した。
その足取りは、七日前の、あの足がもつれていた自分とは比べものにならないほど、力強く、そして淀みがなかった。




