第33章:剣術修行編 獣の理(ことわり)
演習場に、ガルド教官が用意した巨大な木枠の構造物と、獣の動きを再現する訓練機材が並べられた。
「対人戦は『騙し合い』だが、対獣戦は『物理的な制約の解読』だ」
教官は厳しい表情で檻のスイッチを入れる。獣が、唸りを上げて地面を駆け回る。
「四つ足の獣は、二足歩行の人間とは重心の仕組みが根本から違う。旋回性能が高く、加速も速い。だが、その身体構造には必ずと言っていいほど『死角』が存在する」
俺は新しい装備の重みを感じながら、獣の動きを凝視した。
縦に大きく跳ねるタイプ。横への鋭いスライドが得意なタイプ。
確かに動きには癖がある。教官の言う通り、後ろに飛び退きにくい構造の個体は、一度懐に潜り込めば、その圧倒的な加速力も封じることができる。
「獣の動きを制限しろ。追い詰めるルートを円の足捌きで作り、逃げ場を削り取る。人間相手のように視線で騙すな。重心の移動と、その獣が持っている『物理的な構造上の限界』を突くんだ」
俺は円を描き、獣の旋回円の外側を取り続ける。
獣が前方に重心を移した瞬間、後ろに飛び退けないその制約を逆手に取り、側面の死角へと踏み込んだ。
ガキン! と乾いた音が響く。
完璧なタイミングでの一撃。だが、獣は強引に旋回し、俺の肩を弾き飛ばした。
「甘い。読みはいいが、獣の突進力への対策が抜けている。相手の重心がどこにあるかだけじゃない、その体重がどのベクトルで向かってくるかを見極めろ」
何度も繰り返す。
四つ足の獣が跳ねる際の、空中の滞在時間。着地時の重心の戻り。どれもが人間とは違う「教科書」だった。
これまで魔法知識として蓄えてきた思考が、初めて実戦的な形で噛み合う。俺は教官の指導を反復し、獣という異質な生物の動きを「制限可能な癖」として理解し始めた。




