第4章:商人の足元
ざらついた砂埃を巻き上げながら、使い古された木製の荷車がたてる重々しい車輪の音が、街道の先から規則正しく響いてくる。アレンは周囲の視線を計算に入れた絶妙な位置の道端に、先日からひそかに集め、適切に仕分けした薬草の束を丁寧に広げ、まるで熟練の行商人のように堂々と腰を下ろしていた。
やがて、アレンの目の前でギィィと嫌な音を立てて荷車がぴたりと停止する。御者台から顔を出したのは、日焼けした初老の商人だった。彼は荷物の隙間から不機嫌そうな視線を向け、吐き捨てるように言い放つ。
「おい、そこをどけ。邪魔だぞ。それに、この村で調達できるまともな薬草や特産品なんてのは、もうとっくに私が一網打尽に買い取った後だ。お前のようなガキが今さら道端で何を並べていたところで、もう一文の価値ある品残っちゃいねぇよ」
商人の声には、相手をするだけ時間の無駄だという露骨な呆れと苛立ちが滲み出ていた。しかしアレンは微動だにせず、ただ静かに微笑みを浮かべたまま、その鋭い眼光を商人の顔へと真っ直ぐに向ける。
「あなたが買い集めたのは、あくまでこの村の人間が『分かりやすい高級品』として持ち込んだありふれたものばかりだ。だがね……これは村の連中がその価値を全く知らず、ただの雑草だと思い込んで見過ごしている、文字通りの『ハズレ』の薬草だ。しかし、その本質と精製用途を少しばかり間違えなければ、王都や近隣の大きな都市部では、あなたが普段扱っている品とは比べ物にならないほどの相応の評価と高値で取引される」
アレンの口から澱みなく発せられた言葉は、一分の隙もなかった。その薬草が持つ隠された成分の効能、どの季節に採取されたものが最も純度が高いか、そして都市部のどのギルドや工房がいま最もそれを求めているのか。そのすべてが論理的に整理されており、誰が聞いても一瞬で納得せざるを得ない美しすぎる利益の構造が、淡々と、しかし一片の曇りもない確信に満ちたトーンで語られていく。
その瞬間、商人の濃い眉がピクリと大きく動いた。最初はただの物乞いか、小遣い稼ぎのガキの戯言だと聞き流すつもりだった男の目が、アレンの手元へと釘付けになる。目の前に広げられている一見すると雑草にしか見えない植物が、実は専門の知識を持つ者によって完璧に選別され、明日にも都市で高額で売りさばける一級の素材として美しく整理されていることに、百戦錬磨の商人としての直感が素早く気づいたからだ。
「……お前、年端もいかないガキのくせに、随分と詳しいようだな。どこでそんな商売の裏技を仕入れた?」
商人の声音から先ほどまでの軽蔑の色が消え、代わりに値踏みするような鋭い警戒心と、微かな興味の色が混ざり始めた。
「どこで知ったかなんてどうでもいいことだ。ただ、必要に迫られたから徹底的に調べ上げた、それだけの話さ。あなたにとっても、足繁くこの寂れた村に通って二束三文の品をちまちま買い集めるより、私がここで綺麗に価値を高めておいたこの薬草の束をごっそり仕入れてそのまま街へ運ぶほうが、どう考えても移動の手間も、支払う元手も、得られる最終的な利益もすべてにおいて効率がいいはずだ。違うか?」
アレンは商人の返答をゆっくりと待ち受けるような真似は一切せず、自らリードを握ったまま、淀みないトーンで具体的かつ圧倒的に得をする取引の条件を次々と突きつけていく。商人はしばらくの間、助手席の相棒と顔を見合わせ、言葉を失って深く沈黙した。
やがて、彼は重い腰を上げると荷車からひょいと飛び降り、アレンが差し出した薬草の束を一つひとつ手にとって厳しく検品し始めた。その指先に迷いは微塵もなく、純粋に目の前の利益を極限まで追求するプロの商人の目つきになっていた。
静寂の中、かすかに風が吹き抜ける。薄汚れた道端の小さなスペースで、利益を最大化しようとする者同士の、静かで、しかし火花散るような確かな交渉が、今まさに完全に成立したのだった。




