第28章:剣術修行編 動的均衡(ダイナミック・バランス)
体幹の基礎ができた七日間の翌日。ガルド教官は再び俺を演習場へと立たせた。
ようやく渡された木剣は、前よりも軽く感じられた。
「体幹だけでは足りん。次は『動きのバランス』だ」
教官が繰り出す木剣を受け流し、打ち返す。しかし、打ち終わった瞬間に教官の鋭い追撃が俺の脇をかすめる。
「打ち終わりの姿勢が崩れている。力で振っているから、その反動で身体が流れる。次の攻防に移す際、その戻りの時間が致命的なロスになる」
教官は俺の足元を指した。
剣を振る動作は、あくまで連続する攻防の「通過点」でなければならない。一振りが終わった瞬間に次の防御、あるいは反撃の体勢が完成していなければ、戦場ではその瞬間に切り伏せられる。
「動きを止めるな。重心を常に移動可能な状態に置くために、円運動を使えと言ったはずだ」
俺は教官の指摘に従い、剣を振る際、意識的に足裏で円を描くように体重を移した。
剣が前へ出るのと同時に重心が移動し、打ち終わったときには、すでに次の動作へ繋ぐための位置に足が収まっている。
ガルドの木剣が俺の剣を弾くが、俺は流れるように半歩下がり、体勢を崩さずに次のガードを展開した。
教官が初めて、満足げにわずかだけ口角を上げた。
「重心を移動させ続けることで、敵からすれば常に『いつ動くか分からない』状態になる。剣を振ることよりも、その前後の『位置関係の調整』に神経を割け」
攻撃を当てるための剣術ではない。
自分が最も有利な位置を保ち続け、敵を最も不利な位置に追い込むための、動的均衡の追求。
一振り、一振りのたびに、身体の中に静かなリズムが刻まれていく。これまで理屈でしか知らなかった「無駄を省く」という概念が、ようやくこの肉体を通した「感覚」として定着し始めた。




