32話:仕様変更のネゴシエーションと、半年スプリントの強制デプロイ
「せ、せせせ、聖金貨……1億枚ぃぃぃぃっ!?」
受付嬢の喉から、裏返った悲鳴が響き渡った。
ギルド内の喧騒は完全にゼロ。聞き耳を立てていた周囲のベテラン冒険者たちも、手にしたジョッキや武器を床に落とし、そのまま文字通りフリーズしている。
聖金貨。それは通常の金貨(1枚あたり100万円相当の資産)のさらに上に位置する、世界最高峰の超高額通貨であり、国家間の取引や歴史的なアーティファクトの売買にしか使われない伝説の貨幣だ。それが1億枚など、世界経済が確実に破綻する。
受付のエレナが完全にキャパシティをオーバーし、ぐるぐると目を回しながらカウンターへ沈んでいく。一般の窓口では処理不能と彼女の脳内ログが判断した、まさにその時。奥の重厚な扉が開き、このギルドの最高責任者――ギルドマスターが青い顔をして、こちらへと足早に駆け寄ってきた。
「ア、アレンくん……! 冗談はそこまでにしてくれ! 聖金貨1億枚など、世界中の全財産をかき集めても足りん!」
「フッ……ようやく上のレイヤーが出てきたか。いいだろう、ならば仕様変更だ」
俺は(フンス)と特注の漆黒羽織の襟を正し、冷徹なシステム監査人の視線をギルドマスターへと注ぐ。
「現実的なリソースにデノミネーションしてやる。――お前たちのレベルに合わせて、桁外れな要求を現実的な数字に修正してやるという意味だ。要求する基本報酬は、聖金貨30枚(30億円相当)。 ただし――これには『システム要件』がつく」
俺は懐から取り出した羊皮紙(追加仕様書)を、カウンター越しにマスターの眼前に突きつけた。
「黒曜龍討伐のメインプロセスは俺が単独で受け持つ。その代わり、以下の支援環境を完璧に構築・準備しろ。
一、周辺地域からの避難誘導班の確立。 二、万が一の負傷者に備えた救護班の配置。 三、戦域を維持するための討伐支援軍隊の編成。 四、および俺の稼働を支える救援物資の常時供給。 以上だ。メインは俺がやる。貴様らはその動作環境を整えろ」
ギルドマスターは、提示された追加要件のあまりの生々しさに額から滝のような汗を流し、ガタガタと指を震わせた。
「な、何を言うんだアレンくん! 聖金貨30枚の予算確保も、それだけの規模の軍隊や物資の準備も、もはや一国だけで担えるものではない! 各国の同盟支援や予算申請、国際会議のプロセスを踏めば、どれだけ早くても最低『1年』はかかる……!」
「却下だ。1年も世界を放置すれば、パッチが間に合わずに物理崩壊する」
俺は漆黒羽織の裾を冷酷に翻し、ドスの利いた声をギルド全体に響かせた。
「――なら、半年でやれ。 期限は6ヶ月。あらゆる超法規的措置を使い、多国籍のマルチタスクで進めろ。それが、俺がこの黒曜龍をデリートしてやる最低条件だ」
「は、半年で国際同盟軍の編成を……っ!?」
カウンター越しに、不可能と言われたデッドラインを巡ってギルド上層部と激しく論理衝突展開へ。
周囲の冒険者たちも、国家や世界のシステムそのものを強引にハックし、半年間のデスマーチを命じた漆黒の英雄の威圧感に、完全に言葉を失って硬直していた。
【クエスト進捗】: Sランク「黒曜龍」受託交渉:完了 ⇒ 聖金貨30枚+国際支援環境の構築を命令 【開発期間《納期》】: 6ヶ月(超短期スプリント指定) 【中二病充足率】: 160% (世界を相手にデスマーチを強いる黒の管理者)
【富裕レイヤーへの限定的マイグレーションと、特権権限の昇格審査】 ギルドを後にしようとした俺の足が、ふと止まる。
懐のインベントリには、昨夜の処理で得た大金貨3枚と金貨15枚――およそ4500万円相当の莫大なキャッシュがプールされている。これまで銀貨数枚というデッドラインを彷徨っていた俺が、一気に富裕レイヤーへレイヤーアップしたのだ。
ここらで一つ、この街の経済システムにリソースを還元し、俺という存在の信用ログを確固たるものにしておくべきだろう。
俺は回れ右をして、未だに硬直している酒場併設のギルドホールを見渡した。そして、おもむろに金貨1枚(100万円相当)をカウンターへパチリと弾く。
「おい。そこにいる者たち全員に、酒を1杯ずつ奢ってやれ。……ただし、1人1杯までだ」
一瞬の静寂の後、ホールに「お、おおお……?」という、なんとも言えない微妙な空気が流れた。
国家予算級の要求を叩きつけた漆黒の英雄による、大盤振る舞い――の割には、「1人1杯限定」という妙に世知辛いアクセス制限。だが、タダ酒であることには変わりない。
「あ、アレンさんが奢りだってよ!」「聖金貨の男、意外と細かいな……いや、ごちそうさまです!」
ベテラン冒険者たちが苦笑混じりにグラスを掲げ、ギルドは微妙な活気を取り戻していく。ふっ、全リソースを無条件に解放するほど、俺のセキュリティは甘くない。この『絶妙な貧乏性』こそが、本番環境での最適な予算管理なのだ。
その後、俺は数日前に登録したばかりのいつもの宿屋へと座標を移動させた。
懐の潤いを反映し、俺はフロントの主人を冷徹に見据えて要求を突きつける。
「最上位のクラス――最高級のスイートルームを要求する。|長期のサブスクリプション《連泊》契約だ」
「は、はい!? ス、スイートルームですか!?」
主人は目を剥いたが、ここはいわゆる下町の安宿だ。主人が慌てて案内したのは、単に『普段誰も使わない、少し広めでカビ臭い2階の角部屋』に過ぎなかった。
だが、俺の脳内コンパイラにかかれば問題ない。
「ふむ、徹底的に無駄を削ぎ落としたソリッドな空間設計だな。このヴィンテージ感、悪くない。ここを俺の臨時のセーフハウスとする」
贅沢に慣れていない前世の貧乏マインドが「これで十分、むしろ広い」と安堵しているのを感じつつ、俺は格安スイートルームのベッドに深く腰掛け、次なる半年間のロードマップに思いを馳せた。
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翌日。冒険者ギルドのバックヤードでは、ギルドマスターをはじめとする上層部が、1枚の羊皮紙を前に頭を抱えていた。
「……どうなっているんだ、これは。アレンくんの登録データが完全に矛盾しているぞ」
書類に記載された彼の実績記録は、昨日一晩で片付けたDランクからAランクまでの9件の一括処理。ギルドの規約では、順序よくランクアップさせるのが絶対の安全系ルートだ。
だが、彼の戦闘能力は明らかに規格外。Dランクのままにしておくのはシステム上のリスクであり、かといって一足飛びにAランクにするのも前例がない。
「マスター、いっそのこと、このまま特例で彼を『Sランク』へ一階級特進させる算段で動くべきでは? 黒曜龍の件もありますし……」
「うむ……だが、そのためには実績の裏付けが必要だ。ちょうどいい、王都の大貴族から、アレンくんを直々に指名した超高難度の依頼が届いている。 この特権処理結果をもって、彼のランクを完全固定するとしよう」
黒曜龍との決戦まで、あと半年。 世界のシステムがアレンという巨大なイレギュラーを中心に、激しく再構築されようとしていた。
【クエスト進捗】: 富裕層レイヤーへの移行: 完了(※ただし安宿の角部屋) ギルド内プロモーション: D兼AランクからSランクへの昇格プロセス始動 【次なるフェーズ】: 貴族からの直々指名タスク (特権アクセス)の受託
【初の指導タスクと、想定外のシステム要件】 カビ臭い「格安スイートルーム」のベッドで、俺はギルドから転送されてきた指名依頼の仕様書(羊皮紙)を広げていた。
この国の地理的トポロジーは、なかなかにスリリングだ。
西の国境を越えた先には『魔法帝国アルカディア』が君臨し、東には広大な外洋。そして南には、今回のバグが目覚めたような、高脅威度の魔物が跋扈する未開の森が広がっている。
今回のクライアントである大貴族は、まさにその南の魔物の森と、西の帝国国境の双方に挟まれた最前線を統括する領主だった。常に軍備に全リソースを割かざるを得ない、ファイアウォールである。
バルツァー家、ヴォルフガング・フォン・バルツァー辺境伯か。
「……で、その大貴族様直々のリクエスト内容が、これか」
記述されたオーダーに、俺は思わず眉間を揉んだ。
【依頼内容】:領地守備軍・第一軍の戦闘力強化 【目標値】:現行の練度を『最低2倍』に引き上げること 【期間】:3ヶ月 「……チッ。最悪の仕様変更だな。まさか初のインストラクションタスクをアサインされるとは」 実は、これこそがアレン――いや、前世の俺にとっても最も苦手な領域だった。
なぜなら、俺の基本アセット(能力ステータス)は完全にバグっている。
体力「32,767」、 力「9,999」という物理カンスト級の耐久・攻撃スループット。
敏捷性は測定不能(LIMIT_OVER)で、魔力にいたっては「1.1258990×10¹⁵」という天文学的な固定値を内部に隠蔽している。
さらに【空間操作】や【時間減速】といったチートモジュールまで常時パッシブで噛んでいるのだ。
教えることは....こうやって…シュッと、ほらできるだろう?と当たり前の様に擬音で表現する感覚派である。 理解できる人間の方が天才である。
しかも言ってる言葉は略語だらけで、現代人にしか理解できないとくる。
自分が「すべてを最適化で一瞬で終わらせる」のは簡単だ。 だが、体力や魔力がローエンドマシン並みの兵士たちを、どうやって「2倍のパフォーマンス」に引き上げればいい?
「自分のソースコードをそのままコピペしても、一般人のスペックでは一瞬でオーバーヒートしてシステムダウンするだけだぞ……」
教える側と教えられる側のマシンスペックが違いすぎる。
これまでのワンマンによる超高速デバッグとは180度異なる、最大級の難解タスク。 だが、これをクリアしなければSランクへのプロモーションは凍結され、半年後の黒曜龍戦の動作環境の質も上がらない。
「いいだろう。一般兵のスペックに合わせた低負荷な『最適化パッチ』をゼロから組んでやる」 俺は不敵に微笑み、カスタム大刀を背負い直してカビ臭いセーフハウスを後にした。漆黒羽織を翻し、国防の最前線へと向けて座標を移動(出陣)する。
【クエスト進捗】: 大貴族指名「軍強化タスク」: 受託 【アレンの警戒度】: MAX (苦手な教育タスクへの対応開始) 【中二病充足率】: 90%(減衰) (自分の強すぎるスペックに苦悩する最強の指導者ロールプレイ)
【キックオフの不整合と、感覚派インストラクターの最適化パッチ】 バルツァー辺境伯領、広大な第一演習場。 そこに整列した総勢数百名の精鋭――領地守備軍『第一軍』の面々は、一様に目の前の光景に戸惑い、あるいは不満のログを顔に浮かべていた。
彼らファイアウォールを率いるヴォルフガング・フォン・バルツァー辺境伯と、その影たる近衛騎士長ラインハルトが冷徹に見守る中、全9隊の代表たちが俺の前に並ぶ。
「……おいおい、ギルドが寄こした臨時の『特別教官』ってのは、あの細っこい黒服のガキか?」
「大刀なんて背負っちゃいるが、まともに振れるのかよ」
荒くれ者たちのノイズが耳に届くが、俺の脳内コンパイラはそれらをすべて「未定義のエラー」として一括ミュートした。
俺は(フンス)と特注の漆黒羽織を翻し、一歩前へ出る。懐のステータス(HP 32,767、STR 9,999)からすれば、ここにいる全員が同時に突撃してきても1ミリも動じない。
「挨拶は省く。今日から3ヶ月、お前たちの戦闘力を最低2倍に引き上げるためのインストラクションタスクを開始する。早速だが、各隊の改善パッチを言い渡す」
俺は冷徹な視線で、まずは第1隊長、筋肉至上主義の巨漢ガバドンと、第4隊長、盾兵のルゲイを見据えた。 「第1隊、第4隊。お前たちは同じだ。基礎体力を増やし、体幹を徹底的に鍛えろ。動きのバランスが重要になる。これは次の攻防に移す際のロスをカットする上で不可欠だ。……理解できないなら、試しに俺のタックルに耐えてみろ」
「は? ガキのタックルだと……っ?」 鼻で笑ったガバドンの正面へ、俺は一瞬で座標を移動――【時間減速】と【身体強化】をパッシブで噛ませた「シュッとした」体当たりを叩き込む。
ドガァァン!と重々しい衝撃音が響き、2メートル近い巨漢が数メートル消し飛んでひっくり返った。演習場が凍りつく。
「次、第2隊長フェリス。お前は俊敏さが売りなら視線に注視すべきだ。相手が何を狙っているか、まずは視線から判断しろ。逆に視線でフェイントを行い、敵の認識を騙すことも覚えよ」
「あ、圧倒的な速度差……! い、イエス、サー……!」
フェリスが冷や汗を流しながら直立不動になる。俺はその横に立つ、弓兵の第3隊長ハンスへ視線を移した。
「第3隊、風を読め。弓を支える手に無駄な力が入るとブレる。……いいか、左手は添えるだけだ(確か前世のバイブルにそう書いてあった気がする)」
「……左手は、添えるだけ……。深いな」
職人気質のハンスが、謎の文脈に深い感銘を受けてブツブツと呟き始める。
「第5隊長ディルク。敵の重心移動を見逃すな。上級になれば筋肉の動きにも注視すべきだ。……まぁ、俺の動きを参考にしろ(速すぎて見えないだろうがな)。円を意識した剣足捌きを心得よ。剣筋のブレは切れ味に大きく影響を及ぼす」
「くっ……(本当に見えなかった……!)」
天才剣士のプライドが音を立ててへし折られていく。
「第6隊長バルトロ。卑怯な手は……前衛には罠をわざと見せろ。敵が足を止めたら弓だ。第7隊長クラウス、物資の装備は効率重視で揃えよ。防具に金を惜しむな。ローエンドな機体ほどハードウェアの防護が必要だ」
ベテラン工兵と物資管理のプロが、俺の冷徹な効率論に深く頷く。
「そして第8隊長マティアス。お前には火と風を教えてやる。俺の魔素の動きをトレースしろ。……ただし、最低限のIT言語をマスターしてから質問すること」
「あ、アイティー……? 言語……? 何ですかそれは、古代魔法の呪文ですか!?」
学園出身のエリート魔導士が、存在しない学問の壁にぶち当たってパニックを起こし始めた。
「第9隊長オルガ、お前は……」
「あ、アンタ……近くで見ると、めちゃくちゃ良い顔してるじゃない。あたしの好みにドンピシャなんだけどぉ?」
荒くれ女戦士のオルガが、俺の容姿に惹かれてバグで顔を近づけてくる。俺は即座に半歩バックステップを刻んだ。
「……お前は、一旦俺から離れてくれ。視界のデバッグの邪魔だ」
「ひどぅいっ!?」
最後に、演習場の片隅でクマの酷い顔をして待機していた衛生兵長メディナの前に立つ。
「衛生兵長、メディナ。対象が獣か人かで治療方法の傾向が変わるのは理解しているな? 治療効率を最適化しろ。それから――」
俺は彼女の、今にもシステムダウンしそうな限界のシステムログを見つめ、静かに告げた。
「まずは寝ろ。睡眠不足のヒーラーなど、バグの温床でしかない」
「……あ、あのクソ黒服教官、一発殴ってから寝ていいですか……?」
メディナが血走った目で呪詛を吐くが、俺は気にせず特注の漆黒羽織をフンスと正した。
「以上だ。仕様書通り、今から地獄の並行処理(スプリント開発)を開始する。ついてこい」
教える側と、教えられる側(第一軍)。
マシンスペックと認知言語が致命的に噛み合わないまま、国防軍の強制アップデート(デスマーチ)がキックオフされた。
【クエスト進捗】: 第一軍指導タスク:キックオフ完了 各隊長への初期パッチ配布:完了 【兵士たちの混乱度】: ERROR: COUNT_OVER(測定不能) 【中二病充足率】: 120% (感覚派の天才として、ローエンドな凡人を導く絶対強者ロールプレイ)
【地獄のスプリント完了と、神界を揺るがすロールアウト】 バルツァー領での三ヶ月におよぶ強制アップデートが、ついに最終日を迎えた。
演習場に整列した第一軍の面々は、開始当初の脆弱なローエンド・マシンとは見違えるほどの、高スループットな戦闘集団へと変貌を遂げていた。全体的な戦闘平均レートは、従来の実に二・四倍。彼らの眼光には、もはや当初の慢心や疑念は存在しない。あるのは、アレンという「規格外のデバッガー」によって強制的に書き換えられた、殺気と規律のみだ。
「ふむ、どうやらお前たちのシステムにも、最低限の最適化パッチは正常に適用されたようだな」
俺は(フンス)と漆黒羽織の襟を正し、冷徹な最高管理者の視線で彼らを見下ろした。三ヶ月の成果へのささやかな報酬として、俺は「創世の羽ペン」の残影を駆使して構築したカスタムオブジェクトの数々を取り出し、各隊長へと支給していく。
「ガバドン、腕輪だ。能力は持ち主だけが何となくわかるシステムだから使え。俺からの餞別だ」
『システムメッセージ:ガバドン支給品(腕輪)』 アルミナコーティング仕様。自身の重力を五倍まで引き上げることが可能な印が刻まれている。 ※デメリット:使用時はエルエルに多大な負荷がかかる。 「デメリットって何ですか? エルエルってだれ?」 ガバドンが太い首を傾げるが、俺はミュート(無視)して次へ進む。
「ルゲイ、盾を支給する」 『システムメッセージ:ルゲイ支給品(盾)』 衝撃を受けると自動でシールドバッシュが発動する。敵は恐怖し、近づけない。 ※デメリット:天界のRPGゲームにそのシステムが導入される。情報発信担当で某監視科にて昇進予定だった天使の障害となる。 「……俺だけ渡すの雑なんだよな~」 ルゲイがぼそりと愚痴るが、もちろん仕様だ。
「フェリス、光の屈曲で偽装するマントだ」 『システムメッセージ:フェリス支給品(偽装のマント)』 金属の装備に劣らない強度を誇る。偽装する光の屈曲を使用。 ※デメリット:天使たちが騒ぐ。 「マジっか! へへへ、これを使えばあんなことも……っ!」 不純な使い道を考えていそうな偵察兵長を睨みつけ、隣の男へ。
「ハンス、カーボン製の非破壊コンパウンドボウだ。左手を添えて使え」 『システムメッセージ:ハンス支給品』 異世界の技術の結晶たるカーボン製。魔法の印が刻まれ、非破壊特性を持つ。 ※デメリット:天使たちから「NPCのアイテムか!」と突っ込まれる。 「変わった弓だな~、コンパウンドってなんだよ。……だが、左手は添えるだけ、か」 ハンスがぶつぶつと深く頷く。ここからは前衛の要たちだ。
「ディルク、お前には折れぬ加速の刀だ」 『システムメッセージ:ディルク支給品(刀)』 決して折れない、欠けない、錆びない。加速の印が刻まれた逸品のチートオブジェクト。 ※デメリット:異世界の摂理を無視した結果、エルエルの後輩にかかる負荷が著しい。 「……美しい。だが、俺が振るうたびに誰かの後輩が犠牲になるような禍々しい気配を感じるのは気のせいか……?」 天才剣士の直感を無視し、俺は隣の陰湿工兵に声をかける。
「バルトロ、俺の性格を反映した卑怯の真髄トラップシリーズだ。有効に使え」 『システムメッセージ:バルトロ支給品(便利トラップシリーズ)』 卑怯の真髄すべてが込められた逸品。その性能はアレンの性格そのもの。 ※デメリット:天使も動揺のあまりErrorの罠に落ちる。苦労をかけるな。 「ククク……教官、これ最高ですね。敵をハメ殺す未来しか見えませんよ」
嫌な笑みを浮かべるバルトロから離れ、輜重兵長の前へ。
「クラウス、馬車一台分の簡易時空収納だ」 『システムメッセージ:クラウス支給品(簡易時空収納)』 馬車一台分の物資を内包可能なストレージ。 ※デメリット:給料から使用分の請求が届く恐怖。 「なんと画期的な! これで行軍の効率が……って、え!? 使うと俺の給料から引き落とされるんですか!?」 悲鳴を上げるクラウスを置き去りにし、魔法・救護班へ。
「マティアス、外観は貧乏くさいが詠唱時間を二分の一にする杖だ。」 『システムメッセージ:マティアス支給品(杖)』 ただの杖。そう見えるデメリットがまずあるが、実は詠唱半分になる優れもの。 ※デメリット:外観が貧乏くさく、国軍エリートは絶対に持たない安物に見える、アレンのセンスの塊。 「教官のセンス、最悪ですね……エリートの僕がこんな枝切れみたいなの……えっ、でも詠唱速度が倍!?」
「そしてメディナ、お前には睡眠時に精神力を全回復する枕をやる。」 『システムメッセージ:メディナ支給品(枕)』 睡眠時、使用者の精神力を完全に回復する。 ※デメリット:なし。 「……枕、ですか。あのクソ教官、初めてまともな配慮をしましたね。一発殴るの保留にして秒で寝ます」
隊長たちが驚愕と歓喜で涙を流してひざまずく中、俺は最後に、遊撃兵長オルガの前に立った。彼女には、強化バフを増強する特製のネックレスを差し出す。
「オルガ、お前にはこれだ。ただし――」 「あ、アレン様……! これって、その、あたしへの『愛の告白』と受け止めていいのよね!?」
「却下だ。それはお前の突撃性能を引き上げるためのアドオンパーツに過ぎん。……というか、頼むから、一旦俺から離れてくれ(ガチ引き)
『システムメッセージ:オルガ支給品』 強化バフ増強。 ※デメリット:アレンに追いつきやすくなる……逃げたい(アレンの本音)。
俺が各アイテムを手渡すたびに、神界の管理領域では警告音が鳴り響いていることだろう。摂理を無視したチート装備のロールアウト――それは同時に、管理システムにとっての「大規模なデバッグ漏れ」を意味する。
だが、そんなことは俺には関係ない。半年後の黒曜龍戦というメインプロセスを完遂するため、俺は今、最強のデバッグ環境を整え終わったのだ。
「以上だ。お前たちのパフォーマンスは期待値通りに補正された。……存分に、世界の摂理をぶち壊してこい」
漆黒羽織を翻し、俺は満足げに演習場を後にする。半年前は銀貨数枚で喘いでいた男が、今や国防の要を動かす司令官として、世界のバグを根底から修正しようとしている。
俺の脳内で、中二病の充足率が限界値である150%を突破し、赤い警告表示が点滅しているのを感じた。
【クエスト進捗】: 第一軍への全装備デプロイ完了。 戦闘力平均2.4倍に到達。 【現在の中二病充足率】: 150% 【次のフェーズ】: 王都貴族からの直々指名タスク(特権アクセス)へ移行。




