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小説の先にある世界  作者: 藤咲玲


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31/121

31話 空間のアイロニングと、漆黒羽織の初デプロイ

 Bランクの蜘蛛どもを効率的にデリート(間引き)し終えた俺は、そのまま間髪入れずに本日の最大負荷プロセス(本命)――Aランク依頼3件のマルチタスク(同時並行処理)へと移行した。


 まず選んだチェックポイントは、街の近郊にある迷宮の特定階層。


 タスク内容は「空間の歪み(魔力の渦)」の調査。ギルドの仕様書によれば、国家規模の特異災害に発展しかねない大層なバグらしいが、俺の認識は異なる。


「空間の歪み、だと……?

【空間操作】を弄ぶ俺にとって、こんなものは原稿用紙のシワを伸ばす程度のアイロニング(修正作業)に過ぎない」


 薄暗い迷宮の最奥。大気が文字通りベリベリと引き裂かれ、システムエラー(禍々しい魔力の渦)が周囲の物理アセット(空間)を飲み込もうと狂い狂っていた。


 だが、俺の視線はその致命的なエラーログ(異常事態)には向いていない。


 俺はおもむろに、新調したばかりの特注防具――引き締まった黒地に血の如き赤ライン、そして背中に禍々しい独自の紋様をあしらった『漆黒羽織』の襟を正した。


「物理的にはデコピン一発でパッチを当てられる。……問題は、この最高のステージ(本番環境)において、中二病的に『どの役柄になりきって台詞を吐くか』というロールプレイ(自己演出)の最適化(考え中)だ。非常に難しい……」


 俺は短剣を後方上空に投げて、物質が放出する光の波長を0.8倍に増幅し、位相を揃えて強度を調整しつつ、月明かりを再現する。やがて月明かりの元へ登場するヒーローの如くポーズをキメる!


 俺は混ざり合う妄想(数秒思考)の結果、今回は「システム(世界の理)を陰から修正(支配)する、孤独な上位調停者」のフレーム(構図)を採用することに決定した。


 俺はゆっくりと、引き裂かれた空間の渦の前へと歩み出る。


 大刀の柄に軽く手をかけ、あえてドスの利いたパッチボイス(低音)を空間に響かせた。


「――喧しいな。世界のノイズ(雑魚ども)が、俺のメモリ(領域)を侵食しようなどと……エラーログ(片腹痛い)の無駄」


 ※ 観客席は空席だ


 スッ、と右手の親指と中指を交差させ、空間の『歪みの中心点(コアアドレス)』に向けて、ただ優雅に爪弾いた。


「デコピン(空間調律)」


 パチン、と乾いた音が響いた瞬間、俺の【空間操作】が空間のシワを完全に圧着(アイロンがけ)した。


 あれほど狂暴に吹き荒れていた魔力の渦が、まるで最初から存在しなかったかのように一瞬で完全消滅(強制終了)する。


「フッ……世界がまた一つ、俺のコード(力)に従ったか」


 誰もいない迷宮で完璧なポージングをキメ、内なる中二病パラメータが120%まで跳ね上がるのを感じる。非常に満足度の高いデバッグ(瞬間)だ。


「よし、ファーストステージの動作テストはパーフェクト。このままアルカディア国境の『古代の呪術アーマー』と、家畜を荒らす『毒霧のワイバーン』も、この漆黒の英雄のプロキシ(踏み台)にしてくれる」


 俺は羽織の裾を翻し、次のターゲットが待つ座標(アルカディア国境)に向けて、影のように鋭く跳躍した。


【クエスト進捗】:

 Aランク①:空間の歪み

(修正完了)

【中二病充足率】:

 120%

(限界突破・ロールプレイ継続中)

【次なるターゲット】:

 Aランク②:

 古代の呪術アーマー(物理破壊)


【レガシーコードの強制破砕と、過剰装甲のデバッグ】


 迷宮の空間バグをアイロンがけ(圧着)した俺は、そのままの足で隣国アルカディアとの国境付近へと座標を移動させた。


 次のタスクは、Aランク依頼の2件目――「古代の呪術アーマー」の破壊だ。


 数百年前に破棄されたはずのレガシーアーマー(自動防衛プログラム)が、何らかのグリッチ(問題)で再起動し、周囲の物流ライン(街道)を脅かしているらしい。


「大層な鉄くずが、往来を遮断しているな」


 荒涼とした国境の丘。そこに、赤黒い呪怨のノイズ(オーラ)を排出しながら佇む、全高3メートルはあろうかという巨大なフルプレート・アーマーがいた。


 俺の接近を検知した瞬間、アーマーの頭部スリットが赤く発光し、身の丈を超える大剣を引き抜きながら、地響きを立てて突進してくる。


 一般的なパーティであれば、前衛が盾で衝撃を分散し、後衛の魔導士がデコンパイル(呪術の解析)を試みる実質的な高負荷プロセス(中ボス戦)だ。


 だが、俺の空間操作のログ(俺)に言わせれば、ただの「重すぎる物理アセット(標的)」に過ぎない。


「フッ……レガシーシステム(数百年前の骨董品)が、現代の最新フレーム(俺)に勝てると思ったか?」


 俺は背中のカスタム大刀の柄に手をかける。


 先ほどの迷宮で身に付けた「孤独な上位調停者」のロールプレイ(上演)をキャッシュ(継続)したまま、わざわざ大刀を抜く瞬間のモーションエフェクト(残像効果)を空間の屈折率ハック(効果)で0.5秒ほど遅延させ、極限まで格好良くセルフパッチ(魅せる演出)を適用する。


 ※ 観客席は、やはり国境の荒野なので完全な空席だ。


 大剣が俺の脳天を叩き割る寸前、俺は空間操作を発動。


 アーマーの持つ大剣の質量、および突進の運動エネルギー(衝撃)のベクトル(力)を、そのままアーマー自身の『内側』へとリダイレクト(反転)させて固定する。


 そこへ、最速の抜刀――ただの物理的な一撃を叩き込んだ。


「――『圧壊(強制終了)』」


 ギギィィィンッ……!!!


 内側からの自重反転と、俺の大刀から放たれた空間の圧縮圧力が完全に同期した。


 古代の呪術アーマーは、自らの過剰な装甲値を処理しきれなくなり、内側からペシャンコに潰れ、凄まじい金属音と共にただの平たい鉄くずへとスクラップ(強制変形)化した。


「ふむ、演算通(予想)りの物理破砕だな。装甲をいくら厚くしようが、システム自体の脆弱性(内側の空間記述)をハック(破壊)されれば一撃だ」


 俺は流れるような動作で大刀を鞘へと納め(ここでも0.5秒の残像エフェクトを無駄に付与)、飛び散ったドロップアイテム(呪術の魔石)をアイテムボックス(時空トランクケース)のインベントリへと全スタック(格納)した。


「セカンドステージも極めて順調。残るAランクプロセスはあと1件――家畜を脅かす『毒霧のワイバーン』の暗殺のみだな」


 漆黒羽織の裾を優雅に翻し、俺は夜霧の立ち込める次なる座標(被害のあった村の山林)へと、音もなく姿を消した。


【クエスト進捗】:

 Aランク②:古代の呪術アーマー

(物理破壊完了)

【中二病充足率】:

 125%

(演出エフェクトの自作により微増)

【次なるターゲット】:

 Aランク③:

 毒霧の飛竜《ワイバーン》

(隠密暗殺)


【環境汚染ログの無音デリートと、Aランクマルチタスクのクローズ】


 国境の荒野からさらに座標を移動させ、俺は深い霧に包まれた山林へと潜入していた。


 Aランクマルチタスク(同時並行処理)のラストを飾る3件目のタスク(依頼)――「毒霧のワイバーン(飛竜)」の隠密暗殺。一晩で村の家畜を全滅させたという極めて有害な、いわば広域に有害データ(パンデミック)を撒き散らす環境汚染バグ(元凶)の駆除だ。


「大気中に高密度のノイズ(腐食性ガス)が検出されているな……。だが、俺の『インナー革鎧』と、空間を遮断するパッシブスキルを前にすれば、ただの低解像度(雑)なエフェクトに過ぎない」


 霧の濃度が最も高い山頂付近。そこに、赤黒い毒霧を呼吸のたびに吐き出しながら、岩場で眠りについているアセット(収入源)――ワイバーンがいた。


 不用意に接近すれば、その瞬間に広域の毒トラップが発動し、こちらの耐久値をジワジワと削りにくる厄介な仕様(相手)だ。


 だが、今回の依頼書のオーダーは「サイレントデリート(隠密暗殺)」。


 新調した『漆黒羽織』のステルス性能を本番環境で検証するには、これ以上ないシチュエーション(最高の設定)と言える。


「よし……。今回は『世界から存在の記述を消された、影の執行人』のフレーム(演出)を起動(開始)する。……ふっ、闇を往く者には、名も、光すらも不要ということだ」


 俺は周囲の光のステルス値(反射率)を【空間操作】で極限まで減衰させ、自身の輪郭を完全に夜の闇へとシンクロ(同期)させた。


 足音のノイズ(音)ログ(形跡)も空間ごと消去。文字通り、世界から俺のデータ(姿)が一時的に完全ステルス(消失した状態)だ。


 ※ 当然、ここも真夜中の山林なので、観客は寝静まった家畜の幽霊くらいしかいない。完全なワンマンステージ(一人芝居)だ。


 無音のまま、眠るワイバーンの頭上へと肉薄する。


 背中から引き抜いたのは、カスタム(特注)小刀(脇差)。波紋の美しい刃に、月明かり(自作演出)すらも反射させない徹底的な隠密パッチ(演出)を当て、その脳天へと静かに、かつ最速のレイテンシー(タイムラグ)で突き立てた。


「――『深度消去(シャットダウン)』」


 サクッ……。


 ワイバーンは、自分が「死んだ」というシステムログ(感覚)を脳に書き込まれる猶予すら与えられないまま、ピクリとも動かずに一瞬で息絶えた。毒霧の排出プロセスも、その瞬間に完全停止する。


「ふむ、ステルス・ビルドの動作検証は100%成功だな。ラグ(狂い)も一切ない」


 俺は小刀を静かに腰の鞘へと戻し、ワイバーンの希少なリワード対象素材(毒袋と飛竜の牙)をアイテムボックス(時空トランクケース)のインベントリへ全スタック(格納)した。


 これで、Dランク1件、Cランク3件、Bランク2件、Aランク3件――合計9件のマルチタスク(並行分散処理)が、何一つのエラー(問題)を起こすことなく、完全かつ美しくクローズ(処理完了)した。


「すべてのタスク(依頼)のデバッグ(討伐)は完了した。……残るは、ギルドへの成果物ログ(結果)の送信(報告)と、待望のキャッシュイン(メイン決済)だな」


 俺は漆黒羽織の裾を夜風に躍らせ、銀貨数枚というデッドライン(危険水域)を完全に脱出するべく、夜明け前の道をギルドのある街へと、悠然と歩き始めた。


【クエスト進捗】:

 Aランク③:毒霧の飛竜

(隠密暗殺完了)

 ⇒ 9件のマルチタスク(複数の依頼)、

 すべてクローズ!(達成)

【中二病充足率】:

 130%

(完全ステルス(無観客)による自己満足)

【次なるフェーズ】:

 ギルドでのリワード(大量決済)

 および

『1レイヤー分』からの

 経済的階層アップ


【超特級決済のキャッシュインと、不具合報告のログ】


 朝の光が差し込むギルド。昨夜デプロイ(作戦完了)した9件のマルチタスク(並行分散処理)の成果物(膨大なドロップ素材)をカウンターへ一括して吐き出すと、受付嬢のキャパシティ(処理能力)は完全に上限を超えた。


「えええええっ!? 空間の歪みが消失……古代アーマーがスクラップ、さらに毒霧の飛竜まで……!? ひと、一人で一晩のうちに、本当に全部処理したんですか……っ!?」


 悲鳴に似たログ(言葉)を吐き散らす彼女を(手のひらをヒラヒラ)とあしらい、俺はスマートにキャッシュイン(決済)を要求する。


 バックヤード(ギルド員)の総出で行われたコードレビュー(高速査定)の結果、提示されたリワード(報酬)は、俺の想像を遥かに超える莫大な資産アセット(金額)だった。


「ア、アレンさん……こちらが今回の全依頼の合計報酬となります……!」


 カウンターに積み上げられたのは、鈍い輝きを放つ大金貨と金貨の山。


【リワード獲得】:

 大金貨3枚、金貨15枚

(銀貨450枚相当)


 金貨15枚 = 1,500万円

 大金貨3枚 = 3,000万円

 合計 = 4,500万円


 現代日本の感覚に換算すれば、およそ4,500万円。これまでの「銀貨数枚」というデッドライン(破産寸前)の脆弱性(危険)から、一気に数段上の経済的階層(ウハウハ)へとレイヤーアップ(安全遷移)を果たした瞬間である。


 ちなみに聖金貨は1億だ。


「ふむ、正当な出来高払いだな」


 満足感と共に金貨をインベントリへ格納した俺は、そのまま懐から『1枚の不審なログ(依頼書)』を取り出し、カウンターへピシャリと叩きつけた。


 それは、昨夜の依頼ボードに紛れ込んでいた、あのSランク依頼書――「黒曜龍」の【緊急隔離命令】だ。


「おい、決済のついでに一つバグレポート(不具合報告)だ。この仕様書(依頼内容)、明らかに設計(金額設定)が狂っているだろう」


「えっ……? あ、あああっ!? それ、ギルドマスターが間違えて一般掲示板に掲載しちゃった国家存亡レベルの超特級依頼……っ!」


 顔面を蒼白にする受付嬢に対し、俺は冷徹なシステム監査(せこく厳しい)のトーンでクレームを叩きつける。


「西南の古代遺跡で覚醒した黒曜龍の討伐、成功時はSSランク認定……。内容がおかしい。世界をフリーズ(震撼)させる特大のグリッチ(特異災害)に対して、設定されている基本リワード(金額)が完全に割に合わん。こんな低予算(はした金)では、命のリソース(源)を張って受託することなど論外だ」


「……え?」


 俺の辛辣なコメントに、受付嬢が文字通りピキリとフリーズ(応答停止)した。


 彼女の脳内ログ(考え)としては「あまりの恐怖に怒っている」と解釈したのだろうが、俺の本音はただの『コスト対効果』の論理エラー(お門違い)に対する指摘だ。


「では、何か? 報酬が『十分』であれば、アレンさんはこの世界の終わりみたいな依頼を……受けてくださる、と?」


「当然だ。要はリクエスト(依頼)に対する対価の仕様(金額)。これ以外の、追加のインセンティブ(特別報酬)次第だな」


「い、いやいやいや! 金額の問題じゃなくて、相手は神話級の怪物なんですよ!? 追加の報酬って、これ以上何を望むっていうんですか……っ!」


「クライアント(国家)の全財産を担保にしてもらうか、あるいは世界のシステム(経済)を根底からハック(覆す)できるレベルのアセット(金額)でも用意してもらわねば割に合わんと言っているんだ」


 カウンター越しに、金額のレイヤー(重ね合わせ)を巡って受付嬢と激しく論理衝突(揉める)展開へ。


 周囲の冒険者たちも、決済直後に国家転覆級のバグ(交渉)を値踏みし始めた漆黒羽織の男を前に、完全に息を呑んで硬直していた。


【クエスト進捗】:

 9件のマルチタスク、完全決済!

【現在の総資産】:

 大金貨3枚、金貨15枚、銀貨数枚

(経済的レイヤーが大幅向上)

【中二病充足率】:

 140%

(ギルドを巻き込んだ価格交渉)

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