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小説の先にある世界  作者: 藤咲玲


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30/120

30話:無名国の変身プロセスと、隣街への経済的デプロイ

 旅のリソース・デ(準備)プロイを完遂した俺は、いよいよこの街を離れるフェーズへと移行する。


 目指すチェックポイントは、ここから西南に位置する隣街だ。そこに一度、一時的なデバッグセーフハウス(拠点)を構築する予定である。


 ちなみに、その隣街からさらに西南へと座標を進めると、高度な魔術文明を誇る「魔法帝国アルカディア」の領域へと突入する。隣国の基本データに関しては、すでにギルドのアーカイブ(情報モジュール)から最低限のログを引き出し、脳内にインポート(閲覧)済みだ。


 なお、俺が今いるこの国家だが、公式な名称はともかくとして、俺の脳内データベースには『無名国(なもなきくに)』というコードネームで仮登録してある。


 理由? そっちの方が圧倒的にクール(格好良い)だし、物語のプロローグっぽくて俺の精神的バッファ(余裕)が潤うからだ。それでいい。


 では、なぜアルカディアへ直行せず、わざわざ隣街に一時的拠点を設けるのか。


 理由は極めてシンプルであり、かつ男のロマンの根幹に関わる重大なシステム(仕様)のためだ。


「今の俺の姿は、あくまで初期段階の仮初めの記述に過ぎない。……隣街へ到達した瞬間、俺は真のヒーロー(英雄)へとアカウント切り替え(変身)を果たすのだ」


 特注の漆黒羽織に身を包み、大刀を背負った俺が、世界のバグを狩る影の執行人として覚醒する――そんな壮大な変身プロセス(第二形態)を演出するために、あえて別の街をプロキシ(踏み台)にする必要があるわけだ。


(……まぁ、本当の理由を9割ほど削ぎ落として論理デバッグ(本音)すると、単純にこの段階で直行すると移動費と設備投資で『手持ちの資金が完全に底を突く』からなのだが)


 キャッシュ(軍資金)の枯渇は、システムの強制シャットダウン(破産)を意味する。まずは隣街で低リスクなクエストを回し、短期的なキャッシュフロー(資金流動性)を改善せねばならない。


 綺麗に丸め込まれた中二病の言い訳を胸に、俺は無名国の門へと向かって、スマートに足を進め始めた。


【現在地】:無名国・国境付近

【目的地】:西南の隣街

(一時的デバッグ拠点)

【総資産】:銀貨数枚

(危険水域・要資金調達)


【支払猶予の土下座パッチと、破綻寸前の分散処理】


 西南の隣街へ到達した俺は、まず生存のためのセーフハウス(宿屋)を確保するプロセスに入った。


 短期的なキャッシュフロー(軍資金)を考慮し、10日間の滞在枠を予約。だが、ここで現世の厳しい物理ロジック(残高不足)が俺のフロントエンドに牙を剥く。


「……前金として銀貨5枚を支払う。残りのリソースは後日、必ずやキャッシュバック(決済)してみせよう」


 俺は宿の主人に対し、東洋の神秘にして最強のデバフ解除(支払猶予)パッチ――『土下座(どげざ)』という儀式を厳かに執り行った。


 プライドの減衰など、合理的な生存戦略の前には些細なエラーログに過ぎない。主人の呆れ顔を引き換えに、どうにか10日間のルート権限(部屋の鍵)を奪取することに成功した。


 猶予は10日。即座に資金流動性を改善すべく、俺はダッシュ(全速力)で冒険者ギルドへとエントリーした。


 掲示板の前に立った俺は、思考リソースの演算を一切挟まず(迷わず)、目の前にある依頼書をランダムサンプリング(無造作無作為)に10枚、バリバリと豪快に剥ぎ取る。


「えっ!? ちょっと、アレンさん!? 一人で10枚なんて規定違反ですし、そもそも無茶ですよ!」


 受付嬢がエラーログを吐いたPCのように目を見開いてびっくりしている。だが、大丈夫だ。俺のステータス(処理能力)は無限に近い。


「問題ない。仮にプロセスの処理(クエスト達成)が不可能な場合は、規約通りのペナルティ(損害賠償)を全てこちらでプロキシ(受託)すると言い渡す」


 クールに言い放ち、ギルドの処理サーバー(受付嬢)のフリーズ(戸惑い)を置き去りにして宿へと帰還。


 さあ、効率的なマルチタスク(同時並行処理)のルーティングを組もうと、机の上に剥ぎ取った10枚のタスク(依頼書)を並べた。


 ――その瞬間、俺の論理回路が完全にフリーズ(凍結)した。


【タスク一覧】

 ・Aランク:3枚

 ・Bランク:2枚

 ・Cランク:3枚

 ・Dランク:1枚

 ・Sランク:1枚 ─── !?


「……あぁ」


 思考のスタックオーバーフロー。


 完全に、バグった(詰んだ)かもしれない。


 最高位の特異災害クラス(Sランク)が、無作為サンプリングのノイズ(偶然の確率)に紛れ込んでいた。


 銀貨数枚の男が受けていいタスク(依頼)ではない。


【クエスト進捗】:

 未着手(タスク10件ホールド)

【生存フラグ】:

 絶望的なエラーコード

(Sランク検出)

【現在の精神状態】:

 ウラシマ効果で過去に戻りたい


【支払猶予の土下座パッチと、破綻寸前の分散処理】


 宿の主人の白い目を土下座(どげざ)パッチ(泣きつき)でやり過ごし、どうにか確保したセーフハウス(宿屋)の自室。俺は安物のエール(麦酒)を喉に流し込みながら、机の上に広げた10枚の依頼書を冷徹にコードレビュー(吟味)し始めた。


 アルコールによる脳内プロセス(思考を巡らせ)の弛緩(しかん)を計算に入れつつ、提示されたタスク(依頼書)を一つずつ論理デバッグ(吟味)していく。


【タスク一覧(仕様書)】


 ■ Dランク:1枚(初級デバッグ(依頼書))

【内容】:

 街の排水路に繁殖した「スライム・ゼリー」の除去

【詳細】:

 繁殖しすぎてインフラ(下水)を詰まらせている低級モンスターの清掃。

【アレンの脳内評価】:

(呼吸器官を持たないコイツらの生命維持リソースは、大気中のマナ(魔素)だ。ならばアプローチ(手段)は一つ。一時的にこのエリア全体の魔素を、俺の極小魔素領域(使い切れない)に『ハッキング(全吸引)』する。

 供給源を遮断されたドロドロのプログラム(生命体)なぞ、ただの干からびたゴミデータ(役立たず)に過ぎない)


 ■ Cランク:3枚(定常並行処理)

【内容①】:

 近郊の森での「薬草・アルカリ草」の高速採取

【内容②】:

 街道を塞ぐ「マッド・ゴーレム(土塊)」の解体

【内容③】:

 夜間に倉庫街を荒らす「シャドウ・ラット」の駆除

【詳細】:

 手間はかかるが低リスクな、いわゆる「日銭稼ぎ」のタスク(依頼)群。

【アレンの脳内評価】:

(薬草採取のついでに、あのナックルクナイの耐久テストと並行マッピングの練習を回す。マッド・ゴーレムの物理破砕ログも、時空トランクケース(アイテムボックス)のインベントリをフル活用して一瞬で全スタック(回収)すれば、何の問題もない定常並行処理だ)


 ■ Bランク:2枚(中規模負荷タスク(依頼))

【内容①】:

 凶暴化した「ジャイアント・ボア(変異種)」の討伐

【内容②】:

 鉱山跡地に巣食う「アイアン・スパイダー」の群れの間引き

【詳細】:

 一般の冒険者がパーティを組んで挑むレベルの物理アセット(金づる)。

【アレンの脳内評価】:

(ボアの変異種……。つまり、先日ハック(狩猟)して焼いた肉よりもさらに脂が乗っている可能性が極めて高い。

 食糧備蓄のアップデート(補充)を兼ねて、最優先で処理ルートに組み込むべき美味なオブジェクト(肉)だな)


 ■ Aランク:3枚(高負荷・高危険度プロセスの同時多発)

【内容①】:

 迷宮の特定階層に発生した「空間の歪み(魔力の渦)」の調査

【内容②】:

 隣国アルカディア国境付近に現れた「古代の呪術アーマー」の破壊

【内容③】:

 一晩で村の家畜を全滅させた「毒霧の飛竜(ワイバーン)」の隠密暗殺

【詳細】:

 国家レベルの被害が出かねない、局所的な特異災害。

【アレンの脳内評価】:

(空間の歪みだと? 【空間操作】を弄ぶ俺にとって、空間の歪みなど原稿用紙のシワを伸ばす程度の修正作業に過ぎない。

 俺のスキルなら一瞬でパッチ(対策)が当てられる。新調した漆黒羽織の戦闘テスト――つまり『ヒーロー変身』の舞台としては申し分ない。

 物理的にはデコピン一発で処理完了だが、問題は『どの役柄になりきって台詞を吐くか』というロールプレイの最適化が非常に難しいな……中二病的に)


 ■ Sランク:1枚(討伐時はSSランク認定)

【内容】:【緊急隔離命令】

 西南の古代遺跡にて覚醒した「黒曜龍」のドロップ(鱗入手)、または討伐。

【詳細】:

 ギルドが間違えて一般掲示板に紛れ込ませていた、国家存亡レベルの超特級タスク(依頼書)。

【アレンの脳内評価】:

(完全にシステム(冒険者)をフリーズ(焦らせる)させる特大のグリッチ(手違い)だ。……というか、今の俺の全資産(銀貨数枚)でこんなワールドエンド(世界終焉)級のエラーコード(依頼書)に触れたら、リワード(報酬)を貰う前に存在がデリート(強制終了)される。100%ギルドの配備ミスだな。……よし、保留だ!)


 グラスに残ったエールを干し、俺は10枚の依頼書を机に叩きつけた。


 Sランクは完全に論外として、Aランク以下の9枚に関しては、俺のスキル(演算能力)と新装備があれば、マルチタスク(並行分散処理)で一気に片付けられる。


「まずは日銭だ。銀貨数枚のデッドライン(破産寸前)を脱出し、この街に真の『黒の英雄』をデプロイ(伝説に)する」


 俺は特注の漆黒羽織を身に纏い、背中の大刀の感触を確かめると、夜の闇へと滑り出すように部屋の窓を開け放った。


【クエスト進捗】:

 分散処理開始(タスク(依頼書)9件同時実行)

【軍資金】:

 一時的な土下座パッチにより猶予10日

【中二病充足率】:

 85%(ロールプレイのセリフ選定中)


【魔素の強制吸引と、ファースト・キャッシュイン】


 夜の帳(とばり)が下りた街。俺がまず着手したのは、マルチタスク(平行作業)の中で最も物理的な負荷が低いと判断したDランクタスク(依頼)――排水路のスライム除去だ。


 特注の漆黒羽織の裾を夜風に揺らしながら、俺はターゲットである地下排水路の鉄格子を見下ろす。


 狭い暗渠(あんきょ)の奥からは、インフラ(下水道)を物理的に閉塞させているドロドロの塊――「スライム・ゼリー」が、不気味な粘着音を立てて増殖しているのが見えた。


「ふむ、予定通りのオブジェクト(配置物)だな。肺を持たない生命体のソースコード(身体構造)など、デバッグ(読解)するまでもない」


 俺は周囲に人影がないことを確認し、右手を排水路に向けて静かにかざす。


 発動するのは、このエリア一帯の環境マナ(魔素)を強制遮断・回収する局所的なドレイン・シーケンス。


「エリア魔素、一括ダウンロード(吸収)――『ハッキング(逝ってこい)』」


 刹那、排水路の空間が歪むような錯覚と共に、大気中に漂う膨大な魔素が、俺の極小魔素領域(使い切れない)へと一濁流となって流れ込んできた。


 あまりの質量に脳内メモリー(処理)が一時的に悲鳴を上げるが、そこは力技でシャント(並列処理)する。


 生命維持のリソース(基盤)である魔素を根こそぎ奪われたスライムどもは、次の瞬間、水分を失ったジェルのように急速に干からび、ただの動かない可溶性のごみクズへと脆化(ぜいか)していった。


「クリーンアップ(処理完了)。カロリー(熱量)の無駄遣いすら発生しない、美しいデバッグ(処理)だ」


 翌朝。俺はギルドの受付カウンターに、干からびて完全に無害化したスライムのドロップアイテム(核)を無造作に転がした。


「えっ……!? 排水路のスライム、一晩で全部消滅してる……!? アレンさん、一体どんな魔法を……」


 驚愕でフリーズする受付嬢の処理をスルーし、俺はリワード(報酬)の手続きを促す。(手のひらをヒラヒラ)


「仕様通りの成果物だ。迅速なキャッシュイン(決済)を頼む」


 カウンターに差し出されたのは、ジャラリと音を立てる銅貨の束。


【リワード獲得】:

 大銅貨5枚(銅貨50枚相当)


 現代日本の感覚で言えば、およそ5,000円といったところか。下水掃除の日雇い労働としては妥当、いや、作業時間コンマ数秒というコストパフォーマンスを考慮すれば、チート(完全な暴利)である。


 これで銀貨数枚という破産寸前のデッドラインから、わずかに1レイヤー分(首の皮が一枚つながった)の安全マージンが確保された。


「よし、ファースト・キャッシュは上々だ。次は……美味なオブジェクト(肉)の回収フェーズ(依頼)へ移行する」


 俺は懐に銅貨を滑り込ませ、ニヤリと中二病特有の笑みを浮かべると、次なるタスク――Bランク『ジャイアント・ボア(変異種)』が待つ近郊の森へと、足早にギルドを後にした。


【現在の総資産】:

 銀貨数枚 + 大銅貨5枚(微増)

【タスク残数】:8 / 9件

【次なるターゲット】:

 Bランク:ジャイアント・ボア

(変異種)


【脂質の最適化と、特上肉オブジェクトの高速コンパイル】


 街のゲートを抜け、俺はBランクタスク(依頼)の指定座標(目的地)である近郊の森へとエントリー(進んだ)。


 目的のオブジェクト(肉)は「ジャイアント・ボア(変異種)」。一般の冒険者が複数人でパーティ(分散処理)を組んでようやく互角とされる、高い物理アセット(戦闘力)を持った猛獣だ。


 だが、俺の脳内記述におけるこのタスクの本質は、デバッグ(討伐)そのものにはない。


「変異種ということは、通常の個体よりも基礎代謝が高く、蓄えられた脂質の融点(とろける美味さ)が極限まで最適化されている可能性が極めて高い……」


 そう、これは純然たる『ストック(食糧備蓄)のアップデート(補充)』ミッションである。


 森の奥へとマッピングを進めること数分、前方の茂みが激しく揺れた。


 現れたのは、通常の倍はあろうかという巨体。全身を鋼のような剛毛で覆い、赤く狂ったデバイス(眼球)をぎらつかせた、推定質量2トンのジャイアント・ボア(変異種)だ。


「ブルゥゥゥッ!!」


 大地を爆破するような勢いで、こちらへ一高負荷ストレート(直線に突進)してくる。


「ターゲット捕捉。……さて、新調したナックルクナイの耐久テストと、肉の鮮度を落とさない『即死パッチ』の同時実行といこうか」


 俺は背中の大刀には触れず、袖口からアルミナコーティング済みのナックルクナイを一対、滑らかにドロー(マテリアライズ(戦闘完了))した。


 突進の軌道を【空間操作】のパッシブスキルでミリ単位で先読みし、物理的な衝突ベクトルを優雅にスルー(回避)。


 すれ違いざま、ボアの延髄――もっとも中枢のカーネル(神経回路)が走る座標へ向けて、コーティングされた刃を無駄のない軌道で突き立てる。


「システムエラー(かんしゃく)を起こす暇すら与えない――『キルコマンド(瞬殺)』」


 ドサッ……!!


 悲鳴を上げるログ(鳴き声)すら残さず、巨獣は慣性のまま滑り込み、完全にシャットダウン(機能停止)した。


 傷口はナックルクナイの最小限の刺突のみ。内臓を傷つけていないため、肉のクオリティは最高品質のまま保たれている。


 すかさず、俺はまだ温かいボアの巨体を、アイテムボックス(時空トランクケース)のインベントリへと丸ごと一瞬で全スタック(格納)した。時間の概念が凍結されたストレージ内なら、この極上の脂は一切劣化(酸化)しない。


「よし、肉の回収は完了だ。このまま隣の鉱山跡地へマルチタスク(平行作業)を繋ぐ」


 息一つ乱さず、俺はナックルクナイの血をスマートに振り払うと、もう一枚のBランク依頼書――「アイアン・スパイダーの群れの間引き」の処理へと、淀みない足取りで座標を移動させた。


【クエスト進捗】:

 Bランク①完了

(肉ストック+1)

【現在の装備耐久値】:

 ナックルクナイ:100%

(エラーなし)

【次なるターゲット】:

 Bランク②:アイアン・スパイダー(群れの間引き)


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