29話:クナイとアルミナの最適化装備
食料のスタックを完了した俺が次に向かったのは、いつもの鍛冶屋だ。旅に出る以上、物理的な迎撃・処理プロセスを最適化するためのハードウェア、すなわち武器と防具のアップデートは外せない。
暖簾を潜ると、相変わらず不機嫌そうな顔をした親父が、火床の前でハンマーを握っていた。
「親父、頼んでおいたカスタムパーツの回収に来た」
カウンターに無造作に置かれたのは、俺の設計思想をそのまま形にした、異形のツイン・ダガー。
基本形状は、投擲時の空気抵抗と貫通力に優れた東洋の「クナイ」。だが、そのヒルトの部分には、人間工学を無視して指を通すための強固なホールが4つ穿たれている。
近接格闘(CQC)における最凶の打突器具、メリケンサックのハイブリッド構造だ。
「殴る、切る、刺す、の全レンジに対応したマルチバリアント・ウェポン。
人型エネミーや小型獣とのクローズド・クォーター(狭所)における格闘フレームにおいて、これほど手数のバリエーションを担保できる刃物はないからな」
さらに重要なのは、その刀身の仕上げだ。表面には、世界に存在する超硬質素材から抽出した酸化アルミニウムによる薄膜技術、すなわち『アルミナコーティング』を施してある。
これにより、耐摩耗性と防錆性は極限まで跳ね上がり、血脂による切れ味のデバフを完全にシャットアウトする。
仕上がりを確かめるように、両手に持った一対の異形クナイを逆手に構え、親指でそのアルミナの黒い肌をそっとなぞる。
鉄の匂いと、静まり返った鍛冶屋の空間。窓の外を見やれば、夕闇が迫り、薄赤い月が昇り始めていた。
ふっ、と脳内のスイッチが、一回りする。
懐かしい「あの頃のローカルバッファ」に接続される。
「……今宵の月は、血に飢えているようだ」
ふと口を突いて出た完璧な中二病(黒歴史)フレーズ。
「あぁ? 何だって?」
親父が怪訝そうに耳を傾ける。
「いや、なんでもない。環境光のスペクトルが波長の長い赤色にシフトしている、というただの光学的な私見だ。……完璧な仕事だ、親父。これで『世界の仕様』を狩りに行く」
俺は代金をスマートに決済すると、完成したばかりの凶器をアイテムボックスのインベントリへ「スッ」と格納した。
背後で親父が「おいアレン! 服は買っていかねぇのか! 聖女様が『あの見窄らしい服をどうにかして!』って泣きながら街の仕立て屋の全在庫を買い占めてたぞ!?」と叫んでいたが、そのノイズが俺の耳に届く前に、俺は既に次の座標へと歩き出していた。
【武器】:アルミナコーティング・ナックルクナイ×2(新規取得)
【防具】:(※要選定・アップデート待ち)
【刀と詠唱の浪漫的偽装】
クナイの格納を終えた俺は、さらに鍛冶屋の親父へ次のオーダーを叩きつける。
やはり、元日本人の男として「ブレード」を定義するならば、行き着く答えは一つしかない。
「親父、次はこれだ。反りのある片刃の剣――『刀』を大小一対、鍛えてもらう」
提示した設計図を前に、親父がうなる。この世界にはない、絶妙な湾曲を持つ美しい肉厚の片刃。職人技によって生み出される、刀身に薄っすらと浮かび上がる波紋の階調は、それ自体が完璧な芸術品のようだ。
ただし、俺の運用思想は伝統的なサムライのそれとは異なる。
二本差しとして腰に二振りを並べるのではない。大刀は背中に、脇差は腰に提げる変則スタイルだ。
「侍と忍者の中間に位置する、隠密性と一撃必殺の空間戦闘を両立したハイブリッド・フレーム……。フッ、完璧なシルエットだな」
さらに言えば、この仕様には重大な「詠唱パッチ」の適用を予定している。
これから旅の道中、最適化された四大元素の魔法をトリガーする際、あえて「火遁の術」や「水遁の術」とチャネリングして出力するのだ。
ただの属性魔法の正規運用を、わざわざ東洋の秘術っぽく偽装する――うん、完全に中二病のそれだ。
効率化には一ミリも寄与しないが、精神的モチベーションのロマンという観点において、このバッファは必要不可欠なのである。
「……おいアレン、お前さっきから『血に飢えてる』だの『〇遁』だの、ブツブツ不気味な呪文を呟いてるが大丈夫か? やっぱり聖女様に頭の治療してもらった方が……」
「問題ない、親父。これは俺の演算領域を安定させるための、一種のルーティンだ。この刀、急ぎで頼む」
手付金をカウンターに滑り込ませ、俺は満足感と共に鍛冶屋の戸を開けた。
これで近接・中距離の物理アセットは揃う。あとは、この見窄らしい初期装備の防具をどうハックするかだな。
【武器】:ナックルクナイ×2(新規取得・アルミナコーティング)
【武器】:カスタム大刀&小刀(オーダーメイド・波紋仕上げ)
【防具】:(※要選定・アップデート待ち)
【理詰めの旅装束と、準備完了】
これで武器の調達プロセスは完了した。次に着手すべきは「防具」のアップデートだが、これがなかなか難しい。
防御バッファを厚くする安全第一の設計にすれば、当然ながら質量が増し、外観も重々しくなる。かと言って隠密性を重視して忍者スタイルの布地一枚にするのは耐久値の脆化を招くし、侍のような着物だけでは防弾・防刃性能が論外だ。
一時は、軽量なアルミニウム合金のプレートをキャタピラ状に連結させたカスタムアーマーの構築も脳内シミュレーションしてみたが、歩くたびにノイズ音を撒き散らすのは確実。何より、街中で著しく目立つ(ヘイトを集める)外観は、俺の隠密主義に反する。
思考を巡らせた結果、平時のステルス性と実戦での装甲値を両立させる最適な組み合わせを導き出した。
「ベースに軽量・高耐久のレザーアーマーを仕込み、その上から羽織を重ねる。これがベストなビルドだな」
俺は鍛冶屋を後にし、街の衣類店へと向かってオーダーを叩きつける。
発注する羽織は2着。
1着目は、浅葱色に白いダンダラ模様をあしらった、あの新選組――いや、俺の脳内アーカイブでは「真選組」として登録されている隊服オマージュのデザインだ。
そしてもう1着は、やはり俺のローカルバッファをフルドライブさせた全開仕様。引き締まった漆黒に、血を連想させる鮮烈な赤のライン。さらに背中には、禍々しくも洗練された独自のエンブレムを特注で縫い付けさせる。
(……最高に格好良い。これで不意にエネミーと遭遇した際、抜刀しながら『天誅!』とシステムログに刻んだり、背を向けたまま『……我に何か用か?』とドスの利いたパッチボイスを吐いたり出来るわけだ。男のロマン以外の何物でもないな)
試着室の鏡に映る自分を想像し、内なる中二病のパラメータが限界突破していくのを感じる。
これで食事・武器・防具(ステルス仕様)のすべてのリソースが完全にシンクロした。あの騒がしいエラーログが街を巻き込んで大騒ぎを始める前に、俺の理詰め異世界ライフは、いよいよ次のステージへと暗転(移行)する。
【武器】:ナックルクナイ×2(新規取得・アルミナコーティング)
【武器】:カスタム大刀&小刀(オーダーメイド・波紋仕上げ)
【防具】:インナー革鎧&特注羽織2種(真選組ダンダラモデル/漆黒赤ライン・中二紋様)
旅の準備:完了(進捗率100%)




