第20章:魔法学園編 第9話:ローブの神話と冒険者の合理性
「さて、今日は魔法使いの身なりについてだ。諸君は、なぜ魔法使いが『尖り帽子にローブ』という服装をしているか考えたことがあるか? 歴史的背景? 伝統? ……否。それは、冒険者としての『生存戦略』の結果だ」
講師はローブを翻しながら、黒板に大きく×印を記した。
「諸君は魔法使いである前に、一つの肉体を持った人間だ。魔法に頼りすぎ、物理的な防護を疎かにした者は、戦場で真っ先に死ぬ。かつての魔法使いがローブを選んだのは、身軽さ、そして耐寒・耐熱の観点から、過酷なフィールドでの生存に適していたからに過ぎない」
教室の空気が少し緩む。魔法学の硬い理論から、一歩現実に足がついた話に生徒たちの顔が上がる。
「ローブには魔法的な防御力があると信じている者もいるが、それは布に染み込ませた魔力付与の副次効果だ。革鎧を装備した魔法使いがいたとしても、何ら問題はない。むしろ、防御力を捨ててローブを纏うことは、物理的な攻撃に対して『無防備』を選択することと同義だ。魔法の発動に集中している間、諸君の身体はただの脆弱な肉塊にすぎない」
講師は、窓の外で鍛錬に励むアレンの姿に視線をやった。アレンはローブなど着ていない。動きやすい革鎧と、実用的な装備を身に纏っている。
「アレンを見てみろ。彼は見栄えよりも『機能』を優先している。現代の冒険者にとって、魔法とは『魔法使いの専売特許』ではない。戦術の一部だ。ローブという固定観念に縛られ、機動力を削ぐような者は、前線では生き残れない。装備とは、君たちの魔法を補助し、同時に君たちの命を守るための『システム』の一部だ」
講師はチョークを置き、生徒たちの装備を一人ひとり見渡した。
「魔法使いよ、形式美を捨てろ。君たちが必要としているのは、儀式のための正装ではない。どんな環境でも正確なイメージを構築できる、揺るぎない身体と装備だ。明日は、いよいよ最終回だ。この全10回の講義を通じ、なぜ我々がこの理論を学ぶのか。その真の目的を告げよう」
生徒たちは、自分の鎧や衣服に手を触れた。彼らは学園の制服という鎧を脱ぎ、真の魔法使いとしての道を選ぼうとしていた。ローブの神話は、いま完全に崩れ去ったのだ。




