第19章:適性値の深淵
測定器の無機質な輝きを前に、アレンの心臓は未知への期待と冷徹な確信で激しく高鳴っていた。
(俺の中にあるはずの『魔力』が、この世界の観測装置でどう判定されるか。それが分かれば、魔法の習得も単なる机上の空論ではなく、現実的なプロセスになる)
彼は迷いを一切捨て去り、その右手をゆっくりと測定器の滑らかな表面へと差し出した。
冷たい結晶体が掌に触れた瞬間、測定器が低く不気味な唸りを上げる。周囲を通りかかった受講生たちが、その珍しい魔導具の反応に気づいて足を止めた。結晶体は鈍く淡い光を放ち、やがてその中央に、ひとつの冷徹な数字を浮かび上がらせる。
『魔力適性値:12』
その瞬間、しんと静まり返った廊下に、クスクスと気まずいような小さな嘲笑が漏れ広がった。
通りすがりの生徒が、わざとらしく大げさに肩をすくめて通り過ぎながら、値踏みするような視線を投げる。
「12かよ……。おいおい、足切りラインにはギリギリ届いたみたいだけど、まあ、そんなもんだろ」
「初等講座の基礎すらついていけないレベルじゃないか? なんであんな数値でこの学園に来たんだか、物好きもいるもんだな」
周囲の冷ややかな視線と陰口にもかかわらず、アレンは少しも動じることなく、淡々とその数字を見つめ返した。
(……なるほど。12という数値が出たということは、俺の肉体にも確実に魔素や魔力循環の素質があるという証明だ。この世界の人間と比べて微弱であっても、その使い方が分からないだけだとしたら、学習次第でいくらでも引き上げられるのではないか)
アレンの口元が、わずかに嬉しそうに吊り上がる。
周囲の笑い声や嘲りの言葉は、今の彼の耳には一切届いていなかった。
適性値12。それは、この城塞都市の学園の門をくぐるための、文字通り最低限のライセンスに過ぎない。だが、逆に言えば、門戸は開かれたのだ。
計測係の職員が、呆れたような目を向けながら事務的に通行用のカードを差し出す。
「はい、登録完了だ。……12だな。一応、講義室へ入ことは許可されるが、授業についていける過度な期待はしないことだね」
「ああ、その忠告はしっかりと心に留めておくよ」
アレンは動じない声音でカードを受け取ると、嘲笑を浮かべながら通り過ぎていく生徒たちの背中を、まるで興味深い研究対象でも見るような冷徹な眼差しで見送った。
(さて、まずは学内での講義内容の整理からだ。魔法とは、決して胡乱な神秘の力などではない。高度な理論と正確な魔力回路の構築の積み重ねだ)
アレンは手帳を懐にしっかりと収め、一片の迷いもない足取りで、目の前にある重厚な講義室の扉を開けた。
ここからが、アレンの「本当の」異世界での学園生活の幕開けだった。




