第18章:オルフェリアの門
城塞都市オルフェリアは、地平線の彼方からそびえ立つような巨大な石壁に囲まれた、厳重かつ堅牢な要塞のような場所だった。
馬車の揺れから解放され、荷台から降り立ったアレンの視界に飛び込んできたのは、雲を突くような数々の巨大な尖塔と、街路を行き交う人々の圧倒的な活気だった。この巨大な街のどこかに、自分が今最も求めている「力」と「理」の答えが必ず眠っているはずだ。
アレンは周囲の喧騒に気圧されることなく歩き出しながら、街頭に設置された掲示板や、人々の集まる酒場の入り口の位置を冷静に確認していく。
(エレナの言っていた通りだ。この街は、中央にそびえる学園を中心に経済も情報も回っている)
街の至る所には、学園関連の公開講座や各種手続きに関する告知の羊皮紙が張り出されていた。アレンは人混みを巧みに避けながら、まずは自身の目的を果たすための情報を整理するため、情報「収集」の作業を始めた。
街の一角にある大きな掲示板の前で足を止める。そこには数多くの依頼書と共に、学園の講義予定が雑多に掲示されていた。
【公開講座:魔導基礎理論】
・内容:魔力循環の初歩と、環境魔素の収束について
・日時:毎月第1、第3土曜 日中
・費用:無料(学園図書利用は銀貨1枚)
【科目等履修生制度:特別選抜枠】
・内容:一般向け講義の聴講および実技参加
・費用:無料~銀貨10枚(※受講資格試験あり)
(受講資格試験か。……要するに個人の適性やステータスの確認といったところだな)
アレンは手帳を広げ、必要な情報を素早く書き写し、続いて近くの露店が並ぶ賑やかな広場へと向かった。街のリアルな空気を知るには、旅人や地元住民が気ままに集まる場所が最も適している。
案の定、昼間から酒を酌み交わす男たちの雑多な会話が、アレンの耳に自然と飛び込んできた。
「最近よ、学園の講義も管理が一段と厳しくなったよな」
「ああ、『ID登録』ってのが必須になったからだろ。魔導適性値を測定して個人番号を振る……誰がどの講義を聴講したか、学園側が徹底的に管理するつもりなんだろうよ」
(ID登録による一括管理か。……悪くない)
アレンはすかさず手帳を広げ、小耳に挟んだ話を即座に書き留める。それがただの管理番号であれば、身分や階級を問わず登録さえ済ませれば誰でも講義室に入れるということだ。
アレンは迷うことなく、石造りの厳かな学園事務局へと向かった。
必要な手続きを淡々と終え、通行証となる一枚の木札を受け取る。しかし、その際に職員が告げた最後の言葉で、アレンは思わず足を止めた。
「公開講座の聴講自体は自由ですが、実際の講義室に入るには『魔導適性値』が刻印された専用のIDが必要です。まだ測定していない者は、入り口に設置されている計測器で必ず登録を済ませてください。それがここのルールですから」
事務局での形式的な手続きは済んだ。だが、最後に職員が告げた「入り口での適性値登録」という厳格なルールが、アレンの胸のなかに引っかかっていた。
廊下の先、大きな講義室の入り口には、不気味に青く光る巨大な魔導具が鎮座していた。受講生たちが順番にその表面へ手をかざすたびに、中央の結晶体が淡く光り、それぞれの適性値が記録されていく。
(ID登録そのものは、単なる事務的な手続きに過ぎない。だが、そのIDに紐付けられる『魔導適性値』が、俺という存在をいったいどう判定するのか――)
列に並びながら、前の受講生たちの様子をじっと観察する。
(……そもそも、生ある物には等しく魔力が宿るはずだ。俺の数値が出ないはずがない)
前の受講生が登録を終え、重々しい扉が開く。次はいよいよ、アレンの番だった。
胸の高鳴りを冷徹な理性で抑えつつ、測定器の前まで静かに歩を進める。
(待てよ。そもそも、なぜ俺は自分の魔力が『ゼロ』だと勝手に決めつけていたんだ?)
ふと、転生直後のあの薄暗い部屋での記憶が脳裏をよぎる。あの時、システムは『魔力適性:0』と冷たく表示した。だが、それは魔素の存在しない地球の環境下で、システムが一方的に解釈した数値に過ぎないのではないか。
もしあれが、転生前の特殊な環境における数値だったとしたら。
この世界で、生ある物に等しく宿るはずの魔力が、ただ単に俺の中でまだ眠っているだけだとしたら――。
(思い込みという不毛な呪縛は、ここで完全に断ち切る)
測定器の放つ無機質な輝きを前に、アレンの心臓が未知への期待と冷徹な確信で激しく高鳴る。
これは単なる形式的なID登録などではない。自分の「本当の適性」をこの手で証明するための、極めて重要な第一歩なのだ。
アレンはすべての迷いを捨て去り、その右手をゆっくりと測定器へと差し出した。




