第13章:第2の武器
アレンの愛剣は、先日の坑道におけるコボルトとの死闘によって刃がボロボロに欠け、すでに実戦では使い物にならなくなっていた。
あの閉ざされた坑道での泥臭い戦いを通じて、アレンは己の致命的な未熟さを痛いほど痛感させられていた。自分の攻撃は狙った急所に確実に当たらないし、剣を振ルった後はその勢いに任せるだけで、次の動作へ移行する余裕なんて微塵もなかったのだ。
(俺には、まともな剣術の基礎が根本から欠けている。だからこそ、力任せではなく冷徹な知識や計算でそれを補う必要があるんじゃないか? ……それに、当座を凌ぐための新しい武器も絶対に必要だ)
アレンはこれまでの任務で稼ぎ出した全財産である銀貨15枚と銅貨40枚をしっかりと握りしめ、街の一角にある古びた武具店へと足を向けた。
だが、店内に所狭しと並ぶ新古の剣は、どれもこれもアレンの手にしっくりと馴染まないものばかりだった。全体的に重く、重心が偏っていて鈍重で、まるでただの鉄の棒を無理やり振り回しているような不快な違和感があった。
(……どれが自分にとって最適な道具なのか、全く分からないな)
「おっちゃん。安くて扱いやすい剣はないかな?」
「はん! そんな虫のいい代物が安くで転がってたら、俺たち鍛冶屋はとうに商売上がったりだぁ。どうしても安いのが欲しけりゃ……そこの端にある樽の中の奴ぁ、どれでも一律で銀貨1枚でいいぞ」
店主は無造作に顎をしゃくって、店内の片隅にある無数の武器が無造作に突っ込まれた樽を指し示した。
「ちなみに、その隣の樽にある奴は駄目だ。ヒビ割れや刃こぼれが酷くて、全部廃棄処分にするか溶かして再生材にする代物だからな。今こっちの樽に指した奴は、これ以上研ぎ直しができねぇくらい刃が減っちまったやつか、あるいは錆がヒデェやつだ。……まぁ、根気よく錆さえ綺麗に落とせば、まだ何とか実用として使えるかも知んねぇがな」
見た目はぶっきらぼうだが、店主は案外と親切に内情を教えてくれた。
アレンはその店主のアドバイスと自身の直感を頼りにしながら、樽の一番隅っこに埋もれていた、余計な装飾の一切ない極めて簡素な鉄の剣をそっと手に取った。
無骨なつくりではあったが、不思議と全体の重心のバランスが絶妙に整っている気がした。少なくとも、あの廃坑で戦ったときに感じた「重すぎて扱いにくい」というストレスはほとんどなさそうだった。
「これにする。銀貨1枚でいいんだな?」
アレンがそう店主に確認を取ろうとしたその時、すぐ隣で品定めをしていた客の一人が、呆れたような、どこか見透かしたような声をふと挟んできた。
「それ、鋼自体の質は悪くないけれど、柄の木部が湿気をものすごく吸い込みやすい粗悪な素材よ。今の生乾きのままの状態で使っていたら、泥の中で振るうたびに手元で重心が狂って使い物にならなくなるわ。私なら、柄の裏側に薄い布をしっかりと巻きつけて、徹底的な湿気対策を施すけどね」
振り返ると、そこに立っていたのは新人らしい小柄な身なりの女冒険者、エルエルだった。
彼女はこれまでの豊富な冒険者としての実戦経験からその弱点を見抜いているのか、あるいはもっと別の底知れない視点から語っているのか。
「……なぜ、そんな泥臭くて実用的な手入れの方法を知っている?」
アレンがわずかに警戒心を滲ませて問うと、彼女は不敵で悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「冒険者なんて稼業は、無駄死にしないために日頃から必死で知恵を絞っているだけよ。……あなた、さては昨日あたりに坑道帰りでしょう? そのブーツの底や鞘の装飾の隙間に、独特の湿った泥がしっかり溜まっているわよ」
ハッとしてアレンは自分の足元に視線を落とした。確かに、言われるまで全く気づかなかったが、彼は道具の「管理や保守」という基本的な前提を完全に疎かにしていたのだ。
使いこなす以前に、道具を道具として維持する準備すらできていなかった――アレンは自身の未熟さと視野の狭さをまざまざと突きつけられ、返す言葉を失ってその場で押し黙った。




