↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/55

第八章:これは雇用契約なので溺愛は不要です、と思っていたはずなのに(3)

 先ほどから聞こえてくるのは、魔物の咆哮ばかり。最後の咆哮が響き、騎士たちは肩を大きく上下させて呼吸を整える。


「これで、終わりか?」


 額に汗を光らせるクライブが、イリヤの様子を気遣うようにして声をかけてきた。


「怪我はないか?」

「……はい。クライブ様に助けていただきましたから」


 イリヤは取り出した手巾でクライブの額の汗をぬぐい、魔物の返り血も拭き取った。


「それよりも、マリーは……」


 大きく周囲を見回した。マリアンヌはどこにいるのか。エーヴァルトはどこにいるのか。


「まんま~、ぱっぱ~」


 マリアンヌが高い場所にいる。と思ったら、エーヴァルトの肩に乗っていた。


「マリー」

「まんま~、まんま~」


 そのような場所で暴れたら、落ちてしまうかもしれない。


「こら、マリー。暴れるでない」

「まんま~、まんま~」

「こら、あ、いたい」


 おろせ、おろせ、と言わんばかりに、エーヴァルトの頭をぽかぽかと叩き始めた。痛い痛いと騒いでいるエーヴァルトであるが、その顔は気持ち悪いくらいににやけている。


 それでもマリアンヌが落ちては危ないと思っているのか、彼女の身体をつかみ、肩からおろす。

 マリアンヌは地面に足がつくと、エーヴァルトの足を支えにして立っているのだが、まんま、まんまとイリヤを呼んでいた。


 イリヤが慌ててマリアンヌに向かって小走りで近づき、マリアンヌもエーヴァルトの足から手をはなし、イリヤに向かって一歩踏み出す。


「クライブ様!」


 その出来事に、イリヤは大きな声でクライブを呼ぶ。

 すぐにマリアンヌはバランスを崩して尻餅をつきそうになったところを、エーヴァルトが支えた。


「見ました? 今! マリーが歩きました」

「……見た」

「てことは、今日がマリーの誕生日ってことで、いいですよね?」

「そうだな……」


 エーヴァルトに捕まったマリアンヌは、またぽかぽかと彼の足を叩いている。もちろん、エーヴァルトはそのようなことを気にせず、マリアンヌに言葉をかけた。あのデレデレした顔を見ればわかるが、マリアンヌであれば叩かれようが殴られようが、気にならないのだ。


 イリヤがマリアンヌに近づき、抱き上げた。


「まんま~」

「やはり、イリヤ殿には敵わないな」

「エーヴァルト様、見ました? マリーが歩いたんですよ」


 たかいたかいとマリアンヌの身体を持ち上げると、きゃ、きゃと楽しげな声をあげる。


「見た。今日は、なんて素晴らしい日なんだ。マリーのはじめの一歩が見られただなんて」

「それで、クライブ様と決めたのですが。マリーが歩いた日を一歳の誕生日にしようって」

「つまり、今日がマリーの誕生日……なんてことだ……プレゼントを準備していない。いや、パーティーを開かなければ」

「イリヤ……こいつには内緒にしておけ、と……」

「あっ……」


 マリアンヌが歩いたことが嬉しくて、おもわず誕生日の件もぽろっと口にしてしまった。


「エーヴァルト様……今のことは聞かなかったことに……」

「できるわけがないだろう? 今日は素晴らしい日だ。マリーが初めて歩き、それがマリーの誕生日だなんて」


 ひとり感極まっているエーヴァルトであるが、それはアレンの声にかき消された。


「聖女様。ご無事ですか? 怪我はされておりませんか?」

「はい。クライブ様が守ってくださったので……」


 アレンが満足そうにうなずいたところで、彼の部下たちが駆け寄ってきた。


「隊長。この辺りの瘴気なのですが……」


 その言葉に目を鋭くしたのは、エーヴァルトである。普段、へらへらとしている彼だが、トリシャが言っていたようにやるときはやる男なのだ。それはクライブも認めている事実であり、裏表が激しいといえばそれまでだが、表をくっきりと演じるための裏なのだろう。気を許した者にだけ見せる裏の姿。


「確認ができませんでした……瘴気がなくなっています。詳しくは、魔法使いたちに調べてもらう必要がありますが」

「そこに私を案内しろ」


 きりっとしたエーヴァルトの声に、騎士たちは「はい」と礼儀正しく返事をする。

 マリアンヌの身体はクライブの腕の中にうつった。

 イリヤたちもエーヴァルトの後ろをついていく。


「いつもであれば、この辺りに瘴気が漂っているのですが……」

「クライブ様、瘴気ってどのようなものなのですか?」


 イリヤは少しだけ背伸びして、彼の耳元で小さく尋ねた。


「黒い霧みたいなものだ。その霧が晴れた場所に魔物が現れるとも言われていて、どういった規則で瘴気が出て魔物が現れるのかは、さっぱりわからない。とにかく、瘴気がある場所から魔物が出てくる」

「そしてその瘴気が時空の歪みと呼ばれるところから?」

「そうだ」


 時空の歪みが瘴気を産み、瘴気が魔物を呼び寄せる。


「その時空の歪みをなんとかしないと、また魔物が出る?」

「ああ。それでも瘴気を祓えば、すぐに魔物は増えない。いずれ、時空の歪みを封じる必要はあるが、今の聖女の力では無理だろう」

「だぁあ?」


 まるで二人の会話を理解しているかのように、マリアンヌが声をあげた。


「今、できることは、魔物を討伐すること。そして瘴気を祓うことくらいだ……」

「……どうやら、瘴気がなくなっているようだな」


 エーヴァルトの声でクライブの話は中断された。


「イリヤ嬢。よくやった。君のおかげで瘴気は祓われた」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タテヨミフルカラーコミック
このたび聖女様の契約母となりました



+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。