答え
私なりの大人の結論に至ったとき、私はコウに普通に接触できるようになった。
接触っていうのは別に直接体に触ったりとかそういうことではなくて、ただ挨拶をするとかそういうことに過ぎなかったけれど、大きな進歩ではあった。
しかしそれでもなんとなく前のように話しかけたりするのは気が引けて、相変わらずコウの部屋に近寄ったりとかそういうことは一切しなかった。
私はすでに部活を引退しており、さらに母も父も仕事が忙しくて家にいないことが増えたため自動的に倉本家への滞在時間も増えることとなるのだが、別に前みたいに嫌悪もしてないのにコウを避けるというのはヘタレな私には気が重く、代わりに時間を使える何かを探していた。
…素直に受験勉強しろって今の私は説教したいけど。
「委員会やったら?」
「え、だって委員会とか4月に決めたじゃん。私部活忙しいから外されてたけど」
「別に年間通してある委員会じゃなくていいじゃん。催し物の委員会入りなよ」
「催し物?」
「これから体育祭とか文化祭とか合唱コンクールとか続くじゃない?それで毎回委員募集するでしょ」
なんでこんな簡単なことも浮かばないんだっていう顔でこっちを見ている筑紫が非常に憎たらしかったを今でも覚えてる。
筑紫とはどんな縁なんだか3年間一緒のクラスになり、気安くなんでもいえるような仲になっていた。
筑紫の提案は、私には目から鱗な話だった。
確かにそれなら時間を潰せるし、しかもしっかりした理由になっているから久美子さんにも説明しやすい。
まだ美術部で活動しているコウはきっと催し物委員会なんてやらないだろうし、ちょうどいい。
学級委員長がクラスで文化祭委員を募集した時、私は勢い良く手を上げて立候補し、見事に抜擢されることとなった。
委員会をやるとき、うちの母は「委員会って団体行動じゃない?大丈夫なの?」なんて失礼なことをいってきたけど、社会勉強してきなさい、とわりとあっさりと了承してくれた。
それに対して久美子さんの反応はよろしくないものだった。
「委員会ってどれくらい遅くなるの?大丈夫?」
「大丈夫ですよ。部活やってた時間くらいです」
「そう…でももうだんだん寒くなってきて外が暗くなってくるの早くなってきたし…」
うちの母以上に私を女の子扱いする久美子さんへの交渉はなかなか大変だった。
でももう決まったことだし、代わりにやりそうな人もいないから、となんとか納得してもらった。
正直私よりもコウのほうが「お菓子あげるからついておいで」とかいわれたらにこにこしながらついていきそうだし、見た目だけはいいんだから危ないと思う。
だから「もし外が暗かったら部活終わったコウと合流して一緒に帰ってきてね」という言葉は右から左に流すように曖昧に頷くだけにした。
文化祭の準備っていうのは、思ったより大変だった。
委員会に入ると、それまでなかった新しい人間関係が、築かれるわけなのだが、そのせいで作業の合間に聞かれるのはもっぱらコウのことだった。
私は装飾の係に割り当てられたため、非常に女子率が高く、同級生から後輩まで「倉本くんは、」「倉本先輩は、」っていろいろ聞いてきて正直うんざりせざるを得なかった。
大体の質問は血液型だの誕生日だのありきたりな質問だったので流れるよう答えが出たんだけど、1つだけ今でも印象に残ってる質問がある。
「立花先輩からみた倉本先輩ってどんな感じなんですか?」
2年生の女の子だったと思う。
それまではコウに対する質問ばっかりで、私はそのとき初めて私に対して質問をされた。
どんなっていわれたら罵詈雑言しか出てこないわけなのだが、もちろん彼女たちの前でそんなことをいえるはずもないので、どう返そうか悩んでいると、別の子が「ほら、立花先輩困ってるじゃーん」と笑って流してしまったので、私は回答を有耶無耶にした。
私は結論は出せたものの、実際コウに近寄れてないので見極めるも何もない状態だった。
なんというか、見極めるといっても一体何をすればいいかなんてさっぱりわからないため結論を出してから停滞したまんまだったのだ。
しかし、私から見たコウについて考えるというのは、非常に大きな第一歩となった。
最初のコウは私にとって天使だった。
なんていうか、一緒に遊ぶことも許されないような遠い存在。
でも少しずつ打ち解けて話すようになって、だんだんと生活の一部みたいになって。
それからだんだんと男の子っぽくなって、また遠くなった。
コウはまるで雲みたいだ。
そこに確かにあるように見えて、動きだってそんな速くないのに、全然届かない。
ぷかぷかぷかぷか浮いてる。
…頭の中で雲の上に乗るコウを想像すると似合いすぎて笑う気にもなれなかった。
と、いうかロマンチストな自分はこの頃も健在だったんだなって思うとすぐに土に埋まりたい。
兎にも角にも、私はこの質問に自分なりに回答を導き出したことにより、より冷静にコウを見ることができたのである。
でもまぁ、多分この段階を経てしまったことによりこの後やり直しの効かない大きな間違いへ自ら体を投げ打つことへと繋がるとは夢にも思っていなかった。




