慈善事業
前のお話が短かったのでもう1話あげます。
中学に入っても、私とコウが幼なじみっていう話は誰にいったわけでもないのに有名だった。
そのせいか、コウを好きな女子は自然と私に寄ってきた。
大した会話もしていない私とコウだったので体育館裏に呼び出されるとかそういうことはなかったけど、どんな女子が好みなのかとかそんなん聞かれたって知るわけがないので代わりに「クラッシックよく聞いてるよ」とか「誕生日は3月3日だよ」とかそういうのを教えれば大抵の女子は満足して帰っていった。
一番困ったのは物を自分の代わりに渡せっていうものだった。
私は正直コウと話したくなかったし、会うのも嫌だった。
でも渋ると「もうしかしてこいつも狙ってるんじゃないか」とか変な勘ぐりを入れられるのでいつも淡々と受け取って彼に届けていた。
直接渡せっても思うんだけど、私を頼ってくる子はなんていうか…気が弱そうな子が多かった。
こっちが応援してあげちゃうようなタイプの子。
「君みたいな可愛い子ならコウじゃなくてもっといい男いるよ!!見た目に騙されてるよ!!」なんてもさすがにいえないし、ヘタレな私は慈善事業だと思って割り切っていた。
救いなのはコウが別のクラスだったっていうことで、私は陸上部で朝練があり登校時間なんかも一切かぶらなかったため会うのはブツを渡すときだけだった。
教室の中のコウはいつも誰か女の子に囲まれていたと思う。
それは別に会話をしているわけではなくて、女の子たちがコウに話しかけて、それをコウがにこにこと聞いてるって感じだった。
その女の子たちの姿が昔の自分と重なり、切ない気持ちに何度となくなったのを覚えてる。
それは昔遊んでいたおもちゃを弟とか妹に取られたような気持ちととても似ているものだと思う。
私には弟も妹もいないから、想像でしかないけど。
まぁそんなわけで私は体の良い運び屋として最初は扱われていた。
事件が起きたのは中学に入学してから半年ほどたったときである。
────その日は、雨が降ってた。
「立花さん、ちょっといい?」
そのときは昼休みで、私は友達の柿本筑紫と一緒に他愛のない話をしていた。
筑紫とは中学に入って隣の席になり、まったくコウに興味を示さないことに好感を持ち、仲良くなった。
そんな筑紫と仲良く会話をしていたわけなんだけど、そこに隣のクラスの気の強そうな子が声をかけてきた。名前は覚えていない。
でもなんていうか、雰囲気が穏やかじゃなかった。
私は彼女と話した記憶がなかったし、間接的に何かをした覚えもなかったんだけど、ヘタレだったので首を横に降ることはできず、素直についていくことになった。
行き先は屋上の手前の踊り場だった。
雨が降ってたし、もともと屋上は入れないように施錠されていて、人々がもっぱら呼び出しに使う場所はこの踊り場だった。
そしてどういうわけか私を呼び出した彼女以外に何人かが一緒についてきていた。
とにかく私の頭の中はパニック状態で、そのときいわれた言葉なんて断片的にしか覚えてないけれど、内容を要約すると次のような感じになる。
『友達があんたに倉本浩太宛に手紙を渡すように頼んだ。そこには告白するために日時と場所を記していていたが、倉本浩太は来なくて、ずっと待っていて運悪く夕立に降られて友人は風邪を引き高熱を出して寝込んでいる。他にも倉本浩太にすっぽかされた子は何人もいる。あんたは本当に手紙を渡してるのか。もうしかして倉本浩太が好きだから誰の手紙も渡さずに捨ててるんじゃないのか』
まぁ確かざっとこんな感じだったと思う。
私は唖然とすると同時にうんざりした。
こいつらはコウの何を見ているんだろう。
コウを見てればあんなマイペース自由人が手紙をすぐに読んだり指定された時間にきちんと来るなんてありえないってすぐにわかるじゃないか。
私の頭の中にはそんな言葉が駆け巡って喉元まで来ていたけど、最後に残ったヘタレ力がそれに声を乗せるのを止めた。
今振り返ってもひどい話だ。
慈善事業をして怒られるなんてことが普通あるのだろうか。いや、ない。(反語)
そのとき私は強い怒りを覚えた。
もちろん目の前の何もわかってない彼女たちにも大変腹が立ったが、一番怒りの矛先が向いたのはコウだった。
なんであいつのせいで私がこんな理不尽なことをいわれなきゃいけないんだ。
意味がわからない。
その後のことはぼんやりとしか覚えてない。
確か踊り場で集まっているのを見つけたコウと同じクラスの女の子が事情を聞いて、私を助けてくれた気がする。
コウと同じクラスの子は私がよく運び屋として訪れているのを知っていたし、どうやら今回私を呼び出した子の知り合いでもあったらしくて、割りとすんなりと納得して「勘違いしてごめんなさい」と詫びをいれてくれた…と思った。
もちろん私の怒りはおさまっていなかったし、ありとあらゆる罵詈雑言が浮かんでいたけど、ヘタレな私がそれを口にできるはずもなく、「気にしてないよ。大丈夫」と笑い返した…はず。
ここにきて曖昧な表現が増えているのだが、許してほしい。
とにかくこのときの私はなんというか…怒りのゲージがぶっ飛んでいたのだ。
筑紫もあの時のことはよく覚えていて、「『なんともなかったし大丈夫だよ』って笑ってるのに目がまったく笑ってなかった」という。
それまでも何度も「なんで私がこんなことしなきゃならんのだ」って思ったことはあった。
あったけれど、私がコウにめっぽう弱いのはなかなか治すことができず、仕方なしに続けてきた。
しかしそれで私が責められるなんて意味がわからない。
原因のあいつがへらへら笑っててなんで私が、なんで私が、みたいなことがぐるぐる頭を駆け巡って、もうぐちゃぐちゃだった。
私はもう我慢ならなくて、雨の日は部活がミューティングに切り替わり早めに終わるのをいいことに、帰宅後倉本家に直行した。




