不潔
学校ではほとんど話をしなくなった。
話すのはせいぜい廊下で会ったときくらいだ。
話すっていっても挨拶だとか親からの伝言だとかそういう事務的なものでしかなかったけど、それが私達が幼なじみだと周りが認知できる行為だった。
小学6年生になった頃には、コウは学年で一番かっこよかった。
幼なじみの贔屓目で見てるからかもだけど、やっぱり一番はコウだった。
身長が伸びてきて運動も人並みより少し上くらいまで出来るようになってたし、何より頭がよかった。
話すことはチンプンカンプンなときもあるけど休み時間に窓際で英書を読む姿は絵になるし、致命的な欠点の名前の記憶力の無さだって根気強くコウに話しかける積極的な女の子の前ではまったく関係のないことだった。
最近の小学生っていうのはやっぱりませていて、普段そういうことに疎い私の耳にもコウが告白されただの誰々がコウのことが好きだのっていうのがよく入ってくるようになった。
噂の中のコウはまるで現実味がなくて、私の知っているコウとは違う人間みたいに聞こえた。
思えば私はコウの何を知っていたんだろう。
ずっと一緒にいたけど会話なんてたまにしかしなかった。
コウが私に話しかけてくることなんて滅多にないし、私がコウに話しかけてもにこにこ笑って「そうなんだ」とか「へぇ」って聞いてるのか聞いてないのかはっきりしない相槌が返ってくるだけだった。
だからコウの噂も正直最初は信じられなかった。
『倉本浩太は断らない』
その言葉を友達から聞いた時、きょとんとした。
確かに私はコウが「嫌だ」とか「やりたくない」とかって拒絶を示したのを見たことがなかった。
というか、正確には私はコウと一緒にいてもコウがそのときしたいことを見てるだけだとかそんなことしかしていなかったのだから、そんな場面に出くわすわけがなかった。
でもまぁ、さすがに内容は察することができた。
虫取りに誘われたのを断らないとか、連れションを断らないとか、そういうことじゃないっていうのははっきりとわかってた。
コウは女の子に求められた行為を1つも断らなかったのだ。
抱きしめて、といわれたら抱きしめたし、時にはキスを求められることもあったらしく、それすらも断らなかった。
その内容を理解して、私は素直に「不潔だ」って思った。
当時、近所の夫婦が離婚して奥さんが出ていったことがあった。
その理由は旦那さんが何人もの人と浮気してっていうありきたりな内容ではあったが、私にとっては非常に衝撃的な出来事だった。
その家の旦那さんをきちんと見たことはなかったが、奥さんとは何度も顔を合わせて会話していた。
久美子さんほどではなかったけど、とても可愛く笑うふっくらとした奥さんで子供に優しかった。
学校帰りのコウと私によくお菓子をくれたし、趣味の手芸で服とかを作って私にくれたことも何度もあった。
そんな優しい奥さんを裏切って昼ドラみたいな不埒なことをしていた旦那さんを私は『汚い』って感じた。
残ったのは旦那さんであったから、離婚してからはゴミ捨て場とかでたまに見かけるようになったけど、私はきっと彼をゴミでも見るような目でしか見てなかったと思う。
別にコウが何人もの女子と関係を持つとかそういうことがあったのかは知らない。
でも誰とでもそういうことをするのだとしたら、コウも彼と一緒でとても『汚い』ものに思えてしまった。
私は少しずつコウのことを彼を見るのと同じような目で見るようになっていった。




