お庭でゆっくりと
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「皆さん、これから整理券をお配りします。お手数ですが一列に並んでください!」
白いクマ子ちゃんはよく通る声で、わんさかと店に入ろうとするクマ波を一声で止めました。
「何だ整理券って?」
「ひどい、早くきたのに!」
グリズリーみたいなクマさんと、品の良い若奥様風のクマさんは口を尖らせました。
「ご安心ください。早く来た方から整理番号を渡しますので大丈夫です。ただこの通り、店はとても狭いので一度には入れません」
白いクマ子ちゃんはニッコリと微笑んでいいました。
彼女の笑顔はとっても可愛いのですが、不思議と大人でも有無をいわせない迫力がありました。
なので強引なグリズリーのクマさんも、若奥様風のクマさんも、白いクマ子ちゃんの説明は、黙ってしまいます。
「では整理券の順番にお呼びします。お待ちいただく間、裏庭でお客様たちの席を設けますので、アカシアの花を眺めながら、お茶とお菓子を頂いてゆっくり、くつろぎください!」
「え、お茶がでるのか?」
「まあ、お菓子も?」
グリズリーのクマさんと、若奥様風のクマさんの顔がパッと明るくなって、白いクマ子ちゃんに聞き返しました。
「はい、そうです。お茶は店で販売してるアカシア茶で、とっても甘い香りがしてとても人気があります」
「おお、私はそのお茶も買いたかったんだ。アカシア茶が飲めるとは!」
「まあ、あの黄色いお花が咲いているお庭に入れるの?」
今度は他のクマ客たちまで驚いています。
「はい、裏庭でお手数ですが待っていてください。すぐに呼びますから」
と今度は黒クマ君も笑顔でクマ客たちに返事しました。
「だったらそうだな~、俺は整理番号、後でもいいよ」
「私も。ゆっくりお茶が飲みたいわ。ずっと立ってて疲れちゃったし」
とグリズリーのクマさんと若奥様風のクマさんまで同意しました。
あらまあ、さっきはあんなに『早く入れろ!』と騒いでいたのに。2頭ともサービスでお茶が飲めると聞いたからか現金なものです。
とはいえこのアカシアはちみつ店は、年中アカシアの花が咲いていると、王国中から噂されていたので、ひと目アカシアの花が咲く庭が見たくなるのもわかります。
「はい、お客様の好きな整理番号を渡しますよ。せっかくわざわざ遠方からお越しくださったのです。お疲れでしょう。──どうぞ庭でゆっくりしていってください。アカシアはちみつをふんだんに使った、自家製マフィンもとっても美味しいですよ!」
白いクマ子ちゃんがハキハキと返事しました。
はちみつケーキ以外のお菓子も、ちゃっかりと宣伝してさすがです。
「おお、それはいい考えだ!」
「素敵、はちみつマフィンもあるのね」
とグリズリークマさんと若奥様風のクマさんは大喜びです。
他のクマ客一同も皆、納得してくれて、ようやく騒ぎは一旦おさまりました。
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「ねえねえ白いクマ子ちゃん!」
と黒クマ君は白いクマ子ちゃんが整理券を配っている時に、ゴニョゴニョと彼女に耳打ちしました。
「なあに黒クマ君?」
「整理券は良いけどさ、お客さんとっても多いよね。裏庭のテーブルやイスはお客様の分あるの?──あとね、誰が給仕するのかな? 僕、それとも白いクマ子ちゃん?」
黒クマ君が心配したのも無理はありません。
ざっとみてもクマ客は100人以上いました。
「それは大丈夫。昨日の夜から店長と相談してたの。すでに裏庭には、お客様のテーブル席も用意してあるのよ。あとね、優秀な給仕も待機してるから」
「え、そうなの?」
くろくまくんは薄茶の大きなお目々をパチパチ瞬きしました。
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整理券を全員に配り終えると、2頭はクマ客たちを裏庭に案内しました。
そこは、なんとまあ別世界みたいでした。
大きなアカシアの木が数本あり、裏庭の回りをぐるりと辺り一面、囲んでいます。
全てのアカシアの木が満開で、それはそれは見事な光景でした。
橙色や黄色の可憐なアカシアの花びらが、風にチラチラと舞い、朝のおひさまの中でキラキラと輝いています。
庭には真っ白なガーデンデッキ用のテーブルとイスがあちこち用意されていました。
テーブルの上にはモスグリーン色の、テーブルカバーが敷かれており、白いポットとおそろいのティーカップセット、お皿と白ナプキンがそれぞれイスの分だけ用意されていました。
茶器はおひさまの光に反射して、ピカピカと白く輝きを放っており、とっても美しいです。
裏には、さながら春のガーデンレストランのようでした。
「おお、これはいい!」
「まあ、何て素敵なお庭なのかしら?」
「驚いた、アカシアの花がこんなに満開なの、初めてみたぞ!」
「すごい、庭中が黄色い王国のようだ!」
客グマたちは感嘆の溜息がもれた後、口ぐちに裏庭を褒めました。
「それでは15番までの整理券の方は、私たちと一緒に店内へご案内します。他の方はテーブルについて、お茶を召し上がってお待ちくださいね」
白いクマ子ちゃんが、クマ客たちをテキパキと誘導します。
クマ客たちは、それぞれ番号札の席に着きました。
その時でした──。
庭の隅の物置小屋が開いてブーンとすごい音がした途端──。
突然、たくさんのミツバチたちが集団になって、こちらへ向かって飛んできました!
「きゃー!ミツバチだ!」
「わあ、大変だ、刺されるぞ!」
「逃げろ!」
さあ大変です、一難去ってまた一難!
今度はミツバチの大群がぶんぶんと物凄い早さで飛んできました。
ミツバチたちは、アカシアの花の甘い匂いの蜜をかぎつけて、やって来たのでしょうか!
あわや、恐れおののく黒クマ君、そして客クマたちです!
※2026/4/17 修正済み




