第二話
周りを警戒するように表を覗き、誰もいないことを確認し、おそるおそるボストンバックを引きずり出したとき隣の玄関のドアが開く。
「あら、中村さん」
隣の吉野さんの奥さんだ。なんだかいつもと様子が違っている。
「中村さん、出かけられるんですか?」
「ええ、ちょっと・・・」
「ちょっと、聞いて下さいよ。ウチの主人ったらまた女作って帰ってきましたのよ」
どうやら、夫婦喧嘩の最中だったようだ。
「それで私も、もう頭にきて出ていこうと今、荷物をまとめてたんですよ」
「は、はぁ・・・」
圭司は吉野さんの奥さんは苦手である、話し出したら止まらないのだ。
「中村さんとこはいつも仕事と家庭を守ってるって感じでいいわよね。子供もいないのに立派よねぇ」と圭司を羨ましそうな顔で見つめる。圭司は少し照れながら
「い、いえ・・・」と答えるが、その嫁も今はこのボストンバックの中にいる・・・と、ぼうっと考えるが、そんなことより、この場をなんとか切り抜けなければ。とそんなとき、部屋に鍵を忘れている事に気がついた。
相変わらず家庭の不満を話し続けている吉野さんの奥さんに
「・・・すいません部屋に鍵を忘れてきましたので・・・」
興奮してるのか、そんな事も耳に入っていないように話を続ける吉野の奥さんを無視して、圭司は部屋に鍵を取りに戻るが、ボストンバックを外に置いてきているので、圭司の昼間着ていた背広から急いで鍵を取り出し、あわてて外に戻る。
玄関に鍵をかけるが、吉野さんの奥さんはまだ夫婦喧嘩を続けているようだ。奥さんが顔を玄関に突っ込み「もう出ていきますよ!」「もう帰りませんから!」と大声で話している。吉野さんの主人も奥から怒鳴っているが何を言ってるのか聞き取れない。
圭司はまた捕まったらめんどくさいと思い、ボストンバックをつかみさっさと表に歩いて行った。
マンションの前まで行くと外はもう真っ暗だった。圭司は自分のセダン車のトランクにボストンバックを放り込み運転席についた。大きく一息つき、車を走らせる。
なかなか落ち着かない圭司はラジオをつける。軽快な音楽にのって圭司も少し落ち着いてきた。
「続いてニュースです。今日、午後五時頃、広島で殺人事件がありました・・・」
圭司のニュースではないのだが、「殺人事件」という言葉に反応しラジオを消す。
再び汗をかき始める圭司。




