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炎のモリビト。  作者: うし
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遠征へ向かう。

目が覚めたらまずやることは観察だ。隣の部屋に移動し、水槽へ入れた植物たちの様子を見る。


 「おっと、ヒーターが弱まってるな」


 本来炎樹の森で過ごす彼らは温度の低下に弱い。そこで俺が考えたのが火を使って空気を温めるヒーターだ。


 原理は凄く簡単だが、時折火を灯しなおす必要があるのが欠点かな。これと水槽によって湿度を保ち、植物を隔離することができるようになった。


 この森が広がる原理が分かれば、衰退し始めた森の外れをどうにか押しとどめ、炎樹の恩恵を受けた大地を増やすことができるようになるかもしれない。


 

 「フォルテ、お前も飽きない奴だな。そんなことをやっても、炎樹の森はあるがままだ」


 「父さん。それでも、これが俺が与えられた役目だと考えてるんだよ」



 父ラーゴン・フレイムは先の大戦で炎の守人(もりと)統括者として最前線で戦った。俺も当時11歳でこの大戦に参加することとなった。もちろん、同じ晴れの日のティム、アルシャナ、クーリド、サナも大戦に参加した。


 元は同じ炎の民だった奴らを炎樹の元へ送るため、灰へ還したのだ。



 鉄の民は炎樹の力で大地を溶かし生きる者たちの総称だ。


 はるか昔は共通の民であったが、ヴァルストス・フレイムが炎樹の力を他者に利用し、支配しようとしたことから始まった戦によって分離した部族だ。


 ヴァルストスは炎樹の実(エターナルフレイム)を2つもいだと伝わっている。その力は強大なもので、今だに鉄の民は炎樹の実が無くとも火を灯した子どもが生まれることがある。


 先の大戦でも俺と同じような背格好の鉄の民が、炎の民の大人たちを大量に灰へと還した。



 しかし、余りにも短命なうえに蝕みになり易い。これは炎樹の呪いだとし、真なる火を求め度々炎樹の森へ侵攻してくるのだ。


 鉄の民も必死なのだ。ヴァルストスから始まった呪いははるか昔の出来事。今ではその思想を持つ者も少ないと聞く。ただただ、生まれてくる子どもたちを生きながらえさせるために、炎樹の火から開放されたがっているのではないか。


 俺が大戦に参加して感じたこの考え方は、炎の民には受け入れられなかった。



 「お前があの大戦から夜の人となり、始まりの火の役割を果たそうと努力しているのはわかっている。だがな、10年前大戦が終結してから鉄の民の襲撃がいまだに止まない。青い火や影は最前線で戦に身をさらし続けている。クーリドは俺の後を継ぐ炎の守人になるやもしれん。ティムすら守人として東の森砦にいるんだ」


 「わかってる」


 そうだ、大戦は終結した。多くの犠牲を出して。それでもなお鉄の民は諦めなかった。その後も続くゲリラ攻撃に炎の民は疲弊している。


 大戦前年の俺ら晴れの日が5人、そこからこの5人を超える子どもが晴れの日を迎えることは無かった。


 この前の晴れの日がやっと3人なのだ。それだけ炎樹の森は力を弱めていると炎家様が言っていた。


 

 「まぁいい。俺はこれから大規模な遠征に出かけることとなる。炎樹の森から北へ向かった先にある遮りの山が鉄の民の拠点となっていると情報を得た。あそこは大地が起き上がった場所だからな、大地を溶かす鉄の民には打ってつけだろう」


 「遮りの山か。北は、寒いからな……」


 「そうか。お前は、せいぜい森と共に生きるがいい」


 

 実の父親にこの言われようか。まぁ、そんなもんだな。


 すべてのヒーターに火を灯し終わった。



 扉を開け出て行く父を俺は見送った。大きかったはずのあの扉は今ではただの扉になってしまった。この家も広かったはずなのに。


 そういえば父も年を取ったな。頭の白髪を数えればきりがないだろう。


 家にいても腐るだけだな。森に行くか。




 炎樹の森は炎の民にとって生きる場所だ。この場所を歩くだけで体の中の火がドクドクと躍動する。


 「相変わらず森をふらついてるの?夜の人」


 気配が無かった。


 「びっくりさせるなよ。青い火」


 「だって、フォルテ君この森を歩くのに無防備すぎるから。いまだに炎の民は戦争をしているっていうのに」



 同じ晴れの日のサナ・フレイムは大戦の英雄だ。“日の出”のキノに評された最も熱く、最も静かな火、青い火はまさに勇気を現すに相応しい火だ。


 類稀な火を操る能力の高さと、冷静沈着で的確な判断力で南をたったの2人で守った。


 他の大人たちが手も足も出なかった、鉄の民の火を灯した子どもたちを、瞬く間に灰へと還していった。


 

 子どもの頃は気弱な女の子だと思っていた。俺が炎の守人として守ってやるんだくらいに思っていた。


 それが今では逆の立場になり、こうして背後を取られる始末だ。


 「フォルテ君の考え方、私はとっても好きだよ。この炎樹の森はいろんな生き物が息づいてて、呼吸をするだけで体の中の火が跳ね上がるもの。私では名前も分からないこの植物や、そこかしこに感じる生き物の気配。フォルテ君はわかるのかな」


 薄赤い葉がフサフサとした毛で覆われている植物を青い火が撫でる。


 この森の植物は火の強さに影響される。青い火の強力な力にあてられてメラメラと発光すると真っ赤な花を咲かせた。



 「この植物はベルゴニア・クロロスティクタ。火を上手く灯してやるとこうやって花が咲く」


 まぁ並大抵の奴が触っただけで、なんてことは絶対にありえない。青い火だからこそというべきか、だけどこの凄まじい力を得たのはあの大戦の結果だ。喜ばしいこととは言い難い。


 「ほほ~う、ベルゴニア・クロロスティクタ。噛みそうな名前だね」


 「ああ、誰が付けたのか知らないが、なかなかなネーミングセンスだよな」



 「ねぇ、フォルテ君は今度の遠征に参加しないの?」


 「唐突だな。そもそも、俺はさっき父親から遠征のことを聞かされたくらいだぞ。この俺じゃみんなの役には立たない」


 ベルゴニア・クロロスティクタの真っ赤な花が萎み、光が弱まる。いつの間にか触るのをやめた青い火の灯しがなくなんだ。


 というよりもいつ動いたんだよ。


 「今お前がいつ動いたかすら分からなかったのに、いまさら戦いに参加しても灰に還されるだけだ。それに、俺の火で生き物を灰へ還すことはやりたくない」


 「それは仕方ないよ。私はこの10年間ずっと鉄の民を灰に還し続けてきているし、なんだったら炎の民すらも灰へ還しているのよ」


 目力。そんなものがあるのかは知らないが、青い火から感じる火の鼓動はとても強い。目線を合わせると体の中の火が揺らめいてしまう。


 平常を保ち、温かみを与えるための火を、動かぬ火を灯し続けることが苦手だ。火を動かせば動揺がすべて青い火にばれてしまう。



 「フォルテ君も私のことを青い火と呼ぶのね」


 「火を読むな。それに、役を得た者はその役の名で呼ばれるのが普通だろ。俺だってこれでも夜の人だぞ。炎の民を生む大切な役だ」


 「わかってるけどさ、なんか寂しいじゃない……。こういうのって」


 

 岩に腰掛けた青い火……、サナが右手に灯した青い色の火は音も無くフワフワと漂う。


 その光は目を焼く。


 「そういえば、私たちが晴れの日を迎えて炎の民になったとき、一番最初にこれができたのってフォルテ君だったよね。あの時、フォルテ君が出したあの火を私はいまだに忘れない。あんなにあったかくて触りたくなる火、私の火はこんなにも冷たいのに」


 灯した火を漂わせるのは子どもが炎の民になって始めて学ぶ火の操り方だ。


 暴走させず、かつ消えることの無いように漂わせるのは実は難しい技術だと知ったのは、大戦中に始めて鉄の民を灰へ還した時だった。


 「鉄の民が、ただ蝕みにある子どもたちを治したいだけだなんじゃって。フォルテ君が言い始めたとき、みんなは馬鹿にしてた。あいつらは炎樹の力を使って自分たちに都合のいい世界を作ろうとしているんだって。だから炎樹に呪われているんだって」


 サナの青い色の火がバチバチと弾ける。


 飛び散る火花が地面に付くと、その跡が残る。


 「今度の遠征、サナは行くんだろ。いいのかここでグズグズしていて」


 「うん。私は今度の遠征には参加しない」


 驚いた。大戦の英雄が参加しないのか。


 「よく炎の守人たちが許したな」


 青い火の視線が泳いだ。それでも火からサナの心が読めることは無かった。


 さすがと言うべきか。


 「私はアルシャナと別働隊としてまた南へ下ることになってるの。鉄の民にまた火を灯した子どもが生まれたと噂が流れてね、大事になる前に叩き潰しに行くことが正式に決まったの。遠征と同時に行うのは北と南から炎樹が狙われることを避けるため」


 

 「青い火と影が行くのか。だから2人だけなのか。2人だけで」


 2人だけで敵が待ち受ける南へ下る。それはとても危険なことだと炎の守人はわかっているはずだ。


 南は焼け爛れた灼熱の大地が待っている。森のない乾いた大地から、鉄の民は大地を溶かして武器を作る。


 「また行くのか」


 「そうね。また行くの」


 「わかった。ちょっと待ってろよ」


 この先の小川に、生えているはずだ。


 ほらあった。湛え草はそんなに珍しい草ではないからな。


 

 「ほら、これは湛え草だ。こうやって密閉した状態で温めるとストレスを軽減してくれる蜜を出す。サナもやってみな」


 ガラス瓶に摘んだ湛え草をサナに渡した。


 握り締めたガラス瓶がほのかに光ると湛え草がトロッとした蜜を沢山だす。


 「本当だ、凄いね。しかも凄く甘いにおいだね」


 「ああ、甘い蜜だぞ。それに、お前の火は冷たくないことがこれでわかるだろ。温めなければ湛え草は蜜を出さない」


 

 後ろを歩くはずなのに、それでもあたかもそこに居ないかのような気配。植物が茂るこの森を音も無く歩くのはそう容易いことではない。


 サナがどれほど優れた守人なのか。森を歩く姿からなら分かる。


 小川のせせらぐ音、風に揺れる葉が擦れカサカサと囁く。


 サナの伸ばした髪がそよぐのを感じる。


 風が後ろからすり抜けていった。



 「なんか泣きそうだよ……。苦し紛れに頼ってみて、慰められて……。それでも南下はしなければならない。鉄の民を灰へ還すために……」


 「全力でやればいい。灰へ還せば、また炎樹を廻って還って来れる。サナが生きて帰ってくればいいよ」


 なんか泣きそうって、泣いてるじゃないか。


 そう思ったらいつの間にか抱き寄せていた。

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