~雪原~ 宇宙からの圧力
『ノア』の港ブロックでは侵略軍との条約手結を発表する会見が開かれていた。会見というよりは侵略軍母艦を背景に防衛大臣であるジャック・ニコルスの演説を聞くようなものであるが。
記者団は民営、国営とはず様々な媒体の情報広告会社が集まっている。それだけ刺激的なスクープが『ノア』にないのである。記者団が詰まった席の後ろには数台のカメラが設置され、壇上にいるジャックの前にも群れを成すようにしてマイクが束ねられている。
いくら時代を積み重ねても情報流通の手段は変わらないものだ。無重力の中にあっても、機材は従来と変わらないアナクロなシステムであり、無人の会見場など出来上がりはしない。情報を流通させるにしても、人を集め、その人たちの操作によって情報を錯綜させる必要性もあるのだ。
時代の停滞した『ノア』の市民を揺さぶる機会になる。
「条約締結によってこの母艦は我々に譲渡されたわけで、月の勢力は我々に謝罪の意を示しております」
ジャック・ニコルスは饒舌になって、後ろに控える鏡面装甲が反射する母艦をふり仰いだ。譲渡された母艦の周りには作業用の重機〔ボール・ボーイ〕が飛び回り、解体と解析の作業が進められている。
「それだけでは市民は納得しません」
一人の記者が鋭い意見を放った。
また別の記者が訝しんだ声で言う。
「今回の条約締結に関して、市民の七割が反対を示しています。防衛強化に伴うことへの懸念はどう解消なさるおつもりで?」
ジャックは記者に視線を向けると、不敵に笑った。
懸念を抱く市民は『ノア』そのものへの襲撃や宇宙での戦闘を知って自分たちが危険にさらされると思っているからだろう。これまで対岸の火事程度に認識していた人間が、危険分子を取り込んだことで少しは動揺を見せていることは願ったりかなったりだ。
「解消も何も――」
ジャックは諭すようにして、壇上の台に手をついた。
「宇宙戦力の筆頭ともいえる月の部隊と協定を結べば、すべからく『ノア』への危害はほとんどなくなるのです。我々も、そして彼らも、求めているのは惑星『ファルファーラ』の環境なのですから」
「それだけでは納得しないという声にはどう対処なさるのです」
「納得のいく説明をお願いしたい」
記者団は揚げ足取りとばかりに声を上げる。論理で詰めただけでは納得するものではない。相手は同じ意志を持つ生き物である。すべてが論理的な事柄で解決できるものではない。
ジャックは記者団の探り方に内心嫌気がさすも、答えないわけにはいかない。
「では、月の軍部の方にご出席を願いましょう」
そういって、彼は手持ちの端末でどこかに連絡を取った。
記者団が訝しんでいると空気を震わせるノズルの音が響いた。
「上だ!」
記者だの一人が頭上を指さして叫び、カメラも一斉にその方向を向いた。
鏡面装甲の母艦を超えて一機の〔AW〕が飛び出してきた。〔ボール・ボーイ〕がまるで手毬のように小さく見える巨体で、空気を震わせるノズルの熱風に会場の記者団たちは姿勢を低くした。
〔カムシャリカ〕とも〔アルファ・タイプ〕とも違う機体。熊のような大きな手、ブレード状の脚部。か細い腹部には装甲と言えるようなものはない。不釣合いに出っ張った胴体にカナード翼をつけたような頭はどこかコミカルである。
「これは『ノア』のマザーデータバンクより再現されたアーム・ウェア〔ガム・ガラン〕です」
ジャックの口上はノズルから吹きすさぶ風でかき消される。
しかし、そんなことはお構いなしと背後で着地する〔AW〕、〔ガム・ガラン〕は肩身が狭そうに蛇腹の腹部を折りたたんで上体を前に突き出す。それが丁度、ジャックの頭上に天蓋となった。
記者団も下半身と上半身のアンバランスさに目をむきながら、脇を占めるようにして構えていた腕部が下ろされるのに注目を移した。
その手には人影らしいものが見えた。
「そして――、おお、わざわざ、あなた様がいらっしゃいましたか」
ジャックは壇上近くに下ろされたマニピュレーターから降りる人物を見て、芝居がかった声を上げる。
その人物は『ノア』の人間と変わらない姿をしていた。手足は一対、目と耳もふたつ、鼻と口は一つ、毛深いわけでも鱗があるわけでもない。ジャケットを着て、豪奢な上着には勲章を讃えたバッチをしている。手には杖をしているが、マグネットブーツでしっかりと床を踏みしめジャックの隣に立った。
「ご紹介します。月の政治を取り仕切る、シェルミナード宰相です」
宰相、という単語を聞いたとたん記者団はどよめいた。
「あの老人が?」
「替え玉じゃないのか?」
そういう不信感が伝播する中で、ジャックは予想通りの反応をする彼らを笑った。
その中でジャックは月の宰相、ウッグリン・シェルミナートをマイクが並ぶ台の前に誘導して『ファルファーラ』語で耳打ちする。
「アレを披露できますかな?」
「もちろん、ですとも」
ウッグリンはしわくちゃな顔を笑顔でさらに歪めると、すっと手を挙げた。
その挙動に気づいた記者団がその手に注目した。
その時、後ろのカメラの一つが床の留め具が音を立てて外れた。
「何だ!?」
カメラマンの驚愕の声を聴いて記者の何人かが振り返った瞬間、総重量五キロはあるビデオカメラが宙を舞った。
無重力の中にあるとはいえ、記者団の頭上をまるで鳥のように飛び、円を描き、そして、ウッグリンの掲げた手の内に収まる動きは怪奇である。
記者団は度肝を抜かれて、しばらく唖然としていた。
「え? なんで?」
カメラマンはぽつんと立ち尽くして、ウッグリンの横にちょこんと立つカメラ一式を見つめた。
「どちらの放送局かな?」
ジャックは意地の悪い聞き方をして、カメラマンはハッとなる。
「民放のジェーナル・モアです」
「なるほど。では、見てみよう」
ジャックは壇上に敷設されている立体モニタを起動して、民放チャンネルを回した。
そして、該当チャンネルになるとそこには間抜け面をさらすカメラマンの中継映像が駄々漏れである。その映像が加工品でない証拠に、中継映像と記者団の顔はタイムラグなしに放映されている。『ノア』の技術ならばタイムラグなしで放送は可能である。
だからこそ、この映像が現在進行形で映されていることを否が応でも認めなければならない。
「貴社には後々、謝罪を入れよう」
ジャックはそうカメラマンをフォローして話を進める。
「映像をご覧の市民には何らかの仕掛けがあると思われるでしょうが、そのような一切の仕掛けはありません。あるとするなら、彼ら月の民が念動力のような力が使えることでしょう」
「我々は――」
ウッグリンが『ファルファーラ』の言葉で話すと一度むせ返って、言葉を区切る。失敬、と手を挙げて数度のどの調子を戻すために唸る。それから調子が良くなると、マイクに顔を近づける。
「我々は先祖代々、あなた方がいう双子月に暮し。宇宙からくる脅威に対して防衛策を講じておりました。いやはやしかし、我々もまた過剰な防衛行動を取った。皆に変わり、このウッグリン・シェルミナート、深くお詫びを申し上げる」
ジャックが翻訳する横でウッグリンは深々と首を垂れて見せる。
仮にも宰相を名乗る人物がこうも簡単に首を垂れる映像を取らせることに記者団も視聴している市民ですら怪しまないわけにはいかない。
頭を上げたウッグリンはため息をつくと後ろに控える〔ガム・ガラン〕を見上げる。
「それから、この〔ガム・ガラン〕のフレーム構造には我々の技術が採用されております。が、それを上回る貴殿らの技術力には驚かされるばかりであります」
ウッグリンの腹を探るように誰もが息をのんだ。
「我々はあなた方の技術が『ファルファーラ』、ひいては我ら月の民にもよい力を発揮してくれると思い。ニコルス将軍の条約に応じたのであります。彼は紳士的だと評価できましょう」
ウッグリンはそう言っておどけて見せた。
それにはジャックも苦笑いを浮かべずにはいられなかった。翻訳した内容を自分の口で言うのだから。
「では、あなた方は『ファルファーラ』の原住民であると?」
記者の一人が質問するとジャックが翻訳し、ウッグリンに伝える。そして、ウッグリンの返答はジャックの口から出された。
「そうです。が、遠い昔に宇宙へ上がり、そこで都を築いたという話があるのですが、長くなるので割愛させていただく」
「超文明があった、ということですか?」
「そういうことです。そして、我々はその超文明と対等に戦っていたことになります」
ジャックは脅しをかけるように言った。
幾度かの衝突を経ている『ノア』と侵略軍は互いの能力をわかりつつあった。同時にその潜在能力についても。
ジャックにしろ、ウッグリンにしろ、条約を結んだの表面的なことでしかない。〔ガム・ガラン〕を製造して宣伝に使ったのにも技術的な探り合いも兼ねていた。
しかし、市民は言いようのない不安と安心があった。得体のしれない超文明や念動力を身に着けた人種を相手にするのは不気味である。そして、いつ寝返るのではないかと恐ろしくなる。
ウッグリンが口を開く。
「ですから、互いに近い能力を持った者同士手を取り合うことで『ファルファーラ』の解放に向けて尽力する方向を定めたのです」
「ではなぜ、『ファルファーラ』を軍事的侵略をしなければならないのです? もともとは原住民だったのでしょう?」
その記者の意見にジャックは待ってましたと、片方の口の端をこれでもかというほど釣り上げた。
ウッグリンもまた怪しげな笑みを浮かべて言う。
「我々は『ファルファーラ』に忘れられ、その使命を全うしているのに彼らは入植を拒んだのです」
そして、と間をためてウッグリンは続ける。
「彼らは『導師』の偽物をでっち上げ、自分たちに正当性があるように見せたのです」
これには記者団は小首を傾げる。
「正当性な血筋のことです。『ファルファーラ』を治めるにふさわしい存在、王権神授説のようなものです」
ジャックは後半堂々と言いつつも、ウッグリンの言葉を脚色した。記者団もそれで一応の納得をして頷いた。
「だが、我らが『導師』は常に月の民を束ね、今日に至るまで血族を絶やさなかった」
ウッグリンは『ノア』の言語を疑うことなく、怒気を含めて言う。
「では、あなた方の先祖というのは……?」
おずおずと記者の一人がきいた。
「そう。かつて『ファルファーラ』を救い、多くの種族を導いた『導師』様についていた種族」
そして、とウッグリンはすっと背筋を伸ばして宣言した。
「我らが『導師』さまは月におられる」
ウッグリンの一言に記者団は注目する。
正当な王族、とでもいうべき存在が今なお月の都にいる。いうなれば、歴史上の『ファルファーラ』の支配者の末裔がいることになる。
そこにジャックが嘆かわしそうに付け加える。
「そして、偽物を語るのは悲しいかなこの『ノア』から出ていった〔アル・シリーズ〕であることが、先の派遣で判明した。だからこそ、彼らとの争いは誤解によるものであり、ともに偽物の掌で踊らされたと言わざるを得ない」
「だが、我らは誤解だと認め合い。許すことを彼らは想定などしていなかっただろう。そして、ともにこの困難に望む所存をお伝えする」
ウッグリンはジャックの手を握り合った。
カメラマンたちはその瞬間を取り逃すことなく、配信していく。
「だが、市民の方々には不満もありましょう。ですので、精鋭攻勢軍隊による第一共同作戦をこの〔ガム・ガラン〕を使って実施する予定であります」
ジャックは雄弁に言って引きつった笑みを見せる。
この瞬間、『ノア』の市民たちから寝首をかかれる心配は薄れていった。老人の世迷言に付き合っていられない、と馬鹿らしく思えたからだ。
だが、それくらいに彼を利用する価値があると認識させたのである。
大衆はこの会見を茶番だと嘲笑しつつも、侵略軍の加入を拒む理由をなくしていた。考えるだけ無駄なのである。
* * *
「なんてプロパガンダをしているのかしらっ」
勇子は『ノア』から発信される放送を聞いて憤怒する。薄いスモークのサングラスに耳当て、カフェオレ色のコートにマフラーをする彼女は細身のトナカイのようだ。
「しかし、映りが悪い。音もひび割れておる」
「電離層だって安定してなければこういうことにもなるわよ。それにしても……」
勇子は一度言葉を区切って遠くに目をやる。東から差し込む低い太陽の光と梢の影が彼女の細身に落ちる。
「寒い……」
開けっ放しのハッチから張り込んでくる冷気に震え、雪化粧をした梢の合間に見える雪原の地平線を眺める。
まっさらな青空に低い太陽の輝き。雪原はその光を反射して、銀板のように煌めく。その眩い光は慣れないものには毒だ。強調される純白は容赦なく肌と目を焼くからだ。
桜たち一行は西大陸の北東端にまで来ていた。〔アル・スカイ〕は山麓の枯れ木が立ち並ぶ森にマントをまとって座り込み、まっさらな雪原を正面に据えていた。
「閉めればよかろうに」
シートに座って白い厚手の防寒具に身を丸めて震えるミュウが批難する。シートの暖房を最大にしながらも、耳当てに毛糸の帽子をかぶる彼女はぶるぶると震える。雪だるまのように着膨れした南国生まれの少女にはこの環境は辛い。
「寒いのは苦手だ」
「そういうわけにもいきませんよ」
出っ張っているハッチに立って、雪原を眺める桜が白い息を吐きながら振り返る。
いつものハンチング帽にメガネをして、派手な赤を基調とした防寒具に身を包んでいた。さらに手袋やブーツまで赤褐色である。コートに添えられている白いボタンや紐が目立っている。さながら季節外れのサンタである。
「応答してくださったネーミラ族のお迎えの方に失礼です。なるべく目立つようにしておかないと、町の場所を教えてくれないかもしれません」
「そんなもの、閉めていてもわかるだろうに」
ミュウは首をすぼめて、震えた。〔アル・スカイ〕の巨体ならば枯れ木の中にいてもすぐにわかりそうなものである。
しかし、そこは桜の誠実さが許さないのである。
「我慢してください」
桜は赤くなった耳を手もみしながら、雪原へと視線を移す。
ミュウが真っ赤な頬を膨らませていると、勇子が覆いかぶさるようにしてコンソールを操作する。
「あの子の服は目立つから、ちょうどいいのよ。もう少し電波、はいらないかしら……」
勇子がコンソールと操縦桿を少しいじると、〔アル・スカイ〕の頭部がぎこちなく左右に振られる。そのたびに伸びているアンテナが凍った枝葉をへし折り、氷の破片を落としていった。
桜は傘になっているハッチから滑り落ちてくる雫に一瞬目を配った。
「それにしてもミュウ様。宇宙に暮らしている方々がいると、どうして教えてくださらなかったのです?」
「わらわたちは桜たちが来るまで宇宙という環境を知らなかったのだぞ?」
桜の質問にミュウはつっけんどんに返した。
「伝承にも導師の最後はこの星を守って出て行ってしまったというものだ。居残って月に都を築いていたなど知る由もない」
「英雄のお話はいつだってそういうものよ。みんな勝手に解釈するんだから」
勇子は付け加えて操縦席内のスピーカー音量を調節する。
『すべては無知なる「ファルファーラ」に住む種族とそれを利用し、愚行を重ねる偽物のしわざである』
「このひねりのない台詞、どうにかならんか?」
ミュウは入ってきた音声にそういった。
「捻りがないからわかりやすいっていうのもあるのよ。これを言ってるジャック・ニコルス将軍は目立ちたがり屋なのよ」
「なぜわかる?」
勇子は再びコンソールを叩いて立体映像を呼び出すと、メールのファイルを開いた。
「所長からの報告、目を通さなかったの?」
「読めもしないものを読めと言われても無理だ」
「翻訳機能は、あるんですよ。ほら」
勇子は丸まっているミュウのシートに無理矢理お尻を挟んで立体映像の編集を行う。二人より添うとシートも窮屈だ。
ミュウは口元をとがらせて、低く唸る。それからメールの文面に目を走らせる。
「がぅ。防衛省の大臣を三度就任? 今回ので四度目とは謀ったようではないか?」
「元老院はそんなもの。持ち回りでやってるだけで、全然後進の人が入らないのよ。特にこの人、文官としてそこそこ功績を残しているから、侵略軍との同盟なんてやっちゃうのよ」
「だから目立つやり方をする? 『ノア』も大概進歩がないのだな」
「それを言われたら、わたしたちの立場がないわ」
勇子は口元をとがらせる。
しかし、事実であるから言い返す言葉もない。オリノのように自発的に動ける人はほとんどいないのだ。流れに身を任せる人が多くなってしまい、階級制がそれに拍車をかけている。
変わるには流れを動かす存在、ジャック・ニコルスは良くも悪くも『ノア』の姿勢を変えようとしているのだ。
ミュウはそのことを知ってか知らずか、側面のモニタに顔を向けて地を這う様な太陽の光に目を細める。
「侵略軍のやり方を許せばただの殺戮だ。宇宙にいるヒトというのは、それをわかっておらんのだ」
「だから、わたしは姫様に協力しますし、軍事同盟を進めてるんじゃない。けど――」
勇子は言いつつ、スピーカーから漏れるジャックの声に眉をひそめる。
『新設の精鋭攻勢軍隊は月の民との協力のもと、市民と月の民の安寧を約束しましょう』
「こうして人工衛星の発信まで利用して広域放送をするあたり、こちらが傍受していることを意識してるわ。用意のいいプロパガンダよ、ほんと」
「降伏しろということか……」
ミュウはほっと息をついて、肘掛けのカバーを取るとキャンディーを一つ取って口に放り込む。冷え切った中での飴玉は甘く、凍える身体に活力を与えてくれる。
「もう一つは『ファルファーラ』の原住民への警告と勧誘ってところかしらね」
勇子も体をひねって、開けっ放しの肘掛けから金平糖をつまんで口に運んだ。
「この星の人にだって無線技術があるみたいだし、放送されてる周波数を探知すれば誰だって聞けるもの」
「ただの戯言と判断してほしいな」
ミュウは一抹の不安を覚えながら言う。
と、傍聴していた桜が雪原を眺めたまま言う。
「例え偽物だと言われても対処していくしかありません。解決の道を探していくまで、ですよ」
桜がしんみりといっていると、雪原で動きがあった。
真っ白な雪原で石ころのような影が見えた。なだらかな雪原の陰影に合わない陰で、移動しているように見える。
「勇子様、正面に索敵を」
「ん。了解。ちょっと邪魔」
「ここは、わらわのシートだぞ」
勇子はミュウを押しのけるようにして操縦桿に手を伸ばして、正面へと範囲を狭めてアクティブセンサを働かせた。
金属反応、熱反応をおぼろげながら受信する。
〔アル・スカイ〕は正面に顔を固定すると側頭部にある回折式カメラのピントをせわしなく動かす。
「いるわよ。距離約二〇〇〇。多脚式戦車ってやつじゃないかしら」
勇子は望遠をかけながら、ウィンドーに表示したものを見た。雪上迷彩を施した装甲と低い車体、雲のような細い脚部が粉のような雪を蹴り上げる。
報告を聞きながら、桜は大きく手を振って見せる。
すると、反応があった個所から何かが現れて赤い布を振ってこたえてくれた。
「無線はどうです?」
「反応あったわ。こちらに来るって」
勇子の対応の速さに桜はほっとする。
宇宙では色々と面倒なことが起こっている。だからと言って、『ファルファーラ』にいる桜たちにできることは現地に住む種族と交流するほかないのである。
そうしなければ、宇宙の圧力に押し負けてしまうのだから。




