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スカイ・レコード  作者: 平田公義
特別編
91/118

~低軌道上~ 偵察任務

 警報が鳴り響くと、クルーたちの表情が曇り始めた。


「アンノウン、視認から三分経過」


 それに混じってトリスの凛とした声が混じる。


「機関出力、二〇上げ。〔カムシャリカ〕の偵察隊の発進を許可する」

「反重力流体、循環停止。メイン・ノズルによる通常航行に移る」


 操舵士が業務的に告げて、舵を取る。同時に艦体から空気の抜けるような音が鳴動する。反重力流体が止まったのだ。


〔アーク・フォース〕は後部のメイン・ノズルの噴射を強めて、さらに高度を上げていった。その揺れがクルーたちにも伝わると圧迫感のある空気になる。


「対空監視に出ているクルーは各員の持ち場に戻れ。振り落とされるなよ。アーム・ウェアは上下左右について警戒」


 ダイジロウは冷徹に言いながら、宇宙に浮かぶ星々の輝きに目を細める。


 方向感覚、距離感を失わせる漆黒の闇。航海士も操舵士もこの暗闇との対峙では不安を押し殺さなければならない。『ファルファーラ』の位置、太陽の位置、月の位置を絶えず確認して、さらに北極星や地球時代にはなかった南極星などで上下感覚を意識しなければならない。


「偵察隊リスト、送ります」


 トリス・カロリは揺れる艦橋の中で偵察隊の人員リストを作成して、ダイジロウのシートに回す。


「うむ……」


 ダイジロウは肘掛けのサブ・モニタを見て、三名の操縦者の名前を確認する。


 人選はトリスに任せている。その中にシャントッド・コーディルの名前があった。


「いいだろう」

「了解。〔カムシャリカ〕、三番、七番、六番。偵察に出てください。武装は――」


 トリスは交戦規定がどういうものか、一瞬度忘れして偵察に適任の装備が思いつかない。


 隣で艦砲射撃の準備を進める火器管制官が横から口添えする。


「四番ロッカーの……」

「あ、四番ロッカーのマルチ・ライフル、拡張推進装置(エクステンドパック)の使用を許可します」


 トリスは火器管制官の男に顔を向けてお辞儀をする。男も満足げに親指を立てて答えると、自分の仕事に戻った。


「了解。適正装備を使う」


 トリスは艦橋の窓からシャントッドが操る〔カムシャリカ〕六番機が一度飛び上がって、艦の上で対空監視をしていたクルーを引っ張て来るのを見た。


「隊員のリストを頼む」

「了解。合わせて、識別信号を登録します」


 シャントッドはシートに居直って、一度水分補給をする。それから、ヘルメットの側面に指を添えてバイザーを下げる。外の時、癖でマイクのスイッチを切っていた。


「できるじゃないか……」


 仕事に打ち込むトリスはやはり普段とは違う物腰の柔らかさがある。シャントッドはその感じが好きだった。


 スイッチから手を放すとモニタに目を走らせ、前後に偵察に出る同僚の機体を確認した。


〔カムシャリカ〕各機は甲板で機体を直立させつつ艦の側面シャッターから運ばれてくる拡張推進装置のエクステンドパックと武骨なマルチ・ライフルとのデータリンクを開始する。


 運んでくるのはパワードスーツに身を包んだ整備員たちでマルチ・ライフルを一丁三人がかりで運び、エクステンドパックを四人で背部に接合。


 操縦席にかすかな振動。宇宙服だけの整備員たちによる素早い接合作業が進められると、機体とエクステンドパックをつなぐロックボルトがしまった。


〔カムシャリカ〕はもともと宇宙での運用を想定しているが、長距離飛行をする機体ではない。拡張推進装置(エクステンドパック)のような突貫品の長距離ブースターをつけるという苦肉の策を使うしかない。


 マルチ・ライフルにしても標準装備のビーム・ライフルの下部にグレネードランチャーを取り付けただけのものである。


「頼むぞ!」

「任せておけ。各機、俺の指示に従ってくれ」


 最前列にいる〔カムシャリカ〕七番機操縦者、ソマリー・マーゴットはマルチ・ライフルを運んできた整備員に礼を言いつつ、回線を開いて指示を出した。


 七番機がマルチ・ライフルを手にすると、最後尾の三番機のリア・ラックにグレネードランチャーの弾倉をが取り付け終わった。


「ファゴット・エイハンス、了解」


 生真面目な三番機の操縦者、ファゴットはいかつい顔をさらに険しく引き締めるとヘルメットのバイザーを下ろした。


「シャントッド・コーディル、了解」


 シャントッドは応えつつも自機とエクステンドパックの調整に手を焼いていた。しかし、同伴する彼らの声を聴けば、更衣室で親切にしてくれた二人だとすぐにわかり、顔も浮かんだ。名誉挽回の機会と気を引き締める。


 だが、現実はそう簡単ではなさそうだ。


「当てにならない装備だな。偏光ノズル、アポジモーターはいいとして……、平気なのかよ?」


 シャントッドはフットペダルやコンソールを操作して、エクステンドパックの動きを整備員たちに見てもらっていた。それはほかの隊員も同じ意見である


「大丈夫ッスよ」


 後ろに回って確認をしていた整備員が偏向ノズルの調子を視認して、〔カムシャリカ〕の周りを旋回する。風に煽られる風船のような軌道はモニタ越しに見るシャントッドニは冷や冷や物である。


 また別の宇宙服の甲板要員は〔カムシャリカ〕の武骨な頭の横を横切って、針路を確認する。


 偵察部隊はその宇宙服に注目して、彼が振る誘導灯のサインに気を付けた。


「視界、良好。障害物なし。いつでもどうぞ!」


 彼が誘導灯を振って、艦橋と操縦者たちに安全を知らせる。その合図は甲板にいる人員にも伝達されて、艦内に引っこんでいく。


「それじゃぁ、行くぞ!」


 隊長を務めるソマリーは年甲斐もなくはしゃいで自機の七番機に甲板を蹴らせた。それに倣ってファゴットの三番機、シャントッドの六番機も宇宙へと機体を浮かせた。


 カタパルトによる発進手順などはなく、その宇宙に跳ぶ浮遊感は〔カムシャリカ〕があたかも羽毛のように軽い機体に見せる。


 そして、三機のエクステンドパックのメイン・ノズルが瞬くと一気に〔アーク・フォース〕を離脱していく。


 一瞬にして距離を開けた三機のノズル光は『ファルファーラ』の曲線をなぞるように進んでいく。


〔アーク・フォース〕の観測班からその報告を受けた通信士がダイジロウの方を向いた。


「偵察隊、発進確認」

「わかった。敵の動きは?」


 ダイジロウは冷静に言った。


「ノイズの影響で正確な数と位置はわかりません」

「しかし、人工衛星のポッドを追っていると推測されます」


 トリスは通信士の報告にかぶせるようにしていった。


 CGコンピュータ・グラフィックの簡易モデルで予測針路を割り出した図面を天井のモニタに投影する。『ファルファーラ』を軸に放物線を描く人工衛星ポッドの軌道と鋭く切りこんでくる敵予測針路は七分後には接触する計算になっていた。


 ダイジロウはゆびさきで口元を歪めつつ、その鋭い瞳でこの状況の趨勢を推し量る。


「偵察隊にはポッドの護衛を優先させるよう伝えろ。ほかの操縦者にも第一警戒態勢を発令。いつでも出られるようにしておけ」

「了解」


 通信士は偵察隊から発せられる定期信号を確認して、無線でその内容を通達する。ギリギリ音声は届いた。


「バリアの設置状況はどうだ? 使えるか?」

「微調整がまだできていません」


 トリスは振り返って、不安げに言う。


 それは〔アーク・フォース〕も戦闘に参加することを意味し、不安定な装備を実戦で使わらなければならない不安からくるものでもある。まだトリスには戦闘に対する心構えがきちっとできていないのだ。


「ぶっつけ本番で使うかもしれない。覚悟しておけ」


 ダイジロウはニタニタと笑みを浮かべる。


 若輩のトリスの言い分もわかる。しかし、〔アーク・フォース〕部隊が外交官のお送りだけが目的とも思えなかった。こうした実戦を想定して『ノア』は実験的な兵器まで積み込んでいたのだから。


「実戦で使えないものをうまく使って見せるのが俺たちだからな」


 ダイジロウはそうぼやいて、肩をすくめる。


 その態度がトリスには不穏に思えた。


「まさか……。偵察部隊は時間稼ぎ、でしょうか?」

「俺はぁそこまで薄情じゃないよ。第一、カロリ少尉が人選したんだろ。信じてやれよ」

「そう、でした。申し訳ありません」

「わかったなら、ヘルメットくらいつけとけよ」


 ダイジロウはそう言って肘掛けにある飲料パックを掴んで口に含んだ。


                   *     *     *


 シャントッドたちの〔カムシャリカ〕が母艦を離れてから二分が経過すると、機体の無線はノイズの嵐に埋もれて機能を失っていた。


「各機、離れるなよ」


 小隊長を務めるソマリーはレーザー通信で呼びかけて、自機の両手を振って固まるように指示する。


〔カムシャリカ〕三番機の操縦者、ファゴットはその動きにすぐ答えて機体を接近させる。慣れない偏向ノズルでも彼はうまく機体を安定させて飛行させている。


 シャントッドの六番機はというとアポジモーターを断続的に噴射して機体のバランスを保ち、ようやく編隊を組むことが出来た。


「あまり『ファルファーラ』の重力を気にするな。距離はある」

「はい。すみません」


 ファゴットの生真面目な声を聴いてシャントッドは短く息を吐いて自機を安定させる。


 太陽の位置と月の位置、小惑星帯(アステロイドベルト)、後方の〔アーク・フォース〕から発せられる位置灯の光を確認する。星の位置までも気を回している余裕はない。暗闇の宇宙の中から、まだ何千キロと離れた位置にある人工衛星ポッドの位置を探さなければならないのだから。


〔カムシャリカ〕の編隊は『ファルファーラ』を横目にしつつ、人工衛星ポッドとの予測接触地点へ迫ろうとしていた。


 ソマリーはヘルメットの側面に指を当てて、記録媒体を起動させる。


「時刻、一二〇七。電波障害は顕著。人工衛星ポッドを目視。敵性機影は確認されず……。双子月の片割れを惑星の外縁に確認。定期記録、以上」


〔アーク・フォース〕との交信が困難な以上、状況報告と現場判断を提出する必要がある。軍紀を守るためでもあるし、何より自分たちが正当な行動をとったという証拠になる。


〔カムシャリカ〕七番機は頭部を動かして、周囲を警戒する。リア・ラックに保持されているマルチ・ライフルがやけに重々しく感じられた。


 ソマリーがヘルメットから指先を放すと、シャントッドの報告が入った。


「マーゴット中尉。小惑星帯(アステロイドベルト)に敵母艦らしき影を確認」

「映像、回せるか?」

「ノイズがひどいのでCG合成になります。あと、座標位置を送ります」


 シャントッドは各機にデータリンクを通して、その画像を送った。


 それはちょうど人工衛星のポッドの後方、小惑星帯(アステロイドベルト)でわすかに月の光を反射する鏡面装甲の輝きが映っていた。


 ファゴットは口元をゆがめつつ、コンソールに手を伸ばす。


「これか。もしかしたら、すでに敵の機体は岩の中に交じっている可能性があるのではないか?」

「可能性はあるな」


 ソマリーは一度そう区切って、接近する人工衛星ポッドを見た。まだ米粒ほどの大きさにしか見えないがあと一分もすれば部隊とすれ違う巨大な鉄の塊となるだろう。


「人工衛星ポッドもあるんだ。こいつの運動に合わせて、やらなきゃな」


 と、その瞬間、ソマリーは小惑星帯(アステロイドベルト)の中から数個の岩が飛び出してくるのを見逃さなかった。


 緊張が走った。


「――――っ」


 目ざといシャントッドもモニタがとらえた機影を目で追って咄嗟に構えを取ろうとした。


「迂闊に銃を取るな。ビーム・シールド、あるだろう?」


 ファゴットの叱責する声に、シャントッドは思いとどまった。


〔カムシャリカ〕三機は密集しつつ、両腕部を前に突き出すようにして相手の出方をうかがった。こちらから仕掛けるわけにはいかない。大義も何もなく銃を撃てば、それは私怨の殺し合いと変わらない。


 戦争をやっているわけにもいかないのだ。


 シャントッドは一度バイザーを上げて額の汗をぬぐった。いつも以上に腹の底がむしゃくしゃする。


「クソッ。落ち着け。あんな女のいうことを気にしてるのか?」


 シャントッドは自分に言い聞かせるように言いながらも、その口がトリスのことを思い出させるのでますます苛立った。


 トリスが女々しいだの、卑屈だのとまくし立てる声を思い出す。それは論理的に正しいことであるが、今この場で関係あるのだろうか、と受け入れることを保留してしまう。


「あの動き……。人工衛星ポッドを回収するつもりか?」


 ファゴットは敵の機体、〔アルファ・タイプ〕数機がバラバラに飛行しつつも人工衛星ポッドとの速度合わせをしているように思えた。


 彼らが人工衛星ポッドを追跡していたのは承知である。


「時刻、一二一五。敵性機と戦闘距離に入った、か」


 ソマリーは音声記録をつけながら躊躇した。


〔アルファ・タイプ〕が手を出してこないのならば、このまま人工衛星ポッドに接近して威圧をかけるだけにとどまるのもいいだろう。それで下がってくれれば、無益に戦う必要もない。


 人工衛星ポッドの戦略的価値がどれほどのものかもわらかないのだ。しかし、敵に『ノア』の技術を露呈することだけは避けなければならない。


 そして、〔アルファ・タイプ〕の一機が人工衛星ポッドに急接近をかけだした。


 その瞬間、ソマリーたちは〔アルファ・タイプ〕の動きを敵対行為と認識。


「人工衛星の護衛が目的だ。これ以上近づけさせるな」


 ソマリー機が加速して、人工衛星ポッドの下へ急いだ。ファゴットとシャントッドもそれを追って、マルチ・ライフルを機体に保持させた。


 その動きに〔アルファ・タイプ〕も即座に反応した。彼らは一機を囮に〔カムシャリカ〕部隊と交戦する状況を作り出したかったのだ。


 偵察部隊と先発隊の交戦が始まると、そこには鋭い光が瞬いた。


                *     *     *


「戦闘の光を確認。距離一七〇〇〇」


 通信士の甲高い声が艦橋に響いた瞬間、〔アーク・フォース〕は緊急発進を発令してすぐに応対に出る。


「総員第一戦闘配備」


 ダイジロウの厳格な声が艦内に駆け巡り、クルーたちは気を引き締めた。すでに彼らは戦闘態勢に入っており、いつでも迎え撃つ覚悟ができていた。


「針路コンマ八度、修正」

「機関出力、戦闘域」

「各銃座、配置よし。主砲、諸元入力」


 操舵士、機関士長、火器管制がてきぱきと状況を報告するなかで、トリスは心臓が飛び出しそうなほど嫌な予感を覚えていた。


「第一、第二小隊、発進よし。ブリッジ、発進許可願う」

「あ、は、はいっ」


 すでに〔アーク・フォース〕の投射甲板で準備しているゲーセラック・ガラックは戦闘の火を見据えながら怒鳴った。


「カタパルトの充填はできているぞ!」


 甲板要員もまた出撃を控えている〔カムシャリカ〕を見ながら、トリスをせかした。


「了解。発進、どうぞ!」


 トリスはコンソールを操作しつつ、第一から第三甲板で待機している〔カムシャリカ〕の発進させる。エクステンドパックがない通常状態であるが、宇宙で運用する分には申し分ない。加えて戦闘宙域は〔アーク・フォース〕のほうにまで伸びると予測される。


 電磁投射装置が一瞬にして〔カムシャリカ〕を宇宙に放り出すと、各機体はすぐに編隊を組んでシャントッドたちのいる宙域へと加速していく。推進剤を気にしながらの飛行であるが、宇宙育ちの彼らはすぐにも慣性飛行に移って節約術を使っていく。


 次のカタパルトにも脚部を固定する機体が出ていた。


 トリスは彼らを戦場を送り出すことに集中する。そうしていれば、胸の内で渦巻く嫌な予感を頭の隅っこに追いやれた。


 その間にもダイジロウは指令を飛ばす。


「ミサイルを小惑星帯に向けて放て。敵母艦をいぶり出す」

「ヨーソローッ! 発射管一番から四番。ミサイル、諸元入力。目標、小惑星帯(アステロイドベルト)!」

「よしっ! ってぇ!!」


 その号令のもと、〔アーク・フォース〕の五連装発射管四基からミサイルが飛び出した。流星のごとく宇宙を駆け抜けるミサイルは発進した〔カムシャリカ〕部隊を追い越していく。


「当たるんじゃないのか?」


 ゲーセラックは頭上を抜けていったミサイル一つを見てつぶやいた。


 ミサイルの群れが戦闘中のシャントッドたちの背中に迫った。


「目くらましになる! 散開しろ!」


 ソマリーが言うなり、偵察部隊の〔カムシャリカ〕は上下に散開してミサイル群を突撃させる。人工衛星ポッドを避けながら〔アルファ・タイプ〕へと向かっていくミサイルの光跡は眩しかった。


〔アルファ・タイプ〕の編隊もミサイルを引き付けすぎたためか、正面から撃墜することはなく散開してやり過ごす機体が大半であった。


 しかし、人工衛星ポッドとの距離が空くなり、それらを撃墜する機影もあるのだから侮れない。


「やはり、狙いは人工衛星。『ノア』の技術っ」


 シャントッドは想像力を膨らませて、〔アルファ・タイプ〕の動きをそう推察した。


 ミサイルの炸裂する光が乱れた点線のように膨らんだ。その光は〔アルファ・タイプ〕の機影を浮き彫りにして、正確な数を知らせた。


 ファゴットの〔カムシャリカ〕三番機はすかさずマルチ・ライフルを構えてビームを発射。


 人工衛星ポッドに接近しようとする〔アルファ・タイプ〕一機を退いた。


「出遅れたか。数はわかってるんだ。落ち着け」


 シャントッドはモニタの死角に消える〔カムシャリカ〕三番機と七番機を忘れて、自機をジグザグに動かして突進させる。


〔アルファ・タイプ〕の数は八機だ。ミサイルの爆発は敵の母艦に交戦の意思を伝えたようなものであるが、リア・モニタには〔アーク・フォース〕からの増援が接近しているのがわかっていた。


 戦場が肥大していく圧迫感やどちらが早く戦力を投入するかの駆け引きが腹の底を重くする。


 シャントッドは短く息を吸って、肺の中に押しとどめる。それが気合の入れ方であった。


〔カムシャリカ〕六番機はビーム・シールドを展開して、『ファルファーラ』側に展開する敵機を追った。まず人工衛星ポッドの針路を確保しなければならない。


〔アルファ・タイプ〕の三機編隊だ。


 ビーム・シールドのまばゆい光を見つけたのか、〔アルファ・タイプ〕三機は人型に変形するなりビーム・ライフルを散発に撃つ。リズムを崩すかのような撃ち方だ。


 シャントッドはビーム・シールドと敵のビームが接触するたびにモニタが白く塗りつぶされたが、その時には自身もトリガーを引いて〔アルファ・タイプ〕へと攻撃を加える。干渉波で機体が揺れ、空気の圧迫感がヘルメットのバイザーを震えさせる。


〔カムシャリカ〕六番機は偏向ノズルの推力で飛び跳ねるように動きながら、〔アルファ・タイプ〕三機をうまくひきつけていた。


 そのはるか上の宙域、人工衛星ポッドと併進するソマリーの〔カムシャリカ〕七番機は〔アルファ・タイプ〕一機を撃ち抜いてその爆発から人工衛星ポッドを守っていた。ビーム・シールドが最大に展開されると、人工衛星ポッドを衝撃波と破片から守ることが出来た。


 その光の膜を飛び越してファゴットの二番機が追撃を仕掛ける。


「増援が来るまでは、ポッドを守らなきゃならないんだ」


 ファゴットは標的が多く、定まらない照準を無視してトリガーを引いた。


〔カムシャリカ〕三番機は上下左右に広く展開する〔アルファ・タイプ〕各機にビームを放ちながら、攻撃に転じる〔カムシャリカ〕七番機の攻撃につないだ。


「ターゲットワン、トリガーッ」


 ソマリーは鋭い声を発した。


 その気迫が乗り移ったように、〔カムシャリカ〕七番機は音声入力で射撃を行う。鋭いビームの閃光が慣性飛行をしていた〔アルファ・タイプ〕一機を貫通し、再び光芒が広がった。


〔カムシャリカ〕七番機は三番機に接近しつつ、敵の動きを牽制する。


「コーディル少尉はどうした?」

「下方で三機相手をしている。さすがだよ」


 ファゴットは世辞ではなく本心で言った。


 彼の足元には『ファルファーラ』の青色が映り込んでおり、そこで交錯する光が激しさを増しながらも気おされている感じはしなかった。


「相手は三機だ。落ち着けっ」


 シャントッドは大きく息を吸いながら、自機を力任せに振って〔アルファ・タイプ〕三機の目を引いた。


 しかし、相手も宇宙での戦闘に慣れている。機体に乱数軌道を取らせたところで、無為に撃つことはなくとにかく確実に仕留めにかかろうと広く展開していた。


 そのうちの一機が〔カムシャリカ〕六番機の頭上に回れば、もう一機は下方へ流れ込み、最後の一機は正面からビーム・ライフルを撃ち続ける。包囲殲滅の動きだとすぐにわかった。


〔カムシャリカ〕六番機はビーム・シールドで正面の攻撃を防ぎつつ、下方射撃してくる相手にはマルチ・ライフルの下部にあるグレネードをお見舞いする。


 吐き出されたグレネードは〔カムシャリカ〕六番機と〔アルファ・タイプ〕の合間で爆裂して、壁を作った。


「ぐぅぅっ」


 シャントッドは痺れるような振動に歯を食いしばって暴れまわろうとする操縦桿を強く握りしめる。


 爆発の衝撃に煽られた〔カムシャリカ〕六番機は機体を反転させて、頭上を抑える敵機へと接近する。相手もそれに応じてビーム・ライフルで狙いを定める。


 それを阻止するべく〔カムシャリカ〕六番機の頭部にあるバルカンが火を噴いた。


 伸び上るバルカンの弾道は〔アルファ・タイプ〕を捉える。しかし、決定打にはならず、わずかに射撃のタイミングをずらしたに過ぎない。


「ダメかっ」


 シャントッドはさらに横間合いから弧を描くようにして射撃を仕掛ける〔アルファ・タイプ〕に押されて、機体を下げるしかなかった。


 サブパックのノズルが最大に広がって、大げさな光を放つと〔カムシャリカ〕六番機は〔アルファ・タイプ〕三機編隊から距離を取った。


 一瞬の攻防。


 シャントッドは相手を押し切る攻勢が取れなかったことに歯噛みした。


「俺は、気圧された……。追加装甲に頼ってばっかりいたからっ」


〔カムシャリカ〕六番機はマルチ・ライフルを乱射しながら増援隊の方へ流れる。


 それを援護するようにして、増援の〔カムシャリカ〕から長距離ビームが飛んだ。人工衛星ポッドを援護しつつ、三番、七番の後退を許した。


「増援の動き、いいみたいだが――。敵だってまだ本気じゃないんだぞ」


 ソマリーは疎らに飛んでくる〔アルファ・タイプ〕の射撃を回避しつつ、増援との合流を図った。


 ファゴットの三番機もマルチ・ライフルのグレネードを数発打ち込んで、弾幕を張った。


「何か、嫌な予感がする」


 ファゴットは〔アルファ・タイプ〕各機が徐々に後退しているのを見ていった。


 敵編隊の動きはどこかよそよそしく、ところどころに隙を作っている。懐に飛び込んで来いと誘いをかけているようだ。消極的な射撃がなおのことそう思わせる。


 ソマリーとファゴットの機体がシャントッドの〔カムシャリカ〕六番機と合流する。


「生きていたな、少尉」

「三機、取り逃がしてしまいました」


 ファゴットの声にシャントッドは苛立った。八つ当たりである。


「いや、一機でよく凌いだ」


 ソマリーはシャントッドの若い気性に腹を立てることはなく、八つ当たりにも寛容に答える。


 そうしている間にも、ソマリーの機体がビーム・シールドを展開して、二機の盾になる。


 彼らは敵のやる気のない攻撃に思わず気を緩めてしまう。経験からくる慣れだ。増援もまた到着したこともあって、形勢は自分たちにあると思い込まずにはいられなかった。


 だが、その安易な考えが命とりとなる。


 突如、小惑星帯(アステロイドベルト)の一角で閃光が走ると、鋭い光がソマリーの〔カムシャリカ〕七番機に襲い掛かった。


 シャントッドとファゴット、そしてソマリー自身も眩い閃光に意識が塗りつぶされる。


〔カムシャリカ〕七番機はビーム・シールドを貫かれ、大きく右肩部を抉られた。右腕部が千切れ飛んだ。さらに、伸び上った閃光が増援の一機をかすめる。


「何だ、今のは!?」


 増援部隊にいるゲーセラックは僚機をかすめた鋭い閃光に驚きの声を上げる。


「マーゴット中尉!」


 シャントッドは自機を射撃の衝撃で弾かれた〔カムシャリカ〕七番機へと急がせて、操縦者の安否を確認する。そこにファゴットの三番機も合流して、厳戒態勢を敷いた。


〔カムシャリカ〕七番機は右胸部まで深々と蒸発させられていた。正直、誘爆しなかったのは奇跡的といえるだろう。


「コーディル少尉、下がるぞ!」

「マーゴット中尉の生体反応、確認できません」

「なら、なおのことだ!」


 ファゴットは声を荒げて、三番機を反転させると〔カムシャリカ〕七番機を押し上げるようにして〔アーク・フォース〕へと針路を取った。


 シャントッドもそれを手伝うように機体を動かしながら、鼓動が嫌に早なる。


「操縦席には直撃しなかったんだ。だったら、生きてるはずだろ! 機械だけの反応に頼るな!」


 ファゴットは半ば自分に言い聞かせるようにレーザー通信に叫んだ。


 操縦席にまで亀裂や破片が飛び散ったとは考えないように努めた。直接、操縦席のハッチをこじ開けるにはこの宙域はあまりに危険である。


「りょ、了解ッ」


 シャントッドもファゴットの言葉に後押しされて、機体の速度を上げる。


 サブパックの偏向ノズルが緩やかな円を描いて、〔アーク・フォース〕へと後退していった。


               *     *     *


「誰がやられた?」

「か、確認中です。ちょっと――、ちょっと待ってください」


〔アーク・フォース〕は急速で戻ってくる〔カムシャリカ〕を確認しながらも、それが誰の機体であるのかは特定できずにいた。


 トリスは観測班の光信号識別を急がせながら、喉の奥に何かがつかえたような気持ち悪さがぬぐえなかった。


 もしかしたら、シャントッドがやられたのではないか。そんな雑念が入るのだ。


 ダイジロウはしかし動じることなく、事態を冷静に見極めていた。


「カロリ少尉、落ち着け。救援の準備をさせておけ」

「はい! あ、機体識別出ました。ソマリー・マーゴット中尉です」


 トリスは自身のコンソール画面を見て、名前を読み上げた。それで喉のつかえが癒えたと言えばそうはならない。


「生死不明。機体は右半身を狙撃されたとのことです」

「衛生兵を急がせろ。追加装甲(オーバー・ウェア)の準備もだ」

「はい!」


 トリスは自分の使命を思い出すと、てきぱきと動いた。


 ダイジロウはまた激しく飛び交うビームの火線に目を細めながら、火器管制官の方を向いた。


「援護射撃はどうした?」

「遠すぎます。艦砲射撃をするにしても――」

「もう一度小惑星帯(アステロイドベルト)に仕掛けるんだよ」


 ダイジロウに言われて、火器管制官もハッとなる。


 ミサイルは撃墜されて小惑星帯(アステロイドベルト)に到達していない。それは母艦の存在を隠すためでもあったと同時に人工衛星ポッドに集中させるためでもあった、とも考えられる。


 混戦している宙域にミサイルや艦砲射撃を撃てなくするという心理である。


 ダイジロウは肘掛けのサブ・モニタに移る主砲の発射角度を一瞥する。


「射角、二度上げ。味方に当てるなよ」

「射角二度、修正」


 火器管制官は復唱して、主砲を混戦宙域に向ける。


 画像識別では〔カムシャリカ〕部隊がどう展開しているのかわからない。だが、狙いはあくまで小惑星帯(アステロイドベルト)である。混戦宙域から少しはずして、撃ち込むのだ。


「諸元入力。撃ちます!」


 火器管制官の声が飛ぶと、〔アーク・フォース〕の艦砲射撃が流星のごとく伸び上った。

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