~大樹~ 風に乗る
ドッと間欠泉が天へと昇っていく。轟音を響かせて、縦穴が激震する。光をも奪う怒涛の流れは天へと昇る龍を彷彿とさせる。
桜たちは壁際に身を寄せながら、その水柱の動きと上昇する時間、体感する気流の勢いを確認する。上へと駆け抜ける豪風に三人の髪がなぶられ、巻き上げられる水蒸気が顔を濡らした。
不用意に立ち上がれば、枯葉のごとく攫われるのは目に見えている。
間欠泉が抜けていくと、周囲の樹液の管は橙色の虚弱な色を見せ始める。
「今での三回目。日が沈む前にあと一回は来るはず」
「予想時間は?」
勇子はミュウにせかされて、グローブの端末を使いながら計算していく。三度の間欠泉の情報を照らし合わせ、公式に当てはめて次の予測噴射時間を割り出す。
「約一時間後。けど、あまり当てにしないでよ?」
勇子は頬にまとわりつく水滴を手で拭いながら言う。
「しかし、勇子様の計算は信用できます」
桜は背中で抑えていた巨大な葉っぱを広げて、亀裂や裂け目がないかを確認する。
巨大な葉っぱはパラグライダーの柔軟翼を模した形状を取り、直径一五メートルの翼幅を持っている。間欠泉の上昇力ならば、三人分の体重を持ち上げる力は得られるはずだ。しかし、問題は蔓の強度である。翼の揚力を受け止め、さらに三人の体重と操作する時の力に耐えられなければ、桜たちの体は間欠泉にのまれて蒸し焼きにされるか、奈落の底へ落ちるしかない。
「信用できなければ、こんなものを使おうとは思わんだろ」
ミュウはべとつく髪の毛をまとめ上げながら、パラグライダーを眺める。勇子のはじき出した計算と桜の設計、そして自身で編み上げたものだ。期待できなくてどうするというのか。
「これで上に行けるの?」
「行くのよ。時間もないんだから、最後の調整をさっさとしましょう」
桜の胸元にいるリッサに勇子は言いながら、広げたパラグライダーの点検に入る。
時間の許す限り、蔓の補修と削減、柔軟翼との結合部の補強を行う。自分たちの命を預け、自分たちの知識と力を総動員して作り上げる。
これまで〔アル・スカイ〕を使い、幾多の戦場を駆け抜けてきた彼女たち。その力の源は決して機体の性能に依存したものではない。個々の力は小さくとも、互いの結束と信頼によって窮地を切り抜けてきた。
負けはしない。どんな困難にも立ち向かう勇気と友情、そして、優しさがある限り立ち止まるわけにはいかない。
「準備はよろしいですか?」
桜は太い蔓と細い蔓が絡まないように整えつつ、勇子とミュウに振り向いた。
「よろしいも何もないのだろう?」
ミュウは今一度パイロットスーツのファスナーがちゃんと上がっているか、グローブの装着は大丈夫か確認を取りつつ桜の横についた。
「それよりも、桜のその胸元は大丈夫なのか?」
ミュウが指摘するのは、桜の胸元が開けたままのパイロットスーツに収まるリッサのことである。窮屈そうに身をよじりながら、位置を変える。
「くすぐったいですが、頭に乗せたままでは危険ですから」
桜はハンチング帽を取りながら、ミュウに応える。
「フカフカして、居心地いいよ」
リッサは何のことなく言って、両手を挙げた。
ミュウは腕組をしながら、小人を睨み付ける。
「恥じらいもなく言うな」
「あんただと潰されそうだからヤダ」
リッサは臆面もなくミュウの胸を指さして言い放った。実直な意見でリッサ・ヘッサにしてみれば、命を預ける場所をいうのだから当然という風体である。
「リッサ様、そうおっしゃらずに……」
桜がなだめる横でミュウは目元を引くつかせる。
「かわいくないっ」
「姫様。ムキにならないの」
そこに割って入る勇子にリッサは指先を変える。
「あんたは小さい」
「何が?」
勇子が問いただす。
桜は緊張して、リッサの小さい指をつまむようにして押さえつける。
リッサは背中で大きく高鳴る心音と肺の押し上げる感覚に小首を傾げる。それから、空いている掌で胸元を押して枕の高さを直すような手つきで触診する。
「腰のワイヤーは蔓と合わせて安全ベルトにできますよね」
「え? ええ。工業用のワイヤーなんだから、それくらいは当然ね」
勇子は桜に応えながら、彼女の胸元にちょこんといるリッサとを見比べる。話をはぐらかされたと思うも、これから行う行動を思えば優先順位はパラグライダーの方だと判断できる。
「勇子様とミュウ様はわたしの左右についていただけると助かります。ハーネスはないので、支えてくださいませんか?」
「よかろう。操舵は任せるぞ」
「はい。お任せください」
桜はハンチング帽を丸めて、腰のポシェットにしまう。それから、即席パラグライダーの座席へと移動する。簡素に編まれた蔓の座席に足を通す。足通しの布を張った浮き輪のような構造である。
勇子は準備を進める桜の背中を見ながら、ミュウに言う。
「ねぇ。リッサがわたしに何か言ったようだけど、あれは何だったの?」
「女の価値はここできまるわけではないという例えだよ」
ミュウは勇子のパイロットスーツに隠れた奥ゆかしい胸を軽く押して答えた。
「何それっ。心外だわ」
勇子は不躾な彼女の手を素早く払いのける。今更になってリッサの真意を知ると腹立たしくて仕方ない。しかし、ミュウに間接的に聞くと少し負けた気分になる。
勇子の叫びを聞いて桜はメガネをしまいつつ、苦笑いを浮かべて胸元に視線を落とす。
「リッサ様。のちほど勇子様に謝ってくださいね」
「なんで? 事実を言っただけだよ」
「礼節を身に着けなければ、皆さんに嫌われてしまいます。時には胸の内に本心を隠すものです」
「導師様もそう思ってるってこと?」
リッサは身をよじって、桜の顔を見上げる。
「それは……」
桜は困惑して顔をそらす。腰の左右についているワイヤー装置からフックを引っ張り出すと座席となる蔓に絡ませる。
すると勇子とミュウが桜の左右について同じ所作をする。
勇子が不機嫌そうに肩をぶつける。
「真に受けないの。天邪鬼をしているだけなんだから」
「けど、妖精は心の優しい人を助けてくれると聞きます」
「この子が妖精だったらの話でしょ」
桜のゲン担ぎ的な言い回しに勇子はぴしゃりと断じて、ハーネス代わりの太い蔓を持ち上げてお尻につける。腰についているワイヤーを一杯に巻き上げて密着させることで、一応の安心を得る。
桜は気難しい顔をしながらミュウのほうを向いた。
「わらわは『ノア』のおとぎ話の良し悪しはわからん」
「じゃあ、どうしたら信じてくれる?」
それはリッサの声であった。彼女とて悪気があって言っているのではない。そして、信頼されないことは苦痛でしかない。
ミュウはしばらく考えて、ぼんやりと言葉をこぼす。
「まぁ、上に極上の風呂でもあれば信じよう……、かな?」
「お風呂?」
「お湯につかる場所。つまり、温泉だ」
ミュウの付け足しにリッサはしばし虚空を見上げて記憶をたどる。そして半信半疑にいう。
「ある、かもしれない……」
「はっきりしない言い方だな。だが、期待はしてやろう」
そうでも思わなければ、これからしようとする危険に身を預けることなどする気にもならない。
「頼むぞ、桜」
ミュウは桜の腰に腕を回しながら、もう片方の腕でハーネスの蔓をつかむ。力強く、覚悟を決めた心強さがあった。
「リッサがティンカーベルとかなら、よかったのにね」
「何、それ?」
「空を飛ぶおまじないよ」
勇子はリッサにはわからないであろう物語のことを言って深呼吸をする。
「よろしく、桜」
桜は勇子の腕が回る感触を覚えて、操舵用の細めの蔓を巻きつけるようにした。
足の裏をくすぐるような微振動が伝わる。予定よりも早い。
勇子はドキドキと高鳴る心音に足がすくみそうになるも、身を寄せる桜にすべてを託した。
その瞬間、縦穴の螺旋切り込みに風が駆け上ってくる。それはまだ小さい、予兆の一陣である。
この縦穴を有機プラットフォームと勇子は仮定していたが、背中に冷えた風を受けて思う。
ここは巨大な大砲の中でこれまで登ってきた螺旋の道はライフリングではないのか、と。
縦穴が低く鳴動し、伝わる振動が大きさを増す。下方で幾重にも爆裂する音が響いて、いよいよと強い風が吹きすさぶ。生温い、強い風が三人の髪をなぶる。
「――来るわよっ」
勇子が声をかけたとき、柔軟翼が風を受けて起き上がる。風を掴んだ柔軟翼は急な曲線を描いて、強い力で三人の体を引っ張る。
「予想以上に強力なのではないか?」
ミュウは蔓をしっかりと掴みながら言った。
桜たちはお尻を押し上げる蔓の引っ張る力に顔をこわばらせる。思った以上に強く、足を突っ張り棒にして耐える。重心を低くして、桜の操舵で柔軟翼がクラゲのように曲線に緩急をつける。
一層の強い風。小さな体が今にも吹き飛びそうになる。蔓がこれまで以上に張って、柔軟翼が中心へと引き込まれる。
「導師様……」
リッサは桜の胸の内でつぶやいた。
そして、周囲の気孔から水蒸気が噴きあがる。その熱い白い煙が周囲を満たしていくと本命の間欠泉が轟音を立てて這い上がってきた。
桜たちは祈るように首をすぼめて、身体を吹き飛ばそうする烈風にすべてを託す。
「――ッ」
そして、轟音と白煙を伴って有無を言わさない風がパラグライダーの柔軟翼を投げ飛ばした。
桜たちの体が一瞬にしてさらわれて、一気に中央に吹き飛ばされる。
四人を乗せたパラグライダーは螺旋を描いて上昇気流に乗り、桜たちの座席はより外側へと振り回されていた。
鋭い風が頬を引っ張り、遠心力で血が足へと落ちていく。頭がぼんやりし始める。
「ん……っ」
桜は力一杯に操舵用の蔓を引っ張ると柔軟翼は大きくたわみ、振り回される力が和らいだ。
ミュウは片目を開いて、僅かに下で渦を巻く水蒸気の柱を見る。そして、その光景の迫力に胸が躍った。
パラグライダーは水蒸気を中心に渦巻く風を掴んで離さない。押し上げられる空気に乗って、水蒸気を起点に回転しながら上昇していく。
桜は胸に埋もれるリッサを心配しながらも、両腕いっぱいにかかる手ごたえを制御するので手一杯だ。下手をすれば風を逃して、水蒸気の中に落ちてしまうのだ。
パラグライダーと蔓の接合部が今にも破けてしまいそうなほどたわみ、自分たちを支える蔓もちぎれてしまいそうに思えた。
不安と期待が交錯したのは一分とかからなかっただろう。
桜たちをつれたパラグライダーは小さな砲弾となって、縦穴を脱け出すと橙色に染まる空へと放り上げられた。
桜たちは頬に受ける冷たく、澄んだ風に目を開いた。
「外だ……」
リッサがぽつりとつぶやいた。
広大な緑と白い峰の連なりが金色に輝いていた。暗くなる空の薄絹を思わせる雲が穏やかに流れる。
パラグライダーは後方で霧散する水蒸気を背にしながら、今度は風のクッションに乗って巨大樹の傘を旋回する。夕日に映える水蒸気の粒の中を駆け抜ける感触に胸がときめく。
「綺麗……」
勇子が脱出成功の実感もわかないまま、そんなことを呟いた。
桜は赤い瞳を細めて、夕日の赤色を目にしつつ、眼下に広がる緑を確認する。だが、彼女の瞳では影が深くなる森と巨大樹の傘の緑は見分けがつかなかった。
「勇子様、誘導をお願いいたします」
「そ、そうね。左に旋回して」
勇子は周囲を確認して、方向を支持する。
パラグライダーは巨大樹を中心に左に旋回する。徐々に高度が落ちていくこともあって何週もしていられない。
「とにかく着地できる場所を探さないと……」
ミュウは風に揺れる髪を撫でながら、巨大樹を見据える。
勇子とミュウ、リッサは目を皿のように開いて探す。遠近感が取り戻すのに一周分外円を回ってしまったが、巨大な葉や時折見える枝の大きさを推し量る。
と、ミュウがわずかに枝葉の薄くなっている場所を見つける。
「あった。大きく一周。勇子もわかるか? わらわの足先にある場所」
「ええ。確認したわ」
勇子は目もくらむような高さにどぎまぎしつつも、ミュウが足先で示した個所を捕捉して納得する。パラグライダーを受け入れるのには十分であろう。
桜はパラグライダーを操り、外側に大きく膨らむように旋回させる。自分たちが重しとなって大きく座席が傾く感触、髪を弄ぶ風に爽快さと興奮を覚える。
そして、パラグライダーはいったん巨大樹から距離を取るようにして、今度は指定されたポイントを正面にして左右に揺れながら進んでいく。
「そのまま、そのままね」
勇子は桜の腰を強く抱きながら指示する。
風を掴んでゆったりと進むパラグライダー。
いよいよ夕日に照らされた枝が見えてきた。滑走路のような枝へと滑り込むようにして侵入。飛行甲板を思わせる枝を数十メートル進み、減速する。
桜が操舵用の蔓を思い切り引っ張ると、ふっとパラグライダーは浮き上がる。それから、風の力を失ってすとんっお尻をうつようにして着地した。
「もうちょっと丁寧にできなかったのか?」
ミュウは体を固定するワイヤーを緩めつつ、お尻をさすった。柔軟翼が前方に力なく崩れる。
「申し訳ございません」
桜は謝罪しつつ、メガネを取り出してかけ直した。
胸元でリッサがソワソワして、這い出ようとする。巨大な葉がつつむ天蓋や雨上がりの匂いは間違いなく故郷のものであった。
「誰だ! お前たちは」
すると早速、ここに住むメララたちが周囲に集まって桜たちを敵視しながら顔を出す。彼らはリッサ同様に翅を持ち、触角を持ち、花や樹皮を素材にした衣服に身を包んでいた。
その中から、樹皮の鎧に身を固めた一人が翅をせわしなく動かして飛んでくる。そのよろよろと飛ぶさまは、着ているものが邪魔そうに見えた。
「あの方は?」
「自警団の人だと思う」
桜の問いかけにリッサは答えて、大人しくなる。
勇子とミュウは立ち上がるのを待って、降りてくる鎧のメララを見据えた。
鎧のメララは膝を曲げて据わる桜の膝に降り立った。
「あ……」
思わず桜が膝を曲げると、鎧のメララは一瞬よろついたが翅を使って姿勢を立て直した。兜から除く老けた顔が安堵の表情を見せるが、すぐに鬼の顔を作って爪楊枝のような剣を掲げた。
「ここはお前たちのような巨大なヒトが来る場所ではないのだぞ……、ん?」
彼は桜の胸元に注目して、そこにリッサの姿を見た瞬間小首を傾げる。
「お前は? どうして巨大なヒトと一緒にいる?」
その怒鳴るような声にリッサはさっと背を向けて、顔を隠すようにした。
「あのですね――」
桜の様子を鑑みて、事情を説明する。
彼女がこの町から落ちてきたこと。木陰の世界でともに脱出の道を探したことを話した。
これには鎧のメララも目を丸くして、掲げる剣先から力を抜いた。
「それで、案内をしてもらいながら送り届けた次第です」
桜の声を聴いた鎧のメララはその赤い瞳と白い髪、それにミルク色の肌を認めて兜を脱ぎ捨てた。
「なるほど……。ところで、あなたは――、いや、あなた様は、導師様であらせられる?」
「はい。一応……」
桜がおずおずと答える。両隣にいる勇子とミュウが脇を小突いてしっかりしろと伝える。
「その通りです」
「そうでありましたから。これはとんだご無礼を。しかし、本当に慈悲深い方だ」
鎧のメララは剣を下ろして、つぶらな瞳で桜を見上げる。
「どういうこと?」
勇子が問いかけると、リッサが怖々とした様子で丸くなる。
桜は胸の中で怯える彼女に視線を落としながら、そっとゆびさきで彼女の頭を撫でた。
鎧のメララはため息をつくと翅を動かして飛び上がった。
「この者は、その、自ら命を絶つとの置手紙を両親に残しておりまして……」
「自殺……、しようとしたのか!?」
ミュウは声を荒げて、震えるリッサを睨み付けた。
「だって、あたし飛べないし、みんなにバカにされてきたから……」
「リッサ様……」
桜は震えるリッサを両手で掬い上げるようにして胸元から出すと、こうべを垂れて目を合わせようとしない彼女をじっと見つめた。
ミュウや鎧のメララが迫ろうとすると、勇子が視線を配って待ったをかけた。
「でも、やっぱり死ぬのは怖かった」
「はい。死ぬのは誰だって怖いものです」
「だから、導師様にあえて本当に助かったの」
「わたしを連れてくれば、みんなも見直してくれるとお考えになったのですね?」
リッサは図星を指されて触角まで下げる。
「ごめんなさい」
「謝る相手はわたしではありませんよ」
桜は一度そこで区切って、自分たちを見物するメララたちを見回した。
「リッサ様のお父様とお母様はいらっしゃいませんか? お友達や親せきの方は?」
その呼びかけにおびえながら一組の夫婦が飛び出してきた。
リッサは少し困惑したように降りてくる夫婦を見上げる。向かってくるヒトたちが自分の両親だとわかると思わず肩に力が入った。
桜はゆっくりとへたり込んでいるリッサを硬い樹皮に上におろした。
「リッサ! リッサなのね」
「ママッ。パパッ!」
「リッサ。よかった。心配したんだぞ?」
「ごめんなさい。ごめなさいっ」
リッサは降りてきた両親に飛びついて、喜びと後悔の入り混じった大粒の涙を流した。強く抱きしめられるたびに、自分のちっぽけな心臓が締め付けられるようで苦しかった。でも、そんなちっぽけな命を両親は貶すことも、突き放すことはなかった。
「お母さんより先に死ぬなんて許さないんだからね。そうでしょう?」
「ごめんよ、気づいてあげられなくて」
両親も娘の気持ちに瞳が潤んだ。
それは桜たちにとっては羨ましくて、輝いて見える光景であった。
すると、そろそろと何人かのメララが降りてきて、リッサの家族の下に寄った。それは学友らしい女の子や男の子、親戚のおじやおば、祖父母、あるいは近所づきあいのあるお兄さん、お姉さんが集まる。
ごめんなさい、おかえり、よかったと口々に彼ら彼女らは言った。
「何というか。怒る気も失せたわ」
「わたしもよ」
ミュウと勇子はリッサのわがままに付き合わされて怒りを覚えていたが、ヒトに愛されて生きている光景を目の当たりにしてしまってはそんな感情がちんけに感じられた。
桜はほっと胸をなでおろしながら、肩に降り立つ鎧のメララに顔を向ける。
すると彼は跪いて恭しく首を垂れた。
「とんだご無礼をいたしました。同胞を助けていただき、まことに感謝しております」
「いいえ……」
桜が感傷に沈みかけたその時、頭の中にあるものの存在がよぎった。
「あの、つかのこと伺いますが……」
「はい。なんなりと」
「わたしたちの乗ってきた〔アル・スカイ〕という巨大な機体を知りませんか?」
桜の問いかけに鎧のメララは一瞬困惑した顔を浮かべる。
「マリーネンだ。蔓に連れ攫われたのだ」
ミュウが付け加えて、彼もようやくピンときて顔を輝かせた。
「はい。こちらにあります」
それを聞いた桜たちは顔を見合わせて、どっと押し寄せる疲れに三人は仰向けに寝転がる。
鎧のメララは倒れるより早く飛び上がって、彼女たちの疲れた顔を確認するなり焦りだした。
「おい! みんな、早く導師様たちに酒を!」
鎧のメララは葉の裏に隠れる仲間にそう呼びかけると、メララたちは急いで翅を動かして家々に駆け込んでいった。彼らにとって酒は気付け薬として重宝されていた。
桜たちはリッサたちに耳元で声をかけられたが、へとへとの体ではもう動く気がしなかった。
「まったく、〔アル・スカイ〕を取り戻すのに凄い冒険をさせられたわ」
勇子の振り絞った声に桜とミュウも小さく頷くばかりであった。




