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スカイ・レコード  作者: 平田公義
第十一章
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~接敵~ 砂嵐過ぎて

『ファルファーラ』西大陸の中部で起こる砂嵐は強力で〔アル・スカイ〕でもまともに動けるようなものではなかった。暴風が吹き荒れて、荒れ狂う砂が視界を遮り体の自由すら奪っていく。砂はさらに突出している岩を削るように打って、溝へと激流のごとく流れ込む。


〔アル・スカイ〕はそうした溝の一つに機体をうずめるようにして、過ぎ去るのを待つしかなかった。マントを防塵布として、その内側に(サクラ)たちのテントが吹き込む風に揺れる。


「すごい砂嵐だ……。操縦席にいたほうが良いのではないか?」

「一晩操縦席で寝泊まりするのもいいのでしょうけども。リーダーの指示だしね」


 ミュウと勇子(ユウコ)(サクラ)のほうに視線を向ける。


 テントの中を照らすランプの光は淡く、蝋燭の灯のように小さい。それを囲うようにして、三つのカップ麺が置かれていた。添え物のようにクラッカーのパックとピーナッツバターのチューブが添えられている。


 ピピッとカップ麺のタイマーが鳴って、素早く(サクラ)は止める。


「できましたよ」


 (サクラ)が顔を上げて、そこで複雑な表情を浮かべる二人に気づいた。


「どうか、なさいましたか?」


 困惑する(サクラ)にミュウは短く息を吐いて、カップ麺のほうに視線を移した。


「これが今日の夕食か? どういうものだ?」

「インスタントラーメンです。どれになさいますか? 醤油とカレーとシーフード」


 (サクラ)の簡潔な説明に眉をひそめて、勇子(ユウコ)のほうに視線を投げかける。


 勇子(ユウコ)は肩をすくめて、醤油味のカップ麺に手を伸ばす。


「色々と歴史深い食べ物なのよ、『ノア』では。フリーズドライとかで長期保存に適した食べ物なんで、わたしたちの祖先は宇宙に出て間もないころはこういうものを食べていたらしいわ」

「で、おいしいのか?」

「主観の相違ね」


 ミュウの質問に勇子(ユウコ)はドライに答える。カップ麺のふたをはがすと、ふわりと湯気が立ち上った。醤油のすっきりした香りが広がった。


「ふうん。なるほどね……」


 ミュウは適当に答えると、目についたシーフードカップ麺を手にする。フリーズドライ食品の味は一度体験しているので少しばかり期待はした。


「満腹感はなさそうだな」

「クラッカーとピーナッツバターがありますよ。必要でしたら、スープをご用意します」


 残ったカレー味のカップ麺を取った(サクラ)は満足気にふたをはがした。立ち上る湯気でメガネが曇る。


 妙に明るい(サクラ)に対して、ミュウは髪を後ろにやって寝袋に埋まった下半身を正座させる。シャツ一枚着ただけでは寒さは防ぎきれない。


「スープはいい」

「そうですか。でも、これでもちょっと贅沢ですかね?」

「なるほど……」


 ミュウはまた適当に答えて、ふたを取るとフォークで中身をかき混ぜる。濃い匂いが鼻を刺激して、空腹に染みた。


「安上がりな娘ね……」


 対して勇子(ユウコ)は冷ややかにつぶやいて、麺をすすった。


 さっぱりとした味が口に広がる。醤油の風味はロフクスの料理よりも薄く、可もなく不可もない味わいである。


「そんな贅沢品でもないのに……。外が晴れてたら、もう少しおかずもあったのにね」


 勇子(ユウコ)はスープを一口飲んで、ほっと息をつく。暖かいものが体に染み渡る感覚が心地よい。


「え? これまでのお食事に比べれば貧相ですけど……。これで十分な気がしません?」


 (サクラ)はカップの中をかき混ぜながら言う。彼女の食生活の基準はもっと低い。パンとミルクとジャムがあれば十分な食事と呼べるくらいなのだから。


 ミュウもフォークに絡めた麺をすすって、濃厚な海鮮風味の味を吟味する。


「少々、おおざっぱではないか? これで贅沢か?」

「高カロリーでこのクオリティの味。『ノア』では廉価食品よ」


 勇子(ユウコ)はミュウに正確な情報を言って、また麺をすすった。


 安っぽい味を贅沢品とたたえる(サクラ)の舌はよほど素朴なのだろう。こういったものすら満足に食べられなかった生活をしていたと思うとあまり強く責められないが。


 ミュウは小さく頷いて、もう一口すすった。


「食品の加工ついては評価すべきである」


 それから、ライトのそばにあるクラッカーをつまんで口に放り込んだ。パサついた小麦粉の味。懐かしくあるが、物足りなさが目立つ。


「質素なのもたまにはよかろう」


 ミュウは一瞬渋い顔をしたが、すぐに取り繕う。


 (サクラ)は肩身が狭そうにカップ麺をすする。カレーの濃い味付けと、ホクホクのじゃがいも、コロコロとしたお肉の味は特別な感じがした。夜中に食べるカップ麺はなんとなしに特別なものに思えた。


「思えば、色々なものを食べてきたわ」


 ふいに勇子(ユウコ)がつぶやく。肌寒そうに布団上に広がっている寝袋を肩にかけ直して、ライトを見つめる。


「衣食住はどこに行ったって大事なものだ」


 ミュウはスープを飲む。


「宇宙育ちは特にそうではないのか?」


 ミュウの発言に(サクラ)勇子(ユウコ)は複雑な表情を浮かべる。


『ノア』の生活環境を振り返ってみると、『ファルファーラ』が持っている安心感はどこか宙を浮いている不安定さがある。


「大切、と申しますか。なんと申し上げたらよろしいか……」

「生かされているっていうのかしら?」


 (サクラ)勇子(ユウコ)はそこで視線が合ったが、わだかまりを思い出してすぐにそらした。


 だが、『ノア』に対して感じるところは同じである。


 勇子(ユウコ)は取り繕うようにしてミュウへと顔を向ける。


「自分たちの足がついている安心感っていうのが、こことは違う感じがするの。ほら、すぐ外は宇宙なんだけど、どれだけ危険かっていうこと――」


 勇子(ユウコ)は早口に言いながら、最後の方で重大なことに気づかされた。


「忘れていたわ……」


 その言葉は声になって出ることはなく、彼女の胸の中で響いた。


 宇宙という荒野以上に茫漠とした空間にいて、安心感など得られるはずはないのだ。機械のゆりかごに守られているといってもそれは完全なものではない。


 だからが、身を危険にさらして維持しなければ生きていく環境を演出することはできないのだから。


 機械によって守られていた自分たちの生活は所詮は脆弱なものでしかない。それを支え続けるものがなければ、真空とはいえ使い続ける人がいる限り劣化してしまうものだ。


「あの子は、肌が弱いはずなのに……」


 勇子(ユウコ)はこっそりと(サクラ)の白い横顔を見た。湯気を立てるカップ麺に息を吹きかけて冷ましている様子は幼い印象を受ける。


 だが、彼女の特異な白い肌や赤い瞳は常人よりも光に対する免疫が低い証拠である。それでも顕著な症状が出ないのは(サクラ)の体質はそこまで重くないことでもある。


「そういうものをどうにかするために勇子(ユウコ)(サクラ)は頑張っているのであろう?」


 ミュウは胸を張って断言する。


 勇子(ユウコ)は静かに頷いて、ピーナッツバターを載せたクラッカーを頬張る。ほろ甘い味が広がって、口の中がごちゃごちゃする。そのせいか、何の言葉も思い浮かばなかった。


『ノア』のために、ひいては父の遺志を果たすために勇子(ユウコ)星許(ホシモト)は今日まで行動してきた。その意志は今も変わらない。


 が、『ファルファーラ』の世界を軽んじていた。


 今外で吹き荒れる砂嵐にしても、『ノア』の科学力さえあればどうにでもできると半ば信じていた。


「時々、思うのだ」


 間を埋めるようにミュウがつぶやいた。


 一層強い風がテントをたたいて、砂のぶつかる音が弾ける。


「ヒトが暮らしていける環境というものはほんの一握りなのだろうな、と」


 ミュウの感慨である。


 レルカント領の外は自然の力が息づいている。その中で折り合いをつけて生きるということは、なまじのことではない。まして、機械によって屈服させるわけにはいかない。いや、できるはずがない。


「閉鎖的だった理由がわかった気がする」

「ミュウ様……?」


 (サクラ)は皮肉そうに笑うミュウに小首を傾げる。


 対してミュウは愛想笑いを浮かべる。


「世間知らずだったといえる。御伽噺が語るような自閉的な理由だけではないのだ」

「土地柄に順応することへの抵抗感は消えないもの」


 勇子(ユウコ)がミュウの感じるところを自分なりに言葉にしてみた。それは同時に彼女の実感でもある。


 ミュウは口を挟んだ勇子(ユウコ)に一瞥をくれて、右手で一度もみあげを耳の後ろに運んだ。


「ええ。こう、寒いところにいつまでもいるもの嫌だし、埃っぽいのも苦手だ」


 (サクラ)は二人が訴える不快感は理解できたが、その悲観的なニュアンスはどうにも好きになれない。


「わたしたちがしていることが、将来的にどうなるか不安になるわね」


 勇子(ユウコ)は本心を漏らして、慌てて(サクラ)とミュウに目を配った。


「そういうのは、だけど、侵略軍を倒してから考えればいいことよね? 今が頑張り時だものっ」

勇子(ユウコ)様」


 と、(サクラ)が凛然としていった。


 一度、カップ麺を床に置くと勇子(ユウコ)の青い瞳に視線を注ぐ。赤い瞳は燃えるように輝いている。


「わたしは、あなた様の目的が間違っているなどとは思いません。しかし、そうして目的のことを後回しにするのはよろしくないのではありませんか?」

「どういう意味よ?」


 勇子(ユウコ)は思わずむきになってかみつくように答える。


「わたしたちは『ファルファーラ』と『ノア』の未来のために行動しているのではありませんか」


 (サクラ)ははっきりと口にした。希望にあふれる強さがその声と言葉に宿っている。


 ミュウも食事の手を一度止めて傾聴する。


「そんな漠然として言い方で――」

勇子(ユウコ)様はこの星でどのように生きてゆきたいですか?」

「そんなの、わからないわよ」


 勇子(ユウコ)は口元を尖らせる。


「今が精一杯だし、どういう生活とかそういうのわからない。どうしていいか、わからないもの……」


 旅の中で経験してきた様々なヒトたちの生活習慣を受け入れることができず、この星の自然の中で生きるすべも思いつかない。


 未来のことなどわかるはずもない。


「旅の中で見つかるかどうかもわからないじゃない」


 しかし、(サクラ)はやさしく微笑んだ。


「わたしはみんなで仲良く暮らせる世界にしたいのです」

「それはそうでしょう?」


 当たり前の、しかも漠然とした言い方に勇子(ユウコ)は怒鳴った。


「その一歩を勇子(ユウコ)様もごらんになったはずです」


 (サクラ)が食い入るように切り替えした。


「同盟を作ること。あなた様が考えてくださった、ひとつの形です」


 勇子(ユウコ)は胸に何かが突き刺さったような感覚を覚える。それは決して不快なものではなくて、鋭い衝撃であった。


 会合の光景が頭の中によぎって、各代表が楽しげに話していたことを思い出す。


「わたしに不快感を感じておられるのは、それを横取りしてしまっているからですよね?」


 (サクラ)は申し訳なさそうに言った。


 本来なら同盟の中心にいるべきは発案者である勇子(ユウコ)のはずだ。しかし、各代表は『導師』である(サクラ)をもてはやした。そのことが勇子(ユウコ)には面白くないと思っていてもおかしくない。


 勇子(ユウコ)は核心をつかれて、口元を硬く結った。


 そこにミュウが割ってはいる。


(サクラ)、それは違う」


 ミュウは勇子(ユウコ)を横目に見てから(サクラ)に向き直る。


「あなたは『導師』様だ。そういう体裁がなければならない。手柄云々ではないのだ」

「しかし――」

(サクラ)にそういう役目があるように、わらわたちにもある。それを貶すようなことはしない。あなたのいう未来のためにも、な」


 勇子(ユウコ)はまだうまく口を開けなかった。


 悪い癖だ。分が悪くなると貝のように閉口してしまう癖は相手に不快感を与えるし、心配事を増やしてしまう。改善しようにも染み付いてしまった習性だ。


 ならば、どうすればいい。


 勇子(ユウコ)の中でその答えはもうあるはずだ。


 (サクラ)とミュウはすぐには返答できない、と踏んで食事を再開する。勇子(ユウコ)を見捨てたわけではない。整理する時間が必要だと判断したのだ。


                 *      *      *


 砂嵐が過ぎたころにはテントは寝静まっていた。


 寝袋の狭い空間と地面の堅さに寝苦しさを覚えたのは最初のころだけで、疲労と満腹感ですぐに睡魔は降りてきた。


 しかし、そのあまり静かな夜に(サクラ)は眠ることができなかった。


「眠れない……」


 (サクラ)は何度か目をしばたたかせてから、寝袋のファスナーをおろす。それからすぐそばの床に置いているメガネをとった。


 体を起こしたとき、冷たい空気が全身を包んだ。


「寒い……。荒野の夜がこんなにも冷える」


 (サクラ)はメガネをかけて、体をしばらくさすってから寝巻きから出た。長袖のシャツと動きやすいショートパンツで防げる寒さではなかった。それで一気に眠気も吹っ飛んで、彼女を行動的にさせる。


 (サクラ)と川の字で寝ている勇子(ユウコ)とミュウは淡々とした寝息を立てており、起きる気配はまったくなかった。


「…………んっ」


 (サクラ)は寝袋から抜け出すと、テントの出入り口へと四つんばいに張っていく。


 一、二度壁をたたくと外のほうでぱらぱらと砂が落ちる音が聞こえた。


 隅っこにそろえられているブーツを一足とって履くと、二重の出入り口のファスナーを開放する。


「うわぁ……」


 (サクラ)はテントの外に顔を出して、その光景に感嘆の声を上げる。


 正面には〔アル・スカイ〕のマントの隙間からこぼれる月光が差し込み、それに照らされる砂がまるで砂丘のようで青く輝いて見えた。洞穴の出口を彷彿とさせる不思議な光景に心が弾んだ。


 (サクラ)は外の寒さも忘れて、さらさらの砂の上に一歩踏み出して一握りすくってみた。手のひらでさらさらとこぼれる砂はとても荒野の荒れた土とは思えなかった。


 こぼれる砂は宝石のように輝いて足元に落ちる。


「不思議……」


 (サクラ)は足元の砂から、傾斜の上に輝く月に目を奪われてゆっくりと歩みだしていた。


 サクサク、ザクザク……。


 足に絡みつく砂と歩きにくさに(サクラ)は悪戦苦闘しながら、傾斜を登っていく。双子月が並んでいる空に一歩でも近づこうと彼女の足は止まらない。


 そして、〔アル・スカイ〕が隠れる溝から抜け出した彼女は茫漠な土地に立つ。


「星がきれい」


 (サクラ)は夜空を振り仰いで、目を大きく見開いていた。


 爛々と光る星たち。宇宙で見るよりも近く、手を伸ばせばつかめそうなほどだ。雨粒のように数え切れない光点は今にも降り注いできそうである。


 (サクラ)は思わずため息をついた。同時に寂しい気持ちがこみ上げてくる。


 綺麗な星の海を見上げ、そのずっと先の暗い空間を想像すると胸が苦しくなる。


「お父さん、お母さん……」


 (サクラ)はつぶやいた。


 時間にすれば何百年も前に死んでしまった両親。この見上げる夜空のどこかに二人がいるのではないかと子供じみた考えがわきあがる。


 両親も綺麗な空を見たかったかもしれない。不思議で、体が震えるような光景を。宇宙とは違うロマンチックな世界を。


 (サクラ)は泣きそうになるも、それを必死にこらえる。感傷に浸っていても、自分のいる場所をよく理解しているからこそ彼女は耐えることができた。


                 *      *      *


 勇子(ユウコ)(サクラ)が出て行く気配を感じて目を覚ました。彼女の後を追おうかとも考えたが、気がとがめて寝袋の中でぐずるだけであった。


「がぅ……、うぅ。わうっ」


 左隣からミュウの寝言が聞こえた。よほど疲れていたのだろう。


「はぁ……」


 勇子(ユウコ)も胡乱な瞳を幾度かゆっくりとしばたたかせて、大きく息を吐いた。


「わたし、本当に気持ちを伝えるのが下手ね」


 暗いテントの天井か、はたまたまぶたの裏かわからない視界の中で勇子(ユウコ)はつぶやく。


「外交官志望だったのに、頼りない」


 眠りに落ちようとする意識の中で、勇子(ユウコ)は反省する。(サクラ)に対しても、ミュウに対しても、不誠実な態度をとっていた。それでは何の解決にもならない。


(サクラ)には(サクラ)なりの考えがあるんだもの」


 (サクラ)はいつもがむしゃらで、必死であった。緊張しては大丈夫だの、お願いしますだの、自分のことよりも人のことを気にしていた。


 それが臆病からではなく、やさしさからくるものだと感じられたからここまで一緒に旅をしてこれたはずだ。


「それに『ノア』のことで迷ってる、わたし」


 つい先日の戦闘で〔アーク・フォース〕傘下の〔AW〕の援護に入ったとき、背後から撃たれたことがどうしても割り切れていなかった。『ノア』ために動いているというのに、背中を撃たれた仕打ちは屈辱であった。


 そのことで(サクラ)は悩んではいないだろう。『ノア』での彼女の境遇を考えると、当時の状況判断は芯の強さの表れであった。


「がんばらなきゃ……。言葉ではちゃんといえないかもしれないけど――、せめて……」


 そこまでいって勇子(ユウコ)は眠りに落ちた。


「まったく、素直ではないな」


 途中から盗み聞きしていたミュウは笑みを浮かべながら、背中を丸める。『ファルファーラ』の春の夜は寒い。


「お風呂、入りたかった……」


 ミュウは唯一の心残りを呟いて、眠りに落ちた。


                 *      *      *


 明るい夜の荒野に出ているのは何も(サクラ)だけではない。夜行性の動物たちも活発に動いている。


 しかし、夜行性動物とは違う巨大な機械が闇にまぎれて巡邏しているのを彼女たちは知る由もない。


〔アルファ・タイプ〕三機による編隊は人型形態で荒野を練り歩き、センサを最大稼動させて索敵を行っていた。砂嵐が過ぎれば、彼らにとっても警戒すべき時間帯であった。


 それが幸か不幸か、外に出ている純白の少女を発見してしまった。


〔アルファ・タイプ〕の一機は少女の姿を数十キロ先に認めたところで停止して、僚機にも停止するようにモノアイの発行信号で打電した。


 そして、三機は岩に擬態するようにして変形すると、しばらくその頭部だけを展開して荒野にたたずむ少女の動向を探る。


 煌々と降り注ぐ月光の元でじっと空を見上げる少女の姿態を撮影する。珍獣でも見つけたかのようだ。


 純白の髪、透き通るようなミルク色の肌、ふと顔を動かした瞬間に見えた赤い瞳。月の光が見せる幻のようでありながら、〔アルファ・タイプ〕の望遠カメラはしっかりと少女の姿を捉えていた。


 幻ではない。


 そのことが〔アルファ・タイプ〕の操縦者たちに動揺を生んだ。


 しばらくすると、少女は近くの溝へと歩んでその姿を闇の中に隠してしまった。


 ここで強行突入することも彼らにはできた。が、それを押しとどめるものは確信の得られない自分たちの心の迷いにあった。


 光信号をしばらく交換し、そして、撤退を決断した。


〔アルファ・タイプ〕は双子月の明かりに照らされながら、その進める歩を早めて彼らの拠点へと引き返していった。

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