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スカイ・レコード  作者: 平田公義
第九章
67/118

~部族~ 薄明の都攻防戦〈後編〉 

〔アル・スカイ〕が都に飛び込んだとき、滞空する〔アルファ・タイプ〕が二手に分かれた。向かってくる機数は三機。残る五機が奮戦する〔ロゴート〕部隊につく。


「お二人はリャオ様たちの援護をお願いします」


 (サクラ)はマルチ・ハープーンで運んでいる白黒〔ロゴート〕に言って、機体の高度を下げる。このまま連れていても、空中機動もままならないうえに牽引している二機は格好の標的だ。


〔アル・スカイ〕が低空で空を駆ける。ワイヤーの長さを気にしつつ、降下しやすい位置を維持。


 速やかに白黒〔ロゴート〕二機は都の荒れた土地を滑走し瓦礫を盾にして突き進む。


「敵、三機。正面から来るわ。高度を上げて」


 勇子(ユウコ)の指示を聞いて(サクラ)は返答すると、〔アル・スカイ〕を次の跳躍で大きく上へと持ち上げさせた。


 その衝撃に(サクラ)たちは顔をこわばらせて、シートに体をうずめる。


 突撃してきた〔アルファ・タイプ〕はやはり、〔アル・スカイ〕を追って上昇してくる。上昇力は〔アルファ・タイプ〕に分があるが、〔アル・スカイ〕の緩急のある動きに攻撃のタイミングを計っているようであった。


「各戦況は膠着状態。特に〔ベータ・タイプ〕は早くに倒さないと……」


 勇子(ユウコ)は高度を上げたことによって得られた俯瞰の視点から各戦況を分析することができた。


 リャオと隊長たちの部隊は、加勢する白黒〔ロゴート〕二機によって状況が好転し始める。味方は三機を撃墜されて、二機が損傷状態だ。その損傷した二機を担いで、部隊は岩石地帯への移動を開始している。


「母艦を守るために敵も必死なんだ」


 (サクラ)はちらりとリア・カメラがとらえた映像を見て、そんな印象を受けた。


 リャオたちにまとわりつく〔アルファ・タイプ〕の動きは機敏で、都に残る母艦を死守しているようにも思える。


 それは川岸での戦いでも言えた。


〔ベータ・タイプ〕は頭部の主砲で対岸で応戦するシャトー部隊を牽制。さらに主腕部で機体を支えつつ、腹部にある副腕部のビーム砲を交代するリャオと隊長の部隊に発砲を繰り返す。


 その射撃は奇妙なことに、散らばった鏡面装甲に向かって発射されており、それを反射板としてビームが地を這って攻撃を仕掛けている。母艦への配慮がいらず、さらにはトラップとして機能して〔ロゴート〕部隊を蹂躙する。


「さっきの攻撃、〔ベータ・タイプ〕の主砲を――、うわっ!?」


 勇子(ユウコ)が先の巨大な閃光が〔ベータ・タイプ〕の主砲の乱反射だと気付いた瞬間、〔アル・スカイ〕は機体をひねってさかさまになった。


 明暗がはっきりする大地を見上げて、頭に血が上ってくる感覚を覚える。


「いきます!」

 

 (サクラ)の宣言とともに、迫る〔アルファ・タイプ〕部隊の応戦に入っていた。


〔アル・スカイ〕は圧縮した空気を踏み台に、螺旋を描く落下軌道に入る。


 バリアス・ショットガン二丁が発砲される。


 上昇旋回をしてくる〔アルファ・タイプ〕はその軌道を予測しつつ、腕部を展開して空力ブレーキをかけてリズムを崩してくる。大きく各機の間隔を広げて、迫ってくる。


「ミュウ様、接近戦に移行いたします」

「よかろう。早々に片付けんと不味いからな」


 ミュウと(サクラ)は目の前の敵に集中しながらも、頭上に広がる大地にも懸念を抱いていた。高度を間違えれば、立て直しがきかなくなる。


 そして、もう一つ大きな問題が川沿いに横たわっている。


「ビーム砲撃、来るわ!」


 勇子(ユウコ)の警告と機体の警報が重なった。


 地上で転がっている〔ベータ・タイプ〕の主砲が落下する〔アル・スカイ〕をとらえていた。螺旋を描こうとも器用にその嘴状の収束装置を回して追跡する。


 そして、〔アルファ・タイプ〕と交差しようとした時、敵機は即座に横間へと流れていった。


「――くっ」


 (サクラ)はそれに合わせて素早くふっとペダルを切り返す。横殴りの負荷が襲い掛かる。歯を食いしばっていると、目の前に光線が薄明かりの空へと伸びていった。


 しかし、それで終わりではない。放出を続ける光線はそのまま光の刃となって、〔アル・スカイ〕へと追いすがる。


 避けられない。応戦するしかない。


 三人の脳裏にその言葉が浮かぶも、体の反応がついてこれない。


 次の瞬間、〔アル・スカイ〕は素早くバリアス・ショットガンを一丁を脚部に懸架すると、その空いたマニピュレーターを振り下ろされる光線へ伸ばした。


 ギャァアアアンッ!


 強大なエネルギーを持つ光線を〔アル・スカイ〕はストレス・コンプレッション機構で、一瞬とはいえ受け止めた。圧倒的な出力の差があり、腕部にビーム循環をした程度では〔ベータ・タイプ〕の主砲を完全には相殺できない。


 しかし、〔アル・スカイ〕はその反発を用いて、機体を横間に吹き飛ばして回避する。


 瞬く間の攻防に、落下する〔アル・スカイ〕を追撃する〔アルファ・タイプ〕の攻撃もゆるんだ。彼らにとっても〔ベータ・タイプ〕の主砲の破壊力を知っていたから、それを回避した機体に驚きを隠せなかったのだろう。


自動反応(オート・リアクション)? わたしたちの思考を反映したとでもいうの?」


 勇子(ユウコ)は次々と膨れ上がるバブル・スクリーンを目の当たりにしながら、それらの情報を読み取った。自動反応(オート・リアクション)は操縦者が自発的に設定できるものではない。それこそ、火事場の馬鹿力のような追い詰められて発動する代物だ。


 それはつまり、〔アル・スカイ〕本来の性能が引き出されたことに他ならない。


「――んっ」


 (サクラ)は機体を立て直して、動きが緩慢になる〔アルファ・タイプ〕をとらえる。


〔アル・スカイ〕はスラスターで制動をかけつつ、バリアス・ショットガンを敵機に向けた。そして、ミュウの制御のもと三連射。


 正確な射撃。あっという間に〔アルファ・タイプ〕三機が放たれたビームに貫かれる。


 爆発が膨らむと、〔アル・スカイ〕は機体をひるがえして地上へ向かって降下していく。


「三機、撃墜……」

勇子(ユウコ)、妙なことに気を取られるな。よそ見は禁物だ」


 勇子(ユウコ)の呆けた様子にミュウは叱咤する。


 いちいち〔アル・スカイ〕のことで驚いていては、操縦者としての技量が知れるというもの。機体の性能を引き出しきれていないことは彼女自身、歯がゆいことであるが、今は自身の全力を注ぐしかない。それでもまだ機体のスペックが上回るというなら精進するほかない。


「ごめんなさい、大丈夫。母艦に以前動きなし」


 勇子(ユウコ)は自分を落ち着かせるために、一番目につくものの動きを分析する。


 侵略軍の目的が母艦の離陸を護衛する動きであるのは目に見えている。が、戦闘が激しくなる中でも、母艦は離陸しようとしない。


「ヒトを収容してる……」


 勇子(ユウコ)はバブル・スクリーンで拡大した映像に、瓦礫の山をかける数人のヒトの陰をとらえる。そこには担架を持っているヒトの姿までもがあった。


 勇子(ユウコ)はその映像をミュウや(サクラ)に共有せず、この場にとどめる。そうしなければ、動揺してしまうだろうことは自身の破裂してしまいそうな鼓動からもわかった。


「川岸の戦闘に加勢します」


 (サクラ)は機体のことは深く考えないようにして、〔アル・スカイ〕を暴れまわる〔ベータ・タイプ〕へと接近させる。


 風を切り、バリアス・ショットガンを連射する。


〔ベータ・タイプ〕は回避運動も行わず、上空から降り注ぐビームをその装甲で屈折させる。接触したビームは四方八方に飛ばされて、まるで効果がない。


「遠距離攻撃ではやはり……」


 (サクラ)は歯噛みして操縦桿とフットペダルを操り、〔アル・スカイ〕を岩塊のほうへと降下させる。


 襲い掛かってくる〔ベータ・タイプ〕の主砲を回避しつつ、岩場に入り込み姿をくらませる。チャンスを待つのだ。


(サクラ)たちも苦戦しているか」


 一方でリャオたちも〔アルファ・タイプ〕の猛攻を凌ぎ、岩塊の陰に機体を動かして上空を行く敵機に応戦していた。


「リー、リャン、損傷した機体を守れ。隊長さん、上空の敵機を落とすよ」


 リャオは加勢に来た白黒〔ロゴート〕に損傷した二機を護衛させて、隊長たちラトゥ族の〔ロゴート〕を引き連れて、〔アルファ・タイプ〕の討伐に打って出ようとした。


「おい。損傷した奴に戦力をさくのか? そいつらはもう――」


 ラトゥ族の隊長は自機に先に行こうとするリャオ機を制止させる。ここで戦力を分けるのは危険であったし、早くに決着をつけなければいけないと焦っていた。


 周囲では上空を旋回し、視界から消える敵機に対して〔ロゴート〕たちが放熱索を震わせて緊張している。


 リャオ機はその手を振り払って、飄々という。


「いい囮になる」

「お前――ッ!」


 隊長はリャオの言葉に頭が熱くなる。足手まといになることは十分に認識しているが、そこまで命を粗末に扱う気にはなれない。


 が、すぐに場違いなかわいらしい笑い声が白黒〔ロゴート〕からこぼれる。


「何がおかしい?」


 隊長は眉をひそめて問う。


「いいや、仲間思いじゃないかって」


 リャオは隊長の非情になり切れないところに共感する。戦術上、まともに動けない機体を引きまわしていてはこちらも危ない。隊長の判断は正しい。だが、生理的にはそれを拒んでいる。


 本音と建て前を分離していても、やはり味方が死ぬのは嫌なのだ。


 彼女にしても、すでに先の攻撃で味方を死なせてしまった。その前には両親を、祖父が死んだ。敵に対して何も感じていないわけではない。


 それでも冷静でいられるのは、まだ生きている者のために戦わなければならない、と心得ているからだ。


「間違ってないよ」


 リャオは自機を動かし、制止を振り切る。


「フンッ。ラミィのくせに、よく言うじゃないか」


 隊長の熊のような顔に笑みがこぼれる。


 間違っていない。その一言で、何かが吹っ切れた気がした。自分を理解してくれる人が、別の部族にもいることが単純にうれしかった。


 彼女の配慮に感謝しつつ、岩塊の中を進みだす。それに触発されて、緊張していた味方が彼、彼女の機体を追っていく。


「二人、あたしに続け」


 リャオはそう指示を出すと、自機を岩塊へと跳躍させる。さらに岩塊から岩塊へ飛び移り、頂上まで行くとその上をまた機敏に跳んでいく。そのあとを続く、二機も見事にリャオの動きについてきていた。カラーリングは通常の〔ロゴート〕で、ラトゥ族の操る機体である。


 リャオはモニタの左右を見て、ありがと、と唇を動かした。


 と、上空から〔アルファ・タイプ〕の五機編隊が高度を下げてせまる。


「後ろについたか。ご両人、敵を見逃すな!」


 了解、という声を聴いた瞬間、リャオ機は腕部を岩塊に突き刺して急旋回し高度を下げた〔アルファ・タイプ〕編隊へと飛び出していった。


 大きく跳躍。一瞬の浮遊感がリャオの体を包み込む。空中機動もままらない〔ロゴート〕では、案の定〔アルファ・タイプ〕は機首を上げて簡単に回避してみせる。


 通過してしまったリャオ機は無様に弧を描いて落ちていく。


 僚機が彼女の機体を守らんと援護射撃。これも〔アルファ・タイプ〕には読めていたことだ。彼らの射撃に対して回避行動を取りつつ、地上の砲撃を警戒する。


〔アルファ・タイプ〕にはリャオ機をすぐに落とすよりもほかの機体を落とすことが有効手段であると踏んだ。


「甘いねっ」


 しかし、リャオはその行動を予期して、自機のカノン砲を肩に担ぐようにスライドさせると発砲。その反動で機体を反転させて、さかさまの視界に映る〔アルファ・タイプ〕に狙いをつける。


 それはカノン砲の角度と機体の正面にピタリと符合した一瞬の狙撃である。


 リャオ機がさらに一射。その一撃は正確に〔アルファ・タイプ〕一機の背後を打ち抜いて、撃破した。


「まずは一機」


 リャオは後方に回転する衝撃に耐えながら言った。


 勝算があったわけではない。偶然だった。それを可能にしたのは、幸運と彼女の腕のゆえであろう。


「地上部隊もよく動いてよ」


 リャオは自機を岩場に張り付くように着地させ、すぐに僚機の加勢に入る。


「敵は大きく乱れている。撃て、撃て、撃て!」


 地上を走る隊長機率いる〔ロゴート〕隊が対空砲火を上げる。


 一機撃破されたことで〔アルファ・タイプ〕の動きは大きく乱れていた。


〔アルファ・タイプ〕はその広く、多数に上がる光の線に機体をこすって、よろけてしまう。彼らは〔ロゴート〕の予想外のパフォーマンスに戦意が削がれ、今度はどんな動きをするのかとリャオ機に注意を払っていた。


 その散漫な集中力ゆえ、彼らの機体は自然と高度を取っていた。


 次の瞬間、斜めに伸び上がってきた光に一機が撃ちぬかれる。


「ほお。こちらにも手が出るか」


 リャオは機体に回避行動を取らせつつ、先の射撃もとを一瞥した。


 リャオたちの戦場から反対、東側に位置する岩陰。


 そこに潜伏していた〔アル・スカイ〕が跪いて、バリアス・ショットガンを構えていた。銃身を伸展させて、狙撃モードにしており反対側の太陽の光を浴びた西側は狙いやすい。


「命中。〔ベータ・タイプ〕を倒す予行演習のつもり?」

「リャオたちが良い働きをしていたから、加勢したまでだ」


 勇子(ユウコ)とミュウがそう言い合っていると、(サクラ)の操縦で〔アル・スカイ〕はさらに奥の岩陰に引っこんで狙撃する位置を変更する。


〔ベータ・タイプ〕の甲羅状の背部、その前にあるサイロの二つが展開、ミサイルが飛び出し、〔アル・スカイ〕がいた個所に殺到する。爆発に次ぐ爆発。強烈ば爆音と爆炎を上げて、〔アル・スカイ〕の行動を制限させる。


 その光景を〔ベータ・タイプ〕と対峙するシャトーが見逃すはずもない。


「あの発射管に当てさえすれば――」


 シャトー機が岩陰から姿をうかつにもあらわした瞬間、今度は背部後ろにあるサイロが展開してミサイル群が飛び出した。


「隊長!」


 シャトー機の近くにいた僚機が腕部を伸ばして、岩陰に引き込む。それから、退避する味方を同様に奥へと半場引き回すつもりで飛び込んだ。


 着弾、爆発。


 炎が木々を焼き払い、黒煙の波が岩の合間へ流れ込む。その煙だけでも、すさまじい熱量を宿し、〔ロゴート〕の放熱索がチリチリと焼けついた。


 爆風が収まって、蒸し暑い操縦席の中でシャトーがモニタに映る僚機に言った。


「あれを見たな! 狙撃すれば、撃ち落せる!」

「無茶苦茶だ。奴には主砲がある。その上、失敗すれば、今度こそ吹っ飛ぶ!」


 僚機のいうことはもっともで、一歩間違えば一瞬にして塵芥となる。モニタを埋め尽くす爆炎と振動を感じれば、理屈抜きでわかることだ。


 これを知らなければ、無謀な作戦にも勇んで飛び込めただろう。


 シャトーも気持ちが揺れぎ、冷汗がにじんでいた。成功の確率はもはや狙撃するものの技量と度胸にかかっている。


 自分が死ぬかもしれない。その意思、恐怖は時に裏返って蛮勇となって表立つ。


「俺が成功させる。周囲に援護を呼びかけろ!」


 シャトーは自機を前に走らせる。黒煙のおかげで〔ベータ・タイプ〕も照準がつけられないはずだ。熱量でもとらえられないだろう。


 主砲の光線が来ても、やり過ごすしかない。体を張らなければ活路は開けない、と自分に言い聞かせる。


「ったく。隊長が仕掛けるぞ! 援護だ! 岩壁から撃て!」


 言い渡された方はたまったものではない。


 黒煙は味方にとっても目潰しだ。下手をすれば、前を行くシャトー機を撃墜しかねない。だが、感情的になっていても、今現在でも彼に付き従う〔ロゴート〕七機すべてが健在という事実を胸に抱けば、それくらいの無謀を受け止める気にはなる。


 黒煙の中、その呼びかけに答える〔ロゴート〕隊が手近な岩壁を駆け上がり、照準もそこそこに援護に入る。


 ビームカノンから吐き出される光が黒いカーテンを突き破り〔ベータ・タイプ〕の周囲に殺到する。川の水を蒸発させる。水蒸気が黒煙の上にかぶさって、さらに視界を悪くする。鏡面装甲に弾かれつつ、その勢いは止まらない。


「シャトーさんたちが仕掛けたわ。こちらも――」

「はい。ミュウ様、狙う場所はよろしいですか?」

「あの鬱陶しい頭部だな」


 三人の掛け合いとともに場所を変えた〔アル・スカイ〕はうつぶせの姿勢で、キョロキョロとあたりを見渡す〔ベータ・タイプ〕の頭部に狙いをつける。


 せわしなく動くものだから、ミュウも逸る気持ちを抑える。頬に汗の玉が流れて、それをぺろりと舌でなめとる。しょっぱい味が舌先に残る。


 トリガースイッチから指先を放して、確実に撃ち落すタイミングを計る。


 シャトーたちの動きがいい陽動になっているのだ。こちらの位置を知っていようといまいと、この好機を伸ばすのは惜しい。


 その時〔ベータ・タイプ〕の頭部の動きが止まった。


「もらった――ッ」


 ミュウはその瞬間を確信して、トリガースイッチを押した。


 その静止時間は一秒にも満たなかった。だというのに頭部はしなやかに動いて、鋭いビームがうなじをかすめる。


 外した。


 自信を砕かれた喪失感がミュウの胸に流れ込んで思考は真っ白になる。


〔ベータ・タイプ〕はしかし、その頭部を〔アル・スカイ〕の反対へと向けた。その方向には、援護に駆けつける腕章をつけた白黒〔ロゴート〕、リャオ機があった。


「ダメッ!」


 (サクラ)は反射的に叫んで、〔アル・スカイ〕を起こした。このままではリャオ機が落とされる。抑え込んでいた感情が彼女を突き動かした。


「待って、(サクラ)!」


 勇子(ユウコ)は敵機の射線がわずかにズレていると感じた。リャオ機を狙っているなら、彼女の機体が出た瞬間を撃つはずだ。


 そして、彼女の視界にきらりと朝日を反射させる一枚の鏡面装甲が目に入った。


 血の気がさっと引いた。冷や水を浴びたかのように体が震えだす。


「立ち上がらないで! 罠よ!」


 勇子(ユウコ)が叫ぶと同時に〔ベータ・タイプ〕の主砲が輝いた。


 そして、瞬く間に(サクラ)たちの視界に光の矢が飛び込んでくる。一瞬の出来事である。その光は〔アル・スカイ〕のバリアス・ショットガンを破砕して、角度を変えてその首を落とさんと迫った。


 すると、バリアス・ショットガンに蓄積されていたエネルギーの誘爆によって〔アル・スカイ〕は横転。マニピュレーターが破壊され、無様に倒れこんだ。


「きゃあああああ!!」


 (サクラ)たちは悲鳴を上げて、倒れこんだ衝撃で意識が朦朧となる。


「あの位置――、(サクラ)!?」


 リャオは自機を鏡面装甲の陰に隠して、敵の攻撃に備える。〔ベータ・タイプ〕の攻撃はない。すぐにでも攻めるべき場面だ。


 だというのに、反対の岩陰で起きた爆発が胸に刺さって体が思うように動かせない。〔アルファ・タイプ〕は隊長たちが押さえている。


「シャトーたちが頑張っているからと――、うかつだった! どうする? 母艦のほうを――」


 リャオは動揺する思考を切り替えて、母艦を狙おうと自機をよじらせる。


 しかし、敵母艦は離陸を始めていた。ハッチを閉じ、上昇に入る。こうなっては〔ロゴート〕の武装では撃墜できない。


 朝日を反射して、浮かび上がる母艦は神々しくもあり、その光が岩陰を照らす。


「あの機体と組み合わされたら厄介だ」


 リャオは意を決して、機体をジグザグに走らせて〔ベータ・タイプ〕に攻撃を仕掛ける。


〔ベータ・タイプ〕は川沿いのシャトー部隊に主砲を撃って蹴散らしているところで、リャオ機に対しては副砲で応戦。ビームが地上を走り、鏡面装甲で捻じ曲げられて襲い掛かる。


 白黒〔ロゴート〕の機動力、リャオの腕によってそれらの攻撃は命中しない。だが、二回、三回とトリッキーな攻撃が飛来し、さらには上昇をする母艦にまで反射を有効活用させて、リャオ機のみならず加勢に入ろうとする隊長の部隊をも押さえつける。


「このままじゃ――、あぅっ」


 リャオ機のビームカノンに、背後から反射したビームがかすった。大きくよろめき、倒れてしまう。


 リャオはそれでもあきらめない。自機を転がして、被弾を避ける。


「リャオの奴、単機で攻めやがって! 〔アルファ・タイプ〕を全滅させても、これじゃ意味がないだろ。敵をこちらにひきつけろ! リャオ・ニャオを支援する」


 隊長機が部下を率いて、〔ベータ・タイプ〕の陽動に入る。


 副砲のビームが飛来し、主砲の嘴が隊長機のほうを狙う。


〔ベータ・タイプ〕の背後の黒煙が消えていく。岩塊が散らばり、足場が不安定な状態である。


 その場所にシャトー部隊は満身創痍で挑み続けている姿が浮かび上がる。


 主砲の光線にかすって、腕部を失った機体があった。砕かれた岩塊の下敷きになっている機体もあった。脚部を失ってなお、這いつくばって打ち続ける機体があった。


 その執念深さに対して、ついに〔ベータ・タイプ〕はミサイルサイロを開いた。


「やっとかよ……」


 包囲網を張って、武装すべてを別に向けさせてようやくチャンスが巡ってきた。


 その瞬間、岩塊の中からシャトー機、損傷した隻腕の〔ロゴート〕が這い上がり、ビームカノンの砲口を向ける。ずっとこの瞬間を待っていたのだ。


 石の上にも三年いようと、岩の下に三分待っていようと同じこと。最後は忍耐力がものをいうのだ。


 シャトー機は狙いを澄まして発砲。


 鋭いビームが針の穴を通すがごとく、ミサイルサイロへと突撃する。


〔ベータ・タイプ〕の背中が大きく膨れ上がる。ミサイルの破壊力で一部の装甲がはじけ飛ぶ。次々と装甲のつなぎ目から火が噴出して、機体の動きが鈍くなる。


「へっ。やったな……」


 シャトーはそこで今まで張っていた集中力が尽きて、機体もまた崩れ落ちる。


 が、粘り強さならば〔ベータ・タイプ〕も負けてはいなかった。十数人の操縦者を要する機体だ。一人でも生きている限り、その機体は部分的にでも活動ができる。


 上空へ撤退していく母艦に頭部を向けて、その鏡面装甲が映す俯瞰の光景に照準を定める。狙いはシャトー機だ。


 爆発で崩れていく〔ベータ・タイプ〕が道連れにと主砲へエネルギーを充填する。


「総員、退避!」


 川沿いの部隊は敵の動きを知って、すぐに退避行動をとる。だが、動かなくなったシャトー機を運び出す機体はいなかった。間に合わない。彼はもう助からない、と判断してしまったのだ。


 何もできない歯がゆさがあって、それでも自分の命が惜しくて行動ができない。


 誰でもいい。彼を助けてくれ。部隊のだれもがそう願った。


「まだです!」


 その瞬間、東風を引き連れて、白銀の機体が駆けつける。マントを翻して、損傷していない左腕部を突き出す。


「最大出力! お願い、〔アル〕!」


 (サクラ)は機体の左の掌にビームによる圧縮空間を生み出す。黒く脈打つ空間に空気が集まる。


 そして、引き寄せられるようにして〔ベータ・タイプ〕の主砲が輝いた。破壊の光が母艦を経由して落ちてくる。


 黒球と光線が激突。音が、光が、一点に向かって消失していく。


 (サクラ)たちの悲鳴も、呻きも耳に届かない。肥大していくエネルギー球に希望と不安を抱き、機体の出力維持に努める。


〔アル・スカイ〕は跪き、敵機の予想以上のエネルギーに各所でオーバーヒートが起きる。


「これ以上は――」


〔アル・スカイ〕の四肢が砕けそうになる。


 だが、〔ベータ・タイプ〕の頭部に十字砲火が走り破壊される。〔ベータ・タイプ〕は力尽きて今度こそ、その動きを停止した。


「なんて、タフな機体だ」

「機体の内部が爆発しておきながら、まさか撃ち続ける力が残っていようとはね」


 十字砲火を行ったリャオと隊長はそれぞれにそんな愚痴をこぼした。


「た、助かった……」

「機体も、もう限界。今回は無理しすぎよ」

「けど、助けられました」


〔アル・スカイ〕はストレス・コンプレッション機構を停止して、左腕部をだらりと下げる。


 操縦席では警告の表示がひっきりなしに表示されて、警報がけたたましくなり続ける。


 (サクラ)はどっと汗をかきながら、飛び去っていく母艦を思い出す。が、モニタにはもう映っておらず、レーダーでの索敵もそこそこにハッチを開いて明るくなる空を見上げた。


 そこには急上昇をかけていく母艦が一番星のように輝いて見えた。


「母艦を逃がすために、戦っていたの?」


 (サクラ)は誰ともなく、焦げたにおいの染みついた場所でつぶやく。 

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